第072話 授業と産業振興の日々 4
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王都に戻って来た。背後にいた風精霊に、導師服のサイズを変えてくれるように伝えると、その風精霊はどこかへ転移した。恐らく、精霊界に行ったのだろう。
その夜、お兄様と食事をとった後部屋に戻ると、以前見た、導師服を作った精霊達がいた。
『愛し子よ、服の調節に来たぞ』
導師服を渡し、サイズを測るため、私も裸になる。相手は精霊だが、やはり恥ずかしいものがある。
『ふむ、大きさは解った。あと、肌着も変えよう。それではきつかろう』
導師服を着る際は、付属の下着や靴下を付けている。でないと和合した時に大変なことになるからね。下着はどういう構造なのかはわからないが、かなり伸縮性に富んでいる。前世にあったスポーツ用インナーの様だ。それでも最近、きついと感じていたので有難い……が、断じて太ったわけではない。
サイズを測り終えたので、寝間着を着た。精霊達は、寝ている間に作業を行ってくれるらしい。
『では、愛し子が起きる頃には完成させておくよ』
「有難うございます。私は休ませて頂きますわ」
どうやら精霊達は、私が起きていると気が散るため、寝ていた方が有難いらしい。なので気にせず寝る。
次の朝起きると、枕元に導師服と下着が置いてあった。試しに着てみると、丁度良いサイズだった。やはりあの精霊達はいい仕事をする。有難う。
今日は朝夕にお兄様を送り迎えしつつ、日中は鍛錬や本を読んで過ごした。また、魔法省や他省の主要な役職の方達に挨拶状を書いた。やはり挨拶は重要だ。
また、私が王都に住み始めたことが広まって来たのか、手紙や贈り物、面会などが増えた。先日などは、国王陛下の名前で、結婚に関する調整状況に関する手紙が来ていた。自分の事なのに、恐れ多いとしか思えない。ただ、書いている内容を読む限り、私が他国に行くメリットを感じなかった。陛下の視点だとまた違うのかもしれないが……一応お父様にも聞いてみるか。機嫌が悪くなりそうだけど。
それと、気になることを聞いた。どうやら、先日の王太子と王太子妃の結婚のおかげで、ロイドステアとサウスエッドとの同盟が成立したらしい。このため、両国王都間で、転移門を設置しているそうだ。転移門の設置は、大司教以上の神職の方がいればできるそうだ。
ただし、神様からは、必要最小限の場所にのみ設置するように、と言われているらしい。何か最近気軽に使うのは悪い気がしたので確認したが、使用には魔力消費以外の制約はないそうだ。有難や有難や。
今日は5回目の授業だ。魔力循環の方は、33名が正常だった。後の7名も、そこまで異常ではなかったので、次あたりには、全員正常化するだろう。
今回は、前回の様に、諸手態勢崩しと態勢の崩し合い、教官・助手との打ち合いをやった。流石にすぐには強くなるわけではないが、次第にコツをつかみ始めた者もいるようだ。
「教官殿!実は先日、いつも勝てなかった男子学生から、1本とることが出来たのです!」
そうレイテアに話しているのは、ラステル・リグリットだ。火属性の12才で、なかなか活発そうな子だ。
「それは良かったな。どのようにやったか、説明して貰えないか」
どうもラステルは、考えるより先に体が動くタイプのようで、言葉では上手く説明できず、身振りと擬音で説明していた。正直、あまり意味が解らなかったが、レイテアは理解したようだ。
「なるほど、つまり、相手の剣の速度が乗る前の軌道にうまく合わせることが出来たので、楽にいなすことができ、相手に隙が出来たため、1本とることが出来たのだな」
「はい!そうなんです!いつもは剣をバシーンとされるか、良くてもグッとなってたんです。教官殿達の教えが、何かスカッと出来たんです!」
「そうだな。力で劣る我々が、力で対抗しても勝てるわけがない。力以外の我々の長所で対抗する、というのが基本的な考えだ。それを実際に体験できたようで、嬉しいよ」
「……ラステル・リグリット。折角そのような体験が出来たのですから、自分の中で理解を深め、できれば他者にきちんと説明できるようにした方が宜しいですよ。その方が、効率良く強くなることが出来ますわ」
私がそう言うと、周りで大きな笑いが起こった。
今日は、テトラーデ領ハトーク分領太守ノルディック・アイスロイズ子爵が訪ねて来ている。先日話した、真珠貝の養殖やテングサの件だ。
「本日はお忙しい中、お時間を頂き有難うございます」
「いえ、私の様な小娘の話を聞いて頂き、光栄ですわ」
「とんでもございません。導師様がご提案された内容は素晴らしいものでした。阿古屋貝の養殖は、少し工夫すれば出来るだろう、と、担当者が言っております。また、真珠の核を埋め込むことの可否ですが、手頃な大きさの阿古屋貝を獲って試してみました。そのままであれば、傷つけた貝を生かすのは難しかったのですが、魔法で治癒してしまえば、数日で元通りになることが解りました。あれならば、そこからまた数年育てれば、良い真珠が出来るでしょう。この事業が成功すれば、我が領は更に発展できます」
「そう、成功の目途は立ったのですね。後は皆さんの努力に掛かっておりますわ」
「はい、その通りです。私ども一同、この事業を成功させようと、頑張っているところです。あと、導師様が仰っていた天草ですが、こちらは、今の時期ではなかなかうまく乾燥出来ないようです」
「そうですわね、あれは冬に行うことが望ましい作業の筈ですので、それまでにやり方を検討しては如何でしょうか」
「そうさせて頂きます。ちなみに、どのように利用されるのでしょうか」
「天草からは、ある食材が作れるのですわ。水分に入れると、固体ではなく、海月のように弾力のある状態になり、不思議な食感の食べ物になるのですわ。恐らく、甘味などの材料に出来るでしょう。実は今、アルカドール領では、砂糖を製造する事業を考えていますの。これが成功すれば、甘味は身近な物になりますわ。その際は、是非そちらから入手したいと考えているのですよ」
「なるほど、そのような事業が計画されていたのですね。解りました、すぐに準備は出来ませんが、形になりましたら、再度報告させて頂きます」
「承知しました。あと、私から別の提案がございますわ。先日頂いた資料によると、ハトークでは白子鰻が獲れるそうですわね。あれを捕まえ、鰻を養殖しては如何でしょうか?」
「鰻ですか? あれは人気が無い魚ですよ? 基本的にあまり獲れませんが、他の魚が獲れなかった時などに仕方なく、煮凝りなどにして食しておりますね……」
「何と勿体ない。開きにして、甘辛な液状調味料をつけて焼いて頂くと非常に美味しいですよ。蒸しても宜しいですわ。特に、大麦を炊いたものと合わせて頂くと良い筈ですわ。試して頂いて、それでお気に召すならば、養殖も選択肢の一つ、程度にお考え下さい」
「なるほど。一度試してみます」
そのような話をして、アイスロイズ子爵は帰って行った。とりあえず真珠貝の養殖が何とかなるなら、いいことだ。うなぎ、気に入って貰えるかなぁ。
しかし、うなぎが食べられるなら、やはり米は欲しいな。どこかで原生種でいいから生えてないかな。そうすれば、品種改良してうるち米ともち米を作るのに。
あと、フグの話をしようと思ったが、今のところ、毒を何とかする手立てが思いつかないので、下手に試されても中毒死されたら困るので、言うのはやめた。今度ハトークに行くことがあれば、魔法で解毒ができないか、試してもいいかもしれない。また行ければいいな。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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