第399話 ●●●●●●視点
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
「あの話は本当なんだろうな……嘘だったら酷い目に遭わせてやる……」
俺達は古い羅針盤を見ながら、船に乗って北の方角へ進んでいた。
北の果てにはとんでもない物が隠されているという話を聞き、一攫千金を狙っているのだ。船に揺られていると、ついつい昔の事を思い出してしまうが、今は何もやることが無いからな……。
そもそも俺は、それなりの良家の出で、両親や親戚などの伝手を頼っていれば楽に暮らせる……筈だった。それが一変したのは、俺が所属していた部隊が隣国に攻め入った時だ。
俺はその時歩兵の小部隊を指揮していたが、まるで災害に遭ったかのように為す術も無く行動不能に陥った。今でもその時の事は覚えている……一人の小娘が、信じられないことに竜巻を発生させて、俺達を吹き飛ばしたのだ!
そんな化物に俺達なんぞが叶う訳も無く、司令官が捕縛されて退却する羽目になった。あの司令官にも伝手があったから、もっと出世できたかもしれんが、今更な話だ。
不幸中の幸いか、軽傷で済んだ俺は帰国したが、財政が厳しくなったことから部隊は縮小され、俺は無職になった。その後は家に金をせびりつつ、酒場で飲み明かす日々が続いた。そんな暮らしを何年か続けていたところ、とうとう家から愛想を尽かされたらしく、金を貰えなくなった。
ただし、働き口を用意され、成果を出せばまだ籍は置いてやる、と言われたので仕方なく、斡旋された開拓村の経営に乗り出した。この村は、敗戦後にやることが無くなった余剰兵達に開拓させて作られた村の1つで、かつての俺の部下も働いている。
未開拓だった北部大森林の開拓は、厳しい気候に加え、魔狼などの魔物に襲われるためかなり危険な仕事であったが、皆生きるために必死になって働き、ある程度の耕作地が出来たらしい。
この数年の生活で、元兵士なんだか野盗なんだか判らない荒くれ者になっていた開拓民にどやされながら、作物を生産しつつ開拓を更に進めていった。
この国は北にあるから他の国より寒冷で作物もあまり育たない。黒麦などを作りつつ、家畜用に馬鈴薯や甜菜を作るのが通例だが、最近、食用になる馬鈴薯が入ったらしく、俺達の村では新しい馬鈴薯を作ることにした。
聞いた話では、隣国で品種改良された種らしく、間諜が盗んで来たことからそれが判ったそうで、俺達が空腹に耐えかねた時に、腹を壊す覚悟で口にする馬鈴薯が、隣国では普通に食料になっていて、しかも結構美味いらしい。俺達が苦しんでいる時に隣国では上手くやっていたのかと考えると腹が立つが、有用な物は使うべきだろう。
こうして俺達の村は、たまに襲来する魔狼を討伐しつつ、何とか開拓を進めていった。生活は苦しかったが、食べる物は何とかなったので、野盗に落ちることも無かった。まあ、襲う相手もいなかっただけだがな。
たまに追加の人員がやって来ることもあったが、成人したはいいが働き口の無い若い男くらいしか来ない。どうせなら女を寄越せばいいものを……と思いつつも、当然働かせた。
酒も娯楽も少ない中、唯一の楽しみは、少し離れた所にある港町に馬鈴薯を出荷する事だった。何せあそこには酒もあれば女もいるからな。出荷に行く順番を巡って殴り合いの喧嘩も少なからずあったが、仕方が無い。
そんなわけで時々は港に遊びに……ではなく、馬鈴薯を出荷していたんだが、その際、悪い遊びを覚えた奴がいた。麻薬だ。話を聞いた限りでは、娼館の女が使っていて、一緒に使ったそうだ。
大麻という種類だそうで、言葉に出来ないような快楽が得られるらしいが……確かカラートアミ教が禁止している筈だよな……。何で娼館の女が使っていたのかは知らんが、不味いと思ったので、その娼館には行かない様、皆に注意した。
国全体が貧困であえぐ中、たまに噂で隣国の様子が流れて来るが、俺達とは全く違う豊かな生活が送れているようだ。そのため、この国で暮らせなくなった奴らは一縷の望みを抱いて隣国へ向かおうとするそうだが、基本的には移民は許可されていないため、街道経由で入ろうとすると国境で追い返される。
だから監視の目が行き届かない山道を利用するようだが、途中で魔物に襲われたりするので命懸けだ。今も結構な数の間諜が潜り込もうとしているが、殆ど排除されているらしいから、隣国側も警戒しているだろうし、一体何人が隣国に辿り着けたのか、俺達には知りようが無い。
そもそも生活基盤が無い中、隣国でまともに生活できるかすら怪しいし、捕まって不法入国の咎で処刑される可能性もある。まあ、俺達はただでさえ許可なく開拓地を離れると罪人になるから、そんな割の合わない賭けに乗る奴はいなかったが。
そんな中、俺は馬鈴薯の出荷の為、港町に来ていた。当然馬鈴薯を売った後は遊んだわけだが……これが良かったのか悪かったのか、危険な娼館は避けた筈だったが、別の娼館でも麻薬が流行っていて、ついつい一緒になって騒いじまった。確かにあれは、言葉にしようがない。
で、その時国軍による麻薬の一斉摘発があって、俺も捕まりそうになったんだが、逮捕者が多すぎたらしく、結構な人数が逃亡し、俺もその流れに乗った。捕まりゃ死ぬまで強制労働らしいから、逃げる以外の選択肢は無かった。
その際どこへ行こうか迷ったが、いっそのこと船を使って国から出ようと考えた。隣国に逃げるには国を縦断しなきゃならんからな。そんな距離を逃げ切れるわけがない。なら、海に出るまでだ。
そして、同じ娼館にいて一緒に逃げていた開拓村の奴らと話し合った結果、小船を奪って沖に出ることに成功したってわけだ。当てもなく海を彷徨っても死ぬだけだが、他にも一緒に逃げた奴の話に乗ることにした。
そいつは船乗りだったんだが、噂では北の果ての地でカラートアミ教が何かを隠しているらしく、そこにはとんでもないお宝が眠っているという話で、一生遊んで暮らせるらしい、ということだった。
北の果てには何があるのか分からんが、行ってみる価値があるような気がした。まだ冬にはなっていないが、この付近は既に肌寒く、もう少し時期が遅かったら間違いなく吹雪いていたが、まだ動ける範囲内なので、行けるうちに行ってみようという気になった。
そして現在、船に揺られている、というわけだ。
数日後、いい海流に乗れたからか、予想より早く陸地に到着して、北を目指して歩き始めた。だが、途中で狼の群れに襲われ、身体強化を使いながら逃げたり、襲い掛かる狼を追い払ったりしているうちに他の奴等とはぐれてしまった。
その後、何日か歩いた後、周囲とは全く雰囲気が違う施設を発見した。噂は本当だったのかと喜びつつ、神官兵らしき人影が見えたので、一旦様子を見ることにした。
この地に来るまでは、気温が低くて動かなければ凍えていたのだが、この付近は不思議と気温が高く、雪なども積もりそうになかった。おかげで身を隠している間も凍えることが無く、夜を待ってから施設に忍び込んだ。
施設は、外壁に囲まれていたが、俺は地魔法が使えたので、手足を掛けられる場所を作りながら暫く登り続け、何とか外壁を登り切ることが出来た。そこから周囲を確認し、人がいないことを確認するとともに、内側に降りる階段を発見した。
外壁の上から見たところ、この地は外壁で大きく囲ってはいるものの、壁の内側には殆ど何も無かった。神官兵の待機場所らしき施設がある他は、何も見えなかった。
財宝があるという話は嘘だったのだろうか、しかし、こんな外壁を作ってまで警備をしているのだから、何かしら重要な物はある筈だと思い、階段を降りて敷地内を探すことにした。
敷地内にも人の背丈くらいの柵があったが、周囲を確認しつつ登って乗り越え、更に内側に入って探した結果、底が見えない巨大な穴だけがあることが判った。月明りのみだったから良く見えないだけだと思っていたのだが、本当に何も無かったのだ。
これまでの苦労は一体何だったのかと落胆した時、蓄積した疲労が一気に襲って来たのか足元がふらつき、俺はその穴に落ちていった。
急斜面の様な所を暫く転がり続けた後、全身を大きな衝撃が襲った。
穴の底に打ち付けられたのだろう、身体のあらゆる箇所が激痛を訴え、俺は考えることすら出来なくなった……だが、何だこれは?!
良く判らない感情や記憶がどこからか沸いて来る! 頭が割れる! ぎゃああ! やめてくれーっ!
身体の内側からあらゆるものが噴出する様子を幻視し、意識を失った。
俺はどこで道を間違えたんだろうな……。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。