第063話 新年に併せた、戦勝と就任祝い
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私が意見を出した案が形になりつつあるようだ。とりあえず、ウイスキーの製造については、もろみを蒸留できたそうなので現場に行ってみる。通常であれば何年も寝かさなければならない。それは説明済みで、既に蒸留した液を樽に詰めて地下の倉庫に運んである。この樽も、オークのような木を使って準備して貰った。内側を軽く焦がすといい感じで熟成する筈だったので、そちらもやって貰った。
味については、私は子供なので確かめられないが、聞いた限りではアルコールの度が強いだけであまり美味しくなかった様だ。ということで、樽の1つを何年か熟成させた状態にできないか、実験をしようと思い、こちらに来たのだ。恐らくだが、植物を成長させることが出来るなら、熟成も可能だろう。
「では、何年か熟成させた状態を作ってみます」
職員にそう説明し、地と水の精霊と同化し、熟成を始めた。どの程度熟成すれは良いか判らないので、10分ずつ熟成させ、その都度味見をしてもらうと、6度目くらいで、多くの職員から
「味わいが出て来て、美味しいですね」
という反応があった。やはり時間をかけて熟成させると、美味しくなるようだ。サンプルとして水筒に入れて貰い、家に持って帰ってお父様達にも試飲してもらった。
「ほう、これがういすきーという酒か。確かにこれまでの酒とはまるで違い、芳醇な香りがする」
「でも、これは私には強すぎるわね。良い嗜み方はあるのかしら」
「これはそのまま頂くほか、水や茶、果汁などと混ぜる方法もございます。氷を入れても良いですよ」
と言って、氷を作って入れてみる。
「なるほど。儂は氷を入れた方が好きじゃのう」
と、概ね好評であった。実際に熟成させて飲めるようになるのは数年後だろうが、サンプル程度なら作れるので、この世界に合った飲み方を研究して貰おう。樽によっても味が変わる様だし、そちらも色々試しながら作ることになるだろう。後は説明に困らない名前を考えて貰おうかな。
じゃがいも料理やそばについては、商工組合の方に任せている。じゃがいも料理は、徐々に料理店や一般家庭にも広まっている所だ。特にコロッケは好評だ。そばについては、麺はなんとか作ることが出来たようで、ねぎや山葵などはロイドステアにも存在したので準備することは出来たものの、つゆがないので、難航しているようだ。
醤油があれば何とかなったかもしれないが……鰹節や昆布出汁はあるそうなので、かけそばならできるかも?後はこちらの世界のもので何とかできるよう、気長にやるか。
新年となった。例年、新年のお祭りが行われているが、今年については、昨年出来なかった戦勝祝いと私の精霊導師就任祝いを兼ねてやるので、かなり大掛かりに行う。祝典、セイクル市中のパレードや、祝宴などが行われる予定だ。まあ、仕方がない。お兄様も帰ってきているので、祝宴には参加予定だ。
祝典ではお父様の演説があり、私も話をする場面があった。その後、お父様やお母様と一緒に屋根のない馬車に乗って大通りを通った。流石に恥ずかしいものがあったが、なんとか堪えた。それに、あそこで戦ったからこそ、領民達とこのように騒ぐことができるのだと思うと、感慨深いものがあった。
祝宴については、市の主要な役職の人達やその子女が参加した。最初にお父様の話があった。
「皆と新年を祝えることを、領主として嬉しく思う。また、戦いの死者を悼むため、昨年祝うことは無かったが、今年、改めて祝いたいと思う。我が娘、フィリストリアが精霊女王の加護を得て、精霊導師となったのだ。領軍の尽力、そしてフィリストリアの力あってこそ、戦場が拡大することなく、我が国の勝利で戦争を終結させることができたのだ」
大きな拍手とともに、お父様は私を壇上に上げる。
「フィリストリア・アルカドールです。此の度、精霊女王の加護を賜り、精霊導師という重責ある立場と相成りました。今後もロイドステア王家及び国民の為、そしてアルカドール領民の為に、平和を守る礎となることを誓いましょう」
今一度大きな拍手が起こり、祝宴が始まった。
多くの方からの挨拶も終わり、一息ついた私の元に、お兄様がやって来た。
「お疲れ様。やはり久しぶりの故郷はいいものだね」
「そうですわね。でも、私も王都に住むことになりますので、仰って頂ければ、いつでもお送りしますよ」
「その時はお願いするよ。でも、私としてはフィリスと一緒の王都生活も嬉しいのだけどね」
「まあ、お兄様ったら、お上手ね」
「本心だよ。ところで、見慣れない料理がいくつかあるけど、フィリスが考案したと聞いたよ」
「私は知っていたことを皆に伝えただけ。実用化したのは皆様ですわ」
「それでも、フィリスがいなければここには存在しなかったからね。私はこの、芋の油揚が気に入ったよ」
お兄様は、新しい料理をいろいろ試したようだが、特にコロッケがお気に入りらしい。コロッケはこの祝宴の中でも人気のメニューだ。あと、今回は、ウイスキーも出している。ストレート、ロック、水割りなどを準備したが、もの珍しいこともあり、ビールより人気だ。ちなみに
「おお、これが精霊酒か」
「噂では、寿命が延びるとも言われているようですよ」
などと囁かれている。ウイスキーは、私が精霊から作り方を教わったということで「精霊酒」という名前になった。まあ、私の名前などを付けられるよりいいか。
さて、私も何か食べようと料理の並んだ所へ行こうとした所に、商工組合長がやって来た。
「あら、組合長。如何されましたか」
「お嬢様、一つこちらを試されませんか?」
と、商工組合の人が二つの皿の乗ったトレーを持ってきた……そ、それは!
「これは……そばではありませんか!」
「偶然の産物なのですが、汁を作ることが出来ましたので、お持ちしました」
一口サイズにまとめられて皿に乗ったもりそばだ。流石にこちらの世界ですする音を出すのは宜しくないので、この様にしている。箸もないので、フォークを使う。
「で、では、お言葉に甘えて、頂きます」
かなり緊張しながら、フォークでそばを掬ってつゆに付け、口に運ぶ……美味しい!
「ああ、このようなものを待ち望んでおりましたのよ!」
今度は添えてあったわさびと刻んだねぎをつゆに入れ、そばをつけて食べる。
「この風味が素晴らしいですわ!」
賞賛しながらそばを食べた。気が付くと、涙ぐんでしまっていた。
「そこまで喜んでいただけるとは。お出しした甲斐があったというものです」
「御馳走様でした。しかし、どのように汁をお作りになられたのでしょうか?」
「実は、ある処理をした魚醤を使いました」
話を聞くと、魚醤が使えないかと思ってプトラム領から取り寄せて試したが、生臭い上に塩分が多くてそばの風味が飛んでしまったらしい。私もそれで候補から外していたのだが、ある野草を入れて加熱すると、その臭みが殆ど消えたらしい。その野草は薬草の原料にもなり、普通に手に入るものだが、偶然魚醤に混入して、それを加熱したのだそうだ。
その後、薄めたり昆布を通したりして、つゆに使ってみた所、良い出来になったので、今回の祝宴に持って来た、ということだった。本当に嬉しい!
こうして、嬉しいサプライズもあり、祝宴は盛況のうちに終了した。
なお、そばについては、私が「そば」と言ったから、こちらの世界でも「そば」という名前になってしまった。由来を聞かれたら、精霊から聞いたことにしておこう。
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