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第059話 ロイドステア国第3王子 オスクダリウス・カレンステア視点

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

俺はロイドステア国第3王子、オスクダリウス・カレンステアだ。父であるロイドステア国王は、母である王妃とともに、大きな問題なく国を治めている。俺には、ウィルディナルド、フェルドミナークという2人の兄がいる。


7才上のウィル兄上は、父上の後継ぎとして幼い頃から厳しい教育を受け、今では父上を助け、内政を中心に国政に携わっている。1年ほど前立太子し、近々サウスエッドから姫君が嫁いで来るという話だ。聡明な兄であり、周囲からも、次代の王として期待されている。


4才上のフェルド兄上は、少々性格が優しすぎる所があるが、魔法や剣の腕もかなりのもので、俺も可愛がってもらっている。今の所、跡継ぎのいない西公の所に、臣籍降下して後を継ぐという話があるそうだ。どちらも自慢の兄だ。


翻って、俺は一体何をすれば良いのか、全く解らない。誰も俺が何をすれば良いのか、教えてくれない。多くの家庭教師はいるが、いつも適当な事を言って俺の機嫌取りしかしない。ただ、剣術の家庭教師は別で、騎士団副団長や近衛隊長に教えて貰っているため、それなりの実力をつけることが出来た。


特に副団長は恐ろしく強く、武術大会も2連覇し、3連覇も確実と言われていた程の腕で、授業も厳しかったが多くの事を教わった。武術大会で女性剣士に敗れたことから、修行し直すと言って地方への転属を志願し、転属したそうだ。帰って来た時に如何程の腕前になっているか見たいものだが、それはさておき。


俺は仮にも王族なので、剣の道で生きるわけにはいかない。今の所可能性が高いのは、叔父上のように、臣籍降下して法服公爵となり、国政に携わることだろうか。しかし、現在父上は俺が目立つのを快く思ってはいないらしい。下手に成果を出すと、現在の体制に不満を持つ者に担がれる恐れがあるからだそうだ。兄上が成果を積み重ねて、次代の体制が安定するまでは、様子を見ると言われている。


つまり、父上は俺に、今はあまり目立たずに実力をつけ、時を待て、と言っているのだ。王族は生き方が難しい。同様の経験をしたであろう叔父上に話を聞くのが一番だろうが、なかなか会えないのが残念だ。


正直な所、王子としてではなく、俺自身のことを見てくれる者は殆どいない。家族以外では、セントラカレン公爵家の令嬢であるライザくらいだ。ライザとは年の近い従兄妹と言うことで、幼い頃から遊んだり、勉強したりしていて、気心が知れていると言って良い存在だ。俺の事も色々心配してくれている。元々、身分上一番つり合いが取れているということで、俺とライザを会わせていたらしいのだが、俺も婚姻相手はライザがいいと思っている。


しかしながら、それを快く思わない者達も多い。王族である俺に娘を嫁がせることで、国内での発言力を高めようとする貴族が多いのだ。身分の高い貴族で年の近い娘を持つ者は、大抵俺に娘を紹介して来た。見目はそれなりに良い俺は、そういった娘たちからも受けが良かった様だ。


俺にはライザがいるのに、なぜこいつらは余計なことをするんだ、とうんざりしていた頃、珍しく、父上と母上から会って来いと言われたのが、アルカドール侯爵令嬢だった。


侍女達から話を聞いたところ、どうもアルカドール侯爵が父上に謁見を申し込んで、そこに娘を連れて来たらしい。その謁見で父上はその令嬢を「アルフラミスの蕾」と褒めたそうだ。アルカドール侯爵は、自分の美しい娘を俺に嫁がせるために父上に会わせ、その結果うまく気に入られたのだろう、という話だった。


いい加減にしろと思ったが、会うだけならと思って仕方なく会いに行った。一応その令嬢、フィリストリア嬢の事も事前に調べた。美しいというのは勿論、全属性者であるという点も、父上達の興味を引いたのかもしれないと思ったが、ただ単に、全ての属性の魔法を使えるだけではないか、と俺は思っていた。父上達の考えを知る事になるのは、2年ほど後の話だ。


実際フィリストリア嬢に会い、確かに美しいとは思った。しかし、この美しさで父上を誑かし、俺とライザの仲を引き裂くのであれば話は別だ。俺は気を抜くと意識が取られそうになったが耐えた。全属性者というのも信じられなかったので、護衛とともに確認したが、これは嘘ではなかった。ただ、珍しい芸が出来るだけだとしか思わなかったが。




俺の婚約者や側近を選考するための交流会の時にも、フィリストリア嬢はいた。噂では、俺の婚約者候補として、ライザの次に彼女が挙がっているそうだ。俺はライザがいいし、ライザも俺を望んでいるようなので、それでいいじゃないかと思っていたが、恒例行事なので仕方なく開催した。


いつもは気が強いライザがしおらしく挨拶して来た時は、思わず微笑んでしまった。他の令嬢は俺にとっては有象無象だったので、挨拶は形だけ返したが、流石に着飾ったフィリストリア嬢は、意識してしまった。あの美貌は凶器とすら思える。ライザも機嫌が悪くなるので、彼女には近づかないようにした。


その後は歓談となったが、フィリストリア嬢のいる辺りで騒ぎが起きた。数名が魔法の腕を競うことになったのだ。こういう時の為に、魔法兵団から練習用の的を借用して、設置していた。


何名かが魔法を放った後、フィリストリア嬢も前に出て魔法を放った……のだが、彼女は使える者が殆どいない氷魔法で、全ての的を一度に破壊したのだ。その様子に会場の皆は戦慄した。何故なら、それは魔法兵団の1個部隊と同等の威力の魔法を放ったということだからだ。珍しい芸だと?とんでもない!


ただ一人、平然としていた彼女が俺の所へ来て、歓談を続けてくれと言ったことで、俺は我に返り、場を元に戻すことが出来た。まあ、彼女はその後、羨望ではなく恐怖の対象になってしまったようだが。


その後、元々考えていた、剣術での対戦試合を行ってみた。伯爵家の者にも筋の良い者はいたが、やはりアルカドール侯爵令息は頭一つ抜けていたな。彼は次期侯爵として領政に携わるので側近にはできないが、そうでなければ必ず側近にしていただろう。今回、アルカドールの兄妹が優秀であるのは理解できた。王家の者としては、把握しておいて損はないだろうと思った。




交流会で目を付けた者を側近として取り立て、つまらない授業を受けつつ過ごしていた、年の終わりのある日、疫病の関係で流通の途絶えていたアルカドール領にノスフェトゥスの軍が攻め込み、それをフィリストリア嬢が撃退したという話が王城を揺るがせた。


何と、彼女は精霊女王の加護を受けた、精霊導師だったのだ。どうやら、彼女が若すぎたため、父上が公表を止めていたらしい。この話を聞いた時、父上と母上が彼女に会いに行かせた理由が漸く解った。彼女は国にとって重要人物で、王家に取り込むことが望ましかったからなのだ。


俺はその事に気づき、父上の所に行き、文句を言った。きちんと説明して貰えばもっと彼女とは仲良くした、と。しかし父上は


「では、フィリストリア嬢が精霊導師であると知られずに、ライスエミナ嬢に説明できたのか」


と言った。父上は、俺にそんなことが出来ないのを知っていたので、王家が目を掛けている、と示すためだけに俺を使ったのだ。その時俺は、王族だ何だとおだてられても、所詮自分は政治的には小者でしかないのだと悟った。馬鹿にされている、とも思った。




それから1か月程経ち、戦勝祝いと精霊導師披露会が行われたが、父上との話がまだ心に引っ掛かっていた俺は、フィリストリア嬢を問いただした。何故王子である俺に、精霊導師であることを教えなかったのか、と。彼女は、王命に従っただけで、話は父上に聞けの一点張り。こいつも俺の事を馬鹿にして、相手にしないのかと感じて、怒っていたところを兄上に止められた。兄上に別室に連れて行かれ


「彼女はこの国の臣下だ。王命であれば、ああ答えるしかない。彼女に王家への反感を抱かせる気か?」


と言われた。兄上は続けて言った。


「彼女は、一軍を超える力を持つ。内政面でも非常に有用で、間違いなく我が国は更に発展するだろう。だが、王家が彼女やアルカドール家を冷遇した場合は?私達の先祖である、初代国王がどのようにしてこの国を建国されたかを忘れたか?」


そう、初代国王は妹君が精霊導師であり、その力をもって、一領主から国王に成り上がったのだ。


「幸い、彼女は非常に理性的で、国政には協力的だし謀反を企てるようには見えない。しかし、この状態をいつまで保てるかは判らない。叛意のある貴族や外国に取り込まれたり、敵性勢力に唆されたりする可能性も十分ある。私達は、王家の者として、何としても彼女との関係を良好に保たねばならない。しかし、遜るのもいけない。彼女が望んで王家に尽くす状況を作ることが、私達の為すべき事だ」


俺は、先の見えない道中、更に重たい荷物を背負ったような気がした。




自分の人生や、フィリストリア嬢への態度など、考えても結論が出せない状態が続いたある日、業務で忙しい筈の父上が、俺の部屋にやって来た。


「最近、悩んでいるようだな」


「父上、俺はどう生きていけば良いのかな。まるで解らないんだ」


「……まあ、そんなことは誰にも解らん。だが、悩みを解決することは可能だ」


「何?それは一体どうするんだ父上!教えてくれ!」


「人生は、過ぎてみなければ解らん。どうあるべきか、ではなく、どうあったかでしか評価できんのだ。解らないことを考えるより、まずは成したことを積み上げろ。そして、どうありたいかを考えることで積み上がり方が変わって行くのだ。お前は、明確にやりたいことがあるか?」


「……今は……無い……」


「ではまず、日々の課題をこなすことだ。その積み上げにより、見えて来るものもある。さしあたり、来年は魔法学校に入学するが、魔法の基礎は出来ているのか?」


「いや、全然駄目だ。兄上達には遠く及ばない」


「そうか。なら頑張れ。ところで何故、王族も学校に通うか解るか」


「……同世代の者達と競うことで実力を伸ばすため、と聞いたことがある」


「高等教育の教授が出来る者は限られることから、当然そういった面もあるが、一番の理由は、自分を見つめ直すためだ。王城で家庭教師に習うばかりでは、王家の務めなど、果たすことは出来ん。人を知り、自分を知ることで、人の上に立つ存在となれるのだ」


「そうか……俺は自分の殻に閉じこもっていたのかな……」


「自ら望む者だけが、何かを学ぶことが出来るのだ。期待しているぞ」


そう言って父上は業務に戻った。


答えの出ない事に悩むより、やれる何かを行うことの方が建設的だし、それにより見えてくることもある、父上はそう言いたかったのだろう。こんな息子でも、期待してくれているそうだ。ならば、頑張ってみようか。


フィリストリア嬢のことについても、正直どう対応して良いか解らないが、まずは機会を見て謝るべきだろう。その後の事は、様子を見て対応するしかない。出来る事から始めよう。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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