第005話 魔力の巡りを整えよう
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3才になってからは、様々な教育が始まり、結構忙しくなった。魔法についても様子を見て教育が始められるそうだ。今の調子だと4才くらいには始められそうだと父様に言われた。
精霊からもある程度魔法の話は聞けるが、やはり人間から要領を聞かないと判らない所も多いだろう。魔法は地球と違う部分の最たるものだから、非常に楽しみだ。
私は、2才頃から柔軟やストレッチ、それに合わせて呼吸力の稽古を応用した魔力操作の鍛錬を行っている。精霊が見えると言ってからは、多少怪しい行動をしても精霊知識と取ってくれそうなので、この際だからと堂々とやることにしたのだ。魔力操作も、さわりの部分は父様が教えてくれ、問題なかった。
で、普段着ている服では運動しづらいので、スウェットスーツのような服を準備して貰って早朝や夜に運動している。私の体質上、魔力操作については必要不可欠だし、母様の話では、肥満防止の為に隠れて運動している令嬢も少なくないようなので、そういった点でも、これらの行動は許可されている。
フィアースの人達を見ていて思ったのは、地球の人達よりも基本的に丈夫、ということだ。病気は基本的にその人の体質か、幼少の頃に発生するか、そうでなければ魔素溜まりというものから発生する疫病くらいしか罹らないらしい。
地球では一般的だった風邪などの病気は聞かないし、恐らくは魔力があるからだろう。細菌やウイルス自体は存在しているのだろうが、魔力が免疫の働きをしている可能性が高い。
とは言っても、魔力が原因で体調を崩すこともある。魔力枯渇は良く知られているようだし、私のように魔力が多すぎても異状が発生する。その他もあるらしいが、詳細は公開されていないそうだ。まあ、そのうち聞くこともあるだろうが……。
何にしろ、体内の魔力循環を整える事は健康に良いので、常に気を付けよう。
ということで頑張って魔力操作を練習していたのだが……何となく自分や他者の魔力の流れを感じることができるようになったので、自分の魔力の流れを検証しながら前世の知識を活用して、魔力の流れが良くなるような体操を試行錯誤してみた。
合気道風の準備運動と、大学で学んだ各種運動の要領を突っ込んで検討したところ、いい感じになったので、その成果を家族にも、健康維持のため広めようかしら……と考えていた矢先の話。
春になり、兄様は7才となり、剣術の授業が本格化した。剣術の先生に習う他、鍛錬中の護衛達に混ざったりして鍛えて貰ったりしているそうだ。
個人的には非常に羨ましい所だが、まだ3才では、ねぇ。
で、私は一日の授業が終了し、邸内を歩いていた所、兄様に出会ったのだが、正直、魔力の滞留が酷かった。これは駄目な奴だ、と思い、声を掛けた。
「兄様、毎日剣術の鍛錬お疲れ様です。」
「やあ、フィリス……」
兄様の体調が悪いのは明らかだ。取り返しのつかない怪我をする前に、多少強引でも処置すべきだろう。
「兄様、お疲れの所申し訳ありませんが、少し私に時間を頂けないでしょうか」
「ごめんフィリス……僕疲れて……フィリス、泣きそうだよ?どうしたの?」
「少し私の部屋まで来て頂けないでしょうか」
強引だったが、何とか兄様を部屋に連れて来て、床に毛布を敷いた。
「兄様は、最近の鍛錬で、かなりご無理をされています。このままでは、けがをする可能性が高いと思います。そうなったら私は泣いてしまいます。兄様、だまされたと思って、私の施術を受けて下さい」
「施術って……フィリス、何をするの?」
「体の魔力の循環を良くするための指圧や柔軟体操です。今の兄様は、体のあちこちで魔力が滞留しています。休めばそれなりに良くなるかもしれませんが、休む前に改善した方が、より良いと思います」
「そうか……フィリスを泣かせたくないし、受けてみようかな。宜しくね」
「では兄様、その毛布の上に、まずあおむけで寝て下さい」
兄様に寝てもらって、私は滞留の激しい肩、膝、足首に手を当て、魔力を放出しつつ、ゆっくりと揉んだ。
「ああ、何だか体が楽になったよ。フィリス、有難う……」
今度はうつぶせになってもらい、首筋と腰に手を当てて魔力を放出しながら暫く揉んだ。見た感じ、これで滞留はひとまず緩和されたようだ。
次に、魔力の循環を正常にするための処置を始めた。まずは説明だ。
「兄様、次は魔力の循環です。まず、へその下に意識を集中して、深呼吸を続けて……次に血の巡りを感じて……体が気持ちよくなりましたか?」
「うん、なんだか体がポカポカして気持ちいいね。魔力の活性化に似ているよ」
「では、その状態を維持しつつ、柔軟体操を行いましょう。痛いでしょうが、意識して力を抜いて下さい」
「う……いたたた……」
「はい兄様、深呼吸~血の巡りを感じて下さい~体の調子はどうですか~」
「大分楽になってきたよ……」
「次は私が押します。あともう少し、頑張りましょう」
「ぐっ!ぐぐぐ…………」
「厳しいですが深呼吸を忘れずに~もう少し~はいこの姿勢は終了です」
このような感じで一通り柔軟を行った。たまに滞留する箇所はあったが、その都度私が魔力を流すと元に戻った。後は魔力循環を意識した体操の要領を兄様に教えた。これを継続すれば、大丈夫だろう。
「兄様、鍛錬に励むのは良いのですが、その分、先程お教えした、爾後の処置を十分になさって下さい。体を壊してしまっては、元も子もありませんわ」
「分かった。今後はフィリスに教えてもらった体操を鍛錬後にやってみるよ。有難う。でもフィリス、これは誰から教わったの?先生も爾後の処置は教えてくれたけど、こんなに効果は出なかったんだけど」
「それは……精霊に聞きながら、自分でやり方を模索しまして……」
ごめんなさい兄様、前世の事だと言うのは怖いのです。
「そうなんだ……。本当に有難う。助かったよ」
兄様はその後、体調を崩すことなく鍛錬に励んでいる。体内の魔力循環が良好だと、体調も良好に保てるし、怪我の治りも早い。しかも成長期の子供なら体がすくすく成長するようだし、いいことづくめだ。当然、鍛錬の成果も前より上がり、剣術の先生にも褒められている様だ。
また、体操を護衛の皆さんにも広めているらしい。私はといえば、父様や母様にも同様に、施術の後に体操をさせてみた。その結果、父様は肩こり、母様は腰痛と冷え性が改善されたそうで、大変感謝された。今度はメイリースも見てみよう。お祖父様は、見かけた時は特に滞留は見られなかった。最近領内の温泉巡りに行っているからだろうか。
そのお祖父様だが、最近更に私に甘くなって来ている。有難いが、恐縮する面も多いので何とも言えないところだ。聞いた話では、私は5年前に病気で亡くなられたお祖母様に良く似ているらしい。しかもお祖母様は精霊術士だったそうで、それはまあ……亡き妻に似た境遇の孫なら甘くなるのも仕方ないのか。
今後の参考になると思われたので、お祖父様の所へ行ってお祖母様の話を伺ってみた。
お祖母様は、大層美しく、体は強くなかったが明るい性格で、皆から好かれていたそうだ。10才から精霊術士として魔法省で勤務し、25才になってようやく退職でき、お祖父様と結婚し、父様と叔母様を産んだそうだ。
精霊術士は25才まで魔法省の精霊課で勤務するらしく、退職後に結婚するそうだが、この世界としては結婚時期が遅い割に、相手は引く手あまたで、特にお祖母様は伯爵令嬢であったことや、性格の良さもあってライバルが多く、大変だったと、お祖父様は照れながら話していた。
結婚後、アルカドール領に住むようになってからも、お祖母様は、精霊術士の力を領民のために使っていた。地属性であったため、多くの農地や建築現場、鉱山などにも赴き、そこで働く人々に様々な助言を与え、皆から慕われていたそうで、亡くなられた時は、多くの領民が悲しんだと言っていた。
私も現段階では、恐らくは精霊術士になるのだろうけれど、お祖母様のように、人々の役に立てるのだろうか?
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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(石は移動しました)