第402話 魔王誕生に関する神託と試練 3
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精霊界に転移した私は、執事風精霊に案内され、以前訪れた事のある精霊女王様の館の、謁見の間に入った。当然そこには、精霊女王様がいたわけだが……堅苦しい話を好まない女王様がこちらで話をするということは、重大な話をしてくれるのだろうと考えながら、女王様の前で跪いた。
『面を上げよ』
「精霊女王様、フィリストリア・アルカドール、参上致しました」
『フィリストリア、よく来た……と言いたい所だが、先程我の所にも話があってな。これからお主に、試練を与える』
「試練……で、ございますか?」
『そうだ。魔王討伐の為、お主の力を向上させねばならん』
なるほど、そういうことか……恐らく女王様は、神様からの指示があって、私に試練を課す、というわけだ。確かに話を聞いた限りでは、今の私が魔王を相手にして勝てるとは思えない。さりとて、その「試練」というものがどのようなものか判らないと何とも言えない。話の続きを聞こう。
『そもそも今回、お主に討伐の命が下った理由から話すか。……説明せい』
そしていつもの様に、女王様は長くなりそうな説明を執事風精霊に振った。
『承知致しました。説明させて頂きます……』
それから執事風精霊の話を聞いたところ、なるほど、と思わされた。
魔王の能力のうち、最も警戒しなければならないのは「魔素の支配」だ。この能力により、全ての魔素を含む存在を破壊出来るため、殆どの存在は魔王に対抗することが出来ない。神様が生んだ四龍すら、身体に感化されていない魔素が含まれているため、地形を利用して相討ちに持ち込まないと倒すことは出来なかった。
しかし、この世の中で魔王が破壊出来ない、魔素を含まない存在が基本的に2つあって、1つは魂、もう1つは精霊だそうだ。そして、私が和合を行った際も、体内の全ての魔素が感化された状態の属性魔素、即ち「魔力」となることから、魔素の支配によって破壊されることは無くなる、という話だった。
つまり、和合した状態の私であれば、少なくとも対抗することは可能、ということだ。
そして、どうすれば魔王を倒せるのか、という話になった。魔王は、人の形を取っているものの、魔素が人体を乗っ取っている状態らしく、どれだけ人体を破壊しても意味が無く、神剣の力で魔素を霧散させるか、魔素を感化して魔力に変換することでしか、倒せないそうだ。
「どのように魔王が纏う魔素を魔力に変換するのでしょうか?」
『最初の魔王との戦いの際の記録ですが……精霊が操った属性力を当てたところ、表層だけは感化出来たようですが、元々膨大な魔素で構成されている魔王の身には殆ど効果がありませんでした。一番効果があったのは『龍の息吹』です。あれにはさしもの魔王も大きな痛手を受けたそうです』
まあ、今でもあのような跡が残るような力だからね……。しかし、それでも倒せなかった魔王をケアルフィ山の火口に落とし、膨大な火属性エネルギーを使って消滅させた、ということか。
「しかし、私にはあのような強大な力はございませんが……」
『そこで、今回の試練の話に繋がるのです。時にフィリストリア様、貴女は『龍の息吹』に似た技を使うことが出来ると伺いましたが……』
「ええ。全身を精霊と同調させている時に、周辺の属性力を取り込み、自身の魔力と融合させて放ちます。『荒魂』と称しておりますわ」
『その『あらみたま』ですが、現状では単一属性のみで、四属性全てを含ませることは不可能と伺っております』
「勿論、全身の同調の際は単一属性ですから……まさか!」
『お察しの通りです。今回の試練は、一度に全ての属性の精霊と同調するために、必要な事なのです』
同化であれば現在でも全ての属性同時に行うことは可能だが、それでは私の身体に魔素が残るし、荒魂レベルの攻撃も出来ないから、和合でないと意味が無いわけだ。
「単一属性では魔王は倒しきれないが、全ての属性による攻撃だと倒せる、ということでしょうか?」
『その通りです。魔王は、人の身体を依代にすることで、属性力に抵抗する力を高めているのです』
魔素単体だと、属性エネルギーに接触すると簡単に影響を受けるが、人の身体を介した場合、そう簡単にはいかなくなる。身体は全ての属性が混ざっている状態なので、単一の属性エネルギーを当てても、毛髪などを除き、簡単には感化されない状態になるが……その性質が利用されているということか。
『従って、全ての属性力で同時に攻撃を行うことが、最も魔王に効果がある、というわけです』
それも恐らく私にしか出来ないよね……各属性の精霊導師がいれば、まだ何とかなったのだろうけれどね……神様が私に期待して、神命を下したのは、良く判った。責任重大ではあるけれど、逆に諦めがついた、といったところだ。
『そこで、じゃ。フィリストリアよ、『始まりの地』に向かえ』
「女王様、『始まりの地』とは?」
『『世界の果て』と対を為す地じゃ。フィリストリアよ、我が許可するまで、其処の中心地に居れ』
女王様が執事風精霊に視線を移したところ、執事風精霊は、球状の物体を持って来た。どうやら前世で言うところの、地球儀らしい。そこには現在の世界各国の名前は記載されていたが……。
「その『始まりの地』とは、どの場所を指すのでしょうか?」
『まあ、それを理解するのも、試練のうちじゃ』
女王様は始まりの地がどこにあるのか、教える気は無いらしい。ということは、先程の説明から類推しないといけない、ということか……。
「『世界の果て』は、極北の地にあると伺いましたが……」
『フィリストリア様、『世界の果て』は、この付近になります』
神域長様から説明を聞いた時は「極北の地」と言われたので、北極付近というイメージを持ったのだが……この世界、フィアースにおいては、地球で言う北極・南極にあたる場所には、複数の島が存在するとされているが、年間を通じ厚い氷に覆われているところも多い未開の地であり、現在それらの周辺地域の情報で解っている内容は、基本的には過去の神託などから得られた知識と聞いている。
そして執事風精霊の指した地は、北極点に近いが、少し外れた所だった。そこが「世界の果て」だとすると、対を為すという「始まりの地」は、通常考えるなら、反対側にあるわけだけれど……経度的に反対側なのか、それとも球の反対側なのか、それらは全く関係ないのか……少し考えてから、私はある事に気付き、女王様に聞いてみた。
「女王様、恐らくですが『始まりの地』は、ここではないかと推察します」
『ほう? 何故じゃ』
「『世界の果て』は、羅針盤が指す方向と考えられます。従って『始まりの地』は、その反対側でありましょう」
『正解じゃ』
「世界の果て」は、何となく磁北にあたるような気がしたので、「始まりの地」は磁南にあたるのだろうと予測したのだ。どうやら当たっていたらしい。
『世界に漂う魔素は、浮遊しているように見えて、実は全体的には少しずつ流れておる。その全体の流れで見るところの魔素の湧出地点が『始まりの地』であり、終着点が『世界の果て』なのじゃ』
つまり、魔素は全体の磁力線に乗って少しずつ移動しており、磁南、即ちN極である「始まりの地」から出た磁力線に乗って、最終的にS極である「世界の果て」に辿り着くのだろう。
『魔素は意志を伝達する媒体じゃが、実はその意志は、薄れながらも残留しておる。そしてそれらの意志が集合し、『世界の果て』では、人が持つあらゆる感情が入り乱れておる。故に、本来魔物になることのない、人をも狂わせる地となっておるのじゃ』
なるほど、通常であれば人は魔物化しないところ、世界の果てでのみ魔物化するのには、そのような理由があるのか……。
『一方、『始まりの地』から湧出する魔素には、人の意志は含まれておらん。じゃが『世界の意志』を最も感じることが出来る。フィリストリアよ、『始まりの地』で、世界の意志を感じるのじゃ』
恐らくその「世界の意志」を感じることこそ、全ての属性の精霊と和合するための条件なのだろう。
「女王様、その試練、有難く受けさせて頂きます」
『よくぞ申した。では、行くが良い』
「承知致しました。ただ、カラートアミ教の方々に連絡をお願いします」
『神子には話を通してある。ああ、フィリストリアを近くまで送ってやれ。ではな』
こうして私は試練を受けることになり、執事風精霊に付き添われて転移した。
『では、フィリストリア様、この先に見える山の頂上が、恐らく『始まりの地』となります』
「有難うございます。では、『始まりの地』に向かいます」
執事風精霊と別れ、私は目の前にそびえる山の頂上を目指し、歩き始めた。
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