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第077話 ロイドステア国 王都騎士学校学生 テルフィ・ドロウズ視点

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

私は王都ステアシードのドロウズ商会の娘として生まれた。商会は野営用の品を取り扱っており、軍にも卸しているため、幼い頃から軍人達と接し、特に騎士団の人達には可愛がってもらい、色々話すうちに剣を教わり出し、剣術に興味を持った。


両親は、兄が家を継ぐので私には好きにさせてくれていたが、私が騎士学校に行きたいと言うと、難色を示した。女性騎士の大変さを知っていたからだ。何とか説得して入学し、必死に剣術に取り組み、基礎体力をつけ、基本の型を習得した。


また、収穫祭に合わせて毎年開かれている武術大会を、騎士学校の学生として見学させて貰えたのは嬉しかった。うちは取引相手達が出場しているので、毎回家族で観戦に行っていたが、間近での見学はやはり迫力が違い、感激したものだ。


そして、そこで私は、信じられないものを見た。武術大会には女性参加者は殆どいないし、いても予選を勝ち上がったことは、私が知っている限りはない。ところが、一人の女性が、準々決勝で優勝候補筆頭であった騎士団副団長を破り、準決勝に出場するという快挙を成し遂げたのだ!


あの試合は今でもよく覚えている。息もつかせぬ先取り合戦の中、女性が敢えて隙を見せて誘い、勝利したのだ。その女性、レイテア・メリークスは、その際の疲労が激しく、準決勝自体は棄権したので表彰はされなかったものの、私を含めて、多くの観衆の心に残った。


私は、女性でもあのように強くなれると思い、更に鍛錬に励み、2年の頃には自分の実力が上がったことが実感でき、嬉しかった。




しかし、3年目になって、次第に男子学生との力の差に悩まされるようになった。これまでは対戦しても勝てていた者に、力でねじ伏せられるようになってきたのだ。体力を上げても、男子学生はそれ以上に上げて来る。次第に劣等感を持つようになった。また、同期の女子学生にも退学者が出始めており、自分では無理なのだろうか、そんなことを考えていた4年目の春だった。


「ねえ、今度臨時教官で、あの、レイテア・メリークスが、来るらしいわよ!」


友人が、日直の仕事で教官室にいた時に、主任教官が話していたそうだ。何でも、彼女が護衛をしている精霊導師様が、今年から魔法省で働くことになるので、アルカドール領からこちらに移り住んでいるそうで、空き時間でいいから教官をやって欲しいと学校長達が頼みに行ったらしく、卒業生でもある彼女は快く引き受けてくれたそうだ。それが本当なら、彼女に是非教わりたい、と思った。


その後、担任教官から、彼女は週1・2回程度、全女子学生に対し、戦い方を教えてくれるという話を聞いて、全女子学生は歓喜に震えた。彼女に憧れて剣の道を志した者も多い。彼女ならば、私達をもっと強くしてくれるのではないか、そのような期待が私達にはあった。




そして、遂にレイテア・メリークスの授業の日がやって来た。私達は期待に身を震わせながら、彼女を待った。単純に彼女に会えることが嬉しい者もかなりいたが。


授業の時間となり、主任教官に連れられ、レイテア・メリークス、と、あと一人が入って来た。あの少女は、護衛対象の精霊導師様ではないの?私達はもう一人の美しい少女を訝しんだが、教官殿の少々緊張した初々しい声に、何だか親近感が湧いた。導師様は、挨拶をした後、後方の席に座った。


単に護衛が授業をするから遊びに来たのだろうか。そう思ったので、嫌味のつもりで質問したところ、意外な答えが返って来た。どうやら、私達の体づくりの手伝いをしてくれるらしい。一応遊びではないのね。


また、魔力循環を整えるためだそうだが、導師様が私の体のあちこちに手を触れた。魔法らしいが、確かに体が少し楽になった。その後、教官殿から、かなり厳しい柔軟体操を受けた。しかし、本当に体が軽くなったのだ。この状態を維持するための体操も導師様に教わった。本当に遊びではないのは解った。


その後、教官殿の、在校中の話や武術大会での話を聞いた。彼女も、私達と同様に悩んでいたことが解った。しかし、それを克服したから今の彼女がある。まずは体作り……今日教わった体操などにより、自分の身体が別人になったかの様に軽やかになったそうだ。次に、意識を変える。力で対抗するのではなく、相手が力を出す前に対処できるように剣を使うそうだ。……この辺りは、正直全く解らない。そして、反復演練。これはその通りだろう。


つまり私達は、何かしらの意識改革を行う必要があるらしいが、その方向性が解らないのだ。それが、今後の授業で見えて来るのだろうか?




2回目の授業だ。最初に、前回の様に魔力循環を整えた。何度かやれば、体操だけで維持できるそうだ。日頃の鍛錬の効率も上がるようなので、早くそうなって欲しい。


教官殿の言う戦い方が、やはり口だけでは理解できないので質問すると、実際にこうする、と教えてくれたのだが、やはり分かり辛い。すると、導師様が教官殿と実演するという。この人剣を扱えるの?


学生全員が驚く中、態勢の崩し合いというものが始まった。私は、その美しさに目を奪われた。それは、教官殿と騎士団副団長との試合を思い出させる、素晴らしい攻防だった。その技は洗練されていて、教官殿だけではなく、導師様も剣術の腕は非常に高いと理解できた。


実際、動作の説明をされ、2人一組でやってみても、とてもではないがあのような、相手の力を殺したりするような動きは出来ない。少しでもこのような剣捌きが出来る様になりたいと思った。また、私は自分の不心得を恥じ、導師様に謝罪したのだが、どうやら彼女は気にしていなかったようだ。しかし、彼女が教官殿より強い?……武術大会2連覇の人より強いって……流石に嘘でしょ。




それから、剣をいなして態勢を崩せるように、友人と練習してはいるのだが、意志と体が一致しない。3回目の授業を、悩みながら受けていると、教官殿が、皆を集めて、戸惑うところはないか、聞いて来た。多くの者は、私と同様の悩みを抱えている様だ。暫く教官殿は考え、何かを思いついた様だ。ん?諸手態勢崩し?確か子供の頃に似たようなのをやった気がするけど?


……やってみると、なかなか難しかった。特に、助手殿は、全然動かせない。私の方が背が高く、体重も重い筈なのに、いつも負けるのは私。ただ、私の態勢をすごく見ていて、崩せる所を崩す、自分は全く崩れない、という状態を保っているのは解った。案外こういう遊びも役に立つのだなあと感心した。


そういった体験があったからか、苦手に思っていた男子学生との打ち合いが、あまり怖くなくなってきた。一部の者はそうではないが、多くの者は力任せに剣を振るばかりで、何というか、無理に合わせる必要はないな、と感じたのだ。これが意識を変える、ということなのだろうか。




そんな中、4回目の授業があった。今回漸く私は魔力循環調整組から逃れられた。この魔力循環の維持、本当に体調が良くなっているのを実感する。噂だと、月のものも軽くなるようだ。助手殿様々としか言いようがない。


そして今回は、教官殿や助手殿と打ち合える機会を得たのだ。……とは言っても、教官殿には剣を出し切る前にいなされてそのまま剣を突きつけられて一瞬で負け、助手殿には斬りかかったらいつの間にか地面を転がっていた。


何というか、力を発揮できない感じや、いいように力を利用される感覚が理解できた。確かにこれなら、力の強い男性にも勝てるかもしれない。そしてこれは、女性の特性を生かす戦い方でもある、と教官殿が言っていた。短所と長所は表裏一体、要はそういうことなのだろう。


そして、教官殿達の教えが少しずつ身に付き出したのか、男子学生と対戦して、1本取る女子学生が少しずつ出始めたのだ。まだ偶然の域は出ていないかもしれないが、それでも大きな進歩だ。かくいう私も、いつもはすぐに負けていた男子学生に、なかなか負けなくなった。それどころか、たまに1本取れるようになってきた。


私達の変化は、男子学生としては面白くないようで、対戦の際に必要以上に乱暴になったり、悪口を言ったりと、嫌がらせをする者が出始めた。しかし、ここは騎士学校であり、そういう姑息な行為は学校の理念に反する。私達の訴えで表立っては少なくなったものの、一部の学生達は、嫌がらせをやめなかった。


遂に彼らは私達の貴重な授業を邪魔しに来たのだ。そこで教官殿達が対応していたのだが、何と、助手殿と彼ら10人とで練習試合を行うという話になった。いくら強いといっても、それは大丈夫なの?しかも一度に全員とだなんて……と不安に思っていたが、教官殿は全く心配していない。


それは護衛の態度としてはどうなのだろうと思いつつも、試合が始まったのだが……正直一方的な試合だった。確かにあの強さなら、誰も心配しないよ。しかも、相手が弱すぎて手本が見せられなかったって……久しぶりに胸のすく思いがした。


あと、助手殿が使っていた謎の攻撃にも非常に興味が湧いたので、聞いてみたところ、魔力操作の応用だが、魔力量が特に多い人にしか使えないらしい。私もあんな風に男子学生を吹き飛ばしてみたかった。




男子学生達は、助手殿との練習試合で懲りたのか、私達への嫌がらせをやめた。しかし、助手殿は魔法省での勤務が始まるそうで、最後の授業となった。まだ沢山教わりたいことがあるのに……。教官殿も、週2回でなく1回になってしまうし、非常に残念だが、それでも教官殿達が忙しい中来て下さっていたことは、幸せな事なのだろう。今後も頑張らねば。


授業が一通り流れた所で、教官殿が、助手殿が最後になるので教えて貰いたいことはあるか、と言った。時間も限られているので皆で相談したのだが、ラステルの


「ねえ、あの2人の試合、見たくない?」


という言葉で、満場一致で決定した。いつもは残念な子だけど、閃きは素晴らしいわ!


そして、全員の希望を伝えた所、2人は了承して下さった。試合場に行くと、他の組も練習試合などをやっていたのだが、教官殿と助手殿が試合をやると聞いて、物珍しそうに見に来た。恐らく、最初の私の様に、遊びか何かだと思っているのだろうが……2人を見ると、本気で戦うのは明らかだ。




試合が始まった。一瞬のうちに助手殿が間合いを詰め、背後を取りながら攻撃を続けるが、教官殿は全てを防いでいなし、逆に攻撃を仕掛けた。鋭い斬撃と刺突を、助手殿は躱しながらいなそうとするも、教官殿はそれを逆に返し、その隙に攻撃をする。息もつかせぬ攻防の中、教官殿の突きが入ったかと思った瞬間、見えなかったが恐らく柄で助手殿は剣を逸らし、そのまま体当たりで教官殿を転倒させ、剣を突き付け勝利した。


……私達の想像を遥かに超えた試合だった。恐らく、女性としては最高、いや、男性を入れても最高峰の戦いだったと思う。このような方達に私達は教わっていたのだと思うと、それだけで誇らしく感じる。

助手殿が教官殿を起こし、互いを讃え合うのを聞いて、試合があまりに素晴らしすぎてうっかり拍手を忘れていたことを思い出し、拍手すると、皆も拍手をしだした。


その日、助手殿達が帰る時は、誰が言うともなく全員が集まり、助手殿に別れの言葉を告げ、見送った。

思えば導師様は不思議な方だ。私より年下なのに、あれほどの剣の腕を持ち、しかも精霊導師だなんて。


最初はその外見で近寄り難さを感じていたが、話してみると貴族令嬢とは思えないほど気さくな方だった。今後は非常に忙しくなるようだが、たまにはこちらにも来てくれると嬉しいのだけれど。私ももっと強くなって、いつかはあのような戦いが出来る様になりたい。教官殿に教えて貰うことはまだ出来るのだし、この機会を生かして頑張ろう!


……あと、最近煩くなってきた


「お前らだけ導師様に教えて貰って狡いぞ~俺達もあんな強くて可愛い子に教わりたい~」


とか抜かしている男子学生共を、何とかする所から始めようか、うん。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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