第29物語 世界は一巡し、立て直す
「………ここ、は? あたし、どうなったの?」
知らない場所、でもなぜか初めて来た気がしない場所。
プルミエはリピートとの戦闘の後、体から力が抜けて意識が遠のいたことを覚えていた。
今プルミエがいるのは、原理も物理法則も不明な空間。
しかし、そこにはなにかの映像がいくつも流れている。
あれ、この光景どこかで……プルミエは内心そう思った。
「よーちゃん、どこ? アルヒェさんリピートさん、どこ……? またあたしを孤独にしないでよ……」
プルミエは辺りをキョロキョロと見渡した。
それらしい3人の影は何も見えず、見えるのは無限に広がらんとする虚空と映像ばかり。
プルミエは、精神を病みそうな程に追い詰められていた。
「全身の脱力感もすごくて、もう一歩も動けそうにない……。もしかしなくても、あたしって死んだのかな」
死んだのかも、そう自覚した時、なんの前触れもなく自身の胸部付近に風穴が複数空いた。
それだけではなく、なにかに切られたようなあとまで右肩から左脇腹付近までにかけての切り傷が出来た。
「……がっ、あぁぁ!!」
唐突な出来事に困惑するプルミエ。
それと同時に襲い来る激痛に、失神しかけていた。
しかし、辛うじて意識を保つ。
「プルミエ、あなたはこの場所で今までの苦痛を味わうの。残基:0013と0063と……とにかくたくさんの苦痛を味わう。それは死ぬほど痛いでしょう……。でもね、次期に変わりは来る。その子に全てを委ねればいい」
「リピートさんっ……!がっ、ぐぁあ!!」
どこからともなく、声だけ脳内で響いてくるようなリピートの声。
今までの苦痛ってどういうこと?と思ってるうちに、リピートの言う通り、表現するのも不可能なほどの耐え難い痛みが伴う。
今こうして立っていられるのもやっとなほど、プルミエはその苦痛に必死に耐えていた。
そうして必死に耐えるうちに、盲目になりゆく視界の中で、誰かがこっちに来ている気がした。
「………き、た………」
助けでも来たのだろうか?と期待したが、リピートの発言を聞いた限りでは、きっと自分の代わりなのだろうと察しがつく。
「あれ? ここは? 何ここ……」
目の前に見えるは"もう1人のあたし"。
そのもう1人のあたしが動揺しているのが、難聴になりつつあるこの耳でも不思議と鮮明に聞こえる。
この光景を見ていると、初めて転移してきた時のことを思い出す。
あの時の自分も、動揺していたっけ……なんて思いながら……。
「……だ……きちゃ……」
「! どうしたの?! その傷。動いちゃダメだよ……」
「きちゃだめ……。あたしと、同じ目にあなたも合うから……」
「喋っちゃダメだよっ! それに言ってる意味が分からないよっ。もう1人のあたしがいるのもおかしいってのに……」
全くもってその通りだ。
なんであの時の自分はそんな疑問を持たなかったのかと。
小説のネタになるからとほとんど気にしてなかったのはあるかもしれないが、それでも目の前の自分の発言は新鮮だと思った。
客観的にみて、自分はおかしいのだなと思えた。
「………希望を……せめて引き返せないなら、託す……」
どうして辛いはずなのに、言葉を発すること自体かなり無理をしているのにこうしてハキハキと言えるのか疑問でならないが、とにかく伝えなければならないのだろうことは、どこか得体の知れない本能で理解したような気がした。
「希望を……? なんだか分からないことだらけで頭がおかしくなりそうだけど、わかった。頑張る」
あの時と同じように、目の前の自分にまばゆく光るそれを渡した。
「希望という名の、あたしの能力を……あなたに託す。これで世界を救って……」
精一杯の思いを伝え、力を託し息絶えた。
自身の応用能力である、華癒ノ陣とヨリィーを出せるだけの力を……。
―――――ようこそ、幻想世界へ。あんたで6億6666万6667番目の創造者よ。ようやく、悪魔の数字からは抜け出したわね。佳境だったわ……。
世界は一巡した。
102巡目の、何度やり直したか分からないこの世界を。
しかし、101巡目のプルミエがやった功績はそのまま残っており、アルヒェやヨリィーの存在は何も変わっていない。
変わったのは、プルミエが入れ替わった、ただそれだけである。
ここから、本当の物語が始まる。
名前:狭山千夜
新たな名前:プルミエ・エール
2つ名:創造者
基礎能力:真言ノ刻
強み:知識さえあれば、地の文を使用して創造・改ざんが可能。
弱み:使用者の知識が壊滅的だと意味をなさない。仮に知識があっても世界の都合のいいように"添削"される。
応用能力:華癒ノ陣
強み:死亡以外ならあらゆる生命をジャスミンの花の香りで治癒出来てしまう。例え部位が欠損しようと、痛みを伴ってもその痛みすら忘れ失った部位が再生する。
弱み:半径300m圏内でしか効果がなく、怪我人を範囲内に連れていくかその範囲内で怪我をするかしないと発動しない。
既にこの世から魂がはなれた死体は蘇生できない。
また、範囲内なら死んでさえ居なければ敵味方問わないため利敵行為として利用されやすい。
仲間:ヨリィー・ディメンション
仲間の愛称:よーちゃん
ヨリィーの能力:物語添削
強み:対象の添削可能範囲を見つけ、それを添削し自分の力として創造・改善出来る。
弱み:サポート特化故に、攻撃用として能力を行使するのは実質不可能。
相手の方が技量を上回れば添削は行えないため能力は使えない。
サポート特化なのに添削元に力を与えれない。
仲間:アルヒェ・ハイリヒ
役職:幻想の方舟/騎士団長
能力:騎士ノ傲慢
強み:自強化+武器変異系異能力。状況に応じて様々な形態に移行できる自強化装甲と、それに対応する為の武器変異を同時に行うだけあって、様々な状況に対して臨機応変に対応出来る万能性に優れている。
弱み:単純な能力相手には強いが、複雑な能力相手には無力で、死を超越することは不可能なため、死に直結する事象に対しては耐性をつけることは出来ない。