第401話 魔王誕生に関する神託と試練 2
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神託が開陳される場所といえば、通常は謁見の間だと聞いているが、今回については全世界が対象ということで、各国の王達が神域に集まるそうだ。もしかしてそのような中で神命を受けるのかと思うと気後れするが、それだけ重大な事なのだろうから、平常心で行動しよう。
神託開陳に参加するのは、陛下、王太子殿下、宰相閣下や外務・財務・国防・法務の各大臣らしく、続々と王城の集合場所に集まって来る。皆、突然の神託に戸惑いを隠せないようだ。移動用・警護用の空動車も現れ、私達は警護対象用の空動車に乗った。リーズは警護用の方に乗せて貰っているようだ。
陛下と王太子殿下が乗車し、大聖堂までの移動が始まった。とは言ってもこれは空動車なので、数分もあれば大聖堂に到着するが……空動車が動き出したところで、陛下が話をされた。
「皆、聞け。此度の神託だが……参集範囲からすると、恐らくは『魔王』関連だ。王家には代々伝わっておるが、知らぬ者もおるだろう。神託を良く吟味し、今後の活動の指針とするので、心せよ」
なるほど、魔王関連の情報は、王家にも伝わっていたのか……。
事前の情報が無い状態でいきなり魔王の話などされても、現実味が無いからとまどってしまうよね……恐らく陛下は、未曽有の危機に対し、少しでも有効に対処できるよう、示唆を与えてくれたのだろう。皆、短く応答し、とまどいながらも今後の行動を考え出したようだ。
そうだ、折角の場だし、私の方からも報告させて貰おうかな。
「恐れながら陛下、発言宜しいでしょうか」
「うむ」
「先程、精霊女王様より、魔王が誕生するとのお話がございました。また……私にも、何らかの神命が下るようですが、まずは神託を受けよ、とのことでした」
「そうか……神命を完遂出来るごとく、尽力せよ」
「御意」
車内なので簡単に報告させて貰ったが……近くに座っていたお父様が何とも悲しそうな目で私を見ていたので、微笑んでみたが……恐らく心配してくれているのだろうけれど、私は精一杯やるしかないし、どうなるかは判らないから、それ以上は何も言えなかった。
大聖堂に到着し、大司教台下の案内で神域まで転移した。
転移門は高位神職者が使う分には殆ど魔力を使わないそうなので、魔力切れになることはなく、そのまま案内されて教主殿に隣接している建物の中に入った。
平屋だが中は非常に広く、多数の席が用意されていた。私達は席まで案内されたが、他の所を見ると、既に数か国の国王や重臣達と思われる人達がいた。
私が会った事のある人達はいなかったが……暫くすると、謁見したことのある方達も揃い始め、全員が揃ったところで、教主猊下が書簡を持って入場した。恐らくあの書簡には、神託の内容が書かれているのだろう。
教主猊下は部屋の中央に位置し、書簡を開いた途端、何とも表現し難い偉大な力のようなものが部屋全体を包み込み、私達は全員、跪いた。
【程無く魔王が誕生する。王は、魔物の騒乱に備えよ】
集まった全ての王は、跪きながら
「神の導きのままに」
と応えていた。だが、まだ神託は続くようだ。
【魔王討伐は、精霊を導く者に委ねよ。その際、教役者は助力せよ】
ん? これは……精霊を導く者、とは恐らく私のことなのだろうが、微妙に神託の対象者は私ではないらしい。というのは神域長が神託に応じていたからだ。なお「教役者」というのは、神様から見た、教主猊下以下のカラートアミ教神職者達のことだそうだ。
神託が終了し、神様の威圧のような力が消えた。皆が跪いた状態から元に戻る中、書簡を閉じた教主猊下が
「ロイドステア国精霊導師、フィリストリア・アルカドール殿、こちらへ」
と私を呼んだ。ここで神命を賜るのだと理解した私は、教主猊下の前で跪いた。
「ロイドステア国精霊導師、フィリストリア・アルカドール、馳せ参じました」
「先程の神託の通り、今代の精霊導師たる貴女には、魔王討伐の神命が下りました」
「全身全霊を賭け、賜りし命を果たします」
「また、只今をもって、我々が貴女の神命遂行を補佐します。神の導きのままに」
「神の導きのままに」
そこで神託は終了し、教主猊下は退出したので、私も元の席に戻った。
その後、魔王という存在と、魔王が引き起こす現象について、神域長から各国王達に対して簡単に説明された。
魔王とは、ある特殊な条件で人が魔物化した存在で「魔物の王」「魔素の王」という意味らしく、魔王が誕生すると、世界中の魔素が活性化し、動物達の魔物化が格段に進むそうだ。つまり、世界中の多くの地域で魔物暴走が発生する可能性が非常に高まるということだ。
また、魔王については、基本的に魔力が高い場所、即ち人の集まっている所などに向かう習性があるそうで、それを利用して誕生直後に倒すことで被害を最小限に抑えたい、という話があった。その要領については、後で教えて貰わないと。
説明を受けた皆は、一目散にそれぞれの国へ帰って行った。まあ、実際に魔王が動き出すのがいつになるか判らないし、被害を最小限にするためには一刻も早く対策を取らないといけないから仕方が無い。
しかしながら私は、神命があるため神域に残留することになった。
陛下達が少し時間を下さったので、お父様やリーズと、最後になるかもしれない言葉を交わした。
「フィリス……その重責、軽減してやれぬ父を許してくれ……」
「お父様……私が帰る地を、守って下さることが、何よりの助けになりますわ。お母様、お祖父様、お兄様、お義姉様、その他の皆にお伝え下さい。私は必ずや神命を果たして帰る、と」
「有難う……お前を娘に持てて、私は幸せだ……」
「リーズ……貴女が私の専属になった時間は短いけれど、とても成長したわ。特に魔力を使用する技術は大したものだわ。貴女の力を、魔物対応に役立てて頂戴」
「お嬢様……! お嬢様なら必ず魔王を討伐出来ます! お帰りになりましたら、また様々な事を教えて下さい!」
「ええ、貴女も更に腕を磨いておきなさいな」
時間が無いためあまり話す事は出来なかったが、別れの言葉を交わし、お父様達は帰っていった。正直急な展開に心が追い付いていない面もある。しかし、皆の命が懸かっている。やり遂げる以外に道は無いのだ。それに……ヴェルドレイク様に、また会いたいからね!
皆と別れてから、私は神域長から、カラートアミ教が持っている魔王に関する情報を聞いた。
魔王は、前世で言う北極付近にある島「世界の果て」で誕生するのが判っており、常時神官兵が見張りをしていたものの、その中央付近は超高濃度の魔素溜まりとなっており、生物が生存することはおろか精霊さえも近付けぬ場所と言われていて、一旦侵入されてしまうとどうにも出来ないということだった。
建物で封印しようにも工事が難しい上にすぐに倒壊してしまうので、出来る限り人が近付かないように、魔王に関する情報を制限しているのが現状らしい。しかし誰かが何らかの理由で世界の果てに侵入した結果、魔王の素体となってしまうようだ。
伝えられているところによると、世界の果てに飲まれた後、暫くの期間を経てこの世界に誕生する魔王は、既に人としての人格は無くなっており、通常の魔物と同様、人を見ればすぐに攻撃する、破壊衝動に支配されたような存在になっているそうだ。
また、最初の魔王誕生を切っ掛けに、神様が考えた対策の一つが、カラートアミ教の創設だったらしい。このため、カラートアミ教の使命の一つに「魔王討伐」があり、魔王に関する情報を多く保有するとともに、2回目・3回目の魔王誕生に際しては、多くの殉教者を出しながら魔王を討伐したらしい。
私はふと気になって、来光軍は魔王討伐を行わなかったのかと聞いてみた。すると
「来光軍が討伐しようとした時もありましたが……全く歯が立たなかったそうです」
詳しく話を聞くと、魔王は来光軍より速く動き、人間を易々と切り裂く身体能力を持っているとともに、どれだけ攻撃を受けても、四肢が欠損しても、首が刎ねられても死ぬことはなく、すぐに復活するそうだ。
そして最も恐ろしいのは、魔素を操ることによって、魔素を含む物質全てを破壊出来るらしい。全ての物質に魔素は含まれている筈なので、魔王は基本的に無敵の存在ということだ。
「私は、来光軍すら敵わぬ存在に、勝てるのでしょうか……? そもそも、そのような存在をこれまでどうやって討伐したのでしょうか?」
「それは……神より賜りし神剣の力を解放したのです」
その「神剣」を使うと、周囲の魔素が霧散するそうだ。そうすると、魔王は力を失って消えるが、その範囲内にいる人間についても、魔素の急激な消失に耐えられず、死に至るようだ。
それと、魔王が誕生した直後に、その神剣を所持した者を、比較的世界の果てに近い位置にある無人島に配置し、その場に高魔力の人間を多く配置することで、魔王をおびき寄せるそうだ。
その無人島には、魔力を一時的に大きく見せる仕組みが施してあり、それなりの魔力を持つ人間が一定数集まれば、間違いなく魔王はその島にやって来るそうだ。
「所で……精霊導師殿の魔力量は、どの程度なのでしょうか?」
「私の魔力量は……53万です」
先日魔道具研究所準備室で測った結果を告げると、神域長は驚いたようだ。
「実は、配置する人間の魔力量の合計は、50万を基準としておりましてな……」
つまり、魔王をおびき寄せるのに必要な魔力量は足りている、ということか……もしや、神様は、単に少ない犠牲で魔王を倒せるからという理由で、私を選んだのか?
私が神命に疑問を覚えそうになった時、目の前に精霊が現れた。彼? は、精霊女王様に仕えている執事風精霊だ。ということは……
『フィリストリア様、女王様がお呼びです。魔王討伐に関する件で、話したいことがあるそうです』
「承知致しました。神域長様、精霊女王様が、魔王討伐に関する件で私をお呼びになっているそうですわ。直ちに精霊界に向かいますので、皆にそうお伝え下さい」
私はそう言った後、執事風精霊によって、精霊界に転移した。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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