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第079話 誕生日と洗礼 2

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

洗礼が終わった。誕生日パーティーの後、私とお兄様、一部の使用人や護衛達は転移門で夜のうちに王都に戻ることになる。パーティーの準備をしつつ、今回貰ってしまった恩寵について考えてみた。


異空間収納は、使用者がイメージした仮想空間の中に、物体を保管できる。中の空間では基本的に時間や温度などは変化しないが、使用者が設定を変更し、魔力を供給することで変化させることができるそうだ。空間の大きさは、使用者の魔力量に比例するらしい。


一度作った空間を更に大きくすることはできないが、複数の空間を作ることは可能だそうだ。魔力量が大きくなったら適宜作り直していこうかな。収納できるのは、魂のないもの、つまり植物や虫、死んだ動物、微生物や無機物は可能の様だ。


魂を持つ、生きた動物は収納できないらしい。魂はないが、精霊も駄目らしい。この辺りは、魂を神様が管理していることや、精霊が精霊女王様の管理下にあることを踏まえると、異空間に収納すると管理下に無くなるから駄目、という話なのかもしれない。


異空間収納も、遠視と同様に1万人に1人くらいの割合で貰えるらしいけど、私の場合は、恣意的に選ばれた可能性がある。問題は、そこに何の意味があるか、だ。


そもそも、神様らしき声が聞こえた事も異例の話らしい。私が異世界からの転生者であることを考えると、やはり神様は私に何かをさせたいと考えている気がしてならない。神様が意図しなければ「私」という魂は、この世界に存在していないのだから。


ただ、仮に神様が何かをさせたがっているとして、現段階で明確に指示されていないわけだから、抽象的なものなのか、あるいは、時が来ていないか、どちらかなのだろう。そうであれば、今色々考えるのは、情報不足であり、無駄だろう。そう結論付け、この思考を打ち切った。




とりあえず、試しに異空間を作ってみるか。司教様から貰った説明書を見ながらやってみよう。えーと、空間をイメージ、と。可能な限り広く、広く……。よし、こんなところで。試しにこの石ころを、入れ……おおっ、消えた。


説明書によれば、異空間内の品は、リストアップされて脳内イメージされるらしい。えーと、空間を見るようなイメージを持て、と書いてあるな。やってみよう……。よしっ、リストが浮かんできた!今は石ころしか載ってないけど。後はこの脳内リストの品目を指定して、取り出す、と。


なるほど、先程収納した石ころが目の前に出て来た。もう一度、石ころを入れてみよう……リストに載った。では、取り出す時に、手を指定した上で石ころを出すと……おおっ、手の中に石ころが現れた。武器を取り出す時はこの方がいい。ということで、早速色々異空間に収納した。


空間の大きさが魔力量に比例するなら、私の異空間は相当大きい筈だ。何をやらされるか分かったものではないし、衣服、非常用の食料などを、多めに入れることにしよう。早めに買い集めるべきだろうな。棒や導師服は、使わない時は常に異空間にしまう習慣を付けておこう。




そのようなことをやっているうちに、誕生日パーティーの時間となった。クラリアが呼びに来たので、食堂に行く。家族全員がそろっており、私は家族に一礼して、席に着いた。


「では、フィリスの10才の誕生日を祝おう。フィリス、おめでとう」


「おめでとう!」


「有難うございます、お父様、お母様、お祖父様、お兄様」


それから、食事が始まった。おや?いつもは出ない魚が出ている。


「フィリス、気付いたか?実はプトラムから、氷魔法を使って保冷して、輸送してみたのだ」


そうか、氷魔法を利用した輸送も、形になりつつあるのか。


「では、プトラムとの行き来が、更に増えますね。あと、セイクル市にも魚料理店が作れますわね」


「うむ。その方向で話が進んでいる。今までは魚という資源を利用しきれていなかったが、今後はもっと発展するだろう。こちらのすり身蒸しも、魚への違和感を取り除く助けになるだろう」


本当だ、カマボコが肉に混ざって使われている。これまで肉主体だったセイクル市の人達も受け入れやすいかな。アルカドール領は今後人口が増加しそうだし、食べ物の種類は多いに越したことはない。


他にも、これまで領で行った様々な事について話しながら、食事をした。食事が終わり


「では、祝いの品を贈ろう。フィリス、私からはこれを」


「お父様、有難うございます。アルカドール家の名を汚さぬよう、今後も一層励みますわ」


お父様からは、アルカドール家の紋章が刻まれた短剣を頂いた。一族の者である、という身分証としても使える品だ。お兄様も確か10才の誕生日には頂いていたと記憶している。正式に戸籍登録される日でもあるわけだから、そういう意味でも相応しい、と言えるだろう。


「フィリス、私からはこれを贈ります。貴女は多分箱が幾つあっても足りないでしょうから」


「ふふ、お母様、知らないうちに増えていくので困っていた所ですのよ」


お母様からは、使い易そうな宝石箱を頂いた。最近、装飾品を贈られることが多くなったので、あると助かるのよね。しかも箱ごと異空間に収納すると、管理しやすいし、いつでも使えて便利だ。


「フィリス、儂からはこれを贈ろう。恐らく今後必要となるじゃろう」


「お祖父様、このような貴重な本を……有難うございます」


お祖父様からは「世界の地誌」という本を頂いた。これまでは精々ユートリア大陸内の話しか授業には出なかったのだが、今後はそれ以外の国の活動も増えそうだし、勉強させて貰おう。お祖母様も、職務で出かける際は、周辺の地誌を良く勉強していたという話だ。


「フィリス、私からはこれを……貰ってくれないか」


「お兄様、これは学校から表彰された記念章ではございませんの?このような名誉を私になど」


「いや、フィリスに貰って欲しいんだ。フィリスがいるから私は頑張れるのだから」


お兄様は、昨年度学年首席をとって表彰されたのだが、その時の記念章がこれだ。流石に申し訳ないと思って断ろうとしたが、手渡されてしまったので、受け取ることにした。


「分かりましたわ。お兄様の努力の証ですから、大切にさせて頂きます」


ささやかではあったが、いつもに増して家族の愛情を感じることができたパーティーは終わり、転移門で移動することになった。使用人や護衛達は移動準備を完了していたので、あとは私とお兄様が来れば出発できる。お父様達が見送りに来た。


「カイ、引き続き励めよ。フィリスは何かあれば、私達にも相談しなさい」


「二人とも、体に気をつけてね」


「年末には、元気に帰って来るんじゃぞ」


「行って参ります」


私達は転移門で移動し、王都のアルカドール侯爵邸に戻った。




手早く荷物を片付け、初出勤の準備をする。とは言っても、制服は準備しているし、精々筆記具くらいか。必要になりそうな本なども異空間に収納し、その日は就寝した。


今年も山の様に誕生日プレゼントが届いているのだが、今年から整理要員を臨時に雇っている。頂いた方と品のリストを作ってくれるのだ。あと、お礼の手紙も、基本的に整理要員にやって貰うことになった。多数の贈り物が届く場合は、失礼には当たらないそうだ。去年は腱鞘炎になりかけたから、そういう有難い仕組みは、利用させて貰おう。給金を貰っていると、こういう時にも役に立つな。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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