第068話 石英の活用を検討した
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転移門でアルカドール領に戻った。今はプトラム分領の件で調整中だ。
「一度プトラム分領に行って、実際に見た方が良いかもしれませんね」
「お嬢様に見て貰えるなら、助かりますが、お時間は宜しいのでしょうか」
「馬車で行くのは難しいので、直接赴かせて頂けるなら大丈夫ですわ」
風精霊と両足を同化すれば、セイクル市から2時間程度で到着できる。今から行くと向こうが対応できないので、5日後に向かうことを決め、調整は終了した。
また、これまで特に関わっていなかったドミナス分領の産業で、何か役立てないか、資料を貰って帰った。
資料を見る限り、鉄などが採れる地域と、水晶などが採れる地域があって、それらを中心として産業が成り立っている。この様子だと、何かしら鉱山はありそうな気がするが、あまり地下資源を採り過ぎると、自然破壊につながる可能性がある。これは精霊導師としては許容できない。
……そういえば、私は氷魔法を使う時、分子の配列を変えているわけだが、これを水晶、というより石英でできないだろうか。ある程度加熱した上で、配列を整える、など。加熱と冷却を火魔法で行い、配列の変化や物体としての形の形成を地魔法で行うことができれば、私でなくとも火属性の人と地属性の人がいれば、可能なのではなかろうか。
資料を見た限り、ケイ砂なども採れていて、ケイ酸ガラスを作っていたりするが、それを石英の結晶である水晶に変えたりはしていない。また、水晶の加工は行っているが、主に研磨によるもので、魔法による成形などは行っていないようだ。試しにやってみるか。
庭に出て、まず地精霊と手を同化させ、地下からケイ砂をいくらか採って来た。これで試そう。念のため、土で容器を作り、陶器のように固め、同化を解く。この容器の中にケイ砂を入れた。ケイ砂を見てみたが、基本は地属性だけれども、火成岩だったからか、火属性も多く含んでいる。何も混ぜなくても周囲の火属性のエネルギーを吸収させて加熱できそうだ。
ケイ砂が加熱され、赤熱した状態になる。よし、ここで地魔法だ。まずは不純物を除く……除く……次は……水晶の構造は、確からせん構造だっけ?ぐるぐる回転するイメージだ。ぐーるぐーる……、よしこんな所か。火属性を鎮静化させよう。
……冷えたものを見たが、多分これは違う。水晶ではなく、恐らく石英ガラスだ。これはこれで役立つかもしれないが、できれば水晶を作りたい……。何度か試してみよう。
その後、構造を考えたり色々していたが、いずれも急速に鎮静化していたので、今度はゆっくり鎮静化してみると……できた!恐らく水晶だ!地精霊にも聞いたが、水晶であることは確認できた。
あとは鎮静化の前に、何らかの形成を試してみるか……。
完成したものを持って、お父様の執務室へ向かう。
「お父様、ドミナス分領の方でも、何か産業振興の手段はないか考えてみたのですが」
「ふむ、言ってみなさい」
「ドミナス分領の水晶鉱山地区なのですが、あそこは水晶の採掘、加工などを行っている他、珪砂を使って玻璃を作っており、王都や他領にも出荷しております」
「その通り。あそこは今でもそれなりに振興されてはいるな」
「恐らくドミナス分領は、資源開発をすればまだ多くの資源が眠っていると思われますが、徒に資源を開発すると、鉱毒の発生などにより自然を破壊します。これは精霊導師としては許容できません。ただ、現状開発されている資源をもっと効率的に活用したり、加工の技術を高めることは良いのでは、と考えました。こちらをご覧下さい」
「ん?こ、これは……水晶?そして……水仙の花の形をした水晶!どうやってこれを?」
「私が魔法で作成いたしました」
そして、私が試してみた結果をお父様に報告した。
「なるほど……それならばお前以外の者でも、火属性の者と地属性の者が協力すれば、今まで大量に廃棄していた石を活用でき、更に精緻な加工品も作れる可能性がある、ということか」
「魔法の習熟が大前提ですが、不可能ではないと考えますわ」
「分かった、ドミナス担当の者と話をさせよう」
こうして担当者とも話をして、ドミナス分領の方でも産業振興の切っ掛けを作ることが出来た。
王都の屋敷に戻り、レイテアと鍛錬をしていた……のだが、先ほど木剣でレイテアと対戦したら、負けてしまった。じきにこうなることは分かっていたが……正直悔しい気持ちはある。だが
「レイテア、ここまで良く上達しましたね。素晴らしいわ」
「い、いえ、お嬢様、これは偶然です。私ごときがお嬢様に勝つなど」
「そのようなことはありません。今の私には構造的な弱点があるのです。貴女はその弱点を的確に突けたから、勝てたのです。偶然ではありませんよ」
「構造的な弱点、とは?」
「端的に言うと、重心が不安定なのです。私は成長期ですから、日に日に体が変化します。このため、体で重心を覚えるのは難しいのです。また、特に剣を扱う時はそうですが、私はまだ体が小さいため、武器を持つと、どうしても重心の位置が変化します。そのため、重心が不安定になり、一定以上の速度で振り回されると、対応が間に合わず、隙が出来るのです」
「確かに、私が左右に振った時にお嬢様に隙が出来ました」
「ただ、この弱点は、体が成長しきってしまえば、鍛錬するうちに概ね解消できるのですが」
「なるほど、だから、今のお嬢様、というわけですね」
「ええ。ただし、こういった傾向は、武器を持って戦う者、全てに多かれ少なかれ見られるのです。その点レイテアは、昔は隙だらけでしたが、今は殆ど見られません」
「そ、そうでしょうか……」
「私が保証しますわ。あと、これは恐らく私が剣術に関して貴女に出来る最後の助言です。貴女は、既に態勢と重心のずれを隙として認識できる力があります。これなら、あの騎士団副団長にも通用しますわ」
「それはどういうことでしょうか」
「恐らく、次の武術大会では、彼は実力を数段上げて貴女と対戦することになるでしょう。貴女もご存知でしょうが、この国の剣術は、態勢と重心のずれなどは気にせず、力と速度で対応しています。仮に彼が重心を保つことが出来ていたとしても、それを敢えて崩しにかかる戦法をとれる者は、貴女以外にはいません。つまり、貴女の仮想敵がいないのでは、対応要領も習熟できない、ということです。数度崩した程度では難しいでしょうが、幾度も崩されると、体への負担が無視できなくなると思いますわ」
「なるほど、私は重心をずらすように態勢を崩し続け、疲労で出来た隙を突けば良い、ということですね!」
「その通りよ。ただし、長期戦になるのは否めませんし、あちらが短期決戦を仕掛けて来た場合などは、それに対応しなければなりませんが。では、次の対戦では、私は棒を使いますわ。棒だと、殆ど重心がずれないのよ」
「……お嬢様が棒を使われる理由は、そこにもあったのですね。道理で戦いにくいわけだ」
次の対戦は、私が勝った。しかし、レイテアは今後も更に強くなるだろう。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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