第080話 魔法省初出勤 1
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今日は魔法省初出勤の日だ。朝から制服を着て、お兄様を見送った後、指定の時刻にやって来た馬車にレイテアと乗車し、移動した。大臣などの要職に就いている人は、省保有の馬車で送迎されるのが通例らしいのだが、私もその枠に適用されているらしい。
ステア政府庁舎区域は、王城の隣にあり、10棟の庁舎に、各省及び宰相府がある。昔は王城内にあったそうだが、国の発展に伴い、王城内では手狭になったので、隣の敷地を整備したそうだ。このため、庁舎区域の警備は王城同様に厳重で、正門をはじめ、貴族用、平民用の庁舎通用門などにも衛兵が配置されている。王城との間は、渡り廊下のように繋がっており、衛兵はいるものの、ただ通るだけなら申請は不要らしい。
馬車は、庁舎区域正門を通過し、魔法省庁舎玄関へ到着した。レイテアが馬車の扉を開け、私は馬車を降りた……。何故か沢山出迎えの人達がいるんですけど……。誰かが近寄って来た。魔法大臣だったので、とりあえず礼をする
「導師殿、私は魔法大臣を務めているマルグレスト・エルステッドです。立場上、私は貴女の上司ですが、貴女は公爵相当の地位ですから、上位者への礼は不要ですよ」
「お初にお目にかかります。フィリストリア・アルカドールです。精霊導師という、身に余る大役を任じられ、魔法省にお世話になりますが、精一杯努めますので、宜しくお願い致します」
「こちらこそ、貴女のような方を迎えられて、光栄の極みです。まずは執務室へ案内致しましょう」
レイテアを伴って、大臣の後に付いて行く。出迎えの人達が拍手で迎えてくれる。戸惑いつつも軽く手を振りながら進む。3階建て庁舎の3階に上がり、しばらく進むと、一つの部屋に着いた。
「こちらが貴女の執務室になります。私の執務室はそこ、向かいは秘書室と総務課、あちらには精霊課があります。貴女の予定は、基本的には秘書室で管理することになりますが、内容は精霊課関係のものが多くなるでしょう」
そう言って、大臣は秘書室から誰かを呼んだ。一人の女性が私の目の前で礼をする。
「導師殿、この者は貴女の担当となるニストラム秘書官です」
「フィリストリア・アルカドールです。今後も宜しくお願いします」
「導師様、お初にお目にかかります。クリスターナ・ニストラムです。宜しくお願い致します」
「これからの予定については、ニストラム秘書官から確認して頂きたい」
「承知致しました」
大臣は自分の執務室に戻った。私とニストラム秘書官は執務室内に入った。レイテアは入口付近に待機している。私はニストラム秘書官に案内され、執務机の椅子に座った。
別の秘書官らしき女性がお茶を持って来たので、それを飲みながら、予定を確認した。
「本日のご予定ですが、この後、宰相閣下の所で着任の申告を行って頂きます。また、その後は精霊課長が来られて、庁舎内をご説明させて頂き、また、今後の業務に関する相談をさせて頂くことになっております。詳細は、そちらの紙をご覧下さい」
事前に頂いていた案内の通りだ。内容を了解すると
「では、15分後に、宰相閣下の所へ向かいます。私がご案内いたしますので、準備をお願いします」
そう言って、ニストラム秘書官は、一度下がった。申告の要領は事前に頂いているので問題ない。服装も……問題なし。宰相をされているのは、前セントラカレン公爵のタレスドルク・セントラカレン様だ。ヴェルドレイク様やライスエミナ様の祖父にあたる方でもある。
披露会などで挨拶をしたことはあるが、それ以外で話をしたことは無い。ただ、陛下の信任厚い宰相だと聞いているので、有能な方なのだろうと思う。お祖父様とも知り合いらしい。そのような事を考えていると、時間になったので、ニストラム秘書官の案内で、宰相府へと歩いて向かった。
宰相府庁舎は、宰相閣下をはじめ、宰相補佐官やその他の職員が勤務するほか、政府会議場がある。宰相閣下は3階の執務室にいるようだ。入口には護衛の他、秘書官らしき人がいた。ニストラム秘書官が話をすると、その秘書官が私を誘導し、宰相閣下へ私の入室を告げた。
「閣下、精霊導師様が参りました」
「入れ」
宰相閣下らしい声を聴き、私は入室し、机の前に移動した。宰相閣下は席を立つ。私は礼をした後
「魔法省付精霊導師フィリストリア・アルカドール、本日付で魔法省に着任致しました」
と言って再度礼をした。宰相閣下は答礼をして、私を横にあるソファへ座る様指示をする。私がソファに座ると、向かいに宰相閣下が座った。少し話をする様だ。
「導師殿、ロイドステア行政府へようこそ。我々一同、そなたを歓迎しよう」
「有難き幸せに存じます。陛下や国家のため、微力ながら尽くさせて頂きます。されど若輩者故、至らぬ点が多々ございますので、何卒ご指導ご鞭撻をお願い申し上げます」
宰相閣下は私を暫く見ると
「……ふむ、年の割に気構えもそこらの者より良い。……ここは政治の場ゆえ、年齢や性別は関係なく、国家の為に多忙な業務をこなし、また、様々な権謀術数に明け暮れておる。最初は懸念しておったのだが、そなたなら勤務できそうじゃ。それと、精霊導師に就任した者は、そなたで2人目、300年振り故、政府としても対応が不十分な面がある筈じゃ。迷惑を掛けるかもしれんが宜しく頼む。また、何か困ったことがあれば、儂の所に相談に来るように」
どうやら、私が若すぎるということで心配していたようだ。で、一応及第点は貰った、と。
「ご厚情、誠に有難く存じます。もしこの身で解決できぬことがございましたら、そのお言葉に甘えさせて頂きます」
「うむ……ところでグラスは変わりないか」
「祖父は、元気に過ごされておりますわ。お暇そうではありますが。宰相閣下にお会いしましたら、宜しくお伝えするよう、申しつかっております」
「そうか。奴は若い頃はこちらで儂らと色々やっておったからな。マーサグリア殿と一緒になって落ち着いたのじゃが……一時期は心配していたが……そなたが生まれたのも、良かったのじゃろう。昨年の披露会で久々に会って話をしたが……すっかり元気になりおって、そなたの自慢話ばかりしておったぞ」
「御心配頂き、祖父に代わり、感謝いたします」
その後も少し昔話を聞き、宰相閣下への申告は終了した。
私は執務室へ戻って来て、暫くすると昼食の時間になった。昼食は手持ち、食堂、食堂からの配達の3種類から選べる。今日は初日で勝手が解らないので、とりあえず配達をして貰い、執務室で頂いた。
レイテアは魔法省庁舎内の警備要領について、調整に行っている。レイテアの待機場所は、基本的には1階の衛兵詰所になるようだ。私が庁舎を出る際に秘書室から連絡が行くらしい。詰所には、簡単な鍛錬資材もあり、退屈はしないようだ。私も利用したいくらいだ。
また、週1回の授業の日についても調整すると言っていた。この辺りは、騎士学校からも話が通っているようで、その日は、出勤時から衛兵のうち1名が付くことになるらしい。迷惑をかけるかもしれないけれど、女性騎士がきちんと育つと国家としても利点が多くなるので、快く引き受けて欲しいものだ。
昼休みが終了し、午後になると、ノックがあり「どうぞ」と言うと
「失礼します」
と言って一人の男性が入って来て礼をした。恐らく案内に来た精霊課長だろう。答礼をすると、私の机の前までやって来て、再び礼をした。
「精霊課長殿でしょうか?」
「導師様、お初にお目にかかります。私は精霊課長を務めております、ライトマグス・フェンシクルです。以後宜しくお願いします」
「フィリストリア・アルカドールです。こちらこそ宜しくお願い致します」
「では、各課の案内をさせて頂きます。どうぞこちらへ」
私は、精霊課長に案内されて執務室を出た。念のため、ニストラム秘書官も同行するようだ。さて、どんな人達がいるのだろうか。
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