第090話 王太子妃殿下の茶会 1
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
今日は通常の勤務だ。4人の魔力操作の練習に付き合った後、資料を読んだりしていた。
先日はひょんなことから雷魔法を作ってしまったが、使い方によっては魔法の枠を超えて危険だよな。あれから電気・電子技術の発展に持っていくことも可能だろうし、電子が風属性として操れるなら、原子力技術なども、魔法で再現できそうな気もする。そう考えると、とんでもない事なのだが……暫くは様子見か。
そのようなことを考えていると、精霊課長がやって来た。
「実は5月1日にやって頂きたい仕事があるのです」
「その日であれば……今の所は大丈夫だと思いますが……どのような仕事でしょうか」
「2月、5月、8月、11月の1日は、平民の合同洗礼日であることはご承知だと思うのですが、その際には、精霊術士が出来る限り参加して、精霊視を持つ者を探し出しているのです」
「なるほど、そうなのですか。それは重要な仕事ですね」
「ご存知の通り、精霊術士は高待遇ですので、嘘をついてでも採用されたいと思う者や、何かを精霊と見間違えて、自分も精霊が見えると思い込んだ者が多いのです。このため、精霊が見えていると判断される者のみ鑑定を行い、精霊視を持つと証明する、という仕組みになっています。しかしながら、精霊が見えていると判断できるのは、同属性の精霊術士だけですので、中々手が回らないのが現状なのです」
通常は、王都にいる者が大聖堂に出向いたり、巡回している者が近くの中心都市の聖堂に出向いたりして出来る限り見つけようとしているのだが、限界があるということらしい。まあ、私なら4属性とも一人で確認できるし、何より精霊を使役することができるので、見つけやすい。
「承知致しました。それと、次以降も、参加可能な時は参加致しますわ」
「そう言って頂けると非常に助かります」
「ところで、現段階で私が把握している方は、お伝えした方が宜しいのでしょうか?」
「勿論です。総務班と運用班が喜びます」
「そうですか。一人は7月にはアルカドール領から来られますよ。私の友人で、地属性ですの。あと一人は、ビースレクナ領から、来年来られると思いますが、火属性ですわ。どちらも、私が確認しておりますので、間違いございませんわよ」
「そうですか、それは頼もしいです。情報感謝いたします」
「今後も、国内でそういった方を見かけた時は、本人の了承を得て、連絡いたしますわ」
仲間は多いに越したことは無いし、今後は鍛錬も行えるようになる。人材は有効活用しないとね。
今日は午後から省定例会議だ。私からの報告は今の所はないが、精霊課長の方から、合同洗礼式の話は出るだろうな。あと、今回は明日の政府全体会議の議題も話し合われるが……なお、政府全体会議の方も、私は参加する。各課長は任意なのだが……まあ、立場上仕方ないのかな。
ということで、定例会議の方は問題なく終了した。ただ、私は大臣室に呼ばれ、明日の会議について、大臣から説明があった。前回の会議の配布資料を渡され、どのようなことを話すか、簡単だが教わった。各省の状況だけでなく、主要国の状況なども説明されるらしい。それは面白そうだ。あと、私は初参加となるため、挨拶をすることになるそうだ。
今日は朝から政府全体会議のため、宰相府の会議場に来ている。おおっ、本当に私の席が用意してあるよ。へえ、これが資料か。宰相閣下が来たら開始になるから、それまで読んでおくか……。
暫く資料を読んでいると、宰相閣下が来た所で全員起立し、宰相閣下に礼をした後着席し、会議が始まった。基本的には資料の順番通りに会議が進められていく。各国の情勢は、ロイドステアの隣国や、同盟国の動向、主要な行事などを報告していた。
4つの隣国のうち、ノスフェトゥスとアブドームが政情不安なのね……ノスフェトゥスはともかく、アブドームはこちらに敵対しないなら、援助してもいいのかもしれないけど……まだ情報不足だな。
新たに同盟国となったサウスエッドとは、様々な関係強化施策が検討されているらしい。なるほど。
各省の業務の報告は、恒常的な業務の話が殆どだったな。あと、魔法省の報告の所では、一応私の挨拶をさせて貰ったよ。まあ、生暖かい目で見られていた気がするが、気にしないでおこう……。
こんな感じで政府全体会議は終わった。なお、3・6・9・12月は、御前会議になって、陛下に報告する形になる。更に面倒そうだな……。
さて、気が付いたら既に茶会当日となってしまった。
今日休むことについては業務上全く問題ない。ドレスも届き、代金も支払い済みだ。参加者の前情報は把握している。話題になりそうなこともある程度は勉強した。
今回は王太子妃殿下のための茶会と考えて良いわけだから、サウスエッド関連で、話が弾みそうな話題をいくつか出しておけば、自然と流れるだろう。アルカドール関連の話を振られる可能性もあるので、何を言われてもいいようには考えている。後は着飾って参加するだけだ。
お兄様を見送った後、軽食を摂ってから、肌の手入れやら化粧やらを念入りにやって貰い、ドレスを着た。家の馬車で王城へ向かい、到着後、会場へ案内された。今日は晴れているので、城の中庭で行われる。私の入場は、王妃殿下と王太子妃殿下の直前だ。一応公爵夫人より立場が上なのよね。三公夫人全員いると言うのに、私のような若輩者が何だか申し訳ないわ。
暫くしてから入場し、席に案内される。どうやら私は、セントラカレン公爵夫人と王太子妃殿下に挟まれるらしい。同じテーブルには、他にイストルカレン公爵夫人、ウェルスカレン公爵夫人もいる。一応顔は知っているので、略式の礼での挨拶となった。
とりあえず公爵夫人達と少し話し、私とも名前で呼び合おうという話になったところで、王妃殿下と王太子妃殿下が入場した。全員席を立ち、二人に礼の姿勢を取る。
「本日は皆に来て貰えて嬉しいわ。こちらのレイナルクリアと、懇意にして頂ければと思って、この場を設けたのよ。さあ、挨拶なさい」
「皆様、本日はお越し下さいまして、有難く存じますわ。ロイドステアに来て数か月、日々学ばせて頂いておりますが、皆様からも様々なことを学ばせて頂いて、ロイドステア王家に名を連ねる者に相応しくなれるよう、励みたいと思っておりますの。宜しくお願い致しますわ」
挨拶が終わり、王妃殿下達は席に着いた。暫くはこの席で歓談し、頃合いを見て席を立ち、多くの人と話す流れだ。とりあえず、お決まりのドレスを褒めるところは、公爵夫人達の話に合わせておいた。
「ところで、フィリストリア、魔法省勤務は如何ですか」
王妃殿下が私に話を振って来た。まあ、普通に答えておこう。
「日々勉強させて頂いております。大臣をはじめ、ご指導ご鞭撻を賜り、誠に有難いことでございます」
「精霊術士達を鍛え直していると聞いているわよ」
「はい、ウォールレフテ大使殿より鍛錬方法を伺いましたので」
「これからも国の為に尽くして頂戴ね」
「恐悦至極に存じます。今後も励ませて頂きます」
この話題は終わり、王妃殿下は公爵夫人達にそれぞれ言葉を掛けていった。
王妃殿下が一通り同じテーブルの人に声を掛けた後、次は王太子妃殿下が話し始めた。
「サウスエッドはこちらより暑いので、植生が異なっておりますの。今頃ですと筏葛が見頃ですが、皆様の領地では、今どのような花が見頃なのでしょうか。ここのように、芙蓉などでしょうか」
ふむ、無難なところで攻めて来たな。うちだと今頃は……
「アルカドール領は、ロイドステアの中では北方にございますから、こことも植生が異なっております。今頃ですと薫衣草が見頃ですわ。紫色の花で、良い香りも致しますわ」
「まあ、そうですの。香水の原料で伺いますが、北方の花でしたのね」
やっぱりうちの夏はラベンダーだよね。あれは良いものだ。行った事は無かったが、富良野もあんな感じだったのだろうか……。
「セントラカレン領は、王都と殆ど植生は変わりませんわ。今ですと、庭には梔子が咲いておりますわ」
「そうなのですか。以前お伺いさせて頂いた時は薔薇がございましたね」
「セントラカレン家の薔薇園は、代々受け継がれていますからね。変わりなくて安心しました」
「王妃殿下にそう仰って頂けて、誠に有難く存じますわ。今後も受け継いでいきますわ」
そう言えば、王妃殿下の生家はセントラカレンだったかな。
「イストルカレン領ですと、王都とアルカドールの中間でしょうか。あまり植生に変化はございませんが、今ですと、庭に咲いているものでは桔梗が見頃ですわ」
「桔梗ですか。見たことがございますわ。あれも風情のある花ですわね」
「ウェルスカレン領は、どちらかと言えば暖かい方ですが……今ですと百日紅などが見頃ですわ。庭ではなく、街に植物園がございまして、そちらで楽しんでおりますの」
「まあ、領民の方々とも、花を楽しまれながら交流されていらっしゃるのね」
そんな感じで、様子見をしながら話していた。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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宜しくお願いします。
※ 難読語
筏葛:いかだかずら(ブーゲンビリア)
薫衣草:くんいそう(ラベンダー)
梔子:くちなし(ガーデニア)