第083話 早速仕事が入った
お読み頂き有難うございます。
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魔法省勤務2日目。私は、パットテルルロース様のところ……ではなく、何故か陛下の執務室に呼び出されていた。用件は何だろうか。
「着任早々だが、仕事を受けることは可能か」
「陛下の命とあらば、否やはございませんが、どのような内容でしょうか」
謁見の場ではないので、少々砕けた感じになるが、それでも相手は国王陛下だ。気を引き締めて聞いた。
「実は、王太子とその妃の護衛及び移動の支援を頼みたいのだ」
どうやら、先日ロイドステアとサウスエッドの同盟が締結されて、転移門が開通したらしい。それで、一度妃殿下に、実家に顔を出して欲しいとサウスエッド国王から頼まれたそうだ。
「あやつの親馬鹿ぶりは有名だからな。普段は賢王と言われているが、娘の事となると性格が変わる」
「娘である私が言うのも憚られますが、父にも似た所がございます」
「ふふっ、そうだな。……どうだ、問題ないか」
「業務調整が必要ではございますが、転移門の使用については問題ございません」
「魔力量25万は伊達ではないな」
既に私の鑑定結果は確認済みのようだ。もしかすると、今後はこれ系の雑用も増えるかもね……。
ということで、出発は2日後、あちらでの歓迎の宴に参加して1泊して帰るらしい。帰って調整だな。
やっと陛下の所から解放され、本来行く予定であったパットテルルロース様の所へ顔を出した。
「昨日魔法省に着任致しました。まずはご挨拶と、少々ご相談がございまして」
「以前より背が伸びましたかな。制服姿も良く似合っておられる。さあさあこちらへどうぞ」
城内の敷地内には大使館がある。この建物は、昔はステア政府が使っていたのだが、手狭なために今の庁舎区域に引っ越した際に、有効活用しようという話が出て、現在は各国大使館になっている。警備の手間も減るので近衛隊としては助かっているらしい。
大使館と言っても豪邸ではなく、立派な宿屋レベルの建物だが、勤務員も多くないのでこの位の大きさであれば事足りるのだろう。ということで、応接室の椅子に腰を掛けると、妖精族の女性がお茶を出してくれた。
「大使館はこのようなところでございましたのね。この館だけ、空気が優しい感じが致しますわ」
「お褒め頂き有難うございます。たまにあちらから、大樹の葉などを持って来ているためでしょうか」
「それもあるのでしょうが、やはりここは、皆様と精霊が調和しておられますので、心地よいのでしょう」
その後、ウォールレフテのことなどを話した後、相談をすることにした。
「一つお伺いしたいことがございますの。精霊との意思疎通の能力を向上させるための方策がございましたら、ご教授頂きたいのです。我が国は、精霊視を持つ者が比較的多いのですが、その資質を高める術が確立されていないのです。そこで、パットテルルロース様であればご存知かも、と思い立ちまして」
「……なるほど、貴女ご自身はそのような必要はないでしょうが、ご同僚の方は確かに必要となるでしょうね。我々としても、精霊と意思疎通が出来る方は多い方が、国益に叶います。協力致しましょう」
「有難うございます」
その後、練習法を書いた本を頂いた。妖精族には妖精語があるそうで、流石はカラートアミ教設立前からある国だが……幸い、標準語版の方を頂いたので私も読める。あと、他の事でも困った事があれば、大使館の人が何かしら手助け出来るかもしれないので、連絡を入れて欲しいと言われた。有難いことだ。
魔法省へ帰り、とりあえず2日後の出張の件についてニストラム秘書官やレイテアと相談した。業務上は問題なく、レイテアも授業の日は明日なので大丈夫だそうだ。良かったよ。
その後、精霊課長の所へ行って、パットテルルロース様の言葉を伝え、頂いた本を渡した。
「おお、このような貴重な本を!すぐに内容を検討し、鍛錬法を案出しましょう」
あと、念のため出張することを伝えた。
さて、会食の時間になった。秘書官の女性が呼びに来たので誘導されて応接室に入ると、大臣以下、昨日挨拶した各課長が揃っていた。……魔法課長はまだ慣れないようだ。席に座り、大臣が歓迎の挨拶を私に言って、会食が始まった。食事は1階の食堂の料理をこちらに持って来たものだそうだ。
「導師殿は、いつ頃精霊女王の加護を受けられたのかな」
大臣が私に質問する。この件は公表されていないが、秘匿もされていない。素直に答えよう。
「7才の誕生日ですわ。ただ、あまりに若すぎるため、陛下の命で暫く公表を控えておりましたの」
「確かにあの時陛下に謁見されておりましたな。アルカドール侯が娘を自慢しに来たのだ、と王都では大層噂になっておりました」
魔法兵課長が言った。それ以外にも色々噂されたらしいけどね、実情は全然違ってたんだよ。
「そういえば、いつぞやの第3王子殿下の催された交流会で、凄まじい威力の氷魔法を使われたそうですが、あれも精霊導師としての力なのでしょうか」
「いえ、要領を精霊から伺っただけで、魔法自体は普通のものですわ。現に、私の兄やアルカドール領民も氷魔法を習得しておりますので」
「ほう、それは素晴らしい。魔法研究所の者など、目の色を変えることでしょう」
「今ですと、アルカドール領行政官のコルドリップ男爵が、領民へ氷魔法を普及する事業を担当しておりますので、父を通じて調整すれば、習得は問題ない筈ですわ」
「氷魔法の魔道具などを作成できましたら、便利になるでしょうな」
魔道具課長が言った。私は魔道具作成は専門外なので判らないが、意見を出す程度なら可能だろう。
「魔道具作成については存じませんので何とも言えませんが、氷魔法の発動過程など、参考にされるのでしたら、私もお手伝いできるかもしれませんわ」
「その際は、ご協力よろしくお願いします」
そのような話をして、歓迎会食は恙なく終了した。
午後は執務室に備え付けられていた魔法省職員名簿などを見ていた。既に私も載っていた。普通は、入省すると身上調書を提出する必要があるのだが、私の場合は職員名簿に記載されるレベルの内容は調べれば解るので、提出の必要がないそうだ。とりあえず精霊課や関係の深い職員の名簿を確認しておこう。
そうしていると、精霊課から職員が来た。確か運用班の人だっけ?
「導師様、大変申し訳ありませんが、天気予報をお願いしても宜しいでしょうか」
話を聞くと、フェルダナは風精霊にお願いを聞いて貰えないことが度々あり、今日も無視されてしまって、明日の天気予報ができないそうだ。風精霊は特に気まぐれだからね。で、私に聞いて貰いたい、と。
「承りましたわ。明日の王都付近の天気で宜しいの?」
明日は王都近くの演習場で、陛下もご覧になる演習があるそうで、天気が知りたいそうだ。私は背後霊の一つになっていた風精霊に頼んで、天気を教えて貰って運用班の人に伝えた。凄く感謝された。
やはり精霊術士の能力向上を行わないといけないな、と思いながら、名簿をまた読み始めた。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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