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植物使い少女は自由に生きたい  作者: 芒に雁
若木之章
2/3

新たな家族、膨らむ蕾

『う…産まれた』

『ええ。こんな環境で無事に生まれるなんて奇跡ね』


 まず最初に目に入ってきたのは、赤髪片目の巨躯の男と、銀髪赤目の美女。

 次にその奥にある、穴だらけの屋根。

 そして、自分の小さな手。

 無事に転生したようだ。


「あ…あうー」


 変な声しか出せない。

 体も自由が効かず、複雑に物事を考えることができない。


『フィン。か、体中が痛い…』

『あ、す、すまん。〔詠唱省略〕〈エクストラヒール〉』


 言語が全く分からない。


『ふう。ありがと』

『これくらい当然だ。』


『そういえばこの子名前決めてないわね』

『ああ。無事に生まれたらつけようと思っていた名があるんだ』


『どんなの?』

木の花(ハル)。俺の故郷、北竜大陸の言葉だ』


『貴方にしてはまともな名前ね』

『妊娠が分かってからずっと考えてたからな』


 全く聞き取れないが、二人の仲は良さそうだ。クズと聞いていたがそれなら私が生まれた時、あんな嬉しそうな顔をするだろうか。

 何はともあれ、思っていたよりは良いようだ。


『これで盗賊家業を再開できるな』

『ええ。そうね』


 ◆◇◆◇


 赤ちゃんライフ、最悪。


 母乳は生ぬるくてあまり美味しくない。

 成人男性におむつを替えられる屈辱。

 急に襲いくる睡魔。

 そして絶望的に、暇。


 することが無い。


 前世も似たようなものだったが、今回は本も無く、会話も分からず、まだ脳が未発達の為か、素数を数えることもできない。


 首も座らないので座ることもできない。


 ただ頭上にある、木の枝で作られた風で回るメリーを眺めることしかできない。


 それが3ヶ月。気が狂うかと思った。


「あうー」

『はいはい。だっこね』


 そろそろ首が座ってきた。

 でもそれだけ。前世の知識では歩けるまで1年〜2年は掛かるらしい。

 前世の知識があるからもう少し早いかもしれないが。


 暇。


 ねたふりをすると、ベットに降ろされる。

 住処はボロボロなのに、このベットだけ不自然に質がいい。

 木製の枠にシルクらしきシーツ。


 ………盗品だよね。コレ。


 首を動かして部屋を見ると、宝石や美しい短剣、金貨等がけっこうある。


 クズってこういうことか?



 ガシャン。



 何かが割れる音。


 母の方を見ると、彼女が高そうな皿を割っていた。


『やっちゃった〜。イケるかな……〔土の精霊よ、此を今一度元の姿へ戻し給え〕〈修復〉!』


 “修復”という単語が理解できた。

 うまれた直後の“エクストラヒール”と同じだ。空耳では無かったか。


 皿の破片が母の手元に集まり、皿が元の形に戻った。


『ふ〜セーフ!』


 魔法。閻魔様も言っていたが、生で見ると感動する。

 どうやらやることができたようだ。


 MISSION1:異世界語を解読せよ!


 ◆◇◆◇


 ムズい。


 私は頭は良い方だったが、この頭脳じゃ考えがまとまらない。

 辛うじて分かったのは「愛してる(ヴル リーア)」「無理ヴェナ」「激しい(ファスタ)」「大きい(デロル)」、あとは「私の名(ハル)」「父の名(フィン)」「母の名(ユウ)」だ。


 ……初めの四つはどうして覚えたのかは想像に任せる。


 さてと。寝返りもうてるようになったし、離乳食のバナナも生ヌルミルクよりはマシ。


 はいはいもできるようになった。


 声帯も発達してきたし、そろそろ単語ぐらい喋っても不自然じゃないかな。


 ………ここで第一声が「ヴル リーア」とかだったら、両親はどんな顔をするだろう。


 …やめとこ。


 私はその夜、両親の前で「ユウ」と喋ってみると、めちゃくちゃ感動された。


 ◆◇◆◇


 だいたい言葉も分かってきた。


 そして、A☆RU☆KE☆RU!!

 自分の足で!歩ける!

 素晴らしい。つかまり立ちはけっこう緊張したなあ。


 そして分かったこと。ここは森の中だった。

 しかも家はうっすらと結界?の様なものに包まれている。


 さらに見た目はボロ小屋なのに、床には虫どころか埃一つ落ちていない。


「帰ったぞハル、ユウ。」


 父が帰ってきた。三日振りだ。

 前は三週間程帰ってこなかった時もあったので別に慣れている。


「おかえりフィン。」

「おかえりなさい。とうさま」


「今日の戦利品は道中狩ったオーク肉と、商人から盗んだオリーブオイルとハーブ。ついでにエメラルドの指輪と金の首飾り、魔導の杖、魔導書、魔剣に金貨六十枚だ」

「大漁ね。」

「まどうしょ?」


「ああ。そういえば本を見るのは初めてか?本は高い癖に盗み甲斐が無いからな」

「読み書きは教えるべきかしら。」

「おしえて!」


 読み書き!絶対に覚えるべき!!


「算術は何故か俺よりできるんだから、教えたらすぐかもな。」

「じゃあ後でね。今夜は私がオーク肉の香草焼きを作ってあげよう。」


 オーク肉と言われたら抵抗あるかもしれないが、めちゃめちゃ旨い。

 今夜は楽しみだ。


 ◆◇◆◇


 三歳。


「第二節おめでとう。はい。プレゼント。」


 この国なのかこの世界なのかは知らないが、誕生日を祝う風習は無い。

 代わりに「節」という記念日がある。一歳で第一節、三歳で第二節、五歳で第三節、七歳で第四節、十歳で第五節だ。そして十六歳で成人。少し早い気もするが、まあいい。


 プレゼントに渡されたのは、短剣と本。


「父さんと母さんが盗賊なのは知ってるだろ?俺は別に将来を強制するつもりは無いが、残念ながらお前は犯罪者の娘だ。自衛の術くらい身に着けろよ。」

「まあ何があっても私達が守るけどね。」


 本の内容は魔法についてだった。


「俺がよく使う魔法をみせてやろうか?〔詠唱省略〕〈変化〉」


 父が黒い雲に包まれる。

 中から出てきたのは、金髪の少年。

 さらにまた変身し、今度は猫。

 さらにまた変身し、今度は蝙蝠こうもり

 そして、いつもの姿に戻る。


「盗賊家業に御用達だし、便利だから覚えたほうが良いぞ。俺の一族秘伝の魔法だ」

「……それでこっそりぬすんでいくんですか?」


「? ああ。そうだが?」

「なんか、たいかくからしてもっと…ちからずくうばうとおもってました」


「そう思うよね。フィンは意外とテクニック派なんだよ」

「力ずくなんか美しくないだろ。誰にも気づかれず、完璧に盗み出してこそプロだ」


 盗賊というより怪盗?


「ちなみに私は強行突破要員。いつも綺麗にいくとは限らないからね」

「ユウは剣術の達人だからな。あんなに美しい剣技は彼女の他に見たことない」

「なんかイメージとぎゃくですね」


「「教えようか?」」


 ……なんでこの両親は、私に色々教えようとするのだろう。

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