第066話 サウスエッド国 宮廷魔導師長 ウィルアスナ・ザルスアージ伯爵視点
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俺は死んだと思ったが、気が付くと、何故か幼児になっていた。最初は何が起こったのか、全く解らなかった。しかし、暫く様子を見ても状況は変化しない。夢ではなく現実なのだと思うより他はなかった。どうやら、いつぞや読んだ古文書に書いてあったが眉唾物だと思っていた「転生」という事象が本当に存在し、俺は違う存在に生まれ変わったのだ、ということは理解できた。しかも、今世では女になってやがる。どうすんだよ、と最初に思った。
今後の身の振り方を考えるため、前世の自分の事を思い返してみた。
俺の前世は、ある国に仕えていた魔導師だった。下級貴族の4男に生まれ、家督を継げるわけもないので、生きるために必死で魔法を学んだ。幸い俺は魔法の才能があったようで、魔法学校を優秀な成績で卒業し、軍の魔法士部隊で勤務することになった。そこでこき使われたものの、魔法の実力自体は上がり、遂には魔導師に認定されるまでになった。
こう考えると、順風満帆のような感じがするが、実際はあまり良いものではない。俺は貴族にしては見目が悪く、女性に言い寄っても相手にされず、さりとて縁談を勧めてくれる人も周りにいなかったので、婚姻が出来なかったのだ。あと、子供の頃から魔法の練習に明け暮れて、人付き合いが少なかったせいか、女性と話そうとしてもうまく話せず、気味悪がられたのも原因だろうか。
ということで、婚姻は諦め、魔法の実力を高めることに生き甲斐を見つけた俺は、魔法研究者として名を成し、最終的には魔法研究所長にもなったのだが、あまり体を鍛えていなかったからか、退官して地方に移り住んで暫くして、疫病であっけなく死んだ。誰も看病してくれず、苦しみながら孤独に死んでいった記憶は、正直思い出したくない。
前世での嫌な出来事は忘れ、俺は今世を楽しく生きようと決めた。
とりあえず現状を把握した。生まれた国は異なっていたが、俺は今世でも下級貴族の生まれで、3女という、金のある商家にでも嫁がせとけ、という立場であることは分かった。正直、男に抱かれることを想像するとおぞましい事この上ないので、婚姻後の生活に期待はできないだろう。
現世は、前世よりはましだが、普通の容姿だ。だが、1点だけ、俺は普通と違う所があった。風と水、2つの属性を持っていたのだ。俺は前世では風属性で、様々な風の魔法を使っていた。今世では更に、水の魔法まで使えるのだ。これを利用し、魔法で身を立てようと、決意した。
前世の自我が生まれたのは2才だったが、俺は親達の目を盗んでは魔法の練習をした。どうやら、幼い頃から魔法を使い続けると、魔力が飛躍的に大きくなるようで、洗礼を受ける頃には、この国における魔導師の資格を得るに足る能力を持つに至った。
魔法学校も無料で進学でき、首席で卒業した後はそのまま宮廷魔導師となった。縁談もあったが、魔法で生きると宣言し、自分より優れた魔導師に嫁ぐ、と言ったため、相手もいなくなった。20才の頃には、魔導師数人分の魔力を持つに至り、22才の若さで宮廷魔導師長になった。
サウスエッド国では、女性が爵位を持つこともできるため、法服伯爵に叙爵され、とりあえずは生活の心配は無くなった。しかし、魔法の研究は楽しいが、どこか満たされないものを感じていた。
それが分かったのは、酒に酔って女中に抱き着いた時だった。俺は、女性を求めていたのだ。ちなみにその女中は、色々やりすぎてしまったためか、辞めてしまったが、若気の至りだ。
不幸中の幸いか、女性としての外見を持ったことにより、女性に慣れていたので、うまく話せるようになっていた。男よりは警戒されなかったので、気に入った女性に近づき、友達から入り、何人かは深い仲になった。多少悪い噂が流れてしまったが、既に魔導師として名声を得ていた俺の悪い癖、ということで目を瞑って貰っていた。
そのような中、ある噂を聞いた。ロイドステア国には、全属性の少女がいる、と。最初は虚報だろうと思っていたが、ロイドステア国王に謁見した際に、黄金色に光る瞳を多くの人間が目撃したという話だったので、真実であるという可能性も残すことにした。しかもその少女、国王自身が「アルフラミスの蕾」と褒める程に美しい少女らしい。真偽はともかく、興味は湧いた。
その後、その少女が氷魔法を使用した、という話が伝わった。これも多くの目撃者がいるので、事実らしい。このことで、2つの事実が判明し、1つの仮定を行うことになった。
1つ目の事実は、彼女は全属性に間違いない、ということ。黄金色に見えるが実は地属性だった、という可能性が消えたからだ。
2つ目の事実は、彼女が稀有の魔法の才能を持つということ。俺も氷魔法を使えることになっているが、実際は風で冷やして水滴を凍らせ、雪の様に降らせるだけだ。しかし彼女は違う。本当に、水の塊を氷に変えて的に放ったそうだ。現状、それを成した者を俺は彼女の他に知らない。
そして、1つの仮定とは、彼女もまた、転生者ではないかということ。7才にして氷魔法を放つなど、才能という言葉では収まらない何かがある筈だ。しかも、俺自身を見るに、複数属性者は前世の記憶を持っている可能性がある。全属性者ならば、転生者であっても不思議ではない。
こうして俺は、フィリストリア・アルカドールと言う少女の事を本格的に調べ始めた。暫くして、ロイドステア国からサウスエッド国を含む主要国に通知された内容は、フィリストリア・アルカドールを精霊導師に任命した、というものだった。
8才の少女が精霊導師?伝説が本当であれば、魔法どころではなく自然を操ることすら可能な存在だ。最初の精霊導師によって建国されたロイドステアがそのことを知らない筈が無く、通知したからには本当に精霊女王の加護を得ていると思われる。そして彼女は、転生者で間違いないと確信した。
恐らく、ロイドステアは彼女を手放そうとはしないだろうと思いつつも、国内の高位貴族との縁談をロイドステアに持ち込ませるとともに、レイナルクリア王女を国外に嫁がせることを渋っている陛下に、ロイドステアの王太子に嫁がせるよう、進言した。今後はロイドステアとの関係は深めるべきだから、と。
ついでに、ロイドステアとの同盟も結んで、転移門を直接つないでしまえば、レイナルクリア王女ともすぐに会えます、と言ったら、その手があったか!と褒められた。うちの陛下は本当に親馬鹿だ。まあ、同盟の締結自体は、ウェルスーラの動きを牽制するために、進めようとしていたのだがな。
ということで、色々画策しつつ、陛下達の護衛も兼ねて、ロイドステアにやって来た。移動には一度クェイトアミ山に向かい、そこからロイドステア国の大聖堂に転移したのだ。俺でも一人での転移は1日1回しかできないし、その上今回は多くの人間を運ぶのだ。故に、クェイトアミ山に隣接していることを利用し、多くの者の魔力を使用し、転移したのだ。まあ、直接転移門を結べれば、格段に便利になるのだが。
こうして婚姻式も終了し、祝宴に参加したのだが、そこで俺は、瞬間、我を忘れた。
整い過ぎて現実離れした容姿、銀を溶かし込んだかのような艶やかな長い髪、初雪の様に穢れ無き白い肌、春に咲く花のような可愛らしい唇、そして、朝露に煌めく陽の光のような黄金色の瞳。
フィリストリア・アルカドールだ。今日は盛装でなく、精霊導師用の服で参加させたと聞いたが、あれで着飾った時には、間違いなく本日の主役であるレイナルクリア王太子妃より目立つ。王太子妃も十分美しいが、比べる相手が悪すぎる。全くもって賢明な判断だろう。それでもうちの陛下など、彼女が挨拶をした時に、見惚れて反応ができず、横から王妃に尻をつねられていたからな。
その上、彼女の価値はその美しさだけではない。あの小さな体でどうやってあのような強大な魔力を制御しているのか。見た限り、俺の魔力量の4~5倍はあると思われる。あれが、精霊導師か。
そして彼女は、転生者だ。俺はこれまで自分の前世の事を誰かに話したことは無かった。しかし、彼女であれば、この境遇を分かち合える。俺は、たまらなく彼女が欲しくなった。
何とか話せる隙を見つけ、話し掛けたが、俺は警戒されていたようで、前世の件もはぐらかされて逃げられてしまった。これでも、女性を捕まえる手管は上達したのだがな。
いずれにしても、彼女にもっと近づきたい。もっと、話をしたい。これからも、機会を作って会いに行こう。
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