第28物語 1度果てる命
「手合わせうけるとは言ったけど……いいの? この部屋で……」
「大丈夫、もう既にフィールドは出来てる」
レイヴェン諸国の、リピートの部屋にて手合わせが始まろうとしている。
創造者戦争とは違い、特殊なフィールドを用意しての模擬戦闘だが……今回はリピートが展開している。
それは、辺り一帯を見渡しても障害物ひとつないフラットなフィールドだった。
まるで宇宙空間を彷彿とさせるような幻想的な空は、ずっと見ていられるほどだ。
「これは……リピートさんどういうこと?」
「これはね、固有結界みたいなもの。アルヒェと手合わせした時にもフィールドを貼らないとだったんだけど……あたし、本気で戦う気がなかったから使わなかったの」
「てことは……まさか本気であたしに?」
「さっきも言ったけど殺しはしないし痛みつけもしない。そこは信じて。憂さ晴らしさせて欲しいのはあくまで建前で、本音はあなたの可能性をみたいの」
ふふっと小さく微笑みをみせ、両手を横に広げてノーガード状態になる。
「さぁおいでプルミエちゃん。あたしに傷一つでも付けれたらこの手合わせは勝ちだよ」
「……わかった……! そういうことなら、あたしは負けないッ!」
剣を抜いたまま礼をし、その後新たに構え直す。
そして、有無を言わさぬ突きをリピートに浴びせようとする。
その突きは辺りの風を切るかの如く、真剣すら握ったことの無いただの平和ボケした元日本人とは思えない力だった。
……だが、相手が悪かった。
「いいの? もっと鋭い攻撃しなきゃあたしには勝てないよ?」
なんということか、たった人差し指ひとつでその突きを受け止めてしまったのだ。
衝撃波すら受け流し、リピートの周りの地面が少し削れる。
「どう、して……?」
「残基0100:プルミエはリピートの反感を買い、一瞬の出来事を挟み魂を抜き取られる」
「???」
「あなたは、あたし相手にここで何度か死んだ。これはそのひとつの記録。本に書いてあったひとつの物語」
「ぅうう、言ってる意味がわからないっ!」
半分ヤケになったプルミエは、受け止められた状態から1度剣を後ろに引き、下からえぐるようにして切り上げようとする。
しかし……
「だから、その攻撃も"知ってる"の」
これから何が起きるか全て把握しているかのように、下からの切り上げ攻撃を今度は片足で受け止めた。
「そん、な」
「それで、どうして真言ノ刻を使わないの? ぺー君のインクがもったいないから? それとも、自分の技量的に有効打を出せないから?」
まるでプルミエを追い詰めるように問い詰めていく。
その間にも、受け止めていた片足を1度離し剣を蹴飛ばした後でプルミエの腹部をもう片方の足で蹴飛ばす。
この場合一瞬浮き上がることになってしまうが、リピートはバランスを崩すことなく攻撃を入れたのだ。
「きゃぁあ! ぐぅ……」
蹴飛ばされたプルミエは、その蹴りの強さに1メートルほど吹き飛びながら地面を転がった。
思えばリピートは、この戦いが始まってから一度も勝っていないし、さっきチンピラに絡まれた時から発動しぱなしだった、ダメージを受けないように地の文を書いた壁も無力化されている。
「あたしはね、あなたに"希望"を託したの。正確には残基0015が、だけどね……。その希望を見せてもらおうとしたのに……。あたしは弱者をいたぶる趣味は無いの」
「自分から手合わせを申し込んでおいて何様だって思うだろうけど、あなたは楽をしすぎている。だから、1度実力差を見せる必要があった。この先はあたしには及ばなくとも、アルヒェやヨリィーを凌ぐような強者に沢山会うことになる。それなのにあの国王の時みたいに楽して勝ってばかりで果たして強くなり、この世界を"添削"できるのかしらね」
リピートは冷酷な言葉をプルミエに放った。
あえて見下すような発言をし、激昂させて希望を見たかったから、そんな理由なんかでは無い。
1度世界の傍観者としての実力を見せつけ、思い知らせたかった……ただそれだけの思いで今はつめたく当たる。
事実、ヴァラルフ王国国王陛下と対決したときもあっさりと終わりを迎えた。
これはリピートにとってはあまりにもつまらない展開で、もっと死闘を繰り広げるものだと思っていたからだ。
よく言うと保身に走ったともいえるひとつの立派な行動だが、悪くいうといつまでも保身に走ってばかりではたとえ勝ち戦であろうと成長には繋がらないという一種のアドバイスをしたかったのだろう。
「……確かにリピートさんの言う通りかもしれない。今のあたしははっきりいって主人公失格なのは自覚してる。アルヒェさんの元でそれなりに訓練したとはいえ楽をして国王陛下を倒した、それで成長したとは確かに言えない」
「でも……だからって地面にずっと這いつくばって命乞いをするほど、あたしは落ちぶれてはいない……!」
プルミエに話しながらゆっくり歩み寄ってくるリピートの姿が見える。
このまま頭上に剣のひとつでも当てられれば自分の負けになる。
だが、それを避けるために蹴り1発だけくらっただけでボロボロのその身を無理やり地面に手をつけて起き上がろうとする。
「"プルミエは血を吐きながらでも立ち上がり、リピートを倒す準備を整えた。さあ、起動は今だ!"」
地の文が聞こえる。
それは、プルミエの言葉。
その後直ぐに、リピートの足元からは大きな魔法陣がひとつ展開される。
それはリピートを直ぐに覆い尽くす程の大量の剣としてリピートの周りに魔法剣という形で合計10本も錬成される。
「……なるほどね、面白い案だこと……」
リピートは両目をつむり、その剣がまとめて襲いかかるのを予測していたかのようにかわそうとするが、一瞬判断が遅れたのかリピートの自慢のショートヘアの一部が切断されてしまった。
要するに魔法剣がリピートの髪を掠めたのだ。
「どうやってこれを設置したのか、正直発動者であるあたし自身にも分からない。でも、あたしの頭はこうしろと確かに呟いた気がした。これじゃまるでご都合主義な展開だね……」
「プルミエの言う通り、確かにこれは都合のいい展開。でもあたしには分かるよ。あたしがフィールドを展開した時には既に仕込んでいたのよ無意識に。だから発動する術を知っていた」
「知ってたからかわすことは出来たけど、あたしがわざと引っかかった訳では無い。まさか本当に罠だとは思わなかった……つまり傷は負わせれなくともあたしの髪を1部斬るくらいの油断は作ることが出来た。さっきの言葉は撤回するよ」
――――少なくとも今までの個体よりは"よく出来ている"からね
リピートがそう言うと、綺麗な夜空を模したようなこのフィールドは一瞬にして消え、元の部屋へと変わる。
「あたしの勝ち……ってことでいいのかな……?」
「えぇ、あなたの勝ちってことでいいのよ。今はこの程度かもしれないけど、いずれあなたは大きくなる。権力としてじゃなく、強大で何者も寄せつけないような強者に」
「……でも、そうなるのはだいぶ先の話。もっと己を磨いて欲しいな」
「さもなくば、ただの出来損ない作家よ」
出来損ない……確かに言われてみればずっと楽をして生きてきただけの出来損ないだった。
真言ノ刻のデメリットも何か知らないままで、ずっと乱用して来たのは事実だからだ。
「………なんだか勝った気にならないよあたし。やっぱりリピートさんは強いや」
「ふふっ、少なくとも今急いであたしに勝つ必要は無いとだけは伝えておく。そんな直ぐに勝たれてしまっては、あたしもつまらないし読者もつまらないわ」
「……読者……」
なんだかプルミエはとても大事なことを忘れていた気がした。
自分は強くなるために動いているのでは無いことに。
そうして、無理にでも立ち上がったプルミエはリピートとの会話をすこしした後でバタッと力無く倒れてしまった。
「……時間切れねプルミエ。デメリットが発動したみたい。程なくして新しい"個体"があなたの代わりになるわ」
近くの本棚から、残基記録を取り出した。
そこには新たな記載がされていた。
「残基0101:リピートの髪を切断するも、真言ノ刻のデメリットにより死亡」
「……せいぜい次の"個体"ではもっと抗いなさいね。そして、もっと苦悩を味わうのよ」
倒れたプルミエは、まるで最初からそこにプルミエが居なかったかのように気づけば綺麗さっぱり消えてしまっていた。
ただ、そこに残るのは1枚の紙だけ。
なにやら記載がされているようだ。
――――個体No.0102、102巡目の個体を転送準備。
名前:狭山千夜
新たな名前:プルミエ・エール
2つ名:創造者
基礎能力:真言ノ刻
強み:知識さえあれば、地の文を使用して創造・改ざんが可能。
弱み:使用者の知識が壊滅的だと意味をなさない。仮に知識があっても世界の都合のいいように"添削"される。
応用能力:華癒ノ陣
強み:死亡以外ならあらゆる生命をジャスミンの花の香りで治癒出来てしまう。例え部位が欠損しようと、痛みを伴ってもその痛みすら忘れ失った部位が再生する。
弱み:半径300m圏内でしか効果がなく、怪我人を範囲内に連れていくかその範囲内で怪我をするかしないと発動しない。
既にこの世から魂がはなれた死体は蘇生できない。
また、範囲内なら死んでさえ居なければ敵味方問わないため利敵行為として利用されやすい。
仲間:ヨリィー・ディメンション
仲間の愛称:よーちゃん
ヨリィーの能力:物語添削
強み:対象の添削可能範囲を見つけ、それを添削し自分の力として創造・改善出来る。
弱み:サポート特化故に、攻撃用として能力を行使するのは実質不可能。
相手の方が技量を上回れば添削は行えないため能力は使えない。
サポート特化なのに添削元に力を与えれない。
仲間:アルヒェ・ハイリヒ
役職:幻想の方舟/騎士団長
能力:騎士ノ傲慢
強み:自強化+武器変異系異能力。状況に応じて様々な形態に移行できる自強化装甲と、それに対応する為の武器変異を同時に行うだけあって、様々な状況に対して臨機応変に対応出来る万能性に優れている。
弱み:単純な能力相手には強いが、複雑な能力相手には無力で、死を超越することは不可能なため、死に直結する事象に対しては耐性をつけることは出来ない。