第060話 レイテア、武術大会で2連覇
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いよいよ武術大会の2日前になり、私達は転移門で王都に移動した。今回はお母様は来ていない。
早速受付会場にレイテアとともに向かった。3回目ともなればもう慣れたもので、特に問題なく受付が終了した。ただ、レイテアは受付のお姉さんに「今年も優勝して下さいね」と激励されていた。
家に帰ると、お兄様が帰宅していたので会いに行った。
「フィリス、久しぶり。ますます綺麗になったね!」
「お兄様も、以前より背が伸びて精悍になられました。さぞ、令嬢達の心を惑わせているのでしょうね」
「それを言うならフィリスこそ。君を一目見て恋い焦がれた者が、会わせて欲しいと私に言って来るんだよ。それもたくさんいてね。困っているんだ」
「あら、それは存じませんでしたわ。明日、魔法学校に伺わせて頂こうと思っておりましたが……残念ですが取りやめますわ。ご迷惑になりますもの」
「大丈夫だよ。明日フィリスが来ても、あまり学生が近づく事が無いように対策しているんだ」
対策の詳細は解らなかったが、お兄様がそういうなら大丈夫だろう。明日は魔法学校へ行こう。
収穫祭初日となった。レイテアは最終調整中だ。魔力循環も良好なので問題ない。予定通り魔法学校に向かった。馬車置き場で馬車から降りて、学校の受付に行くと、お兄様が待機していた。どうやらエスコートしてくれるようだ。
「フィリス、今日は私が学校内の催し物を説明するよ。先生方には、強く言ってあるから、無作法な学生は殆どいないと思うよ」
そして、学校内の出店や展示などを見て回った。流石に人が多いので、はぐれないようお兄様と手を繋いで回った。あと、念のために精霊に周囲を監視して貰っていたのだが……悪意ではないが、多くの人間から監視されていると言われた。正直気持ち悪いが、せっかくなので無視しよう。
一通り見て、ヴェルドレイク様に会っていないので、お兄様に聞いてみた。
「ヴェルドレイク様は、今年は学生会に入っているから、恐らく全体の統制をやっているよ」
なるほど、生徒会役員のようなものか。それでは会えないだろうと思っていると
「フィリストリア嬢じゃないか、久しぶりだね!」
どうやら見回りをやっていたらしいヴェルドレイク様に会う事が出来た。ベンチがあったので、座って話すことになった。
「ヴェルドレイク様は、今年は学生全体を統制するお仕事をされているのですね。流石ですわ」
「いや、私はこれでも公爵家の者だからね。名誉職のようなものだよ。それに、多分カイダリードも入ることになると思うよ?」
「あら、お兄様そうなのですか?その時は頑張って下さいね。応援致しますわ」
「そうだね。アルカドール家の名に恥じないよう、頑張るよ」
その他、学校内のことについて色々話したところで、ヴェルドレイク様の卒業後の話になった。
「それでは、ヴェルドレイク様は、魔法省に入省されるのですか?」
「ああ。既に魔道具課の内定を貰っていてね。それと今、魔技士の国家資格を取るための勉強中なんだ」
「それは素晴らしいですわ。勉強頑張って下さいね。あと、私も来年夏以降は魔法省に勤務致しますので、その際は宜しくお願いします」
「そういえばそうだね。その時は宜しくね」
「二人とも、私を仲間外れにしないで欲しいな」
珍しく拗ねた様子のお兄様を見て、ヴェルドレイク様と二人で笑いあった。
収穫祭2日目、武術大会の日だ。レイテアは絶好調のようだし、今年も良い成果を出せるだろう。今年の参加者では、やはり優勝候補に挙げられているようだ。その他、騎士団近衛隊長や凄腕の冒険者などもいるようだが、それなら去年の状況を見る限り、勝てる可能性も高いだろう。
なお、今年はミリナは来られない様だ、お金がないらしい……まあ、馬車なら片道10日はかかるから、仕方ないのだろうが……転移門は本当に有難い存在だ。
今年は、昨年優勝したので予選は参加する必要がなく、そのまま本選に出場できる。昨年の様に、いきなり強者に当たることもあるわけだし、基本的に体力で劣る女性としては、有難いと言える。
ということで適当に予選を見て、本選一回戦の、レイテアの試合場の所へ行った。
暫く待つと、レイテアと対戦相手が入場してきた。他の試合と違い、女性の声援が多いのが特徴だろうか。レイテアは着実にファンを増やしている。女性だけでなく、男性にも意外と人気の様だ。相手は剣と盾を持っているが……あれでは恐らくレイテアは止められないだろう。
試合が始まると、相手は剣を出しながら、レイテアの剣を盾で防いだり、たまに体当たりをしようとしていたが、レイテアの動きに対応できず、剣と盾の動きがちぐはぐになった。相手が素早く動く場合、剣と盾を有機的に使うのは非常に難しい。盾が視界を遮ることがあるからだ。そしてそれは、相手の態勢を崩すには、絶好の機会となる。当然その弱点をレイテアが狙わないはずがない。あっさりレイテアが勝利した。二回戦前に激励に行く予定だったが、その必要もなさそうだ。
二回戦、準々決勝、準決勝も危なげなく勝ち進み、レイテアは決勝に進出した。激励に行くと、やはりレイテアのお父さんがいた。決勝戦の相手は近衛隊長なので、敢えて助言する必要はない。魔力循環も問題なく、激励だけで済ませて、客席に戻った。
中央の試合場に、レイテアと近衛隊長が入場した。去年の雪辱を果たそうと、近衛隊長は気合十分の様だ。試合が開始された。近衛隊長は猛然と斬りかかった。レイテアは剣をいなそうとせず、身体強化で躱した。
何度かそのような攻防があった後、今度はレイテアが、躱した直後の近衛隊長の腕が伸び切った瞬間に、剣を少し合わせて来た。何度か同じことをやると、近衛隊長は攻撃をやめ、正中線上に中段の構えをとった。レイテアは、少しずつ近衛隊長との距離を詰めていった。間合いに入った瞬間、二人は猛然と斬りかかった。
近衛隊長の方が剣速があり、一合目はレイテアは身体強化をして辛うじて受け止めた。そこで終わる筈もなく、二合目も即座に打ち込まれた。これもレイテアは身体強化により受け止めたが態勢は悪い。続けて三合目、四合目と打ち込まれるにつれ、レイテアの態勢は悪くなり、下がろうとする。そこで近衛隊長は斬りかかって追撃した。
ところがそれはレイテアの罠だった。下がることで自然と態勢を戻したレイテアは、勢いよく追撃した近衛隊長をいなし、態勢を崩したのだ。ここからレイテアは隙を突くように斬りかかり、態勢の大きく崩れた近衛隊長の喉元に剣を突き付け、勝利した。
表彰式と2連覇のインタビューも終わり、家に帰ることになった。今日の決勝戦は、いつもの戦い方ではなかったので、どうしたのかレイテアに聞いてみた。
「高い技量を持つ相手が全力で斬りかかって来た場合の対処について練習していたので、試してみたかったのです」
なるほど。だから最初に挑発するようなことをしたのか。
「まあ、今回は勝てたから良しとしますが、時と場合を考えてやるようにして下さい」
「はい。ただ、恐らく来年は副団長が帰って来ますので、その対策を考えなければなりません」
副団長は、あの時敢えてレイテアの戦い方に合わせて戦っていた。そのため、隙をついて勝つことができたのだ。しかし、今度はそのような事はない筈だ。レイテアは、そのことを考えているのだろう。
「そうね。私も何か考えてみましょう。でも、とりあえず体を休めて頂戴」
「そうですね、しっかり体調を整えないと、勝負になりませんからね」
レイテアは、来るべき戦いに向け、闘志を燃やしていた。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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