第093話 精霊術士候補を確認した
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今日は5月1日、合同洗礼式の日だ。洗礼は午前中なので、今日は庁舎には向かわず、直接大聖堂へ向かう。王都は、その周辺も合わせると、50万人くらい住んでいる。当然、合同洗礼に来る10才の子供の数も多く、1回で1000~1500人くらいはいるそうだ。その子達を一斉に本堂に集め、洗礼を行うのが合同洗礼式だ。
で、その際に、精霊が見えるかどうかを確認するわけだが、全ての属性が揃っていないと、漏れが生じるようだ。これまでは「精霊のいる場所を教えて欲しい」と言って、指し示した所に精霊がいる少女の鑑定を行っていたらしいが、私の場合、感覚共有ができるので、やり方はもっと簡単だ。
合同洗礼式が始まった。この日は戸籍登録の日でもあるので、戸籍を担当している総務省からも人が来ており、式が終了して、子供達が出てきたら合流して、戸籍を登録する。今は子供達の親が書類を作成中だ。
洗礼が今終わった様だ。ここで毎回精霊視を持つ者を確認しているそうなので、多くの人に知られているようだし、当然大司教台下も承知されている。
「皆様の中で、精霊が見えるという方は、前に出て来て頂けませんか」
私は大声で叫んだ。すると、何十人もの少女が前に出て来る。とりあえず、属性毎に分けよう。
「では、左から、火属性、風属性、水属性、地属性に、一塊になって下さい」
よし、別れたな。では、火属性から確かめるか。感覚共有、と。
『火属性の方、この声が聞こえるなら、手を上げて下さい』
火属性の人達の所で喋ったが、反応はない。全員違うようだ。次は風。
『風属性の方、この声が聞こえるなら、手を上げて下さい』
風属性の人達の所で喋ったが、こちらも反応はない。違うな。次は水。
『水属性の方、この声が聞こえるなら、手を上げて下さい』
すると、一人が手を挙げた。精霊を近づけて、話をする。
『貴女は私の声が聞こえるのですね』
「はい、聞こえます」
よし、一人確保。次は地。
『地属性の方、この声が聞こえるなら、手を上げて下さい』
地属性の人達の所で喋ったが、こちらも反応はない。水1名で終了だ。
「では、今手を挙げた1名の方は、大司教猊下に鑑定を受けて下さい。残りは解散願います」
残念がる声が幾つも聞こえてきたが、流石に私が精霊導師であることは知っているようで、表立って逆らう人はいなかった。しかし、今外から入って来た少女が、私に話し掛けてきた。
「導師様、私はこの前の2月に洗礼を受けたのですが、その時に風の精霊術士様がいらっしゃらなかったので判定できなかったのです。確認をお願いします」
「分かりました。確認致しましょう」
再び風精霊と感覚共有して、話し掛ける。
『私の声が聞こえますか』
「はい、聞こえます」
少し風精霊を動かしてみたが、その子はきちんと目で風精霊を追っている。間違いないだろう。
「分かりました。確かに貴女も精霊が見えるようですね。大司教台下に鑑定を頼んでみましょう」
こうして、2名の精霊術士候補を確保した。そのまま庁舎に行き、精霊課長に2名の候補者がいたことを話すと、喜んでいた。
精霊課にある資料も概ね読み終わったので、合宿のことを考えていた。確か、治水工事の現場に4名いたはずだが、その人達は参加できないだろうか。現場で具体的に何を行っているかを精霊課長に聞いてみた。
「治水工事の現場では、川の氾濫や地盤の緩みなどがないか、監視や点検をしていますね」
確かにいないとまずそうだが、ある程度工事が完成してしまえば、いなくても良さそうな気はする。最近体を動かしていなかったので、どうせなら現地を見に行きたいなあ……。
「一度、現場を確認しても宜しいでしょうか。工事自体を手伝える可能性もございますので」
「それでしたら、一度建設大臣を通した方が宜しいかと思われます」
「確かにそうですわね。では、まず建設省の担当の方と話してみましょう」
「それでしたら、治水課長には私の方から調整してみましょう」
「宜しくお願いしますわ」
精霊課長は、建設省の庁舎に歩いて行った。1時間ほどすると帰って来て
「導師様、現場に向かっても良いそうです。ただし、移動は自前でお願いしたいそうです」
「大臣にはお話を通せましたの?」
「治水課長がすぐに大臣の所に報告しまして、問題ないようです」
「では、現場を確認させて頂きましょう。そういえば詳しい場所はどちらになるのでしょうか」
「クインセプトとセクテートになります。現場にはそれぞれ片道5日はかかりますね」
「こちらからあちらに連絡する手段はございますか」
「治水課を通じれば、各領主邸に連絡することは可能です」
「では、私が走って向かいますわ。それなら時間もさほどかかりませんわ」
「は?護衛はどうされるのですか?」
「高速移動中の私を狙って攻撃できる存在など、殆どおりませんわ。それに、現地には護衛がいらっしゃるのでしょう?」
「勿論おりますが……」
「とりあえず、近いクインセプトから参りましょう。明日朝一で向かえば、昼には到着できますわ」
「……分かりました。そのように連絡いたしましょう」
「今回は導師服で向かいますので。あと、現場の精霊術士の名前を教えて下さいませ」
「クインセプトには、マルロアーナ・アクラスターとエルスラ・ルワーナが行っております。また、セクテートには、エナスジェラ・バンケルメスとアリネラ・ゴープルが行っております」
「そうですの。では、マルロアーナさんとエナスジェラさんに、それぞれ精霊で伝言しておきますわ。地図で細部の場所を教えて下さいませ」
現在所属の精霊術士は、名簿を見て覚えている。マルロアーナさんは水属性で子爵令嬢、エナスジェラさんは地属性で男爵令嬢だ。恐らく魔力も高めだろうし、伝言すれば伝わるだろう。
「地図を持って参りました。こちらがクインセプトの地図で、こちらがセクテートの地図です。×印が工事現場になります。どうぞお持ち下さい」
「有難うございます。では、精霊に伝言を頼みますわ」
マルロアーナさんの方に行く水精霊には、明日の昼頃そちらに伺う、と、エナスジェラさんの方に行く地精霊には、近日中に伺うことを伝達してもらうように、精霊に頼んだ。長距離の移動を伴う頼み事の時は、魔力を渡しておくと、精霊が元気に飛んで行くので早めに伝わる。魔力は精霊の嗜好品のようなものらしい。
後は業務調整だ。ニストラム秘書官には、明日から暫く現地確認のための出張、ということで調整して貰った。恐らく1週間以内には帰って来られる筈。
あとは、明日以降の行動をレイテアに伝えておこう。
「レイテア、私は治水工事の現地視察のため、明日以降は暫く単独行動になります」
「お嬢様……大事なお体なのですから、護衛を付けるように行動して貰わなければ困ります」
「そうなのだけれど……最近早朝しか鍛錬していなかったので、そろそろ思い切り体を動かしたくなったのよ。ご免なさい」
「仕方ありませんね……判りました。私はこちらで待機させて頂きます」
こうして、現地視察の準備を終え、家で休んだ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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