第405話 魔王との戦い 2
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
魔王は、本体……というより主体と呼ぼう、と左手を同時に操作し、私に攻撃を仕掛けて来た。
今はもう、左手の方もしっかり認識したから、攻撃を躱すこと自体は可能だが、これまで出来ていた魔王への反撃の機会がなかなか取れず、防戦一方の状態になってしまった。
『こわれてしまえ』
魔王は更に攻撃速度を増した。このままではまずい。何か対策を考えないと……。
『愛し子よ、まずは防御に徹し、様子を見るのだ』
確かに、地の大精霊の言うとおりだ。落ち着いて……攻撃を避けながら観察してみると、魔王と左手の間は、細い糸状の魔素で繋がっていた。あれで左手も意のままに操っているのだろう。
まずはあれを風魔法で断ち切ってみたが、切った瞬間は左手の動きが止まったものの、すぐに再び繋がって同様に動き出したので、単純に繋がりを切っても意味が無いようだ。
また、地魔法で壁を作ってみたり、氷魔法で拘束しようとしても、一瞬しか動きを止められない上、殆どダメージも与えられていない状態だった。
ただ、様子を見ていて判ったことがある。魔王の依代となっている人は、これまでずっと呼吸をしていない。やはり彼? は、既に亡くなっているようだ。ということは、依代の肉体は武器や鎧でしかなく、魔王の本体はやはり、魔素の集合体なのだろう。
あのように自在に魔素を操っているのだから、多少分断した位ではすぐに集まってしまうので意味は無い、それどころか多数による攻撃に遭う可能性すらあるわけだ。女王様の言葉にもあったように、真の本体である魔素を属性攻撃によって感化していかねばならないということを、改めて認識した。
一方、主体と左手の攻撃は、現在爪による刺突が主な攻撃で、武術的な動作は無く、基本的に直線的な動きだ。ただし、左手の方は縦横無尽に動き回り、主体の攻撃に合わせたタイミングで後背から迫ることが多い。
いずれにせよ、人の形を取っている分、個人的には主体の方が戦い易いので、まずは左手を何とかしたいのだが……そうだ!
幾度目かの主体と左手の同時攻撃に合わせ、私は避けた瞬間に
「ぇい!!」
武術大会でも使用した、魔力衝猫だましを使った。すると
『むぅ……どこだ』
と、魔王は私を見失った様子を見せた。
恐らく魔王は、人体の感覚器ではなく、全てを魔素で感知している筈だ。そもそも依代を介して情報を入手するというのは非効率極まりないし、あの依代は既に死んでおり、呼吸すらしていないわけだから、感覚器が使えるわけがない。
今肉体が動いているのは、魔素の動きに肉体を物理的に連動させているだけだ。仮に感覚器を使うとすれば、脳やら神経やらも生前と同様に使う必要があるから、細胞が生前同様に動くかどうかや、エネルギー補給の問題なども含めて疑問しか出て来ない。
ということで、魔素による感知を妨害する手段を取ったわけだ。なお、現在の私は、何となく感覚で魔王の存在を認識出来る上、四大精霊と和合していることから全ての属性が認識下に置かれている。それ以外の存在があるとすれば、それは即ち無属性、感化されていない状態の魔素、というわけだ。元々把握出来ていたのであれば、猫だまし程度で魔王を見失うことは無い。
この隙に乗じ、魔王の左手に右手を当て
「はっ!!」
魔力波を叩き込んでみた。すると、魔王の左手は破裂し、破片すらも蒸発するように消えてしまった。
一瞬、人が燃えた時のような嫌なにおいがしたが、それすらもすぐに無くなった。そして、左手に含まれていた大量の魔素も、私の魔力や、魔力波と同時に飛び出した属性エネルギーによって感化され、魔力となった後に飛散し、元の大気中を漂う魔素になったようだ。
やはり、女王様に教えて頂いた内容は正しかったようだ。もしかすると、魔力波を魔王に当て続ければ何とか倒せるかもしれないが、そこはやってみないと何とも言えない。何にしろ、少し勝機が見えた気がした。
一方、魔王はすぐに猫だましの影響から復活したが、左手が無くなったことから一旦距離を取った。そして
『……にくたいなど、どうとでもなる……』
と呟き、何やら失った左手付近に魔素を集中させている。私も下手に攻撃するわけにもいかず、様子を見ていると、左手の付近に周囲の砂などが吸い寄せられるように集まり、暫くすると、円錐状になった。
義手のようなものだろうか。非常に硬そうだし、あれで攻撃されたらひとたまりもないが……魔王として活動している魔素の総量は、先程より減少した気がするので、もしかすると、少しずつ分断して、先程のように魔力波で攻撃していけば、そのうち消滅させられるかもしれない?
試しに、再び風の刃で魔王を囲んで攻撃したところ、上手く逃げられてしまったが、何とか右足に当たって切断することが出来た。今度も隙を見て攻撃しようとしたが
『……』
今度は、右足をすぐに主体に引き寄せ、元通りに接合させたのだ。どうやら、先程のように部分的にでも消滅させられるのは、避けたいようだ。ただし、強引に複数箇所を切断してしまうと、それらから一度に攻撃されたら私の方が対処出来なくなる可能性がある。なので、部分切断については状況を見て判断しよう。
再び魔王が攻撃を開始した。しかしながら、先程と同様の攻撃を繰り返すのみで、私としては対処に慣れつつあるくらいだ。一体魔王は、何を考えているのだろう……?
『……いつまでたえられるかな……』
魔王は、現状での攻撃を継続するようだ。ということは、もしかすると私が疲れるのを待っている? もしそうだとすれば、体力的な面はともかく、魔力面と精神的な疲労を考えると、その対処方法は的確だ。ならば、私の方から積極的に現状を変えていかねば勝てない、ということだ。
現状では、主体が相手だと合気道の技も使えるので、その時その時の対処は容易だ。私も超高速の攻撃に慣れ、自身の動きを、本能でなく意識的に繰り出す技にすることが出来るようになった。
とは言え、今だ根本的な魔王対策は出来ていない。荒魂を使うには、身体に属性エネルギーを貯める必要があるので、どうしても魔王の攻撃力と機動力を削ぎ、大きな隙を作る必要があるが、現状では難しい。魔力波などについても、まともに当てようとするならば、一旦隙を作らなければならないが、猫だましなどへの対策を立てられてしまうかもしれないので、慎重に行うべきだろう。
では……これならどうだ?
攻撃を仕掛けて来た魔王に対し、私はその力を利用して地面に叩き付け……る際に、今度は敢えて関節を極めながら投げたところ、叩き付けられた魔王の右腕から、肘が砕ける嫌な音がした。
通常合気道ではこういう危険な技はやらないけど、そもそも古武術が根本にあるから、出来てしまうんだよね……。しかも私の場合、お父さんやその知り合い達から、そういった技も含めて色々教わったから……使う事になるとは思わなかったけれど。さて、魔王はどのような反応をするだろうか?
魔王を観察したところ、これまで同様、特に痛みを感じるそぶりは無く、少しの間、魔素を右肘に集中させていたが、暫くして、動きを確かめていたので、どうやら元通りになったらしい。
『……むだだ。からだなど、いくらでもなおる』
そして魔王は、攻撃を再開した。痛みを感じない上、あの修復? 能力は厄介だな……。
それからも、襲い掛かる魔王の隙を見つけては、関節技を併せて仕掛けたり、投げる際に頭から落とすように投げ、首を折ったりしたものの、やはりすぐに元通りになった。ただし、身体を修復する少しの間に私が攻撃を仕掛けたところ、攻撃を避けるように間合いを取っていたので、身体を壊されること自体は魔王にとって好ましくない様だ。
このまま同じ攻撃を続けていても、効果は無さそうだし、別の手段を考えないといけないだろうが……待てよ?
今まで魔王は、壊れた部分に魔素を集中させて修復していたが、関節が言うほど簡単に修復出来るだろうか? 見た感じ、機能は完全に元通りだが、そもそも肉体には筋肉や骨、血管や神経などが、さながら絡み合うように複雑な構造を形成している。
単に物理的に操っているだけとは言え、あそこまで元通りに動かせるようにするには、非常に精密で高度な魔素の操作を行わなければならないのではなかろうか。あれは魔王だから簡単そうに行っているが、常識的には不可能だしね。
つまり、魔素を操る環境を変化させ、魔素の動きを阻害することが出来れば、あるいは……?
そう考えた私は、こんなこともあろうかと準備していた、とある物を使ってみようと、行動を開始した。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。