第044話 メイリースの寿退職
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夏に差し掛かろうかというある日、メイリースから、結婚のため、暇を貰うと言われた。相手はセイクル市の商家の若旦那だそうだ。商家の娘であったメイリースは、親の伝手で見合いをしたらしいが、良縁のようで、メイリースも満更ではないように見えた。
確かにメイリースも19才、まだまだ傍にいて欲しかったが仕方がない。私の8才の誕生日までは普通に仕事をして、1か月くらいで次の私付メイドに仕事を申し送り、実家に戻って結婚準備をするそうだ。思えば彼女には赤子の頃から世話になっているし、何かプレゼントをしようと思ったが、思いつかないのでパティに相談してみた。
『パティ、今度私付の女中が嫁ぐのよ。何かいい贈り物はないかしら』
「へー、相手はどこの人?仮にも侯爵家の女中なら、結構な方なんじゃない?」
『確かネストイル商会の若旦那と伺いましたわ。クライド・ネストイルという方で、火属性だそうです』
「あら、結構繁盛している所よね。大旦那はセイクル市の商工組合の理事の一人だったと思うわ」
本当に良縁っぽいな。これは気合を入れてプレゼントを考えねば。
「私だったら無難に自分で刺繍をした手巾かなあ」
パティは刺繍が得意だから、こういう時はあまり迷うことがなさそうだ。ちなみに私は得意ではない。
色々二人で考えた結果、装飾品を渡すのが良いのでは、ということになった。指輪やネックレスは結婚相手が贈りそうなので、髪飾り辺りが妥当だろう。いくらあっても困らないだろうし。
「髪飾りか。悪くないと思うよ?えーと、確かメイリースさんだったよね。風属性だから緑色の石がついてたりするといいんじゃないかな」
『それはいい考えね!そうさせて頂くわ。パティ、有難う!』
次の日、丁度領兵訓練場が空いている日だったので、精霊術の練習をするという名目で、レイテアを伴ってやって来た。今日は少し目的が違う。緑色の宝石を色々掘り出してみようと思ったのだ。とりあえず、地精霊と両手を同化させ、地精霊に聞きながら、地中深くの緑色の宝石を掘り出していく。ちなみにレイテアは、最初の頃とは違い、平然と周囲を警戒している。
「なかなか良い宝石が見つかりませんわ。翡翠や橄欖石が多いようね。場所を変えましょう」
地学は専門外なのであまり分からないが、古い地層の方が良さげな宝石がありそうな気がする。地精霊に聞いてみると、ここから少し離れた場所に、古い地層が地表近くにあるそうだ。レイテアに断って姿を消し、身体強化でその場まで移動し、採れるだけ採って訓練場に戻った。採れた宝石を確認してみる。
「あら、これは……翠玉かしら?小粒だけど綺麗ね。他の石も美しい緑色だわ」
エメラルドなど、良さげな宝石が幾つか取れた。ついでに髪飾り本体に使うため、金もとっておいた。
家に帰り、体の手入れを行い、夕食を取った後、部屋で使う石を選んでいたのだが、あることに気が付いた。地精霊に聞いてみたが、間違いなさそうだ。これで髪飾りを作ってもらおう。
私の8才の誕生日が来て、家族やメイリースに祝ってもらった。去年は大変だったが今年は平和裏に終了した。次の日、メイリースの後任である、クラリア・シルドナが挨拶に来た。火属性の13才だ。メイリースはおっとりしているが、クラリアは快活そうな感じだ。今の所、私が微笑みかけると動作が停止するようだが、そのうち慣れるさ。
メイリースの指導もあって、クラリアも私付メイドの仕事に慣れた頃、メイリースが侯爵邸を去る時がやって来た。皆に挨拶を終えたメイリースが玄関を出る時に、準備しておいた髪飾りを渡した。緑の宝石が填められた金の髪飾りを見て、メイリースと私を連想してくれたのか、非常に喜んでくれた。
暫くして、メイリースから、クライドさんと結婚したという報告の手紙が来た。商会の仕事は忙しいが、私付の頃より楽だと書いていた。おかしい、私はパワハラとかしてない筈だけど……?あと、髪飾りについて、改めて感謝の言葉があった。クライドさんにも、大層喜んでもらえたそうだ。
ちなみに選んだ宝石は、偶然取れたアレキサンドライト。成分や光源にもよるが、昼は緑、夜は赤に変わる、地球では5大宝石の一つとも言われる宝石だ。今回採れたものは、鮮やかな緑から深い赤になった。で、クライドさんは火属性。これを身に付けるということは「夜は貴方の色に染まります」という意味になるわけで。早い所、お子さんの顔が見たいものだ。お幸せに!
そろそろ、王都で秋の収穫祭、つまり武術大会が行われる日が近づいた。当然、レイテアは参加する予定で動いている。今回もお気軽に転移門を使用して移動する。なお、今回はお母様も一緒に行くことになった。王都でビースレクナ侯爵夫人、つまりお父様の実の妹で、私にとっては叔母様にあたる方と、待ち合わせをしているそうだ。
お母様とは学生時代からの親友の間柄で、お母様がアルカドール領に招待された時にお父様と出会ったのが、二人の馴れ初めらしい。それは積もる話もあるだろう。ちなみに、事の発端は、ミリナがレイテアの活躍を生で見たいと言ったからだ。この話を聞いたレイテアは、更に気合が入っていた。
収穫祭前日、お母様、お兄様、私とクラリアを含めた使用人、レイテアを含めた護衛達とともに転移門で王都に転移した。クラリアは驚いた様だが、すぐに復活し、王都侯爵邸での当座の準備を始めていた。この分だと、他の使用人ともうまくやっていそうだ。とりあえずレイテアは、受付会場に向かったが、私達は侯爵邸にいた。というのは、叔母様とミリナが来るからだ。
暫くして、マイトレーナ叔母様とミリナ、そして先日6才になった従弟がやって来た。
「レーナ、久しぶりね。元気そうで何よりだわ。そちらが子供達?」
「そうよエヴァ、本当に久しぶりね。そちらの子供達も、色々噂は届いているわよ」
私達子供組は、水入らずで話し合いたそうな両母親の雰囲気を察し、挨拶をして早々に別室に移動した。
「フィリス、レイテアさんはどちらにいらっしゃるの?」
「今は受付会場の方で参加者受付を行っていますわ。今年は昨年以上に気合が入っているようですよ。相手次第でしょうが、去年以上の活躍が期待できると思いますわ」
「フィリスがそう言うなら、期待できるわね!」
既にミリナは興奮している。隣の弟さん……ワルトラークも姉の姿に驚いているようだ。
「姉から伺いましたが、それほどレイテアさんという方はお強いのですか」
「そうだね、少なくともうちの護衛の中では1番強いね。私から見ても去年より剣も体さばきも格段に上がっているように感じるよ。私では到底勝てなくなってしまった」
「いえ、お兄様はこれから成長期ですから、成長後は分かりませんわ」
「フィリスがそう言ってくれると嬉しいな。もっと頑張らなくては」
「ワルター、澄ました顔をしているけれど、フィリスも相当よ?春に私が対戦した時、まるで相手にならなかったもの」
「えっ?……フィリス姉様……姉様よりお強いのですか?」
瞬時に私を見る目が恐怖に彩られた。雰囲気を察するに、ワルターは相当ミリナにしごかれているようだ。
「……まあ、そのようなことも、ありましたわね」
そのような事を話しながら、従兄弟、従姉妹同士、交流を深めたのだった。
収穫祭初日、レイテアは調整中だ。魔力循環も良好なので、特に口を出す事は無い。今日はまた魔法学校や広場の方に、お兄様やミリナ達と一緒に出し物を見に行った。去年のようにヴェルドレイク様と会うことは無かったが、なかなか楽しむことが出来た。
ただ、精霊からの警告が何回かあった。その都度護衛達に対処して貰ったので、問題に発展することは無かったのだが……折角楽しんでるんだから邪魔しないで欲しいものだ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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(石は移動しました)




