第400話 魔王誕生に関する神託と試練 1
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暫くは平穏な日々が続いた。業務的は大きなものは無く、精々来年の予算審議関連の調整が忙しかったくらいだ。
その間、サウスエッド国との人事交流支援などや、国軍総合演習視察、海兵団の新型艦の進水式参加などもあったし、美髪魔道具の実用化などもあったが、それらも終わり、12月に入った。
今年魔法学校を卒業する従弟のセディは、希望通り飛行兵団に入団することが決まり、早速挨拶に来てくれた。
格好良い所だけではなく大変な所も沢山あると思うけど、頑張るようにと、その時は祝福と激励の言葉を告げたのだが、休日にビースレクナ領で魔視攻の練習を行っていたところ、最近魔物の活動が活発になっているという話を聞いて、何となく不安を感じていた。
そのような中、業務中に突然精霊女王様から念話が届いた。
『フィリストリアよ、重要な話がある』
『女王様、何用でしょうか?』
女王様の念話は基本的にこちらの事情を考えているわけではないのでいつも突然なのだが、雰囲気から、とても深刻な話であることは理解出来た。
『先程、神託があった。魔王が誕生するようだ』
『魔王? まさか、今の世に魔王が現れるなど……』
以前火龍様の所で話を聞いたことがあるから、おとぎ話ではなく、実際に存在していた事は知っているが、まさか魔王が現れるとは、思ってもいなかったので、動揺してしまった。
『神託の内容は事実。そして、魔王誕生に際し、お主に何らかの神命が与えられるようじゃ』
『そんな……女王様、神命の内容は、御存じでしょうか?』
『それは我からは伝えられん。程無く、お主にも神託が下るじゃろう』
……確かに、神託というものの性質を考えれば、いくら女王様とは言え、内容を勝手に話してはいけない筈だ。
『承知致しました。伝えて戴き、有難く存じます』
『フィリストリア、覚悟を決めよ。ではな』
女王様は念話を切った。
恐らくは、私が突然神託を受けても困らないように、予め連絡をしてくれたに違いない。有難いと思ったものの、内容が内容だけに、神命がどのようなもので、そして、私に達成出来るものなのか、それらを考えることで頭が一杯になった。
魔王については、火龍様から話を聞いてから、私の方でも気になって色々調べてみたが、基本的にはおとぎ話の内容くらいしか判らなかった。
恐らくは王家の禁書庫か、カラートアミ教の上層部には何かしらの情報があるのだろうが、何も無いのにそんなことを聞いても不審に思われるだろうから、聞けていなかったのだ。聞いておけば良かったと思ったが、最早後の祭りだろう。
ともかく、現時点では魔王について知っていることは、火龍様に聞いた内容か、おとぎ話くらいしか無い。その中で、魔王に対して私が与えられる仕事とは何だろうか?
魔王討伐……は、火龍様が相討ち同然のことを行ってやっと倒したという相手を、私が倒せるのかというと正直疑問だ。
それと、確かおとぎ話に出て来たのは、100名の神官が犠牲となって、神から与えられた力をもって魔王を滅ぼしたという内容だったが……もしかして私にその役をやれ、というのか?
そう言えば以前、18才まで結婚するな、という神託を賜ったが、あれはもしかするとこのためなのか?私が18才になるまでの間に魔王が誕生する可能性が高いから、現状のまま待機しておくように、ということだったのだろうか?
突然起こった重大事に、私は平常心をすっかり忘れ、混乱していた。
「導師殿……導師殿! 顔色が悪いが、どうされたのですか?!」
気付くといつの間にか執務室にヴェルドレイク様が入ってきており、話し掛けられていた。
「……ワターライカ伯爵……何故ここに?」
「政府への定期報告を終え……魔石貝の研究の進捗を貴女に報告するために来たのですが、呼んでも反応が無く、執務室を見てみると、貴女の様子がおかしかったので、許可を得ず入って来てしましました。申し訳ありません。ですが一体、何があったのですか?」
ヴェルドレイク様の顔を見て、思わず私はヴェルドレイク様の胸に飛び込んでしまった。
暫くして落ち着いた私は、ヴェルドレイク様に相談した。
「近々、私に重大な仕事が与えられるという話を、ある方から聞いたのですが、私はどうすれば良いのでしょうか?」
「その仕事を……貴女は断ることが出来るのでしょうか?」
「いえ、無理でしょう……」
「では、引き受けなければならない、ということですね。その仕事は、達成出来るものなのでしょうか?」
「判りません……」
「達成できない場合は、どうなるのでしょうか……?」
「多くの国々や、人々が犠牲に……もしかすると、世界が滅んでしまうかも、しれません……」
私のその言葉を聞いて、ヴェルドレイク様は一瞬表情を固くしたが、すぐに元の優しい表情になった。
「では、貴女は、どうしたいのでしょうか?」
「勿論! 人々を、世界を、守りたい! でも、私に、出来るのでしょうか……?」
「……成程。貴女は、ただ、自身の状況に不安を感じているだけです。どうすれば達成出来るのか分からない仕事、しかしそれは世界の命運を賭けたものだ、というのであれば、不安に思って当然でしょう。貴女とて、一人の人間なのだから」
「そうかも、しれません」
「ですが、私は貴女を、信じます」
穏やかだが、力強い言葉。
「何故……ですか? 私が、精霊導師だから?」
「勿論それもあります。ですがそれ以上に、貴女という一人の人間を、信じている」
「……もし、私が失敗して、死んでしまったら?」
「その時は、私も共に、神の御許に召されましょう」
いつもと変わらない口調で、表情で、そんなことを言うヴェルドレイク様。一言一句、嘘など言っていないことは、伝わって来る感情からも明らかだ。胸が高鳴る。
「どうしてそこまで……」
「貴女がいない世界など、私には、何の意味も無いからですよ」
その言葉の意味、そしてその想い……私は、それを、嬉しいと、思ってしまっている……!
「……有難うございます。必ずや、応えて見せますわ!」
自分の気持ちに気付いてしまった。だからこそ、神命を果たさずにはいられない。そうでなければこの世界が終わってしまうのだから。
「ふふ、それでこそ、貴女だ……」
今度は別の意味で落ち着かなくなりそうなところに、ノックがあり
「導師様! これから緊急の神託がございます! 直ちにお越し下さい!」
と、ニストラム秘書官が入って来た。そうか、これが例の神託か! まずは聞いてみないと何も解らないのだから、聞いてからあれこれ考えればいい。
「ワターライカ伯爵、御相談に乗って頂き、感謝致しますわ。私は行かねばなりません!」
ヴェルドレイク様は、得心がいったような表情をした後
「ええ、気を付けて……」
と、いつもにも増して素敵な微笑みで、私を見送ってくれた。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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