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第061話 品種改良してしまった

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

アルカドール領に帰って来た。お父様に2連覇を報告した後、部屋に戻った。その夜は、ささやかな祝勝会が行われたが、主役のレイテアではなく、護衛達の方が騒いでいた。




ある時、いつもの様に地精霊と感覚共有してパティと話していると


「何だか最近うちの父や商工組合がかなり忙しそうにしているのだけれど、フィリス、何か知らない?」


そのようなことを言われた。


『父が領の産業を振興しようとしておりますの。様々な企画が進んでいますので、セイクル市の主要な方々にも頑張って貰っているでしょうから、その関連でしょうね』


「そうなの?どんなことをやろうとしているの?」


『基本的には砂糖を作ったり、新しいお酒を造ったり、新しい料理を開発したりしていますわ。その他にも色々と企画がまとまれば、進めていく予定ですの』


「へぇ、お酒は解らないけれど、砂糖が作れたらいいわよね。今は手に入れるなら南方の国から輸入するしかないから、高いものね。甘味は、本当は沢山食べたいけれど、茶会や夜会の時くらいしか食べられないもの。安い砂糖が手に入るなら、甘味が沢山食べられるわ!」


どこの世界も女性はスイーツが大好きなのだろうか。文字通り食いつきが違う。


『そうね。砂糖が安くなれば、多くの種類の甘味を作ることができるし、茶会の楽しみも増えますわ』


かつて生きていた国の様々なお菓子を思い出しながら、私はそう呟いた。




冬が近づき、引きこもりがちな日々が続くのかと陰鬱な気分になっていたある日、王家から連絡があった。今度の春に、王太子殿下の結婚と、祝いの宴が開かれるそうだ。私は強制参加、領主であるお父様は任意だが、参加しない話はない。当然お母様も同伴するので、うちからは3名が参加することになる。


王太子殿下のお相手は、サウスエッドの第2王女らしい。お父様が言うには、我が国は伝統的に外交面が弱いので、それを強化するため、だそうな。ドレスも作らなければならないな……と思っていた所


「フィリスにはできれば盛装ではなく、導師服で参加して欲しいという、内々の依頼があった」


いや、確かに精霊導師として参加するのであれば、当然かもしれないが……?


「あらあら、フィリスが着飾ると、主賓以上に目立ってしまうものね。残念ですが仕方ありませんね」


そういう理由なの?いや、私としては助かるのですが……まあいいや。


あと、その場で、移動は転移門で行うことが決まった。例の産業振興プロジェクトの件でお父様が最近忙しいからだ。あと、私については、その頃から王都で暮らし始め、様子を見ておいた方が良いだろうということになった。ただ、プロジェクトの件もあり、こちらには頻繁に帰って来ることにはなるが。


来年の夏には魔法省で勤務か……10才で、前世で言うところの官僚になる、と考えると、非常に微妙な立場だな……。




今日は甜菜から砂糖を作る件で、困った事があると聞いて、領行政舎にやって来た。


「実は……砂糖のようなものが取れることは分かったのですが、現状ですと採算が取れないようです」


どうやら、一定量の砂糖を取るために大量の甜菜を使うらしく、砂糖のろ過までの負担が非常に大きいようだ。つまり、糖分が少なめなのだろう。糖分の多い品種がないか、地精霊に聞いてみよう。


「この植物なのですが、とても甘い種類のものってないかしら」


『うーん、知らないな。けど、愛し子なら、作れるんじゃない?』


「それはどういうことでしょうか?」


地精霊の話によると、地精霊は植物に「こう育ってくれ」という意志を伝えることにより、品種改良を行うことができるそうだ。何だその出鱈目な能力は!


……そういえば、カラートアミ教が伝えている、この世界の創世話には、精霊が話し掛けると植物が進化したと書いてあったけれど……この話が本当なら、私が同化や和合を行った上で、甘く育ってくれと頼めばいいわけで、試す価値は十分にある。


また、植物の育成を早めるには、地と水の精霊と同化して力を与えることで、育つのではないかという話だった。いかん、本当に何でも出来るような気がしてきた……。まあ、糖度の高い甜菜を作ることから始めよう。


職員には、少し試したいことがあるので、数日待って貰えないかと言って、甜菜の種を分けて貰って家に帰って来た。




まず地精霊と右手を同化し、1つの種を持って「糖分を高めて欲しい」と地属性のエネルギーを加えながら念じた。そしてその種を庭の空いた所に埋め、右手はそのままで、左手を水精霊と同化して、大地の栄養を吸収して成長するよう念じながら地属性・水属性のエネルギーを加えると……本当にみるみる成長し、10分もすると立派な甜菜に育ってしまった。


甜菜を株ごと地面から取り出し、水で土を綺麗に洗い流し、同化を解いた。取り出した甜菜を調理場に持って行って、料理長に事情を話し、場所を借りた。そして、通常の甜菜を1つ持ってきて貰って、根を少し切って、何人かで通常のものと今作ったものを食べ比べてみた。


「お嬢様、何ですかこの甜菜は!ものすごく甘いです!」


どうやら成功した様だ。私も一切れ食べてみて、甘さの違いに驚く。両方とも甜菜の持つ強いえぐみがあるのは同じで、通常のものはほんのり甘いか?と思う程度だったが、一方今作ったものは、まるで砂糖を舐めているかの如く、甘ったるい。これを育てれば採算が取れるのではなかろうか。1代限りという可能性もあるので、改良?した甜菜の株を育てて種を取って、それを育成して、試してみよう。


……遺伝子自体が変わってしまったらしい。次代の種にも甘さは引き継がれていた。3日後、使用人達に20本ほど育てた甜菜を持って貰い、担当職員の所を訪れた。


「先日の件ですが、こちらの甜菜では如何でしょうか。これは改良して、甘さを高めた品種ですの」


「おお、これほど早く対応して頂けるとは!早速試してみます」


数日後、この甜菜であれば、利益が十分出るという回答を得たので、今ある甜菜の種を全て集めて貰い、同様の処置を行った。次の春からセイクル市周辺の畑で育成を開始するそうだ。




今日は久しぶりにメイリースに会いに行った。女の子を無事出産したという話を聞いたからだ。


「お嬢様、わざわざお越し下さり、誠に有難き幸せにございます」


「そのように畏まらなくても良いわ。出産おめでとう」


「来年はお嬢様も10才ですね。魔法省でのお仕事、大変でしょうが、お体に気を付けて下さいね」


「有難う。それより貴女の娘さんを紹介して頂戴」


メイリースは礼をして一旦席を離れ、隣の部屋に行き、赤ちゃんを抱いて戻って来た。


「お嬢様、こちらが私の娘のアメリアです」


私はアメリアを抱かせて貰ったりした。瞳が青いので水属性のようだ。赤ちゃんはやはり可愛いなあ……そして、平和はいいなあ、としみじみ思ってしまった。


「ノスフェトゥスと全面戦争にならずに済んで良かった」


「はい、お嬢様が私達を救って下さったのですよ」


「そう言って貰えると、嬉しいわ」


最近は少なくなっているが、戦争を思い出して寝付けなくなる時がある。それでも、小さな命を守る助けになれたのであれば嬉しいし、やはり私の選択は正しかったと思える。そして、今後は争いが起こらないように、産業振興に努め、攻め込まれないように防衛力を強化していこう。


「そういえば、商会の方はどうなのかしら?」


「今の所、上手くいっているようです。あと……最近、変色効果のある宝石の取引が活発になっているらしいです。どうやら、私がお嬢様から頂いた髪飾りの話を主人が取引先で色々話したようで……」


照れながらメイリースが話した。つまり旦那さん、取引先で惚気まくっているわけだ。夫婦仲も宜しいようで、何より。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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