第069話 授業と産業振興の日々 1
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
今日は騎士学校の2回目の授業だ。私は学生たちの魔力循環を見たが、やはりまだすぐには良い状態を保てない様だ。再び体育館で、1時間ほどかけて、魔力循環を整えた。
「教官、先日話された、剣をいなすことを中心とした剣術について伺いたいのですが」
質問したのはテルフィ・ドロウズという学生だ。見た感じでは、真面目で熱心な学生なのだろう。
「ああ、どのようなことだろうか」
「実は、男子学生との対戦で試してみたのですが、全く感じが掴めなくて」
それはそうだろう。口で言っただけで解るものではない。
「なるほど、丁度これから教えようと思っていた」
レイテアは、学生2人を前に来させて、木剣を構えさせて、相手をいなす動作を一つ一つ分解して説明したが、今一つ分かり辛かったようで、反応が鈍い。少し実演するか。
「教官、私と教官で、簡単に実演してみませんか」
私がそう言うと、学生達は、目をむいて驚いていた。
「なるほど、では、態勢の崩し合いをやってみましょう」
レイテアは私の意図をくみ取り、木剣を2本持って来た。学生たちが見守る中、態勢の崩し合いを見せた。レイテアが剣を出す時を見て、私が軌道を先読みして剣を合わせる。レイテアはいなされそうになるが態勢を戻す。その隙を突こうと私が剣を出す。今度はレイテアがその軌道を読んで剣を合わせていなそうとする。続けるうちに、次第に高速の動きになり、木剣が激しく打ち鳴らされる。これを数分間続け、間合いを切った。
「今、私と助手が何をやったか、判った者はいるか?」
「い、一見つばぜり合いの様でもありましたが、全く違うものでした。詳しくは判りません」
学生の一人が答えた。まあそんなものだろう。
「これは、最初に説明した、相手の剣をいなす動作を、お互いにやり合うものだ。特に、自分の態勢を崩さずにいなし、相手の隙を作ることが重要になる。細部を説明しよう」
そうしてレイテアは、先程の動作の一つ一つを分解し、その意図を説明していった。
「では、2人一組になって、先程私と助手がやったことを、ゆっくりでいいのでやってみよう」
学生達は、恐る恐る始めたが、私達の様に上手く出来るはずが無く、いなせなかったり、態勢を崩して転んだりした。暫く行い、疲れが見えたところでレイテアがやめるように言った。
「皆、やってみてどうだった?」
「正直、難しすぎて全く出来ませんでしたが、相手に力を出させない所に剣を出す意味は解りました」
ほう、そう言ってくれる学生がいたか。ああ、先程質問していたテルフィ・ドロウズか。
「今日の所はそれで十分だ。これなら相手がいれば出来ると思うので、空き時間にでもやって見てくれ」
「はい、やらせて頂きます!それと導師様」
「私は、今は助手の立場なので、助手で結構ですよ。何でしょうか」
「貴女の剣の腕を侮ってしまい、申し訳ありませんでした。遊びで来たものかと思っておりました」
そういえば、最初に精霊術云々を言ったのも、テルフィだった気がする。
「気にしないで結構ですよ。貴族令嬢は基本的に剣を嗜みませんもの。仕方ありませんわ」
「ちなみに、助手は剣なら私と同じくらい、棒を使うと私より強い」
いや、レイテア、そんなことドヤ顔で言わなくていいから!学生達が驚いているでしょ。
そのような感じで、最後に念入りに体操を行い、2回目の授業を終えた。
アルカドール領に戻った。今日はプトラム分領に行く日だ。ちなみに今回は護衛が付かない。残念ながら私の速度に誰も付いて来れないからね。その分精霊達にも警護を頼んでおいた。念のため、導師服を着てセイクル市を出発してから2時間ほどで、プトラム分領市街地に到着した。
プトラム分領市街地の入口で、誰かが私を待っていたようだ。近づくと、礼をされたので、名乗っておこう。
「出迎え御苦労様。私はフィリストリア・アルカドールです」
「私はクリフスター・アプトリウムと申します。プトラム分領太守を任じられております」
セレナのお父さんだね、了解。
「貴方がアプトリウム子爵ですね。マールセレナ嬢とは、日頃より仲良くさせて頂いております」
「娘がいつもお世話になっております」
そこから馬車に乗って移動した。馬車の中で、セレナを通じた話題で話しているうちに、どこかに到着し調理場のような所に入った。
「今回は、お嬢様から話のあった食材について、試食やご意見を頂きたいと思います」
給仕?が料理を運んできた。まずはかまぼこの様なものから食べてみよう。味は……美味しいが……
「何といいますか、美味しいのですが、形が不揃いですね」
「すり身が柔らかい為、蒸したり焼いたりしている間に変形してしまいまして……」
「では、小さい板にすり身を乗せたままで蒸しては如何?恐らく形も整いますわよ」
「なるほど!今度はその方法で試してみます」
次は……恐らくナマコだな。焼いたものの様だが……
「……生臭い気がしますわね。ぬめりの取り方が甘いか、塩を使って良く揉んでいないかもしれません。しかも一つ一つが大きいので食べづらいと思いますわ。出来れば小さく刻んで下さい。あと、焼くよりも、酢や柑橘類の果汁で和えた方が美味しいと思いますわよ?」
「な……なるほど、試してみます」
「それと、海鼠の腸については、塩漬けにすると良い酒の肴になると思いますので」
お父さんがナマコが好きで、良く食べていたなあ。そのせいでさばき方は良く覚えている。
「あ、あの……お嬢様、そのような知識は、一体どこから……?」
「あ、あら、最近色々な所に伺うものですから……どちらかの料理で見た気がするのですが」
いかん、ついついしゃべり過ぎてしまった。
「そ、それよりも、蟹や海胆などはどのような感じなのでしょう?」
「実は、そちらについてはご相談させて頂こうと思いまして」
どうやらカニやウニの調理法がピンと来なかったらしい。幾つか紹介しておこう。
「蟹は、茹でて良し、焼いて良し。甲羅の中の腸も、一部分は美味しいと思います。身を取り出す時に困る筈ですので、できれば身を掻き出せる細長い金属の棒を準備した方が良いでしょう。蟹は、変に味付けをせず、塩で頂く方が良いのではないでしょうか。甘くて美味しいですよ」
「は、はあ……」
「海胆ですと、生で頂いたり、麺類に和えたり、乾酪と一緒に頂くのも良いと思います。後は塩漬けなどでしょうか。酒の肴に宜しいかと」
「な……なるほど……」
このような感じで意見を出してみた。後は後日確認してみよう。
帰りも2時間ほどでセイクル市に帰って来た。特に問題も発生せず帰って来れて良かった。後はお父様達に子細を報告して、休んだ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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※ 乾酪=チーズ