第24物語 目指せ、レイヴェン諸国
「はぁあ、やっと送れたよ……。書くもの多すぎるよぉ」
ここはホープアイ王国の王室。現在書記や秘書などが存在しないゆえに、国絡みのことはほぼ1人でこなさないといけないのだが……レイヴェン諸国に向けて出発すると決めてから、ずっと苦手でさけていた伝達表をかきあげ切った。
「かけたのね。それじゃあ後は伝達魔法で届けるだけね」
「え? 魔法なの??」
「元々この世界は魔法しか無かった世界なのよ。剣はもちろん、鎧なんて概念すらなかった。ところが、ある日突然創造者様がこの世界にきてから色々普及して………」
「そこまでっ、聞いてないこと口にしないの。でも、言いたいことは分かった」
要するに、この世界は最初はハイファンタジー世界だったのだろう。
もちろん今もそれは変わりないだろうが、いつぞやの兵器しかり世界の雰囲気しかり……ポストアポカリプスのような世界に見える。
なにせ、色々な要素が混ざりすぎて闇鍋状態を引き起こしているほどだ。
「そういえばよーちゃん。あたしの脳内でさ"ようこそ幻想世界へ"って言ってたけどさ、この世界ってやっぱり幻なの?」
「かもしれないしただの空想の集合体に過ぎないかもしれないわね。それはウチにも分からないわ」
もしこの世界が、誰かの書く小説の世界の中だと言うのなら、確かに空想とも言える。
現に、世界の傍観者という存在が出てきてしまった。
なんだか不穏な言葉も口にしていたが、少なくとも今は深く考えずに本来の目的を果たすことにしようと思った。
「リピートさんが言ってた。知ってても今は教えられないって……。いずれ教えて貰える時が来るのかもしれないけど……あたしにはわからないや」
「変に深く考えないで今自分がやるべきことをやるのが一番いいと思うわ。あっあと話を変えるけど、アルヒェがおでんをご所望よ」
「……わかった。ぺー君を触ってみて思いついたことあるからそのお試しついでにやってみるね」
知らない間にアルヒェが自分にリクエストをしていたらしい。
もしかしてヨリィーとの話で盛り上がったりでもしたのだろうか?視界の範囲内での出来事では無いゆえ何も分からないが、今は気にしないことにした。
そして、新しい試みとして、頭に装飾として刺してたぺー君を2本取り出し、空中に何かを書き始める。
「"無なる空間より出てしは異界の食物。おでんと呼ばれるそのものは、鍋と一緒にプルミエの前に召喚される゛」
なんということか、今までは口で唱えていた地の文を、ぺー君を使って書き始めたでは無いか。
一見おかしなことをしているように見えるが、小説家としては至極当たり前のことである。
そして、書かれた文字は浮かび上がり青白く光った後に収束し、土で出来た土鍋とガスコンロ、そしておでんの具が入った袋と出汁が現れた。
具材はどれも美味しそうで、がんもどきやたまご、だいこんおろしに昆布などなど。
「……思った通り。やっぱりぺー君で直接書く方が正確性が高い。ただ……ぺー君の寿命を消費するから、制限はある」
「寿命を消費ってあんたね……せめて言い方を……」
ヨリィーは国王らしくもう少し言葉を選べと突っ込もうとしたが、プルミエに至っては何度いっても無理なんだろうと思っている。
「さて、とりあえずおでんの具材はだしたから……伝達書を魔法で送信しなきゃ。で、どうするの?」
「真言ノ刻を使いなさい」
「……それ使うなら最初からそれで良かったのでは……?」
「正確に届かせるのにはこれが手っ取り早いってだけよ。それにそんな伝達を口だけで済ませて覚えてられるような奴らでもないわよ? あそこ」
ヨリィーはまるでこしょこしょ話でもするかのように、少し身体を震わせながら声のトーンを落としてプルミエの耳元で囁く。
「まぁ、この雰囲気だと世紀末みたいになっててもおかしくは無いと思うけど……」
「ともかく……"伝達書は、レイヴェン諸国の王家へと確実に届く"」
またここでもぺー君を使い、小さな伝達書から魔法陣を発生させその場から消滅させる。
一見すると消えただけだが、目にも見えない速度でプルミエの王室から飛んで行ったのだ。
「(思えば、今更だけど東京風なら王室要らなかったな……。まあ皇室みたいなものだと思っておこう)」
建築を初めてから気づけばよかったーーと少し後悔しながらも、今更な発言をする。
かつての出来損ないと言われた、あるいは自分でそう思っていただけのプルミエは、気づけば国王陛下にとなって地位を上げていた。
まあといっても、国民みんな国王陛下といったせいであくまで総責任者は自分としているだけだが……。
「法律に関するところや国民のインフラ整備なんかも追々進めていかないとなあ」
「まさか、自分の趣味のためにやめてきたインフラ整備の事務仕事での知識が役に立つとは思わなかったな……」
プルミエは現実世界にいた時、電柱や水道、交通など人々の生活に欠かせないインフラ整備を整える大事な仕事についていた。
その時の知識を使えばここでも新幹線とかは作れるのでは?と考えたのだ。
「出発は1週間後……。おでんだけ作ってまっておくか」
そう言いながら、おでんの具材が入った袋を破り、出汁も一緒に土鍋に入れたあとでガスコンロの火をつける。
ガス管も出しておいてよかったと少し思った。
「あんた……意外と現実世界ではやる方だったのね。出来損ないじゃないじゃない」
「確かに大それた仕事にはついてたけど、あたしはろくに書類処理もできなくて現地に赴いてもできることが少なくて足でまといで……。勉強頑張ったのに自分には合わないとその時実感して、自分の好きな物書きに時間を費やそうと辞めちゃったんだ」
「……それで趣味に費やしてもポンコツぶりはかわらないっと」
「言わないでよぉ、傷つくなあもう」
ヨリィーの割と容赦ない発言にプルミエは1度涙を流しかけたが我慢した。
事実自分はその辺出来損ないでポンコツと言われたって仕方ない。
いまだってこんな大したこともしてないのにいきなり社長になったような立ち位置についてしまって、プルミエは頭がパニックになりそうだった。
「ふぁあー! おでんのかおりぃいー!」
王室の扉の外からドタドタと大きな足音を立てて走ってきつつ、大声で近づく者がいる。
この反応は間違いなくアルヒェだろう……。
バタンッ!と激しく扉を開いておでんに飛びついてくる。
「んー♡香ばしい昆布の匂いに、お淑やかでどこか安心感すら覚えるまるで母親に抱きしめられたかのような包容感を感じるはんぺん! さすがプルミエさんですっ! いただきます!」
アルヒェは飛びつくや否や、速攻でかきあげるかのようにおでんを食べ始めた。
「あっはは、初対面の時もそうだったけどアルヒェさんっておでん大好きなの? あたしも好きだからわかるよ」
「………普段のどこか近寄り難い雰囲気を出してた生真面目で礼儀正しいアルヒェはどこへやら……まぁ人ってこんなもんかしら」
やれやれと方を下ろして息を吐きながらも、どこか微笑ましくアルヒェを見ていた。
そして、伝達書を送信してからちょうど1週間が経過した。
相手からも返信が来て、手厚く歓迎してくれるとの事だった。
「じゃあ行ってくるね2人とも」
「気をつけてくださいねプルミエ様ー!罠の可能性も有り得ますから」
「気をつけるのよプルミエ。何やら胸騒ぎがするから」
「?うん気をつける」
ふたりの言ってることを何となく頭に入れながら、ある程度の荷物を持って門をくぐった。
国民たちもプルミエを見送ろうと顔を出していた。
住処がなく住む宛がなかったり、親がいない孤児の子供なんかを世話させることが主な目的で作り上げたホープアイ王国は、現代の日本のように争いを嫌い、あくまで防衛のつもりで国家を運営していくようだ。
そして、ここからがプルミエにとってはそこそこ長い道中となるのだった。
名前:狭山千夜
新たな名前:プルミエ・エール
2つ名:創造者
基礎能力:真言ノ刻
強み:知識さえあれば、地の文を使用して創造・改ざんが可能。
弱み:使用者の知識が壊滅的だと意味をなさない。仮に知識があっても世界の都合のいいように"添削"される。
応用能力:華癒ノ陣
強み:死亡以外ならあらゆる生命をジャスミンの花の香りで治癒出来てしまう。例え部位が欠損しようと、痛みを伴ってもその痛みすら忘れ失った部位が再生する。
弱み:半径300m圏内でしか効果がなく、怪我人を範囲内に連れていくかその範囲内で怪我をするかしないと発動しない。
既にこの世から魂がはなれた死体は蘇生できない。
また、範囲内なら死んでさえ居なければ敵味方問わないため利敵行為として利用されやすい。
仲間:ヨリィー・ディメンション
仲間の愛称:よーちゃん
ヨリィーの能力:物語添削
強み:対象の添削可能範囲を見つけ、それを添削し自分の力として創造・改善出来る。
弱み:サポート特化故に、攻撃用として能力を行使するのは実質不可能。
相手の方が技量を上回れば添削は行えないため能力は使えない。
サポート特化なのに添削元に力を与えれない。
仲間:アルヒェ・ハイリヒ
役職:幻想の方舟/騎士団長
能力:騎士ノ傲慢
強み:自強化+武器変異系異能力。状況に応じて様々な形態に移行できる自強化装甲と、それに対応する為の武器変異を同時に行うだけあって、様々な状況に対して臨機応変に対応出来る万能性に優れている。
弱み:単純な能力相手には強いが、複雑な能力相手には無力で、死を超越することは不可能なため、死に直結する事象に対しては耐性をつけることは出来ない。