第22物語 異境なる訪問者
村程度の規模までヴァラルフ王国を復興させたプルミエは、いっときの休息を味わっていた。
「ふぅ……。ひとまずやることは済ませた……」
プルミエは、慣れない肉体労働をしていた。
米俵のような藁の塊を担ぎ、馬車の荷台に詰め込む。
木の苗木を真言ノ刻で沢山作り出し、枯れた大地を潤さんと地に植える。
その苗木は植えてすぐ育ち大木と化す。
能力で成長促進を促しているのだろう。
「ちょっと無理しすぎなんじゃないの? 定期的に休まないと能力のデメリットが付きまとうわよ」
「よーちゃん、それはどういう……? その事全く説明されてないけど……」
「だって、無いように思えるようなデメリットだもの」
「?!!」
ヨリィーがプルミエと話していた際、いつの間にかそばに居た少女が会話に割って入ってきた。
故に、警戒態勢に無意識で2人は入り、武器をかまえ対象に剣を向ける。
「あっと、ごめんね。少なくとも"今"は敵じゃないから。面白そうだから遊びに来ただけよ」
「あっ、あんたは………」
「どう、して……」
プルミエとヨリィーの2人は動揺している。
無理もない。理由は単純で、プルミエと容姿が似ているからだ。
服装は、まるでウェディングドレスを纏ったかのような華やかな衣装である。
「まだこの試行回数段階だと動揺するのも無理はないか。色々話してあげたいところだけどさ、ちょっとあたしと遊んでかない? なぁに、殺し合いなんて野暮なことはしないよ。ただあたしと手合わせしてくれればいいだけだから」
そう話す1人の少女は、どこからか1つの剣を取り出した。
異能力によって召喚したのか、事前に持っていたものなのか判別がつかないほどだ。
その手にもつ剣は、レイピアのような鋭さでしなりが良い。
しかし、銃口のような機構を持ち手部分に備えている、いわば銃剣のような機構なのだろう。
「なるほど、単なるお遊びってわけね。真実か否かは……」
「おっと、そういうことならボクにお任せ下さい」
またまたどこからともなく現れた人物。
それはアルヒェだった。
やる気満々と言いたげに装備は整えている。
まるでこうなることを見越したかのように……。
「……シナリオ通り。面白い……」
「リピートさん。貴方は世界の傍観者であるはず、どうして今更顔を出してきたのですか?」
「どうしてって、6億6666万6666番目の個体があたしの興味をそそるだけのこと。それで遊びに来ただけよ」
「こた……い?」
個体、リピートと言われたそれはまるで実験材料の如く口にした。
しかし、その発言に悪意はなく、ほんとに世界の傍観者として高みの見物をしていただけなようだ。
「遊び相手は"もう1人のあたし"にしようと思ったけど、せっかくだし、アルヒェ……古き戦友から貴方に手合わせを求める」
「はぁ……5年前となんも変わってませんね貴方は。わざわざ待合所で案内人の役をしてきたリピートさんには、ボクが変わったことも気づかないでしょう」
「だから、それを見せるために……。手合わせを受けます」
剣を鞘から抜き、剣を前方へ一直線に構える。
「酷いなぁ。迷える魂を彼岸花の中に誘ってあげてるのに」
「あの時見た少女って……そういう事だったんだ」
プルミエはいつぞや夢で見た花園を思い出した。
あの時に見かけた少女はリピート本人だった……そういうことなのだろうかと今だ疑心暗鬼だが、そう思うしかないのだろう。
「さぁおいでアルヒェ。遊びましょ」
――――複製印刷
リピートが1つ呟くと、彼女の周りに大量の白紙の紙が展開されていく。
そして、その紙には1つの一文が1枚ずつに刻まれていく。
「"残基は複製され、我が身を守る壁となり兵士となる肉体守護となる"」
まるで地の文を唱えるかの如く、リピートが口にすると、その通りに紙に書かれていくのだ。
その後すぐ、プルミエの複製体が数え切れないくらい大量に展開されていく。
「流石傍観者です。能力の複数持ちは当たり前ですか……。ボクも見せてあげますよ」
――――騎士ノ傲慢
この状況に触発されたのか、手合わせを請け負ったアルヒェも今まで隠してきた異能力を解放していく。
アルヒェの異能力で剣が徐々に変形していき、大太刀へと変異する。
その後、その大太刀を活かすためなのか、身にまとっていた装備ですら翼を形成するようにアルヒェの背中へ移行し、2本一対の翼が現れた。
最低限守るところだけ装備を纏うことで、機動力を増強させているのだろう。
その代わり防御力は手薄だが……。
「これが騎士の意地です! どぉおりゃぁぁあ!!」
大太刀を再び構え直し、翼を羽ばたかせながら大軍と化した複製体を薙ぎ倒していく。
倒された複製体は、切断された1枚の紙に戻っていく。
「これが、アルヒェさんの異能力……。創造者だけじゃなかったの……? 異能力……」
「厳密には、創造者の異能力で、一般人でも異能力に目覚める機会ができてしまっただけね」
「ふふっ、その辺の説明は気が向いたらしてあげるよ」
プルミエ達の会話を聞いたリピートは、軽く微笑みながら倒されゆく複製体を眺めている。
「どうしました? リピート。仕掛けないのですか?」
迅速に速度を落とさずになぎ倒すが、攻撃らしい攻撃をまるでしてこないリピートに、思わず声をだした。
「いいや、仕掛ける必要は無いの。保険をかけといて良かった」
リピートがそう話すと、倒されてただの切断された紙に戻っただけのそれが、ひとつの盾の形になるようにアルヒェの攻撃をかわす。
「壁にって言葉の本当の意味はこういうことだったのね。よく練られてる……」
「これが、世界の傍観者……。"今"は敵じゃないと言ってたけど、いつか敵にもなりうるのかな」
「さぁどうかな。その時のあたしの気分かもね」
「くっ、ボクも舐められたものですね。ボクだって、成長したんです!」
アルヒェの大太刀は1度、確かに紙の盾に防がれたが、その大太刀自体がまるで熱を帯びているかのように赤く発光し、紙をゆっくり溶断している。
そして、紙の盾を綺麗に真っ二つに切り捨て、リピートに一気に詰め寄り首元に大太刀を突きつける。
「あはは、あたしの負け。ほんとに成長したんだね、いい子だよアルヒェ」
「……褒めないでください……慣れてないんですから」
何もしておらず見ていただけのプルミエ達は、ただ唖然としていた。
白熱した戦いという訳では無いし、むしろリピートはまだ本気を出していないということがこの戦いだけで大体分かってしまったのだ。
自分と似ているからなのだろうか? それとも単なる感なのか、まだ分からない。
「いやいやごめんねみんな。特に、"もう1人のあたし"ちゃんには迷惑かけたかな?プルミエ・エールとヨリィー・ディメンションのお二人さん。主役をほっぽいといてあたし達サブキャラが戦ってるなんて、実に読者はつまらないものね」
「あの!リピートさん、だっけ……。もしかして貴方がこの世界を創ったの……?」
「……もしそうだとしても、少なくともこんな序盤で教えるわけないでしょ? 小説家を志すものなら、世界の真相をこの段階で知るのがいかにつまらないことか、分かるはず」
「じゃ、あたしはこれで。せいぜい頑張って復興してね、陰ながら応援はするから」
敵なのか味方なのか分からないリピートという少女は、この世界の成り行きを楽しんでいることが分かった。
でも、それと同時に何かを果たさんとする覚悟を感じた。
目の前から瞬間的に消えたそれが、敵にならぬように動かねばならないのだろうか?失望させてはならないのだろうか?異境からの来訪者は、何も言わず去っていった。
「あの人が、あたしに力をくれたというの……? 初めてこの世界に転移した時に見たもう1人のあたしは……。これじゃまるで平行世界! いいっ!ますます小説のネタになる気がしてきた! よーしよーちゃん! アルヒェさん! 張り切って世界を立て直そう!」
「そのよく分からない決心の仕方には飽き飽きしてたんだけどねぇ……。まあ元々そのつもりで来たんだろうさ、受け入れるわ」
「はいっ! 復興できるか分からないですが、頑張りましょう!」
3人は改めて決心した。
団結力を深めるためではないし、絆を深めるためでもない。
ただシンプルに、この世界を立て直す……そう改めて決めただけにすぎない。
この日以降、3人は猛烈に国の復興を進め、徐々にかつてのヴァラルフ王国の輝きを取り戻しつつある。
それは何ヶ月も、何年もかかるだろうと言われた作業だったが、壊滅寸前の状態から今の状態まで復興するのにわずか半年で済ませた。
その記念すべき日は……
「あけましておめでとう! 今日は1月1日! だと思う」
「うん、あけおめよ。頑張ったわねウチら」
「あけましておめでとうございます皆さん。ドワーフさんやエルフさん達も、みんな頑張りました! そして、復興記念として、ヴァラルフ王国再建を宣言しますっ!」
みんなで汗水垂らして復興させたその国は改名され、後にホープアイ王国と名付けられた。
人々の希望の目となるように付けられた名前だそうだ。
もちろん、命名したのはプルミエである。
では新たな国王陛下はどこなのかと言われれば……
「誰か1人が抱えて国王陛下になんてなるもんじゃない。みんながみんなこの国を守る為に、みんなが国王陛下! でも、それだと他国との交流を深めるのが大変なので……習わしに従って、このあたしプルミエ・エールが一応国王陛下として即位します!」
「みんなが国王陛下、ですか……。面白い考え方です……」
「何が習わしよプルミエ。ただ創造者は秩序を作り大地に生命を与え、統治するだけの教えよ」
「それでいいんだよよーちゃん。民さえ良ければ、ね。あたしのことなんて二の次だし!」
この日、プルミエは自分の手で復興したこの国で国王陛下に即位した。
元ヴァラルフ王国の姿はどこにもなく、まるで現実世界の東京のような光景が立ち並ぶ。
「あたしね、現実世界では田舎だったんだけど……こういう街で暮らしてみたいと思ってたんだ。ちょっと無茶させちゃったけど、まあこれくらいはね?」
「……? プルミエさん、誰に話してるんですか?」
「あははごめん、つい独り言を……」
ひとつ歯車が噛み合った、ただそれだけのこと。
果たして国王陛下へと成り上がったプルミエは、この先どういう活躍を見せるのか、楽しみ。
名前:狭山千夜
新たな名前:プルミエ・エール
2つ名:創造者
基礎能力:真言ノ刻
強み:知識さえあれば、地の文を使用して創造・改ざんが可能。
弱み:使用者の知識が壊滅的だと意味をなさない。仮に知識があっても世界の都合のいいように"添削"される。
応用能力:華癒ノ陣
強み:死亡以外ならあらゆる生命をジャスミンの花の香りで治癒出来てしまう。例え部位が欠損しようと、痛みを伴ってもその痛みすら忘れ失った部位が再生する。
弱み:半径300m圏内でしか効果がなく、怪我人を範囲内に連れていくかその範囲内で怪我をするかしないと発動しない。
既にこの世から魂がはなれた死体は蘇生できない。
また、範囲内なら死んでさえ居なければ敵味方問わないため利敵行為として利用されやすい。
仲間:ヨリィー・ディメンション
仲間の愛称:よーちゃん
ヨリィーの能力:物語添削
強み:対象の添削可能範囲を見つけ、それを添削し自分の力として創造・改善出来る。
弱み:サポート特化故に、攻撃用として能力を行使するのは実質不可能。
相手の方が技量を上回れば添削は行えないため能力は使えない。
サポート特化なのに添削元に力を与えれない。
仲間:アルヒェ・ハイリヒ
役職:幻想の方舟/騎士団長
能力:騎士ノ傲慢
強み:自強化+武器変異系異能力。状況に応じて様々な形態に移行できる自強化装甲と、それに対応する為の武器変異を同時に行うだけあって、様々な状況に対して臨機応変に対応出来る万能性に優れている。
弱み:単純な能力相手には強いが、複雑な能力相手には無力で、死を超越することは不可能なため、死に直結する事象に対しては耐性をつけることは出来ない。