第076話 レイテアとの試合
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宜しくお願いします。
今日はセイクル市に帰って来たが、特に喫緊の問題は無かったので、風精霊と感覚共有し、市内や周辺を確認してみた。
とりあえず、甜菜の畑を見に行くと、順調に育っているようだ。開墾も、今はまだ人が足りないから進んでいないが、人が増えれば進むだろう。先日精霊酒の貯蔵庫を作った所は、内装の工事が進んでいて半分くらいは出来上がっている。製造工場は取り掛かったばかりのようで、まだこれからだが、そのうち出来るだろう。市内の様子は、活気があるように見える。そばを出す店が増えた気もする。今度行ってみよう。
幾つか手紙が来ていた。先日出した茶会のお誘いの回答だが、問題なく全員参加だ。良かったよ。
パティの所にお礼を言いに行くと
「ネリスが手紙を貰って感激のあまり卒倒していたって、母が言ってたわよ」
『あの子も相変わらずですわね。悪い子ではないのですが』
「最近更に酷くなってるわ。傍から見ていると面白いのだけれど、貴女は反応に困るわよね」
『悪意ではないですし、突き放すわけにも行きませんから』
「正直、時間をかけて慣れていくしかないと思うわ」
『私もそう思いますわ。有難うございます』
王都に戻って来た。制服が届いたそうなので、試着してみる。確かに私の体に大体合わせてある。特に問題無さそうだ。暫くそのままでいると、お兄様が学校から戻って来たので、出迎えに行く。
「お兄様、お帰りなさい」
「フィリス、ただいま……それはステア政府の制服かい?制服は凛々しい感じで違った魅力があるね」
「お褒め頂き有難うございます。先ほど届きましたので試着しているのですわ」
「ということは、その姿を見たのは使用人達以外では、私が初めてだね。嬉しいよ」
「ふふ、そうなりますわね。お父様達にもお見せしておりませんのよ」
「では、今度帰る時には持って行かないと、後で拗ねるんじゃないかな?」
「そう致しますわ」
今度帰る時、とは、洗礼の時だ。その際、お兄様も学校に休みを申請して、一緒に行くことになっている。「家庭の事情」で通るのは流石貴族社会、とは思うが、私の場合、変なことに巻き込まれる可能性もあるし、家族として備えたいと言われれば、否とは言えないよね……。
その後は普通の部屋着に着替えて、併せて届いていたステア政府の内規や、当座の予定を記した文書を読んで過ごした。
今日は私が参加する最後の授業だ。流石に魔法省に勤務するようになると参加はできないし、学生達の魔力循環も良好なので、私がいなくても問題ない。いつものように、準備運動の後、諸手態勢崩しと態勢の崩し合いを行い、教官・助手との打ち合いを行った後、レイテアが言った。
「今日は助手が来る最終日だ。今のうちに何か教えて貰いたいという希望などはあるか?」
その言葉を聞いて、学生達は考え、周りと相談しだした。まとまったらしく、代表してテルフィが言った。
「教官殿と助手殿の試合が、見たいです!是非!」
うーむ、あまり衆人環視の中でやりたくないのだが……皆が期待の目で見てるし……やるか。
「……やりましょう。ではこちらへ」
私達は、先日も来た試合場のある施設にやって来た。他のクラスもいたが、1つ空いていたので、使用することにする。先日もいた教官がいたので、また審判をお願いする。この人暇なのだろうか。うちのクラスだけではなく、男子学生達も物珍しそうに見に来る。まあ、勝負には不要なので無視しよう。
「お嬢様、私は譲る気はありませんので。本気で行きますよ」
「私も負ける気はございませんわ」
と言っても、剣では今の所レイテアが有利だ。この場合、私の弱点である、重心がぶれる時に出来る隙を、レイテアが突くのをどうにかする以外に勝機は無いだろう。
「勝ち負けの規定は通常通りでお願いします。では、始め!」
受けに回れば勝ち目が薄くなる。私は開始の合図で一気に距離を詰め、斬りかかった。
「せいっ!」
レイテアはその動きを見て、躱しながら剣を合わせ、流すが、重心ごと移動している私はいなせない。
「これはどう!やぁっ」
私はそのまま背後を取りながら同様に斬りかかるが、目の良いレイテアはその全てに追いつき、いなして来る。何度か行うと、やはり重心がぶれた。そこをレイテアが見逃すはずもなく
「ここだ!」
私は少し態勢を崩される。ここでレイテアが攻めに入った。合わせた剣を、そのままの態勢から薙ぎに移した。私は躱しながら左へ流す。
「えやぁ!」
レイテアは剣をひねりながら切り返し、突きに入る。私は剣を引きながら左に逸れ、レイテアと正対する。更にレイテアは薙いでくるが、私は後ろに引いて躱す。ここでレイテアが間を詰めて斬りかかる。
「はあっ!」
私は躱しながら剣をいなそうとするが、それは見せ剣であったため、躱した先に軌道を変えて来た。私は更に躱す。レイテアは突きで追撃した。
「ていっ!」
私は大きく下がる。レイテアは追って来るが、ここで右に大きく離れ、間合いを切る。
間髪容れずにレイテアが斬りかかる。左に躱しながら剣筋を合わせ、態勢を流そうとするが、レイテアは剣をひねって返し、突きに入る。
「やっ!」
私は右に躱しながら剣をいなそうとするが、やはりレイテアは切り返して追って来る。ここで、私の重心がぶれた。
動きが止まった私に、レイテアの剣が迫った!
「せいゃ……えっ?」
私は左手を剣から離し、体を左にひねりながら、柄の部分でレイテアの突きを逸らし
「がっ…………くっ」
そのまま右肩でレイテアに当て身を入れ、転倒したレイテアに剣を突き付けた。
「しょ、勝者、導師様」
勝ち名乗りを受けるのもそこそこに、レイテアに手を差し伸べる。
「いたた……まだまだお嬢様には勝たせて貰えませんね。流石です」
「あの技は、賭けのようなものですから、実質的な勝者は貴女よ。私も更に励まないとね」
話しながら起こす。気付くと、周りで拍手の音が鳴り響いていた。学生達が私達の周りを囲む。
「教官殿も助手殿も、凄い試合でした!この試合が見られただけで幸せです!」
「相手の態勢を崩す様に戦うって、いなしたり切り返したり、あんなに凄いんですね!」
「男性の力と力がぶつかり合う剣も凄いですが、教官殿達の試合は、凄く美しかったです!」
口々に褒め称えられるが、全力を出した試合の後なので、清々しい。
このような形で、私の助手生活は、幕を閉じた。帰る時には、女子学生全員が見送ってくれた。中には泣いている子もいて、私に別れの言葉を言ってくれた。テルフィなどは
「今は導師様達には全く及びませんが、いつか導師様達のような戦いができるように、頑張ります」
と言っていた。楽しみにしているよ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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