第062話 食生活を豊かにしよう
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冬になったが、今年は割と頻繁に外に出ていた。というのは、例のプロジェクト絡みで、領行政舎や商工組合に行くことが多かったからだ。冬用の馬車は、下の部分が車輪ではなくそりになっていたり、馬がかんじきのようなものを履いたりして、結構変わっている。徒歩で出勤する人達は、雪にまみれながらだから、さぞかし大変だろう。
今日はじゃがいもの調理法についての会合があり、商工組合の方に出向いた。
さしあたって、ポトフやシチュー、グラタンのような料理の具に使って違和感を取り除いたり、蒸かしてバターを付けて食べて貰ったりしていたのだが、今回は、すりつぶしてマッシュポテトにして、サラダに添えたり、挽肉などを加えてコロッケを作ってみたり、牛乳と混ぜてポタージュを作ったりした。
「馬鈴薯も、工夫次第で食材になるのですね。意外と美味しいです」
「それは良かったですわ。他にも、馬鈴薯をすりつぶして目の細かい布で包み、汁を絞って乾かすと、料理の具材として、とろみを出すのに使えたりしますし、馬鈴薯で酒を造ったりも出来ますが、そこはおいおい検討してみて下さいな」
「承知致しました」
じゃがいもはアルカドール領の風土には合っているし、どんどん利用して貰おう。
また、ある時、お母様に呼ばれて、談話室に向かった所、お母様だけでなくお父様もいた。
「フィリス、3年前にテトラーデに行ったことがあったでしょう?その時、貴女が海老や烏賊に興味を持っていたので、ものは試しと売り出してみたら好評で、ハトークの観光客にも人気だという話が手紙に書いてあったのよ。今も色々調理法を研究している所だそうよ」
「あら、それは良かったではございませんか」
「それでね、プトラム分領の方でも何かできないかと思ったのよ」
それは私も考えていた。やはり元日本人としては、魚介類が食卓に上がらないのは、寂しいのだ。
「そうですね。私としても、美味しい魚介類が食せるのなら、努力は惜しみませんわ」
「そうか。色々頼んでしまうが、プトラムの方も、調べてくれないか?」
「承りましたわ。あと、魚介類の話であれば、一つ提案がございます」
「何だ?」
「水属性の方のうち、一定以上の魔法の素養のある方に、氷魔法の習得を奨励して欲しいのです」
やっぱりこれは必要だろう。現在、魚介類の運送は、ごく少数の異空間収納の恩寵を持つ人達が行っているが、運べる量はごく少数だ。その上、市場で売る時以降は外にあるわけだから、傷みやすい。氷魔法が普及していれば、異空間収納が無くてもそれなりに遠くに運べるし、更に言うなら、寄生虫対策もできるので、いずれは刺身や寿司も食べられるかもしれない。
その他にも、お菓子作りに使えるしね。魔道具は希少なので、氷魔法を普及するのが今の所は良いのではないかと思ったのだ。
「ふむ。輸送の観点からは確かに必要だな。お前のおかげで我が領は氷魔法を使用できる者が増えたが、更に習得を奨励しよう。コルドリップ行政官に習得の要領を広めさせよう」
「有難うございます」
その後、プトラム分領の生態系に関する資料を領行政舎から持って来て貰い、水精霊にも話を聞きつつ検討することになった。こちらも幾つか案が出せそうなので、お父様とお母様に聞いて貰うことにした。
「先日のお話ですが、産業振興の一助になりそうなものを幾つか考えてみました」
「聞かせてくれ」
「まず、獲れる生物のうち、現在食用とされていないものは、海老や烏賊の他では、蟹や海胆、海鼠などですね。それらは前世の国では高級食材として扱われている所もあり、調理法を工夫すれば、非常に美味しい料理が作れるのではないかと思います。これを観光の目玉の一つに出来るかもしれません。また、介党鱈などの白身魚をすりつぶして成形し、焼いたり蒸したりして作った食材は、魚の取り扱いに詳しくない方でも簡単に取り扱えますので、消費の拡大に寄与できるかと」
「なるほど。プトラム分領担当の行政官達と細部の話をしてみてくれ」
「承りましたわ。あと、お母様、ハトークの方への助言を行うことは可能でしょうか」
「そうね。マークを通じてアイスロイズ子爵と話をすることは可能と思うわ」
「あちらの方にも、もしかすると使えるものがあるかもしれません。プトラムとはかなり獲れる魚の種類が違っておりましたので」
「確かに違うわね。ちなみに、今何か案のようなものはあるかしら」
「ハトークですと、まずは真珠貝の養殖でしょうか。阿古屋貝という貝の中に、小さな球体を入れることで、真珠が形成されるのです。また、あちらに自生している天草という海藻は、膠のような性質を持つ寒天という調理用の素材が作れます。料理の種類を広げるのに良いと思います」
カキの養殖をやっているなら真珠貝も恐らく可能だろうし、浜辺にテングサが落ちていたのは確認している。プトラムにはテングサはなかったが、あちらから入手できるならこちらで料理に利用できる。
「あら、それは面白そうね。では春に貴女が王都で生活するようになってから、来させるように手紙を書いておくわ」
「有難うございます」
こうして、プトラム分領の振興の件と、ハトーク分領への助言の話は、進み出した。プトラムの方については、覚えている調理法を説明して、試してもらうことにした。また、ちくわやかまぼこの作り方のイメージも伝えたので、こちらも試作品を作ってみる、と言われた。恐らく春になったら一度プトラムに行くことになるだろう。ハトークの方はお母様からの連絡次第だ。
今は、地精霊と感覚共有してパティの所に遊びに来ている。
「先日、馬鈴薯を使った料理を食べてみたけど、普通に食べられたわ。何でこれまで使っていなかったのかしらね」
『元々はカラートアミ教が家畜の餌として広めていた作物でしたから、その先入観があったのが理由のようですわ。別に人が食することを禁じたわけではありませんでしたから、問題無かったのですが。また、芽の部分に毒があるため、これまでは積極的に食用としなかったようですわ。きちんと処理をすれば大丈夫でしたけれど』
「それは勿体なかったわね。でも、これからは使っていくのよね。乳製品にも合うし、いいんじゃない?」
『元々、馬鈴薯の生産は寒冷地に向いていますし、食生活が豊かになるなら幸いですわ』
「そういえば、プトラムの魚を使って色々やるような話を聞いたけど、魚って美味しいの?」
『その辺りはセレナに聞いた方が良いと思いますが、テトラーデでは、美味しく頂けましたわ』
まあ、前世では色々食べていたので美味しいのは知っているのだが、無難に答えておこう。
「それなら楽しみだわ。そうそう、そのセレナだけど、最近氷魔法を教わっているんですって」
『まあ。セレナであれば、そのうち習得できるのではないでしょうか』
「氷魔法って、何だか怖そうな感じがするのだけれど」
『そんなことはありませんわよ?確かに攻撃にも有用ですが、他にも色々使えますわ。魚などを運ぶ時に凍らせて、腐らないようにしたり、暑い時に飲み物に氷を入れたり、便利ですわよ』
「フィリスって時々、妙に生活臭いというか、領主令嬢っぽくないことを言うわよね……そんな所も私は好きなのだけれど」
『有難う。まあ、私は私ですもの』
30年以上庶民として生きているわけだから、そういう所もあるだろうけど、今更だからね。
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