第087話 精霊術士達に魔力操作を教えた
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今日から精霊術士達に魔力操作を教えることになった。出勤すると、3人は全員事務所にいた。殆どの精霊術士は、庁舎区域内にある上級職員用宿舎に居住しているので、基本的には遅刻はしないようだ。
3人には課の会議室に来て貰い、魔力操作の講義を始めた。まずは状況確認だ。
「皆さんに伺いますが、これまで魔力操作の練習をどのように行ってきましたか?」
3人とも回答は「なんとなく」だった。確かに皆平民だし、10才でこちらに来て、魔法の練習などあまりやれなかっただろうから、当然と言えるだろう。では簡単な理論から行おう。
「それでは、魔法や魔力について、簡単に説明しましょう。知っていらっしゃることもあると思いますが、魔力操作を基礎から行うためには、振り返る必要がありますので」
そう前置きして、魔法と魔力について話した。
「魔法は、自分の意志を自然現象に反映させる方法です。意志を精霊に伝達することで、精霊が自然現象を改変するのです。精霊は、魔力が強い存在の意志をよりかなえようとする性質がありますので、魔力が強い存在は、より高度な魔法を使えます」
「魔力とは、世界に遍在する「魔素」が体内に入り、魂の属性に感化され、属性を得たものを「属性魔素」と言いますが、この属性魔素が、魔力になります。魔力の量を数値化したものが「魔力量」です」
ここまで話したが……ロナリアは知っていた感じだが、コルテアとフェルダナは、あまり知らなかったようだ。言っておいて良かったか。
「ここで重要なのは、精霊が、魔力の高い者の言うことをよく聞くということです。これは、精霊術士にも該当します。これは単純に魔力量が多い、というだけではなく、魔力をどれだけ使いこなせるか、即ち、魔力操作の能力にも依るのです。ですので、魔力操作の熟練度を上げる必要があるのです」
こう言うと、流石に全員納得したのか、頷いている。続けよう。
「魔力は、体内のどこにも含まれますが、その多くは血液中にあり、体内を循環しています。この魔力に対して、何らかの変化を及ぼすことを「魔力操作」と言います。体内での密度を変化させたり、体外に流出する魔力を制御したり、意志を魔力に伝達することが、魔力操作と言われています。特に魔法において重要視されるのが、意志を魔力に伝達する「活性化」という行為です」
ここで皆の反応が悪くなった。少し確認してみるか。
「では、フェルダナさん。貴女は、活性化という行為を、どのように行っていますか?」
フェルダナは、突然当てられて、困惑しながら答えた。
「すみません、活性化を練習したことがありません。そういうものだとは知りませんでした」
了解。次はコルテアかな。
「では、コルテアさんはどうでしょうか」
「何か昔習ったけど、忘れました」
了解。次はロナリアか。
「では、ロナリアさんはどうでしょうか」
「はい、意識を血の巡りに合わせると、体が温かくなるという方法だったと思います」
「そうですね。それが従来から行われていた活性化の要領です」
実際、精霊術士は魔法を使うわけではないので、活性化に本質的な意味はないのだ。そもそも言葉がわかるわけだし。ただ、活性化により、その言葉に重みが出ると考えればいい。そして、活性化を行うなら、アンダラット法で行った方が断然良い。しかも最近の研究によると、アンダラット法を習得すると、魔力量が増えやすいという結果が出ている。ならば、教えない道理は無いわけだ。
「これから覚えて貰うのは、従来の魔力操作ではなく、通称「アンダラット法」と呼ばれる最新式の要領です。効率的に魔力操作が行えるだけでなく、魔力量も増加しやすいと言われています」
こう言った所、コルテアはやる気を見せ、フェルダナは不安になり、ロナリアは微妙にだるそうだ。とりあえず、概要を説明する。
「基本的にアンダラット法は、体の中心、へその下、臍下丹田と言いますが、そこに意識を集中することで、体全体の魔力操作を行うものです。臍下丹田と体の各所に放射状に経路があるような想像をすることで、魔力の経路が本当に出来ているような動作を行うことができるようになるのです」
この辺りは初めて聞く事だろうし、ピンと来ないのだろう。まあ、この辺りは実際にやって慣れるしかないだろう。実際に魔法を使うわけではないので、ここでやっても問題ない。
「それでは、実際にやってみましょう。楽な姿勢を取って、臍下丹田から体全体に放射状に意識がつながるような想像をして下さい。その状態で臍下丹田の活性化を行うのです。慣れれば全身が短時間で活性化できるようになります。まず、全身に流れる魔力を感じる所から始めましょう」
3人は最初に魔力を感じることから始めた。ロナリアとコルテアは出来たようだが、フェルダナは微妙だったので、フェルダナには、私が手を取って魔力を流してみると、感じることが出来たようだ。その後活性化をやり始めたが、やはり皆すぐには出来なかった。活性化はやり続けると魔力を消費するので、意識を放すことで鎮静化する必要があり、そちらも併せて教えた。
今後は毎朝活性化を中心とした魔力操作の練習を行うことにした。あと、暇な時にはイメージトレーニングをやることを奨めた。とにかく今は練習するしかない。
午後から魔法省の会議があった。定例会議で、毎月第2週と第4週にやっているそうだ。参集範囲は大臣、各課長と私、あと、各課の先任班長らしき人達が課長の後ろに座っている。精霊課だと運用班長だ。
内容は、省全体及び各課の業務予定や主要業務の実施状況などの情報共有が主体だ。今回は第2週なのでそれだけだが、第4週の会議は、月末に行われる政府全体会議の議題についても話し合われる。各課特に問題なく報告され、私も改めて挨拶させて貰って、初めて参加した定例会議を終えた。
朝に魔力操作の練習を行ってから業務を行う日が続いていた。まだ皆アンダラット法を会得するまでには至らないが、じっくり続ける必要がある。そんな中。火山の監視業務を下番して1人の精霊術士が帰って来たので、精霊課長と一緒に私の所に挨拶に来た。
「導師様、ラズリィ・メナレフと申します。宜しくお願いします」
「先日からこちらで勤務しております、フィリストリア・アルカドールと申します。以後、宜しくお願いしますね。ラズリィさんとお呼びして宜しいかしら」
ラズリィは私より1才上だから年が近い。何となく仲良くなれそうな気がした。
「ところで課長殿、ラズリィさんも魔力操作の練習をやって貰うということで宜しいでしょうか」
「ええ、宜しくお願いします。彼女には先ほど話しておきました」
「それではラズリィさんにも、魔力操作に関する講義を今から行いましょう」
「ど、導師様、お手柔らかにお願いします」
そして、先日3人に教えた内容をラズリィにも教えた。ラズリィも殆ど魔力操作の練習を行ったことは無かったが、理解力は高く、私が言った事をすぐに覚えた。これなら、後は練習あるのみだ。
各種回覧資料を読んだり、たまに精霊術士達のフォローを入れる日々が続いていたところ、王妃殿下からの招待状が届いた。月末に王太子妃殿下や主要な御婦人達を招いて茶会を開くそうだ。まあ、そういう話があれば、私に話が来てもおかしくないよね、確かに。ドレスを注文しておかないと……。あと、これは当然昼間の話だから、ニストラム秘書官を呼んで相談しよう。
「導師様、お呼びでしょうか」
「ええ。実は、月末に王妃殿下から茶会に招かれたのよ。業務調整をお願いしますわ」
「承知しました。この場合ですと、当日はお休みを取られた方が宜しいですね」
「そうね、そう致しますわ」
そのような感じで、茶会当日は休みを取るようにした。しかし、仕事のようなものなのに、休暇申請が必要なのは、何か違う気がするが……。とりあえず、明日は午後からの出勤ということにして、午前中にドレスを注文しよう。
帰りに、以前お母様と来た店に寄って、明日の午前中、うちに来て貰えるか話したところ、問題ないとのことだった。良かったよ。
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