第065話 サウスエッド国の転生者
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さて、知り合いと言っても、精々親戚筋くらいだが……。おっと、礼をしよう。
「フィリストリア嬢、元気そうだな」
「オスクダリウス殿下、お久しぶりです。殿下もお元気そうで、何よりでございます」
フラフラ見て回っていると、オスクダリウス殿下に話し掛けられた。また文句でも言うのだろうか?
「フィリストリア嬢、昨年俺は失礼なことを言ってしまった」
あれ?何故か謝罪されている?
「あの後兄上に諭されたのだ。家臣である以上、言えぬものは言えぬと。貴女の立場を考えない発言だった」
「いえ、私などに勿体なきお言葉です。承りましたわ」
何か怪しげな雰囲気になってきた。変に絡まれる前に、切り上げて立ち去ろう。
「有難う、では俺はこれで」
何とか立ち去ってくれた。よし、気を取り直して……あれ?誰か挨拶して来た。確か……
「これはトワイスノウ伯爵、何用でしょうか」
「導師殿、実はお礼を申したく、ご挨拶に参りました」
「礼、とは?」
「一昨年、我が領で発生した疫病の件でございます。その節はご助力頂き、誠に有難うございました」
ああ、あの件か。一応秘密にしていたけど、今更だよね。
「いえ、疫病であれば一蓮托生ですので。被害の拡大を防止出来たようで、宜しゅうございました」
「いやいや、貴女様でなければ、我が領はもとより、周辺領にも多大なご迷惑を掛けていた所です。大量の生木、しかも雪が積もる中、一夜にして森を灰にするなどという、魔法を超えた御業をもって、早期に汚染源を浄化できなければ成し得なかったでしょう」
いや、そんな人がやったことをベラベラしゃべらなくていいから。
とにかく、私を色々褒めていたトワイスノウ伯爵は、ひとしきり喋ると、もう一度礼を言って去った。もう誰も話し掛けてこないよな?さっさと叔父様達に挨拶してこよう……ん、また誰かが来て礼をした……この人は!
「お初にお目にかかります。フィリストリア・アルカドールです。貴女は、サウスエッド国宮廷魔導師長殿でしょうか」
うーむ、ここでこの人が来るか。祝宴の席だから、相手をせざるをえない。
「精霊導師殿、お初にお目にかかります。私はサウスエッド国宮廷魔導師長を務めております、ウィルアスナ・ザルスアージ伯爵です」
そう、右の瞳が緑色、左の瞳が青色のオッドアイ。一目瞭然で複数属性者と分かる。さて、どうするかな。
「私に何か御用でしょうか?」
「貴女の様な美しい花を愛でることに理由が必要でしょうか?」
いきなり口説きだした!この人女の人だよね?
「……あら、貴女は殿方のようなことを仰りますのね」
「それはもう、元は男ですので」
は?性転換?い、いや待て、まさか……?
「……あ、あら、私、何か空耳が聞こえたようですわ」
「いえいえ、私は今世では女ですが、前世は男だったのですよ」
そういうことね。とりあえず意味が解らない体でやり過ごそう。
「……な、何を仰っているのか、私、理解できないのですが……」
「貴女も転生者なのでしょう?転生者同士、仲良くやりましょう」
「……も、申し訳ございません、私、少々気分が悪くなりましたの、風に当たってまいります」
「あら、それは大変、ではこちらへ」
手を取られそうなところだったが、その程度なら普通に躱せる。
「ご迷惑をかけては申し訳ございませんわ。では失礼致します」
とりあえず逃げた。いかん、最初に動揺してしまったのが敗因だ。しかしどんな人間かは概ね理解した。
その後、お父様達と叔父様達が話し合っている所を見つけ、合流した。
「フィリス、やっと会えた。探していたんだよ」
「良かったですわ、私もお父様達を探しておりましたのよ」
その後、両叔父様・叔母様にも挨拶して、世間話などをした。ついでに、ハトーク分領の件で、お母様やマーク叔父様と話をした。明日、うちに来るそうだ。
祝宴は、無事に終了した。帰りの馬車の中で、お父様やお母様に、宮廷魔導師長の話をした。
「うーむ、そのようなことがあったのか。大変だったな」
「でも、その様子ですと、今後も接触して来る可能性は高いでしょうね」
だろうね……何か気持ち悪い。性別うんぬんより態度が。
「気を付けます。あと、彼女?についての情報がもっと欲しいところですわ」
「そうだな、少々知人に当たってみる」
そのようなことを話しているうち、馬車は侯爵邸に到着した。私はすぐ寝た。
次の日、午前中はお兄様を見送った後、レイテア達と鍛錬をして過ごした。午後には、マーク叔父様達がやって来たので、お父様やお母様と談話室で話す。
「海老や烏賊の姿焼や汁物など、今では我が領の名物になった。フィリスのおかげだ」
「いえ、それは漁師や料理人、そして海のおかげですわ」
「なるほど、我々は自然に感謝しなければね。それでフィリス、姉さんの手紙にあった内容だが」
私は叔父様、叔母様と、行政官の方に、真珠貝の養殖やテングサの話、あと、そちらの情報をもっと頂ければ、何か面白いことができるかもしれないことを伝えた。
「真珠を作る貝を養殖するのですか!それが出来れば良い産業振興になります。阿古屋貝ですか……確かにそのような貝は棲息していた筈ですが、養殖が可能であるかはやってみなければ判りません」
「なにぶん生物が相手ですので難しいとは思います。卵の状態から、数年かけて育てて、真珠の核となる小さい球を、貝の身を切って埋め込むのです。その傷を癒し、更に数年育てると、貝は球に少しずつ保護液のようなものを付け、最終的に真珠ができるのです。卵から育てるのは、牡蠣の経験が生かせると思いますが、球を埋め込むのは難しいと思われます。できれば、魔法で傷を癒すと良いかもしれません」
「貝の傷を魔法で癒す、ですか?」
「恐らく水属性の方なら癒せると思いますので。傷が元で死なれるよりは良いと思いますよ」
「なるほど、解りました。養殖担当者と相談してみます」
その他、テングサの話などをして、叔父様達は帰って行った。あと、ハトークの生態系や産業の資料も持って来てくれたので、確認してみよう。
へー、ハトークも鰹節を作ってるのか。そばのつゆは今の所魚醤を使うからいらないけど、何かに使えるかもね、覚えておこう。おっ、フグがいる。毒が何とかできればいいんだけど。よく見ればシラスウナギもいるよ。まあ、成体の方は獲るなら淡水だろうけど……稚魚が獲れるなら、養殖が可能かも?
そのような事を考えながら、資料を読み漁っていった。
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