婚約破棄、喜んで承りますわ! 『真実の愛』に生きるって素晴らしいですもの!
またもや婚約破棄ものです。
婚約破棄された公爵令嬢の台詞だけで出来ております。
殿下、婚約破棄承りましたわ!
『真実の愛』! どこに出しても恥ずかしくない『真実の愛』でございますね。
『真実の愛』に生きる。素晴らしいですわ! 感動ですわ!
判っております。ああ、判っておりますとも。
永遠の『真実の愛』を誓うおふたりは本当にステキですわ!
ああ殿下! わたくしを軽蔑して見下ろす鋭い視線も、ビシッと突きつけた指先の角度もサイコーですわ!
カトリーナ嬢もステキですわ! 殿下がお選びになったそのドレスも似合ってますわ!
判ります! 判りますわ殿下!
わたくしのような地味でブサ相手では、ドレスも贈り物も送りたくなかったお気持ち! よーく判りますわ!
お二人ともわたくしの事前の想像を上回る華やかさです!
ああ。その華麗さ荘厳さは、さしずめ一枚の名画! 古今東西の巨匠の描いた作品に匹敵しますわ!
『高貴なる婚約破棄』とでも題しましょうか。それとも『真実の愛の華麗なる勝利』でしょうか。
迷いますわ。大いに迷ってしまいますわ。
それに引き換え、わたくしはブサで地味な女。うつくしい殿下の隣にいるべきなのはやはりカトリーナ嬢ですわね! カトリーナ嬢しかおりませんわ!
うふふ。わたくしがお見立てした衣装! とてもお似合いですわ!
ええそうですわ。
あの王都一の仕立て屋ミランダ女史とわたくし懇意にしておりますのよ。
殿下のご指示がイマイチ……いえイマロクほどセンスに問題があったので、わたくしが修正しておきましたの。
ああ、夢見た以上にお美しい!
さぁみなさん! この美しいカップルに拍手を! 『真実の愛』に惜しみない賛辞を!
本当に絵になりますわ! 後で写真を元にして絵画にして飾りますわ!
そうですわ! かの高名なデルピエロ画伯に描いていただきましょう!
でも、もう少し華やぎを加えたいところですわね。
背景一面に大輪の花々をかざったら更に素晴らしいですわね。
殿下、カトリーナ嬢、今から追加で花を用意しますので、できればもう一度、わたくしに対してビシッと婚約破棄を告げてくださいませんか。そのほうがより美しい仕上がりになりますから!
? なにを怒っていらっしゃるのですか? え? カトリーナ嬢に謝れ?
わたくし、カトリーナ嬢をいじめてなどおりませんわ。
神に誓って国王陛下に誓ってしておりませんわ。
いじめなどする理由がありませんもの。
おふたりはとってもお似合いですもの。わたくし愛ではしても、憎むなどしていませんわよ。
わたくしごときが嫉妬などするはずがありませんわ。
あら! あらあら! カトリーナ嬢どうなさったんですの?
そんなふうにお顔をゆがめて……もしかして怒っていらっしゃるの?
美しい方の醜い怒りの表情……それはそれで素晴らしいですわね!
また新たな美をわたくしに見せてくださいますのね! それもいただかせてもらいますわ!
は? わたくしが殿下を愛している? だからカトリーナ嬢に嫉妬を?
まさか! わたくしごときが殿下を愛するわけがないではありませんか!
そもそも、カトリーナ嬢が現れるまで、わたくし殿下になんの関心ももっておりませんでしたし。
あたりまえですわ。だってこれは我が筆頭公爵家と王家の単なる政略結婚ですもの。
わたくしが殿下のお嫁さんになりたいとおねだりした?
あらあら。根も葉もない話ですわ。
隣国の王女であったわたくしの母に劣等感をもっていらっしゃる王妃様あたりにふきこまれたのでしょうけど。違いますわ。
そもそもわたくしには将来を誓い合った方がいたんですのよ。
それを王命で引き裂かれたのですもの。殿下に向ける愛などひとかけらもあるわけありませんわ。
ご容姿が素晴らしい貴公子だとは思っておりましたが、そんなの絵姿で十分ですもの。
というか殿下に関しては絵姿だけのほうが良かったですわ。
だって絵姿だけならうんざりする中身を知らずに済みますもの。
お話は自慢と高慢と増長ばかりで知性も品性のひとかけらもなく、ご自慢の剣技も地位のせいで勝ちを譲ってもらっているのに気づかない節穴っぷり。
せめて勉学だけでも出来ればまだしも、下級クラス相当の成績を王族の地位を振りかざし教職員の方々を脅して最上位クラスに居座る恥知らずっぷり。
しかも、それを無自覚にやっているという最低っぷり。
いくらご容姿が麗しくても、これでどうやって愛するというのか……世界が滅んだって無理というものですわ。
ああ。でも、そういう怒った顔もステキですわ。神話の英雄を思わせる御尊顔。ああ、本当にご容姿だけは眼福ですわ!
みなさま、全部残らず全瞬間を撮ってくださいましね。お願いしますわ。
わたくし、こんな能のない容姿だけの空っぽな殿方と結婚するのかと人生に絶望していましたの。
犯されるようにして抱かれ、無理矢理子種を仕込まれて穢されてしまうのかと。
そんな時、カトリーナ嬢が現れたのですわ! あの出現は奇跡でしたわ。
お二人が初めて並んだ瞬間の恍惚! 美しさと美しさのマリアァァァァジュッ!
わたくしには判ったんですの、このふたりが並ぶべきだって! わたくしではなくカトリーナ嬢が!
カトリーナ嬢が現れて全てが変わりましたわ。ほんとうに全てが。
おふたりの相乗効果で、それはもうすごいんですのよ。今だって背後に華麗なお花畑が出現してますもの。わたくしには見えますの。ああ、お美しいおふたり!
ああ、キラキラですわ! クラクラしますわ。天上界の音曲が鳴り響きそうですわ!
おふたりが並んでいると神話の英雄と女神のようですわ! お姿だけは本当に!
ですからわたくし、この一年はただひたすら、殿下がその麗しい御容姿にふさわしいカトリーナ嬢と結ばれるように願っておりましたもの。
得意絶頂で幸せいっぱいのおふたりは本当にステキですわ!
こんなにおふたりのお姿だけを褒め称えるわたくしが、どうしてカトリーナ嬢をいじめななどするでしょう? するはずありませんわ。美術品に嫉妬などしませんわよね。
元側近の方々を、わたくしが排除したと?
ええ、殿下の側近と称していた方々は、わたくしが取り除いてさしあげましたわ。
当然ですわ。
美しいおふたりのあいだにお生まれになるお子に、万が一でも美しくない血が入ったら人類史に残る悲劇ですもの。
あのゴミもとい側近の方々は、あまりにカトリーナ嬢と距離が近かったので、万が一があってはなりませんものね。
でも、わたくし大したことはしてませんのよ。
カトリーナ嬢と側近の方々が身も心も深く差しつ差されつ親密に密着している写真を、それぞれの側近どもの婚約者である御令嬢の方々に送っただけですの。
まぁ! カトリーナ嬢、その青ざめた顔もお美しいですわ! 美人はどんな顔でも美人ですわね!
そうしたら、どの御令嬢方もあっさり婚約解消しましたわ。
側近の方々の御実家も、彼らを残らず後継者から外したうえに断種なさったようですわね。
当然ですわ。どこで種を蒔いてくるか判らぬ子息などお家騒動の火種にしかなりかねませんもの。
あと、カトリーナ嬢の孤児院時代からの幼なじみとかいうお顔が整った平民の方にも、ご退場していただきましたわ。
平民なのに平然とこの学園に出入りしてカトリーナ嬢の部屋へ何度も忍び込んでおりましたから。
しかもその度に、カトリーナ嬢のおからだを辱めていましたのよ。
カトリーナ嬢が殿下以外の種で孕む危険は徹底的に排除しなければなりませんもの。
あら? どうしてお怒りになるのかしら?
殿下との『真実の愛』があるのに、あの賊と合意の上でことに及んでいたなどありえませんわよね?
うふふ。そうですわよね。そんなことあるはずが御座いませんわ。
あの賊は単なる犯罪者。排除したのを感謝こそされ恨まれる筋合いはありませんわ。
え、退場とはどういうことか、とお聞きに?
ああ、わたくしを睨むそのお顔もステキですわ! 皆さん撮ってくださってますわよね?
わたくし、大したことはしておりませんの。学園当局に通報しただけですわ。
相手は許可なく高貴な人々のみが通える学園に侵入してくる賊ですもの。
しかも寮に侵入しては男爵令嬢であるカトリーナ嬢を辱める性犯罪者ですわ。
ご安心になって、賊は収監中に病気で亡くなったそうですから、二度と不埒な真似をしませんわ。
ああ、あのお方、トーマスというお名前でしたの。存じませんでしたわ。
いいですわその泣きそうなのをこらえるお顔! カトリーナ嬢はどんな顔でもステキですわ!
そういうわけで邪魔者は徹底的に掃除しておきましたので、おふたりで励んで珠のようにうつくしいお子をお作りになってくださいな。
おふたりとも励むのは大好きで御座いましょう。
カトリーナ嬢のお腹に既におひとりめがいるのは存じておりますわ。
月のものが止まってから確か既に2ヶ月でしたかしら。
おふたりのいいとこどりとかたまりませんわ。想像しただけでじゅる……おほん。
ええ、そうですわ殿下。
殿下とカトリーナ嬢が出会ってから結ばれて以降、重要な場面は全て記録させていただきましたわ。
ええ。全てですわ。文字通り全てですわ。
さきほどわたくし言いましたわよね。あの瞬間、わたくしには判ったと。
そして決意しましたわ。運命のおふたりの恋模様を徹底的に記録して愛でなければって!
ですから、その日、お屋敷に帰ったわたくしは、頑是無い童のように父におねだりをして、我が公爵家の影を数人借りてお二人に貼り付けることにしたんですの。
我が公爵家の影に抜かりはありませんわ。
あと念には念をいれて仲がよい令嬢方にも記録装置を渡しておきましたのよ。
はぁ……素晴らしかったですわ。
日々蓄積されていく美しい殿下と美しいカトリーナ嬢のキラキラしたお姿! 尊みあふれまくりですわ。
ほんとうですわよ。おふたりの全てを記録してありますもの。
そんなはずはない? ふふ。嘘ではありませんわよ。
つい先日、二月十五日。
カトリーナ嬢の階段落ちは見事でしたわ! あんな高いところから飛び降りて怪我ひとつないなんて!
しかも背中から落ちてですもの! 数十回に渡る訓練と思い切りの良さの成果ですわね。
それを下でキャッチした殿下もお見事でしたわ! まさに呼吸がぴったりでしたわ!
ヒロインの危機を救った伝説の英雄もかくやというお姿でしたわね!
更に半年前の九月二日。
カトリーナ嬢が大噴水に落ちたあともうつくしかったですわ。
誰かに突き落とされたかのように悲痛な悲鳴をおあげになって落ちていく様は、まさに悲劇のヒロイン。
その直後、全身から水滴をしたたらせてあがってくるお姿のうつくしさ!
乱れた髪に乱れた制服、濡れて透けた御装束の妖しさ!
スカートが乱れに乱れて、付け根まで剥き出しになったおみ足の生々しい白さ!
それら全てが真昼の陽光に照らされて……たまりませんでしたわ!
地味な乙女のわたくしには少々、いえ、かなり刺激の強いところもありましたが……ぽっっ。
あれは去年の五月十四日。おふたりが初めて身も心も結ばれた教会の懺悔室での契り……
うつくしいおふたりが生まれたままの姿で絡み合い、殿下がカトリーナ嬢の胸を背後から荒々しく鷲づかみにして何度も何度も精を注ぎ込んでいるところなど……うふふ。
それからこれはそれ以降何十度もですから特定の日付をあげられませんが、学園の迷路の生け垣の隅で、白昼堂々からみあっているところなども!
おうつくしいふたりが獣のように吠えるのもまたギャップ萌えでしたわ!
え? 今すぐ渡せ?
ええ、もちろんですわ。準備してありますもの。
ほらこうして写真集としてまとめておきましたのよ。
レッドドラゴンの皮で装丁しましたの。特注品ですわ。
だって、余りにもおふたりの姿がうつくしいので、わたくしのだけの胸に仕舞っておくなんてもったいなさ過ぎですもの。全ての国民、いえ全ての人類に知ってほしいですわ!
はぁ……すてき。
わたくし素人ながら編集させていただきましたが……本当に尊みあふれてますわ。
見てくださいまし、カトリーナ嬢の階段落ち!
連続写真を合成してみましたのよ。しかも付属品の眼鏡をかければ立体視もできますのよ!
練習風景もちゃんと収録してありますのよ。
ほら、これもこれも惚れ惚れする写りですわ。
夕陽で満たされた生徒会室での貪り合うキスシーンもありますわよ。
美しいおふたりは下品なことをしてても本当にうつくしう御座いますわね。
もちろん万が一に備えて繋がりあった部分が露骨に映っているモノは、この普及版にはいれておきませんでしたわ。
ええ、普及版があるからには豪華版がありますのよ。
豪華版は、カトリーナ嬢の御実家や王家の方々やご学友のかたがたに限定してお配りしてますのよ。
これですわ。
よくできてますでしょう? あらお気に召しませんか? それは困りましたわね。
半月ほど前、普及版は新聞社や出版社に一万部。豪華版は知り合いや関係者に三千部ほど進呈してしまいましたのに。今から回収するのは大変ですわね。
そうだ名案を思いつきましたわ!
また世界に公開するべき写真が一冊分貯まったら、おふたりが自ら掲載する写真を選んだ特別版も作りましょう!
おふたりがどんな写真を選ぶか楽しみですわ!
わたくしと実家の公爵家を罰する?
あらあら殿下。まだ勘違いをなさってますの?
殿下は、筆頭公爵家の長女であるわたくしと婚約したから王太子になっていただけですわ。
わたくしとの婚約を破棄した以上、すでに王太子ではありませんもの。
今の殿下は、容姿が優れただけの王子にすぎませんわ。
ああ、それもすでに過去ですわね。
あ。カールお義兄様! お待ちしておりましたわ!
まぁまぁまぁ! 先程開かれた緊急議会で満場一致承認されたのですわね!
ではお義兄様が国王陛下となったのですわね! おめでとうございます。
え。そんな、昔のようにカールと呼んで欲しいだなんて……。
ええ、そうですわ。わたくしの義兄であるカール様が、今や国王陛下なのですわ。
ついさっき議会で、現王家を廃止し、我が公爵家を新王家とすることが決定したそうですのよ。
それにともなって、旧王家の不正蓄財や売国的行為の数々も暴かれて、殿下以外の旧王家の方々は既に収監中ですわ。
つまり今の殿下は売国行為に励んでいた一族に連なる者にすぎませんわ。
カトリーナ嬢の御実家である男爵家も、王家と密輸や人身売買に励んでいたので、取り調べで収監中ですわ。
おそらく旧王家もろとも一族族滅という沙汰が下るかと。
広場では処刑台の準備が始まっておりますわ。旧王家と違って仕事が早いですわね。
いえいえ、嘘ではありませんわ。
殿下とカトリーナ嬢が捕縛されていないのは、わたくしが父に強請っておふたりの身柄を譲り受けたからですもの。
わたくしが殿下に懸想しているから? だから助けた?
まさか!
先程も説明しましたが、どうして容姿が美しいだけの殿下に懸想などしましょうか。
カトリーナ嬢と並んでいるからこそサマになっている殿下を、容姿以外は何の取り柄もない殿下を、人として愛せるはずがないで御座いましょう。
わたくし『真実の愛』の結晶であるおふたかたを愛でているだけであって、殿下個人には何の愛着ももっておりませんの。
婚約破棄を撤回する?
あはは。あははは。だめですわ殿下。
殿下にはカトリーナ嬢との『真実の愛』があるのですもの。不純物はいりませんわ。
おふたりのあいだに『真実の愛』がないのでしたら、今の殿下には何の価値もありませんわ。
もう一度仰ったら『真実の愛』が消滅したと判断せざるをえませんわ。
そうしたら殿下とカトリーナ嬢は、売国奴の一味として処刑されることとなりますわよ。
え、カールお義兄様……きゅ、急に何を言い出しますの。
だ、駄目ですわ。わたくしは婚約破棄されたばかりの身……。
いいえ! そういうわけではありませんわ! わたくしの心はずっと貴方様のもの。
ですが! 婚約破棄されたばかりの女を妃に迎えたらカールお義兄様のご評判に傷が……。
そんな……そんな風に仰られたら……。わたくしが頷くまで待ってくださるなんて……。
申し出、お受けさせていただきますわ。
わたくしの身も心も、カールお義兄様のもの……末永く愛おしんでくださいませ……。
殿下? なにをわめいていらっしゃるのです。
わたくしはカールお義兄様と浮気などしておりませんでしたわ。
王家から殿下と婚約せよという王命を受けてからずっと、心の奥底に封じておりましたのよ。
そもそもわたくしは、カールお義兄様を婿にして女公爵として実家を継ぐ予定でしたの。
それを王家の横槍で王太子妃とされ……それでカール義兄様が親戚から養子として迎えられましたのよ。
殿下はご存じなかったようですが、わたくし王命で無理矢理殿下と婚約させられなければ、カール様と婚約するはずでしたのよ。
幼い頃から慕い合っていたカール様との婚約を、わたくし心待ちにしておりましたの。
なのに殿下のような容姿以外何の取り柄も魅力もない愚物と婚約させられてどれほど哀しかったことか!
ああ、カール様……もう二度と離れるなんていやですわ……。
あ、そんな人前で情熱的な……続きはふたりきりの時にお願いしますわ。
というわけで殿下。
わたくしは元王家の横車がなければ結ばれる筈だったカール様と結ばれ。
殿下は『真実の愛』のお相手であるカトリーナ嬢と結ばれ。
おとぎ話めいためでたしめでたしではありませんか。
殿下、カトリーナ嬢、どうしてそんなに絶望的な顔をしていらっしゃるんですの?
ああなるほど。
確かに、おふたりは国家に対して大罪を犯した罪人の一族ですから本来は処刑される身ですものね。
しかも貴族としてもっていた全ての特権と臣民としての権利を剥奪されておりますから、その身分は法律上では家畜以下の存在。
心が押し潰されそうなのも仕方ありませんわね。
ですが、心配なさることはありませんわ。お二人ともその身は安全ですわ。少なくとも現時点では。
おふたかたの衣食住はわたくしが責任をもって保障させていただきますから。
わたくしのポケットマネーで賄うので、おふたかたが国家の資産を横領していた時ほどの贅沢はしてさしあげられませんけど。
王都の植物園の中に、おふたりのためのガラス張りの新居を用意させていただきますから住居の心配はありませんのよ。
食事も、王宮に勤めていた料理人3人を専属としてつけますから心配ありませんわ。
御衣装も、お二方のためにわたくしがコーディネートしたものを毎日提供しますから、以前よりセンスも良く似合うものを着られますわよ。
侍女も選りすぐりの専属侍女を10人つけますわ。
『真実の愛』を妨げる全ての脅威からおふたりを守るため、10人の侍女は全て格闘技に精通したものですから大船に乗ったつもりでいてくださいまし。
お二人程度なら小指一本で制圧できる使い手ばかりですわ。
ええ、聞き違いではありませんわ。ガラス張りの新居ですわ。
おふたりの行動の全てが人目にさらされるというだけのことです。何も問題はありませんわ。
そうでなければおふたりの『真実の愛』に満ちた尊み溢れる生活を公開できないではありませんか。
わたくしのような『真実の愛』を知らぬ哀れな者達に、『真実の愛』というものがいかに素晴らしいかを、その身をもって示していただこうと思っておりますのよ。
全国民、いえ、外国の方々にまで、おふたりの『真実の愛』を無料で公開させていただきますわ。
『真実の愛』の生活を、我々哀れな凡人にたっぷりと教えてくださいまし。
その美しさ素晴らしさを。尊みを。
おふたりの起床から就寝まで。食事からお着替えから排泄から会話から娯楽から肉の交わりに至るまでの全てを公開していただきますわ。
会話は外から聞こえるようにしておりますから、お互いを傷つけ合うだけの醜い喧嘩などなさらぬように。
あ、今のはいらぬ心配ですわね。だっておふたりには『真実の愛』があるんですもの。
おふたりの間に交わされる全ての『真実の愛』に満ちた日常を記録させていただきますわ。
ああ、おふたりのあいだにお子が出来ても心配することはありませんわ。
おふたりのお子ですから、さぞやおうつくしくなるでございましょうからね。
幼い頃から、最高の教育と最高の愛情で、おふたりとはちがって中身までうつくしい姫や貴公子に育ててみせますもの。
少なくともおふたりがお育てになるより真っ当なお子になりますわね。
あら? いきなり剣など抜いて、殿下は何が不満なのですか?
おふたりが心から望んでいた永遠の『真実の愛』に満ちた生活が始まるというのに……。
それに、わたくしは既に王妃なので、斬りかかってなどしたら――
ほら。そんなことをするから王族を害そうとしたとして、乱暴に取り押さえられ床に這いつくばらされてしまうではありませんか。
どうしておふたりとも、わたくしを殺したそうな目で見るのでしょうか? 理解できませんわ。
おふたりはこれから『真実の愛』に生きるので御座いましょう?
ですから、殿下が嫌がっていた政治からも礼儀からも勉学からも……全ての面倒な現実から解放してさしあげるのですわよ。
カトリーナ嬢が積極的に無視していた社交のマナーも勉学からも……ありとあらゆる決まり事から解放してさしあげるのですわよ。
おふたりは混じりけ無しの『真実の愛』だけに生きればよろしいのですもの。
感謝されこそすれ恨まれる筋合いはありませんわ。
兵隊の皆様。お二人を新居に連れていってさしあげなさい。
では、殿下、カトリーナ嬢。
明日、植物園での『真実の愛』公開記念式典でお会いしましょう。
これからの『真実の愛』のうつろいを、とっくりと見せていただきますわよ。
ああ、うつろいなどありませんわね。
『真実の愛』は永遠ですものね。
ふふふ。あはは。
本当に楽しみですわ。
もし読んでみて面白いと思われましたら、ブクマ・評価・感想などお願いします!
お暇でしたら、他の話も読んでいただけると、更にうれしいです!