第078話 誕生日と洗礼 1
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今日は3月36日。月末の休日だ。
朝から私とお兄様は、転移門でアルカドール領の自宅に帰った。お父様達に挨拶した後に、私は茶会の手筈を確認する。今回は特に凝ったことは考えていない。テラスでいつもの4人と顔を合わせるだけだ。まあ、一応王都で流行っている茶葉と茶請けを準備したが。
準備は問題なかったので、一息ついていると、家令のハルワナードから、お父様が制服姿を見せて欲しいと仰っているので、着替えて談話室に来て頂きたい、と言われた。どうやらお兄様が言ったらしい。まあ持って来ていたので、着て談話室に行くと、お父様だけでなく、お母様とお祖父様もいて
「フィリス……本当に魔法省に勤めるのだなあ……」
「もうフィリスも、立派な淑女ですわ……」
「マーサを思い出すのう……」
と、全員涙ぐんでるんですが……まさかここまで反応があるとは……持って来て良かったよ。
その後は、そのまま茶を飲みながら、私の小さい頃の話やら、お祖母様が精霊課で勤務していた頃の話などを聞いた。私はお祖母様に似ているそうだから、お祖父様は、私の制服姿にはまた違った思いがあるようだ。
午後になり、一応王都で作ったドレスに着替え、皆を待つ。暫くすると、クラリアが呼びに来たのでテラスに行くと、そう時間は経っていない筈なのに、懐かしく感じられた。
「皆様とお話ししたくて、時間が取れましたので茶会を催させて頂きましたの。皆様もお忙しいでしょうに、お越し下さいまして、嬉しいですわ」
そう話し始めると
「いえ、フィリス様には実家共々大変お世話になっておりますし、当然ですわ」
「ええ、プトラムも、フィリス様のおかげで、活気が出て参りましたの」
「フィリス様にお会いできる事は、私達一同、本当に嬉しいことなのですよ」
「そうです!フィリス様はしこうぐっ、……フィリス様のおかげで忙しいけれど、充実していると父が申しておりました」
口々に感謝の言葉を私に伝えてくれた。一部微妙な所もあったが……。多分パティが突っ込んだな。
「いえ、皆様が少しでも領を良くしようと励んでいらっしゃるからですわ。そして、道はまだ始まったばかりです。これからも皆様が励んで下さることが、私の喜びでもありますわ」
やっぱり領民みんなが頑張ることに意味がある。そういう姿を見るのは、心地よい。その為には、私も努力を惜しまないつもりだ。せっかくの力だしね。
そんな感じで和やかに話をしつつ、私が王都を話題にして話していたところ
「やあ、フィリス。一度御令嬢方に挨拶させて貰っていいかな?」
と、お兄様が入って来た。まあ、特に問題は……なさそうだ。
「皆様申し訳ございません。兄が皆様とお話ししたいそうですの。宜しくて?」
……まあ、次期領主だし、断る者はここにはいない。皆さん了解したので、席を作る。
「楽しく歓談しているところ、申し訳なかったのだけれど、最近フィリスが領のために色々取り組んでいると聞いてね。私も次期領主として、貴女達に直接話を聞いておきたかったんだ」
どうやら王都にいる間に、領経営の勉強をするための参考にしたいようだ。なるほど。
その後、張り切ってドミナスの話をするルカや、少々控えつつも、照れながらプトラムについて話すセレナという、珍しいものを見ることが出来た。セイクル市周辺は、概ねお兄様や私も把握しているけれど、分領はなかなか判らないからね。お兄様は遠視の恩寵を持っているけど、人の心までは解らない。直接話して、初めて気づくこともある。私も、いつもとはまた違った話を聞くことが出来た。
「それでは皆様、お邪魔したね」
と言ってお兄様は去って行った。ルカがぽつりと
「あぁ、やはりカイダリード様は素敵ですわ」
と言った。ルカさん、心の声漏れてるよ。皆、敢えて聞いていないふりをした。
その後は和やかに茶会は進み、いい時間になったので、お開きにしようとしたら
「1日早いですが、フィリス様の誕生日のお祝いをさせて頂けませんか」
と、パティが言った。そして、皆さん準備していたらしいプレゼントを私にくれた。
あれ?もしかしてみんな結託してた?……ふふっ、嬉しいなあ。
「皆様、有難うございます。私は幸せ者ですわ」
と、感謝の言葉を伝えた。
プレゼントは、皆が帰ってから確認させて貰った。ルカのプレゼントは、水晶の猫の置物だ。これはドミナスの人が魔法で作ったのだろう。なるほど、ここまで上達したのか。
セレナのプレゼントは、貝殻のペンダント。確かこういう貝殻は、地球ではシェルと言って宝石扱いしていた筈。これも貴重かもしれない。
ネリスのプレゼントは、ペンとペン立て。こちらは特に何かとの関連性はないが、可愛らしい。
パティのプレゼントは……ハンカチだった。花の刺繍が施してある。恐らく自分で刺繍してくれたのだろう、有難う。でもこの花、確かアルフラミスよね……微妙に使いづらい。お守りにしよう。
早速お礼の手紙を書いて、その日は終了した。
今日は私の洗礼の日だ。思えば3年前の誕生日から、かなり私の環境は変化したけれど、それなりに楽しくやって来れたが……これからは政府の一員として、政治の枠組みに本格的に組み込まれる。そういう意味でも「洗礼」になるわけだ。さて、何が起こる事やら……。
家族全員で聖堂の本堂に向かう。司教様が待っていたので、私だけが前に出て、家族は後ろで待機する。
「フィリストリア・アルカドール。こちらに来て、祈りを捧げて下さい」
司教様の指示に従い、跪いて手を組み、目を閉じる。特に何かを念じろとは言われていないけれど、私はこちらの世界に転生させて貰っているわけだし、その感謝を込めてみよう。有難うございます……。
後ろで司教様の祝詞が聞こえ始めたが、気にせず感謝の念を込めてみた。すると
『見守っていますよ、頑張りなさい』
という声が響いた様に感じ、また、何か温かいものが入ったような気がした。
祝詞が終わり、司教様が
「無事洗礼は終了しました。立ち上がりなさい」
と言ったので、立ち上がった。次は鑑定だ。司教様は、紙が置いてある台に手を置いた。私は司教様の前に立つ。司教様は私の頭に左手をかざした。
「では、フィリストリア・アルカドールの鑑定を行います。神よ、この者の状態を教えたまえ」
司教様はお兄様の時と同様、鑑定を始めた。暫くすると、私から左手を除けて
「鑑定を終了します。こちらが鑑定結果になります。領主様。ご覧下さい」
と言って、署名した後お父様に紙を渡した。お父様が結果を確認する。
「名前、属性、出身、種族、はその通り。犯罪歴は当然なし。各種状態は健康。……女子にしては元気すぎる気もするが、宜しい。魔力量は……251130?……司教様、これは一体?」
どうやら数値が多すぎてお父様は困惑しているらしい……が、司教様の「間違いございません」という声に、諦めた表情で、次の項目を見始めた。
「特殊技能は……精霊視、精霊女王の加護、はその通り……何と、異空間収納の恩寵も賜ったというのか」
どうやら、先程の声と何か入った様な感じは……やはり神様の贈り物だった様だ。更に詰め込まれてしまった。それこそ異空間収納の様だよ……。
そういえば、精霊が見えると「精霊視」という技能になるのは知っていたけど、精霊女王の加護は、そのまま出るのね……とか考え、ふと気になったことをお父様に聞いてみた。
「お父様、ところでこの結果はどうなさるのでしょうか」
「フィリスは精霊視を持っているから、ひとまずステア政府が内容を確認する。その後は貴族名簿の資料として写しが取られた後、我が家に返還されて、先祖代々の結果を保管した箱に入れて大切に保管する」
へー、初めて聞いた。てっきり廃棄するものだと思ってたよ。
「下級貴族はその限りではないが、領主家や王族は、先祖を敬う意味を込めて、代々の洗礼時の鑑定結果を大切に保管しているのだ」
「なるほど、先祖を敬う、ですか。御先祖様やお父様の結果も、拝見させて頂きたいですわ」
「そうだな。そのうち見せよう」
そんなことを話しつつ、皆で家に帰った。
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