第043話 新しく来た行政官親娘
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領地に帰ってから暫くして、お兄様の11才の誕生日があった。今年は去年の様に盛大ではなく、家族だけだが、やはりこちらの方がしっくり来る。プレゼントを渡した後に、お兄様が言った。
「有難う、フィリス。ところで、お願いがあるんだけど、いいかな」
「ええ、私にできることでしたら、何なりと」
「実は、氷魔法を教えて欲しいんだ」
どうやら、先日の交流会以降、お兄様は氷魔法を練習していたのだが、上手くいかないそうだ。で、私に聞いてみることにした、とのことだ。当然承諾した。
とりあえず、基本的なところで、物質の三態、原子・分子の概要、水と氷の分子構造の違いについて教えた。その上で、魔法として成立させるために、精霊にどうイメージを伝えるかを話した。
「うーん、この世界の全てのものは、塵より細かい粒で出来ているんだね……」
「そうですわ。それは水も同じです。ですので、正四面体云々はともかくとして、細かい水の粒を規則正しく並べるような想像をすると、精霊が水を氷に変えてくれるのです」
どうやら今までは、水を圧縮したり、温度を下げることで氷魔法になると言われていたらしい。圧縮は論外だし、温度を下げるには気化熱でも利用するのだろうか?無駄に魔力を消費しそうだ……。
今の所は、図解するなどしてイメージ力を高め、実技はお兄様の魔法教育の時にやることになった。ちなみに、家庭教師はアンダラット男爵……先日子爵になったらしい……から、新しい行政官として着任したコルドリップ男爵になっている。私は既に魔法教育は受けておらず、身体強化の実践と称して鍛錬に励んだり、精霊術、特に同化や和合の練習をしているので、会うのは初めてになる。
ということで、お兄様の魔法実習に顔を出した。最初にコルドリップ先生に挨拶したところ、色々とアンダラット先生から聞いていた様で、歓迎された。そして、今回はお兄様が氷魔法を試すので見学に来たと言ったら先生も食いついた。まあ、先生も水属性だからね。
お兄様がコップの水を氷に変えようとするところを、私と先生は固唾を飲んで見守る。お兄様が魔力を活性化し、暫くすると水に氷が浮かんだ。成功だ!
「フィリス、やったよ!水を氷にすることに成功したよ!」
「流石ですわ、お兄様!後は反復練習すれば、様々な魔法が使えるようになりますわ」
「おおっ、本当に氷が出来ている。素晴らしい!わ、私にも、是非やり方を教えて下さい!」
お兄様が反復練習を行う中、私は前世知識を除いて、イメージの所だけをかいつまんで先生に教え、その日の授業は終了した。ちなみに先生は、知識の土台がないにも関わらず、1か月後には簡単な氷魔法を習得したのだから、驚きだ。
お兄様が氷魔法を習得したことで判ったことがあった。それは、水球を的にぶつける時の速度より、氷塊を的にぶつける時の速度が、明らかに大きいのだ。通常の3倍程度の速度で放たれた氷塊は、エネルギーで言えば9倍。それは的も壊れるよね。どうやら、水を氷に変える過程で、更に属性のエネルギーを付加するので、速度を加えやすくなるらしい。
あと、お兄様が、何故水が空気中に現れるのか、今更ながら不思議に思ったようだ。このため、精霊が空気中や地中から水蒸気や水分を集めて水に戻していることを説明した。
風属性の場合は、風や空気塊、真空やかまいたちなどで攻撃する。地属性の場合は、地面から土塊を取り出して飛ばすか、土塊を棘のようにして伸ばしたりするか、落とし穴を作ったりして攻撃する。火属性は、燃えるものに火を付けたり、火属性のエネルギーを塊にして放ったりして、攻撃する。
火属性のエネルギーは、集まると、火属性以外の人でも赤く見えるそうだ。で、同じくらいの大きさの塊をぶつける場合、火が圧倒的に強く、それ以外は使用者の魔力による。今回の氷魔法の威力を見る限り、火属性に匹敵するのではないかと考えているが、その辺りは、コルドリップ先生が検証すると言っていた。
日々の授業や鍛錬は相変わらずだが、王都から帰ってからは週に1回程度、夜に地精霊と感覚共有し、パティの所に遊びに行ったりして過ごした。もう正体を偽ってないので、気兼ねなく会えるし、話もできる。その日もパティの所に行って話をしていて、話題がコルドリップ先生の娘さんの話になった。
「昨日コルドリップ先生の所のネリスリアラさんに会ったのだけれど、フィリスの事を聞かれたのよ」
『どのような事を話されたのですか?』
「何というか色々、根掘り葉掘り聞かれたわ。まあ、変なことは話していないわよ」
『そうですか、御迷惑をおかけしたようですね、申し訳ありません』
「そんなことはいいのよ。悪い子ではなさそうなのだけれど、貴女にとても興味を持っているようよ」
『……良く判りませんが……一度、茶会にでもお誘いしてみましょうか』
「心配な所もあるけど……流石に領主様の御令嬢に手を上げるようなことは無いでしょうしね……」
そんなことを話していた。いい機会だし、今度の茶会にお誘いしてみよう。
暫くして、定例の茶会を開く時に、コルドリップ先生を通じてネリスリアラをお招きしたいと言ったら、娘は大変感激しておりました、と回答があった。……来てくれるってことでいいのよね?
いつものごとく、招待状、服装、会場、茶葉の選定等々を行い、茶会当日になった。今回は初参加の人がいるので少し要領が異なり、ネリスリアラは最後に入って貰い、開催者である私に挨拶して、着席する流れらしい。ネリスリアラ以外はいつもの通り着席し、メイリースに目配せをした。
暫くして部屋の扉が開き、見るからに緊張した感じで少女が入室し、私の席の近くに来た。少女は私に礼をしたので、挨拶をした。
「本日はようこそお越し下さいました。私がクリトファルス・アルカドールの娘のフィリストリアです」
「お……お初にお目にかかりまひゅ……ネリしゅリアラ・コルドリップです……本じ…つはお招…き頂き……感激しておりましゅ」
所々噛んだようだが、最初だしスルーして、とりあえず席に座るよう勧める。ネリスリアラはぎこちなく着席する。私は彼女の緊張を解こうと思い、微笑んでみた……のだが、彼女は硬直してしまった。
「どこかお加減でも宜しくないのでしょうか?」
と、ルカが尋ねた。
「いいえ、いいえ、き、昨日は興奮して寝付けませんでしたが、フィリストリア様のご尊顔を、は、拝見しまして、天にも昇る気持ちです!」
と、顔を赤らめ、興奮した面持ちでネリスリアラが答えた。えーと、どういうこと?
「どうも、ネリスリアラ様は、フィリス様を深く尊敬されているようなのです」
とパティが言った。何それ?
その後、他の方への挨拶もそこそこに、ネリスは王都に住んでいた時から私の噂を色々耳にしており、会いたいと思っていたという話をした。この前の交流会の件も詳細を知っており、しまいには
「フィリス様は至高のお方です!」
とか言い出したので、一度間合いを切るため、お茶のお代わりを持って来させると、流石に止まってくれた。一度、開催者として注意させて頂こうか。
「ネリス様。私の事を慕って下さるのは有難いのですが、時と場を選んで頂けるかしら」
といって微笑んでみた。まあ、この場はこれで収まった様だ。
その後は、私からは積極的に発言しなかったが、ルカとセレナがネリスにいろいろ話題を振ったりして茶会は終了した。ルカとセレナの話には普通に応対してたから、悪い子ではないのだけれど……ねぇ……。
今後ネリスを茶会に招くかは、様子を見ながら……ということにしよう、うん。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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(石は移動しました)




