第045話 レイテアが武術大会で初優勝する
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いよいよ武術大会の日だ。今回は参加者が増えたようで、女性もちらほらいる。レイテア効果か?今回の優勝候補は、騎士団近衛隊長、ネクディクト国から参加している冒険者、そして、レイテアも挙がっているらしい。確かに去年は優勝候補筆頭を倒しているから、実力が評価されているのだろう。
なお、その騎士団副団長は、去年レイテアに負けたのがショックで、修行すると言って西の辺境と言われるオクトウェス領の派遣隊長に転属したという話だ。数年は帰らないそうなので、暫くは武術大会には不参加となるそうだ。
会場に到着し、レイテアがいる予選組の試合場に向かう。ミリナ達もいたので、歓談しながら試合が開始されるのを待つ。今回は予選組が6人なので乱戦方式で戦い、勝者が本選に出場する。レイテアは乱戦方式も護衛達とこなしているので、そうそう負けることは無いだろうが……他の5人は……大男、筋肉質の男、女性、騎士っぽい人、槍兵だった。暫くすると、審判により開始が宣言された。
まずレイテアは近くの大男の背後に回ると見せかけ、大男が剣を回しながら振ろうとしたところで剣を払いあげ、隙が出来た右足を強く打った。どうやら足を骨折したようで、そこで大男は降参した。筋肉男は女性を倒したようだ。騎士と槍男はまだ睨み合っている。
レイテアは脅威度の高い筋肉男を目標にしたようだ。筋肉男もレイテアに向かっていった。何合か打ち合うが、全てをいなしたレイテアの態勢は崩れない。逆に筋肉男は、レイテアに先手を打たれ、態勢が崩れていく。
焦ったのか、強引に剣を合わせて払おうとしたところ、その力を受け流しつつ、レイテアは筋肉男の横に移動した。筋肉男は態勢が前のめりになって大きな隙ができ、そこをレイテアが脇腹を強く打ったため昏倒した。
槍男を倒していた騎士は、間髪容れず、レイテアに突きを入れて来た。レイテアは一旦間合いを取り、呼吸を整えながら様子を見ていた。どちらが先手を取るか、読み合いの状態になっているようだ。
ここで、レイテアが突進しながら突きを出したが、見せ剣のようで浅かった。騎士は軽く剣を合わせながら様子を見る。更にレイテアが体だけ前に出すと、騎士は切り結ぼうと剣に体重を乗せる。そこをレイテアが素早く相手を押しながら右側に回ろうとしたので、騎士は下がりながら斜めに斬り伏せる。
避けたレイテアを返す刀で薙ごうとした時、その力をレイテアが利用し跳ね上げた。そのままレイテアが突きに入ろうとするが、騎士は態勢をなんとか立て直し、上段から斬りかかった。
その時、レイテアは振り下ろした剣を躱し、更に下に押し付けた!騎士が剣を戻す前に、レイテアは剣先を騎士の喉元に突きつけ、勝利した。
予選から激しい戦いが繰り広げられたが、無事にレイテアは本選に出場することが出来た。先程の騎士は、実は優勝候補に挙げられていた、近衛隊長だったらしい。道理で強いわけだ。見た限り、まだ戦うことは出来ると思うが、控室に激励に行ってこよう。
控室に行くと、先客がいた。やはりレイテアのお父さんは、今回も来ているようだ。私の出る幕は無さそうなので、少し挨拶をして、客席に戻った。ミリナが興奮してワルターにレイテアの格好良さを滔々と語っていたが、他人の振りをしておこう。
本選一回戦、レイテアの試合場は目の前だったので、そのまま待っていると、レイテアが入場した。女性の声援が多いのは、気のせいではないだろう。相手は……冒険者風の男だ。試合が始まった。双方とも、警戒しているようだが……男が突進しながら剣を突き出した。
レイテアはそれを払いながら避けようとしたが、男は剣を放してそのままの勢いで掴みかかって来た。しかし、レイテアに効く筈もなく、掴む前に腕を打たれて終わった。女性はつかみ合いを好まない傾向にあり、意表を突ける場合が多いけど、私がたまに棒を放して徒手で攻撃しているから、レイテアもこういう攻撃はそれなりに慣れている。相手が悪かったね。
皆で軽食を取って、二回戦の試合場へ移動する。レイテアの試合が始まるまでの間、見える範囲で他の出場者の試合を見てみる。もう一人の優勝候補らしき姿は見えない。正直、この辺りの出場者よりレイテアの方が強そうだ。
そのようなことを考えていると、レイテアと対戦相手が入場して来た。相手は、騎士の様だ。何か話をしているので、知り合いかもしれない。試合が始まった。開始早々打ち合いが始まった。ただ、レイテアは相手の剣をいなし続けており、相手は力を出し切れず、焦り始めたように見えた。
一度間合いを取ろうとしたのだろう、後方に下がるが、そこをレイテアが追うように前進した。慌てて迎撃するかのように剣を振るも、腰が入っておらず、レイテアは難なく躱すと、相手の剣を払う。相手は剣を落とし、レイテアは剣先を喉元に突きつけ、勝利した。別れる際に、握手をしながら話していたので、騎士学校での知り合いなのだろうと思う。
準々決勝は、同じ試合場だ。暫く待っていると、レイテアと対戦相手が入場して来た。相手は槍使いの様だ。試合が始まると、相手はその間合いの遠さを利用し、速攻を掛けて来た。懐に入り込まれないよう警戒しながら鋭い突きを繰り返す、なかなかの手練れだ。
しかし、レイテアも最小の動きで相手に突き込ませない。暫くそのような攻防を続けていると、槍を戻す時に少し穂先が上がった。そこをレイテアが払い上げる。慌てて態勢を戻そうとしたところを、レイテアは逆に穂先を上から叩き付け、一気に懐に入り込み、喉元に剣を突き付けた。準決勝進出だ!
念のためレイテアの様子を見に控室に行ってみると、レイテアは精神を落ち着けていた。魔力循環を確認したが、まだ大丈夫、余裕はある。レイテアを一言激励して、観客席に戻った。準決勝からは中央の試合場なので、そちらに移動する。レイテアは準決勝第2試合だ。準決勝敗退者が三位決定戦を行った後、決勝戦が行われる。
まず第1試合を観よう。騎士と冒険者風の男だ。あれが優勝候補の1人か?試合が始まると、冒険者は素早い動きで騎士を翻弄する。あれは相当身体強化の使い方が上手い。ただ、野性的な戦い……というか、どちらかというと対人戦ではなく対魔物戦の方が得意かもしれない。きちんと駆け引きが出来るなら、勝機は見えただろうが……残念ながらあの騎士は対応しきれなかったようだ。足払いで転倒させたところに剣を突き付け、試合は冒険者の勝利で終わった。次はレイテアの試合だ。
レイテアと対戦相手が入場して来た。相手は騎士の様だが……知り合いではないらしい。試合が始まった。様子を見ながら打ち合いを続ける。ただ、この騎士はベテランなのか、割と搦め手を使う。体当たりや足払いなどだ。
体当たりには、相手の剣を剣で押さえて斜め後方に下がりつつ、重心を崩さないよう警戒しながらしっかり着地し、足払いには、掛けられた足から素早く加重を抜いて後ろに下げて態勢を取り直していた。レイテアはしっかり対応が出来ている。そして搦め手を多用する相手は不意の真向勝負に弱い。
3度目の足払いを今度は身体強化で迎え撃ち、意識が足に向かった一瞬の隙をついて、相手の剣を払い、態勢が崩れた所に喉元へ剣を突き付け、レイテアが勝利した。決勝進出だ!
3位決定戦を行っている間に、もう一度レイテアの様子を見ようと控室に向かった。既にお父さんが来ており、レイテアを激励していた。
「最後の試合だ。堂々と戦って来い」
「お父様、有難うございます。精一杯頑張ってきます」
まあ、一応私の方からは、少々助言しておこうかな。
「レイテア、決勝の相手は身体強化に長けており、素早い動きで相手を翻弄する戦い方をします。ただ、彼は対魔物戦が得意な冒険者であって、人同士の駆け引きはそこまで得意ではないようです。ですので、最初にこちらも相手を驚かせなさい。そうすれば、相手は警戒してくるので剣先が鈍り、いなす余裕が生まれますよ」
「お嬢様、有難うございます。ところで、その分析は一体……」
「準決勝を観たらこの位は判りますわ。所詮、その程度の相手です。勝ってきなさい」
「……ふふ、はい、仰せの通りに」
観客席に戻ると、三位決定戦は終わっており、決勝戦のために試合場を準備している所だった。見た感じ、レイテアが戦った騎士の方が強いような気がしたが、特に気にするところではない。
暫くすると、レイテアと対戦相手の冒険者が入場して来た。ミリナをはじめ、黄色い声援が多いのは、レイテアを応援するものだろう。ところでミリナ、貴女侯爵令嬢なのだから、あまり大声を上げては……ほら、叱られた。
さて、レイテアは私の助言をどう生かすかな?お手並み拝見といこう。
試合が始まった途端、レイテアは身体強化により猛然と突っ込み、突きを放った。そこは躱されたが、私の読み通り、以降の冒険者の攻撃は易々とレイテアにいなされ、そのうち、移動と攻撃がかみ合わなくなってきた。冒険者に焦りが見え始める。こうなれば後は隙が出来るのを待つだけだ。
暫く打ち合っていると、レイテアが右にいなした後に冒険者の体が泳いだ。そこで腕を戻し、突きの態勢に入ろうとしたところ、慌てて剣で払おうとしてきた。そこを逆に左にいなし、返しながら喉元に剣を突き付けた。
審判は、レイテアの勝利を宣言した。優勝だ!
興奮醒めやらぬ中、そのままの流れで表彰式と閉会式が行われた。優勝者は王国の紋章の入った金の徽章、副賞に現金10万ゼル、日本円だと相場の感覚的には約1000万円だ。2位は同じく銀の徽章、副賞に現金5万ゼル、3位は同じく銅の徽章、副賞に現金1万ゼルだ。徽章は陛下から直接賜り、副賞は後で係員から渡される。
レイテアはまだ優勝の実感が湧かないのか、動きが鈍かったが、陛下が徽章を下賜されたところで実感が湧いたのか、涙ぐんでいた。陛下からは「素晴らしい戦いだった」とお褒めの言葉を頂いたようだ。
閉会式の後、レイテアに対し、勝利者インタビューのようなものがあった。マイクのような魔道具を向けられ、疲れているだろうに律儀にレイテアは対応した。
『今大会で優勝されたレイテア・メリークスさん。貴女は女性ながら優勝という偉業を達成しましたが、その理由について、お聞かせ願えますか』
『理由は2つあります。まず1つ目は、騎士である父のおかげです。幼少より、剣術の基礎を教わりました。また、女だてらに騎士学校にも通わせて貰いました。2つ目は、現在勤めているアルカドール侯爵家の方々のおかげです。女性としての特性を生かした戦い方を教えて頂いたり、同僚である護衛とともに鍛錬出来たため、実力を高めることが出来ました。父や侯爵家の皆様には、大変感謝しております。本当に、有難うございました』
その声は魔道具で伝声され、会場に響き渡った。
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(石は移動しました)