第088話 色々準備中……
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
今日は午前中に業者に来て貰ってドレス選びと注文だ。店で注文しても良かったのだが、私はあまりそういうセンスがないので、うちのメイド達にも話を聞きながら選んだ方が良いと思ったのだ。
また、今回の茶会には、王妃殿下や王太子妃殿下がいらっしゃるので、最低限、そのお二方とドレスの色が被らないようにしなければならない。その辺りは、同業者情報で入手できるようなので、昨日併せて頼んでおいたのだ。
そういうわけで、お兄様を見送ってから、うちのメイド達は何だか張り切っている。どうも、あまりドレスを作らない私が作ろうとしているので、気合を入れて選ぼうとしているようだが……。正直、失礼にならない程度に選べればいい、とクラリアに言った所
「お嬢様、何を仰いますか!お嬢様の美貌に見合うような最高のものを選びませんと!」
と力説されてしまった。判りました、お任せします。
暫くすると、業者の馬車がやって来たようだ。私の部屋に呼んで、色や柄を選ぶことになった。クラリアや他数人の流行などに詳しいメイドも同席している。
「導師様、此の度は我が店を選んで下さり、誠に有難き幸せに存じます」
「以前、母と一緒に貴方の店を利用させて頂きましたし、今回もそうさせて頂こうと思いましたのよ。それで、昨日の件は、確認出来ましたでしょうか」
「はい、どうやら王妃殿下は薄紫色、王太子妃殿下は淡い桃色の盛装を当日着用されるとのことです」
「では、私はそれ以外の色でお願いしますわ。皆もそれで選んで頂戴」
「あと、盛装の型については如何いたしますか」
「そうね。最近流行のものであれば、私は特に指定はありませんわ。良いものを見繕って頂戴」
「畏まりました」
そう言った後、数人が鞄やサンプルの布などを持って来た。メイド達も交え、たまに布などを見ながら、ドレスを選定した。選ぶのに真剣なのは結構なのだけれど、喧嘩はやめて。
何とかドレスが決まったので、男性には退室して貰い、寸法を測ったのだが、その時に
「あら、導師様も成長されましたわね」
と言われてしまった。いや、確かに最近起伏が付き始めているのだが、直接言われるのは恥ずかしい。まあ、何とか午前中でドレスを注文することができたので、良かったよ。
午後からは出勤して、書類を確認したりした。特に問題は無かった。
執務室で書類業務を行っていると、精霊課長がやって来た。
「導師様、先日話がございました、精霊術士集中鍛錬についてのお話ですが」
合宿については「精霊術士集中鍛錬」と呼称されることになった。合宿に類する言葉がなかったのだ。
「場所については、ウェルスカレン領の、公府周辺にしたいと思います」
公府というのは、公爵領の中心都市のことだ。通常の中心都市より規模が大きい上、ステア政府の出先機関なども存在し、王都に何かあった場合の代替機能も持つことから、特別にそう呼ばれている。
「そういえば課長殿は、ウェルスカレン出身でしたわよね。お知り合いも多いでしょうし、地理にも明るいということですわね」
「はい、その通りです。当然、鍛錬場所として、4属性の鍛錬に適した場所が近傍にありますので、統制が取り易いというのが一番の理由ですが」
鍛錬については、あの本によれば、属性のエネルギーを身近に感じつつ、魔力を活性化したりすることで、属性のエネルギーの変化を感じとる、というものが感受性を高めることに繋がるらしい。
具体的には、地属性の者なら、地面に埋まった状態になり、水属性の者なら、水に浸かり、風属性の者なら、風を浴びながら、火属性の者なら、近くに火などのある状態で、活性化を繰り返すらしい。地形が限定されるというなら風属性だけど、地属性の鍛錬は、他人に見られたくないなあ……。
「そうですの。では、それで参りましょう。課長殿は、引き続き準備を進めて下さいな。それで、今の所はいつ頃行えそうですの?」
「やはり、収穫祭の終わった9月頃が一番宜しいと思われます。人員も揃いますし、その頃ですと、まだウェルスカレンは暖かいですから、準備が容易です」
「そうですわね。あと、その間の王都での天気予報や毒見などは、私であれば離れていても行えますので、要員を残さなくても宜しいですよ。いざとなれば転移門もございますし」
「おお、それは助かります。その辺りをどうしようか迷っていたのですよ」
そんな感じで、合宿については話が概略まとまった。後は精霊課長に任せておいて大丈夫だろう。
その後暫くは、魔力操作の練習に付き合ったり、回覧資料を読んだりで割とのんびり勤務した。で、資料を読んでいた中で、少し気になった所があった。「雷魔法」についてだ。自然現象の雷自体はこちらの世界でも見られるが、魔法で雷を発生させられるかを研究した人がいるらしい。
地球では、細部は覚えていないが、上空の雷雲などと地面の間に電位差が生じた場合に発生した筈だ。こちらでは、それに類することを精霊が行うことが出来るのだろうか。資料の話では、結局発生させることは出来なかったが、単独の属性ではなく、複数の属性で発生させることができるのではないか、という結論になっている。ふーん、水と風ねぇ。後ろにいる風精霊に聞いてみた。
「風精霊さん、雷はどのようにして発生するのか、御存じでしょうか?」
『……雷か、あれは嵐を起こす時、ついうっかり力が入り過ぎると発生するんだよ』
何だ?その良く判らない説明は。……あと、複数属性が必要か、聞いてみよう。
「なるほど。雷の発生には、複数属性が必要なのでしょうか?」
『いや?風属性だけど……何この文章。出鱈目じゃないか!』
その後、色々風精霊に詳しい所を聞いてみたのだが、どうやら電子は、風属性らしい。このため、うっかり力を入れすぎたりすると、電子が大量に移動して電位差が生じ、雷が発生するらしいのだ。何か風精霊も出鱈目を書かれて怒っているみたいなので、試しに雷魔法を考案してみようかな。
雷を発生させるには、2点間に大きな電位差を生じさせ、電気抵抗の高い空気中でも電流が生じる、という状況が必要だ。これはこの世界でも変わらない。例えば、魔法の的の電子を一時的に取り除くとともに、別の所に電子を集めることができれば、雷は発生するのではなかろうか。
若しくは、的の方の電子を取り除くのではなく、的までの間にある空気中の電子を偏らせて、電子の道を作ることで、的に当てれば良いかもしれない。電子を集めるには、風属性のエネルギーを集める様に、周囲から電子を集めれば良いかもしれない。後は、それらをどうイメージするかだな……。電子雲的に考えるより、古典的な原子モデルで考えてみよう。
考えがまとまったので、どこかで魔法の試し撃ちができないか、ニストラム秘書官に相談してみた。
「魔法の試し撃ちですか?それでしたら、魔法兵団か魔法研究所に相談しては如何でしょうか」
以前魔法兵団の備品を壊してしまったからなあ……魔法研究所の方に聞いてみるか。アンダラット先生もいるだろうから、話が通り易いかもしれない。
「では、魔法研究所の方にお願いしてみますわ」
「それでしたら、視察名目で行かれては如何でしょうか?あちらも、色々お話を伺いたいようですから」
丁度魔法研究所からも、一度来て欲しいという話があったようだ。その際に試してみようか。
「では、そちらの方向で調整して下さい。伺えるのはいつ頃になりそうでしょうか」
「今からですと、早くて3日後ですね」
視察の調整はニストラム秘書官に任せて、私は視察までの間、通常の業務の合間に、イメージの強化に努めることにした。
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