第074話 男子学生達を指導した
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王都に戻ると、魔法省から連絡があった。内容は初出勤の際の予定などだった。初出勤の日は洗礼を受けた翌日である4月2日、前3時ということだから、地球の感覚なら9時半くらいか。そこで出迎えを受け、魔法大臣と話したり、省内の案内を受けるようだ。
魔法大臣は現在、マルグレスト・エルステッド伯爵だ。挨拶状の返信も届いていた。会えるのを楽しみにしていると書かれていたが、まあ会ってみないと何とも言えない。業務自体は、精霊課の業務の指導、実質は補助的なものが主体になるそうだ。精霊術士が沢山いるというのは初めての状況なので、良く判らないが、まあ流石にいじめられることはないだろう。
精霊課長の名前も書いてあるな。えーと、西公領出身のライトマグス・フェンシクル子爵だそうだ。課長職は子爵級らしい。
レイテアの立場についても書いてある。アルカドール家が雇った私の専属護衛としての立場には変更ないそうだ。ただ、魔法省など、ステア政府の敷地内への常時立入許可証を発行するので、携帯することになるらしい。
服装は制服が基本となるが、ドレスや導師服も業務内容に応じて着用が可能だそうだ。出来れば初出勤の日は制服を着て欲しいそうなので、事前にサイズを測らせて欲しいとのこと。こちらの予定を伝えて、来て貰うよう調整した。
今日は6回目の授業だ。漸く、魔力循環は全員正常になった。今後もたまに確認をする必要はあるだろうが、基本的には体操で維持できるだろう。時間も多くとれるようになった。諸手態勢崩しと態勢の崩し合い、教官・助手との打ち合いの後、再度態勢の崩し合いを行い、体操を行って終了した。
休憩の時に学生達に聞いたところ、何人かは男子学生と対戦した時に、10回行えば大抵は負けていたものが、1回、2回と勝てる様になっているようだ。また、この件は他の教官達も注目しているようで、男子学生達にも、いい刺激となれば良いのですが……と、帰りしなに主任教官が言っていた。
今日は魔法省から私の制服を作るために、サイズを測りに総務課の職員がやって来た。ついでにレイテアの許可証の書類を作るそうだ。とりあえず応接室で応対した。
「では、導師様は彼女達と。レイテアさんはこちらの書類に必要事項の記入をお願いします」
レイテアは男性職員から幾つかの書類を手渡され、記入を始めた。私は女性職員達やクラリアと、私の部屋に行き、そこで大まかなサイズを測り、幾つかあった制服を着て、一番合うものを私のサイズに仕立てることになった。
「導師様の身長は……170トーチ、と。では、この辺りの試着をお願いします」
1トーチは大体0.9センチ程だから、153センチ位か。領で開いていた茶会の時なども、私が一番背が高いとは思っていたけれど……前世の頃から考えても、10才頃の女児にしては大きいと思う。まあ、早く身長が伸び切ってくれれば、重心も安定するだろうから、有難いのよね……。続いて、細身の女性用の制服を試着してみる。
「うーん、導師様は足が長いですから、胴を短く、下半身を長めに直しますね。このくらいかしら。あと、導師様はまだ成長されると思われますので、多少緩めに……今着ている大きさで大丈夫だと思いますが、それで宜しいでしょうか」
「ええ、宜しくお願いしますわ」
今回測ったサイズで仕立て直した制服を10着程こちらに送って貰うことになった。私の制服はクラリアが管理することになる。
ステア政府の制服は、大臣以下が着用するが、基本的には男女のデザインはあまり変わらないが、体型の差が大きいので、男女の区分が出来ている。また、左胸に、所属する省の紋章が刺繍されている。私の場合は魔法省なので、円に十字手裏剣のような意匠だ。円は世界、十字は、4属性を表しているらしい。
その他、制服用の靴のサイズも選んだところで、職員から別の確認があった。
「導師様、あと、印章の図柄にお考えがございましたら、お伺いしたいのですが……」
私が精霊導師として発行する書類や手紙の封蝋などに使う印章は、アルカドール家とは違う物が必要だそうで、今のうちに作っておきたいそうだ。まあ、私以外に精霊導師になる人がいた場合を考えると、魔法省の紋章の上に、精霊女王の紋章を重ねた意匠が適切かな。精霊女王様には、一応使用許可は頂いているので、問題ないだろう。図柄を教えると、職員達は帰って行った。
その後も王都とアルカドール領の行き来は続いたが、王都での生活にも慣れて来たようだ。今日は授業の日だ。
授業を始める前に、主任教官から、あまり良くない話を聞いた。どうやら、一部の男子学生が、最近女子学生に楽に勝てなくなったので、嫌がらせをしているらしい。もし見つけた場合、そのような騎士の風上にも置けない輩は、性根を叩き直してやって欲しいと言われた。まあ、当然だ。
最初に念のため、魔力循環を見て、全員問題ないことを確認した。その後、準備運動をやって、諸手態勢崩しをやっていると、何故か外野から笑い声が聞こえる。
「女性達は気楽でいいな。授業で遊んでいるのだからな」
どうやら男子学生達が10人程、授業を見て笑っているようだ。とりあえずレイテアが話し掛ける。
「君達、授業はどうしたのだ」
「本日は自習の為、こちらで鍛錬しております。今は女子学生の授業を見学しております」
自習の組があることは聞いていたので、邪魔しなければ問題ないわけだが……少し話すか。
「あら、見学でなく、実際になされてみては?割と難しいですわよ?何でしたら、お相手致しますが」
「これは導師様、いえいえ、女性を押し倒すなど、騎士としてあるまじき行いですので」
「まあ、必ず勝てるかの如き仰りようは、いけませんわ。相手の力量は、ご確認なさいませ」
「魔法や精霊術であればともかく、剣で私どもが貴女に後れをとるなど、ありえませんな」
そう言って笑い出す男子学生達。所作を見る限り貴族子弟の様だが……普通にこいつら私より弱いな。目が曇っている様なので、懲らしめるか。
「あら、そうですの。是非お手合わせ願いたいですわね。教官、宜しいでしょうか?」
「皆集合!これから、助手とこちらの男子学生達が、練習試合をするそうだ。こちらへ」
そう言って、魔法の使用が出来ない試合場がある敷地に移動した。男子学生の一人が
「我々の剣技を披露するのです。見返りは何でしょうか?」
と言って来たので、適当に答えておく。
「私から1本でも取ることが出来ましたら、卒業後、騎士団への紹介状を書かせて頂きましょう」
何故か喜んでいる男子学生達。いや、勝ってから喜べよ。
空いている1面で試合をすることになった。審判は、たまたまいた教官の1人にお願いする。
「それでは誰が導師様のお相手を致しましょうか?」
「貴方達のような小物、全員一度に来て頂いて結構ですわ。時間の無駄ですもの」
そう煽ったところ、男子学生達は怒り狂い
「そこまで仰るのなら全員でお相手致しましょう!ただし全員の紹介状を書いて頂きたい!」
「貴方達誰か1人でも1本取れれば、そのように致しましょう?取れれば、の話ですが」
周りの女子学生達と審判の教官は青ざめているが、レイテアだけは笑っている。
「で、では、始め!」
「あら?どなたも来られませんの?初手を譲って頂けるということで宜しいでしょうか」
「初手位譲って差し上げますよ」
「そうです……かっ!」
近くの男子学生に身体強化で高速で接近し、発勁(仮)で場外に叩き出した。男子学生は気絶したようだ。
「なっ!ここでは魔法は使えない筈!あり得ない!」
「この試合場で10人は多すぎますわ……ねっ!」
次々に相手の死角を突いて接近し、発勁(仮)で場外に叩き出す。男子学生は残り4人になった。
「く、くそっ、連携して倒すぞ!だあぁーーっ」
前方から2名、左右から1名ずつが突きかかって来た。少し後ろに下がり、学生達が剣を戻すところで左側の学生に回り込んで近づいた。
「うりゃーっ!なっ……がっ」
薙ぎ払って来るがその軌道に剣を合わせ、払い上げたところで脇腹を打つ。その学生が蹲ったところ
「このーっ!」
横の学生が突いて来たので更に左に回る。左手の学生は私の動きについて来ていない。接近したところ
「わっ、っぐほっ」
慌てて剣を振って来たので普通に払って脇腹を打つと、蹲った。あと2人だ。一旦距離を取る。2名の学生は、示し合わせて一斉に斬りかかって来た……が、一人は払おうよ。二人とも上段だと
「だぁーーっ!えっ、がはぁっ!」
右側に寄せて受けつつ、回り込んで投げ、床に叩き付けた。もう一人は態勢を変え、斬りかかるが
「えやぁ?……ごぁっ!」
あっさりいなし、脇腹を打つと、蹲って気絶した。
「しょ……勝者、導師様!」
レイテアに男子学生の処置を頼んだところで、女子学生達に囲まれた。
「助手殿、本当に物凄く強かったです!感動しました!」
「あの男子学生達は、最近私達に意地悪ばかりしていたのです。いい気味です!」
皆が私を褒め称えてくれるのはいいのだが、私としてはかなり不満があった。
「折角の機会でしたのに……相手が弱すぎて、剣をいなす手本を殆どお見せできませんでしたわ」
手本を見せるつもりだったので、そのように言って謝ったのだが、皆が笑い出した。ここ笑う所?
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