第15物語 明日への道
"この戦いには、あたし也の正義をぶつける。ただそれだけ"
偵察をするには些か遅いものの、あらかた城内は探索できたし下見もできた。
それで気づいたことが、自走式魔道戦車がレイヴェン諸国に鹵獲されてるだけあってどこにも配備されていないこと。
ほかの防衛装置などもまるで用意されていないもぬけの殻状態であることにも気づいた。
しかし、これが罠という可能性も否定はできず、下手に動けていない。
「通路に罠が仕掛けられてることはないのはボクが断言します。ですが、陛下も真言ノ刻を扱えますので、ほんの一瞬だけ時間が止まったように体が動かなくなる間を感じたら用心してください」
「うん、分かった! 言われてみればそんな感覚を感じた気がする。気のせいかもしれないけど」
「ウチも感じてはいたけど、説明に困ってたから代弁助かるわ」
プルミエが鈍感なのもあるが、今回の場合はヨリィーと同じく説明に困っていたのだ。
同じ能力使用者として自分も感じてはいたことだが、なぜこんなことが起きるのか不思議でならない。
とはいえ、アルヒェの言う感覚の説明を聞いて、プルミエの場合は勘違いかもしれないと思っている。
「とりあえずは、何事もなくボクの部屋に帰ってこれただけでも祝福したいものです」
「攻撃の兆候すら見せてないから、怪我をするような手なら既にその兆候を__」
そう最後までいい切ろうとしたが、不気味な程に静かなのだ。
「あれ、ここは………」
今までヨリィー達と話をしていたはずだがアルヒェは今、意識が天にある。
「はぁ……このタイミグで定期便ですか……。仕事はつらいですねぇ………」
先程まで人の姿だったアルヒェの容姿は、白色で統一され光の塵を煙突から放出して走る蒸気機関車の姿になっていた。
「すぐに終わらせましょう……。プルミエさんたちが待ってますし」
車輪を動かし、ひとたび汽笛をならせば……プルミエがみたあの場所へと向かうのだ。
しかし今度はどこか見覚えのある魂を目撃する。
その魂は、プルミエの容姿と大変似ているのだ。
「どうしてです……? どうして……」
それは光で出来たようなホログラムのように、実態を持っていない人型の魂としてその場にいる。
「あたしは死んだ。"もう1人のあたし"にあたしの能力をひとつ与えた。あの子は希望、あたしは失敗しただけに過ぎない」
「残機物語……その力で何度もやり直してるのですね……? 」
「最前の結果になるまで何人ものあたしが死んでも物語は終わらない。最初から新たなあたしがやり直す。ただ、あたしが飽和しすぎてしまった。幻想の方舟、今は意志の塊でしかない機関車……。覚醒世界に帰った時、あの子に気をつけて……」
「あの子、ですか……?? その方は一体……」
彼女は特別だった。
幻想の方舟状態では会話すら行えないのに、なぜか彼女とだけは会話が出来た。
今まで経験したことのない出来事に、アルヒェは少々取り乱していた。
「――――――気を、つけて」
そして、誰なのか聞き取ることが出来ず……ただこれで何となく感じていた違和感の正体を知ることが出来た。
あとは、本来の仕事を済ませるだけ……。
◇
「きて……起きて……! アルヒェさん!」
「アルヒェ起きなさいっ!」
徐々に戻る意識、見えてくるプルミエ達の容姿、心配して問いかけてくる声……覚醒世界に帰ったらしい。
「………すいません、"定期便"の仕事を果たしてました」
「方舟としての仕事を果たしてたのならよかった! 急に倒れるからびっくりしたんだよ? ベッドまで運ぶのも大変だったんだから」
「……重くてすいません……」
「確かにあんたは重かった。もうすこし痩せなさい……と言いたいところだけど、プルミエが筋力ないだけよ」
「ううっ……」
「それなら仕方ないですね………。今回のことが解決すれば、また訓練ですね」
アルヒェはベッドから上半身だけ起こしてニコッと微笑んだ。
あの時見たもう1人のプルミエ……。
可能性に掛けているような口ぶりから、この世界はこれから先の出来事が確定しているのだろうか……?なんて密かに思考しながら目先のことを考える。
"あの子に気をつけて"いつかこの発言の意味は分かるのだろうか……?
名前:狭山千夜
新たな名前:プルミエ・エール
2つ名:創造者
基礎能力:真言ノ刻
強み:知識さえあれば、地の文を使用して創造・改ざんが可能。
弱み:使用者の知識が壊滅的だと意味をなさない。仮に知識があっても世界の都合のいいように"添削"される。
応用能力:華癒ノ陣
強み:死亡以外ならあらゆる生命をジャスミンの花の香りで治癒出来てしまう。例え部位が欠損しようと、痛みを伴ってもその痛みすら忘れ失った部位が再生する。
弱み:半径300m圏内でしか効果がなく、怪我人を範囲内に連れていくかその範囲内で怪我をするかしないと発動しない。
既にこの世から魂がはなれた死体は蘇生できない。
また、範囲内なら死んでさえ居なければ敵味方問わないため利敵行為として利用されやすい。
仲間:ヨリィー・ディメンション
仲間の愛称:よーちゃん
ヨリィーの能力:物語添削
強み:対象の添削可能範囲を見つけ、それを添削し自分の力として創造・改善出来る。
弱み:サポート特化故に、攻撃用として能力を行使するのは実質不可能。
相手の方が技量を上回れば添削は行えないため能力は使えない。
サポート特化なのに添削元に力を与えれない。
仲間:アルヒェ・ハイリヒ
役職:幻想の方舟/騎士団長