第071話 授業と産業振興の日々 3
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騎士学校での4回目の授業が始まった。最初に魔力循環の状況を確認すると、21名の者は循環が乱れていなかった。成果は出て来ていると言えるだろう。残りの19名も、最初と比べれば軽い状態なので、あと何回か見てやれば、通常の体操だけで、概ね循環が保てるようになるはずだ。
今回は、諸手態勢崩しと態勢の崩し合いをやった他、二手に分かれてレイテア又は私と、一人ずつ打ち合ってみることにした。まあ、やられてみて解るものもある、ということだ。
とは言っても、レイテアと打ち合った者は、大抵剣を出そうとして軽くいなされ、出来た隙に剣を突きつけられた。私と打ち合った者には、地面を転がってもらった。まあ、こういう経験も必要でしょう。組を交代し、全員と当たったところでレイテアは全員を集めた。
「どうだろうか、私や助手と打ち合って見て。何か掴めるものはあったか?」
「正直、お二人とも私達とは世界が違うと思いました。教官殿には、何をやっても通じそうにないと思いましたし、助手殿は……意味が解りませんでした。気が付いたらひっくり返っていました」
大体皆、同じ様な感想だったようだ。最初の一人の感想に、頷いている。
「ただ、力だけが全てではない、ということは分かりました。相手に力を出させないようにする、相手の力を利用する、という戦い方もできるのですね」
テルフィが言った。うん、そういうことを解ってくれるとこちらとしてもやりがいがある。
「その通りだ。そしてそういう戦い方は、実の所、男性より女性の方が向いている。女性の方が筋力が少ない分、柔軟性に秀でているからな。だから、柔軟性に優れたしなやかな体を作ることが、女性としての戦い方を極める第一歩になる。その上で、私達のやったような戦い方を目指すといい」
学生達は、大きな声で「はい!」と答えた。その日はもう一度諸手態勢崩しと体操を行った後、終了した。
さて、アルカドール領に帰って来た、ドミナス分領とは調整がついたようで、明日赴くことになった。ドミナス分領も、2時間程度で行くことが出来る筈だ。その夜は久しぶりに、パティの所に地精霊と感覚共有して会いに行った。
『パティ、調子はどう?私は結構忙しいのだけれど、楽しく過ごせているわ』
「あら、フィリス、帰っていたのね。私もそろそろ王都に行った時の準備をするよう言われているわ。特に作法はきちんとしておかないと、いじめられるかもしれないって」
『今でもパティは問題ないと思いますが……もし理不尽な目に遭ったなら、私も力になりますわ』
「ふふ、有難う。でも、下手にフィリスが動くと大事になるかもね」
『そうかもしれませんわね。でも、悩みが出来たらいつでも言って頂戴』
「その時はそうさせて貰うわ。ところでフィリス、最近街に大分活気が出て来た気がするわ」
ふむ、産業振興が徐々に進んでいるのだろう、良い事だ。その後はとりとめない話をした。
今日は導師服を着て、精霊に警戒して貰いながらドミナス分領に来た。導師服を着た段階で気づいたが、体が成長しているせいで、サイズが合わなくなった様だ。王都に戻ったら、サイズを調整して貰おう。
ドミナス分領の入口には、誰かがいた。恐らく出迎えだろう。近づくと、礼を受けた。
「出迎え御苦労様。私はフィリストリア・アルカドールです」
「私はデルフリード・オペラミナーと申します。ドミナス分領太守を任じられております」
ルカのお父さんだ。確かに面影がある。
「貴方がオペラミナー子爵ですね。ティルカニア嬢とは、日頃より仲良くさせて頂いております」
「娘がいつもお世話になっております。此の度は分領の為に知恵を出して頂き有難うございます」
馬車に乗ったが、流石に山道なので揺れがすごい。ただ、敷物が十分敷かれており、お尻が痛くなることは無く、暫くして作業場の様な所に着いた。
「作業場はこちらになります。……おいお前ら、お嬢様が来られた。くれぐれも失礼のない様に」
皆私の方を見ている。まあ、珍しいのだろう。案内されて、とある部屋に入った。
「お嬢様、この者達が火と地の魔法が得意な魔法士です」
何人かの火・地属性の人達がいた。確かに平民にしては魔力が高い。
「お前ら、お嬢様がお美しいからと言って呆けるな!……失礼しましたお嬢様、説明をお願いします」
「では、要領を説明します。まず、加工後のくずや珪砂などを耐熱性の器に入れ、最初は赤熱するまで火属性の力を活性化させます。その後、地属性の方が、あることを想像しながらその形になるよう念じると、一塊の水晶になります。その後、ゆっくりと火属性の力を鎮静化させれば完成です。この時、冷却前に何らかの造形にして、鎮静化すれば、その造形の水晶になります。以上ですわ」
「はあ。仰る事は解りましたが、それが出来るかどうか……」
「今から私が実演致しますわ。それで判断なさって下さいな」
そして、先程の説明通りにやって見せた。単なる水晶と、道中の家の庭にいた、犬のような形の水晶だ。
「おお、本当に水晶になっている!こちらは……犬に見える!こんなことが出来るなんて!」
「しかしこれは……我々に可能でしょうか……これは温度を保つのには相当な魔力が必要では?」
「そこは、複数の火属性の方で交代しながら活性化・鎮静化されては如何?」
「なるほど……それなら可能かもしれません」
「お嬢様、どのような事を想像すれば水晶になるのでしょうか。我々には見当がつきません」
「ええ、それを今からお教え致しますわ。これは氷魔法の応用なのです」
それから、加熱した石英を、とにかく塵より細かい粒がまとまって出来ているようにイメージして、更にそれを規則正しくらせんを積み上げるようにイメージしていくことを、予め準備していた絵を元に説明してみた。
「はー、そのような想像をするのですか。私どもでは慣れるまで時間がかかるかもしれません」
「慣れるまでは、少量で行えば、活性化の負担も減りますわ。あと、この絵を差し上げましょう」
「分かりました。何だか出来そうな気がしてきました」
それから、何度かやってみたが、流石に今日だけでは無理だった。しかし、資源の効率化や新しい細工の製造法は、努力をする価値は十分あると認識され、継続して練習することとなった。
「しかし、これが成功するなら、多くの火・地属性の魔法士が必要になりますな」
「火属性の魔法士は、鍛冶屋などでは重宝されるが、あまり働き口が無かったから、喜んで来るだろうさ」
「住む場所も増やさにゃならんな。当座は空き地に小屋を作ればいいが……」
行政官や作業場の職人達が色々検討を始めたようだ。今回やってみて分かったのが、私なら一人で苦も無くやれた所だが、普通の人なら火属性の人が何人か組んでやらないと、難しいということだった。大体地属性の人1人あたり火属性の人が3~4人必要だ。しかしながら、この事業が成功するなら、ドミナスは今よりも栄えるのではなかろうか。
「お嬢様、本日はあのような素晴らしい技を教えて下さり、誠に有難うございました」
「何か解らないことがあれば、また連絡して頂ければ、伺います。では、ごきげんよう」
オペラミナー子爵に見送られ、私はセイクル市に向かって移動した。
2時間ほどでセイクル市に到着し、家に帰りつき、お父様に状況を報告した後、休んだ。
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