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お告げの話

 その年に、この国を救うことになる聖女が生まれる。


 宮廷に仕える、ある魔法使いが年に一度の神託を受け取る際にそう言った。

 勿論その時に私はまだ生まれていなかったけれど、一年に一度の神託の儀式は数回見たことがあった。

 それはとてもとても幻想的な儀式だった。


 松明を赤々と燃やし火の神に祈りを捧げ、甕に水を並々といれて水の神に祈りを捧げる。

 するとあたりは光り輝いて神官として仕える魔法使いにご神託が授けられる。


 そうして魔法使いだけがその年のご神託を知っている。

 その中で必要なものを王侯貴族に伝えられるという仕組みになっている。


 広く伝えてしまうことで未来が変わってしまうかもしれないご神託は秘されて厳重に守られているという。

 けれど、多くに知らされるご神託だけでもその力は疑いようの無いもので、だからこそこの国の人間は皆、神を信じているし、ご神託を信じている。


 そこで私の生まれた年に託された預言が『この国を助ける乙女が今年生まれる』というものだった。

 にわかに国は沸き立った。


 救うではなく、助けるという言葉だったことも幸いし、国中がお祭りムードだったと両親は言っていた。


 乙女はこの国の功労者の家に生まれる。

 薄い色をした髪の毛は貴族に多い。


 平民の家庭でも生まれないわけでは無いが、平民の家は圧倒的に黒や茶、赤髪が多い。


 実質的にこの年貴族の中で生まれた少女がその乙女である可能性が高い。

 乙女は十五の年に聖なる癒しの力が目覚めるという。


 魔法の力を授かるための儀式も丁度十五歳だ。

 その時に国を助けるための力があらわれるのだろうということが定説だ。


 そのためその乙女は聖女といつしか呼ばれる様になった。


 聖女には癒しの力が現れるという。

 幼少の頃は他の子どもと違いはないが、強力な癒しの力がこの国を救うという。

「だから、どうかその子を大切にしてください」

 預言の最後に年老いた魔法使いはそう言ったという。

 だからその年に生まれた女の子はどの子供もとても大切に育てられているという。

 その中の一人が私だ。

 けれど、多分私はそんな選ばれた乙女というものとは違うと思う。

 周りの大人は神託で言っていた乙女が私じゃないかと噂している。

「私は、サラかリズが聖女だと思うわ」

 そう言われても正直あまりピンとこない。

 愛称でリズと呼ばれているリゼッタの方が、上品で美しくてずっとずっと私のイメージする聖女に近いと思っている。

 それでも“聖女候補”と思われる私と同い年の少女は皆、聖女として生きるための教育を受けていた。

 それは「どうかその子を大切にしてください」という言葉を守るために行われているという。


 けれど、翌年に同じようにもう一つの預言が儀式で託された。


『昨年生まれた少女をかの国へ差し出さねばならない』


 その少女は大切に育てられておらねばならない。

 かの国。公式には具体的な国名は公表されていないが地の国の事だと言われている。


 地の国はこの国に接しているもう一つの国だ。

 大陸と海で隔たれているこの国には唯一隣接しているくにがある。


 その国へどう行くのかは知られていないが、その国は地の国と呼ばれている。

 普通の方法ではいけないというその国の名前を私は知らない。


 かの国というようにいつも名前を伏せられている国がこの国の隣にはある。

 その国との交易はあるようには見えない。ただ戦争をしているという話も聞かない。

 地の底にあるという話も聞くが実際のところはよく分からない。

 ただ、その国に行くと二度と帰っては来れないと聞く。地獄の比喩の様なものだと子供たちは皆思っている。


 そこに一人少女を送り出さねばならない。その少女の条件は分からない。けれど、聖女以外の少女であることだけは私でも分かった。


 そのどちらにも愛されて育つこと、手厚い教育を受けさせることが半ば条件の様に言われていた。

 実際神託でどこまで詳細に言及されていたのかは分からないけれど決まってどちらの話もそう言われていた。


 生贄に捧げられる少女への罪滅ぼしのために手厚い教育を施しているのではないかとも言われていた。

 どちらにせよ、聖女の力は十五の年にあらわれるという。

 それまでも、それからも穏やかに過ごせるものと私は信じていた。


 貴族に生まれたとはいえ、それほどの覚悟は何も無く暮らしていたのだ。

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