第054話 ビースレクナ領への招待 1
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私達(お兄様を除く。)は、アルカドール領へ帰ってきた。しかしながら、ここ数日、私への祝いの品が色々な所から届いたり、あそこにいた大使達の国(ウォールレフテを除く。)から縁談の話が王家の方に来たりと、騒がしかった。おかげで、暫くは手紙を書くのに忙しかった。
以前イストルカレン家から申し出があった、婚姻の話は、正式に断ることになった。あの騒ぎを耳にした王太子殿下が、陛下に進言したそうだ。殿下にも微妙にお世話になってるなあ。なお、あの時お父様達は、イストルカレン公爵から私を嫁にくれとしつこく言われていて、私を捜しに行けなかったそうだ。陰謀めいたものを感じないでもないが、あそこの家は、当分の間は気にする必要はないわけだし、どうでもいいかな。
そんな中、お母様の所にマイトレーナ叔母様から手紙があった。今度の夏、お母様や私をビースレクナ領に招待してくれるそうだ。ビースレクナ領は、うちの隣にあるが、あまり道が整備されていないので、中心都市のドルネク市までは、馬車だと片道5日はかかる。冬には通行禁止になるのだが、夏なら問題ないということで、お邪魔することになった。
ミリナ達と会えるのも楽しみだが、最近魔物と戦っていないので、ファンデスラの森に行けるのが、かなり嬉しかったりする。道中魔物も出そうなので、護衛はいつもより多めに連れていくそうだが、精霊導師であることが公表されたので、私が魔物と戦ったりしても構わない筈。導師服も持って行かないとね!
あと、一つ試してみたいことがある。合気道の技については、魔力など、こちらの世界の理に合わせて概ね改良できたと思うのだが、その他にも、攻めの技を加えてみたいと思っている。やはり魔物と相対する時には、従前の合気道主体だと、決め手に欠けるのだ。精霊導師としての仕事には、恐らく魔物退治も含まれる筈なので、合気道本来の趣旨とは異なるが、あっても良いのではないかと思っている。
その具体的なものとして、中国拳法の太極拳などにある「発勁」を応用した攻撃技が良いのではないかと考えている。あちらの世界で言う「氣」は、合気道の気とは異なるが、基本的には気と同様に概念的な存在だと思っている。
実は私は、大学時代に太極拳同好会に入っていた。中国からの留学生で気の合う子がいたのが理由だが、その子は、体操ではない、武術としての太極拳の使い手で、話を聞くうちに、合気道にも何か利用できないかと思って、同好会に入って教えて貰っていたのだ。2年の夏には、中国にあるその子の実家にも行き、本場の太極拳も見させて貰った。高齢で力の弱そうなお爺さんが、大男を吹き飛ばすのを実際に見た時は、物凄く感動したものだ。
ということで、その時見た「発勁」……本当はもっと複雑な区分や種類があるらしいが、理論的には、体中の筋肉などの動きから発生するエネルギーを打撃に集約する技術なのだと考えている。そこで、魔力や身体強化などを利用して、発勁と同様の結果を導き出せないだろうか?と思いついたのだが、この実験を対人でやってしまうと、酷い事になりかねない。だから、自然物や魔物で試す方がいい。そういった意味でも、この招待は、渡りに船だったのだ。
もうすぐビースレクナ領に行ける、とウキウキした中で、私の9才の誕生日が来たのだが……かつてこれほど面倒だと思った誕生日は無かった。何だこの贈り物の山は!お礼を書くだけで重労働だよ!しかもなにこれ装飾品とかいらない。
誰だよドレスとか送ってきた奴!体型を知っている、という意味にもなるから、特に親しい人しかドレスは贈れないとされているのを知らないのかよ!……と思っていたらイストルカレン家からだった。あの家は懲りずに……サイズが合わないと言って送り返しておこう。お兄様からの贈り物の本くらいだよ、嬉しいのは。お兄様有難う。
漸くお礼状などの処置が終わり、ビースレクナ領に向かうことになった。道中幾つかの町や村に立ち寄ったのだが、私を見ると大抵「導師様だ!導師様がいらっしゃったぞ!」と人が集まって来る。やはり精霊導師の名は重い、と今更ながらに感じた。護衛達が列整理要員と化していたのは、やるせないのだが。
あと、ビースレクナ領に入ると、何度も魔物に襲われたが、大抵は護衛達が倒してくれた。一度私が魔法で倒したら「護衛の仕事を取らないで下さい」と叱られてしまった。
そんなこんなで家を出て5日後、ドルネク市のビースレクナ侯爵邸に到着した。流石に親友同士、従姉妹同士といった関係なので、挨拶も気楽に終わったが、初めて会った叔父様に
「若き英雄たる導師殿をお招きできたことを、心より嬉しく思います」
とか言われた日には、どうしようかと思ったよ。なお、前侯爵である叔父様のお父さんは、総務大臣を務めているため、奥様と一緒に王都に住んでいる。先日の披露会で会った。
とりあえず今日は、あちらの家族4人とお母様と私で、近況報告的な流れになったのだが……
「私、貴方が精霊導師になったという話を聞いた時、どこまで詰め込むのかしら?と思ったわ」
いやー、ミリナは変わらなくて、私は嬉しいですよ。
「私達は、この子が精霊女王に呼ばれた時は、心配で眠れなかったのですけれどね」
お母様、いつも心配かけて申し訳ありません。でもあれは不可抗力なんです。
「ご存知かもしれませんが、初代精霊導師であったエスメターナ様がビースレクナ地方の出身ですので、我が領では今でもエスメターナ様は大変人気があります。その関係上、今回貴女が精霊導師となられたと聞いて、皆非常に喜んでいるのですよ」
叔父様、敬語はいいです。しかし……それならエスメターナ様の伝承なども残っているのかね?まあ……ブラコン全開な話とかは残ってないだろうけどね。
「そうそう、その件でフィリスにお願いがあるのだけど……一度歓迎の宴を開かせて頂けないかしら。貴女が来ることを知った領民が、是非導師様にお会いしたいと聞かないもので」
「……お母様、宜しいでしょうか?」
「仕方ないでしょうね。でも貴女、盛装は持って来ているのかしら?」
「一応持って来てはおりますが……むしろ導師服の方が喜ばれるのではないでしょうか?」
「……確かにそうね。レーナ、それでいいかしら?」
「勿論よ!では1週間後ということで、準備させて貰うわ」
「領民には、私から達しておこう。皆喜ぶだろう」
……あまり熱烈歓迎されるのも気が引けるのですが……どうなることやら。
「フィリス姉様、その、導師服とは?」
「精霊女王様から賜った、色々と便利な服ですよ。見かけは妖精族の民族衣装に似ているのですが」
「へー、一度、見せてもらってもいいかしら?」
こうして、導師服に着替えて見せたりしたりした。その流れで、明日から近くの森で色々鍛錬したい、と言ったら、護衛同伴なら、と許可を頂いた。やったね!
ということで今日から森で鍛錬だ!と思ったのだが、とりあえず午前中は1か月ほどお世話になるビースレクナ侯爵邸内の説明をして貰った。何か、結構武器やら防具やら、これまで倒した魔物の剥製とかも飾ったりしていたので、うちより物々しい感じがした。土地柄が違えば色々変わって来るものだねぇ。
あと、ここにいる間に、うちのレイテア達以外にも、ビースレクナ側が付けてくれる護衛を紹介された。デリアス・ロクトルという風属性の男性だ。この付近の地形にも詳しい、ベテランの護衛だそうだ。
「ど、導師様の、護衛を、つ、務めさせて頂きます!」
精霊導師効果なのかは知らないが、えらく緊張していた。
「こちらにお世話になる間、宜しくお願いしますね」
「い、命に代えましても!」
微妙に心配な気がしないでもないが、午後からは久しぶりに魔物討伐ができるかな?
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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