第397話 不思議な貝は「魔石貝」と名付けられた
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9月に入った。精霊課の方では魔法兵団との協同訓練をやっているが、私については以前から要請のあった、ワターライカ領の開発支援に行くことになっている。とは言っても今回は、貝の研究に関するものが多いらしい。あれからどのように変化したのか、楽しみだ。
転移門を使ってワターライカ領にやって来た。まずは案内を受け、ヴェルドレイク様の所に向かった。領行政舎の方に到着し、会議室で挨拶を行った後、現状の話を伺った。
「では、現在行っているのは、稚貝の育成と、魔石の核の検討、核を挿入する位置の検討ということですわね」
「はい。稚貝は順調に育っており、そのうち生育場に移動させることが出来そうです。こちらは後程御覧頂きます。また、魔石の核候補は、魔法銀の欠片、魔石屑、通常の石の行われております。また、核を挿入する位置も、中央、外套膜周辺、生殖巣内の3か所で行っております。真珠と同様だとすると、恐らくは生殖巣内だと思われるのですが、他の場所でも行っております」
「今回、初めて核を挿入した貝の状況を確認することになっているので、導師殿にも確認して貰いたいのだ。本当に魔石が生まれていることが証明されれば、今後も研究が進められるだろう。また、貝の養殖の環境などについても、念の為確認して頂きたい」
「承知致しました」
それ以外にも、耕作地の拡大に伴い、用水路を延長する必要がある箇所が増えているとのことで、そちらについても他の時間に対応することになった。
空動車に乗ってボルク漁港付近にある研究施設までやって来た。施設の責任者らしき人が私達に挨拶して、作業場まで案内してくれた。そこで幾つか現状の説明を受けた。
「現在こちらは9個の水槽がありますが、今回の場合分けに対応して貝を入れております」
素材3通り、挿入位置3通り、合計で9通りの挿入要領を試しているからね……。
「成程。では、核となっている物質を確認せよ」
「承知致しました」
それから研究員達が貝から核を取り出す作業を開始した。貝は水槽に漬けられていたが、取り出されて変わった台に置かれた。その台に魔力を流すと貝が開き、その際にくさびの様に栓をしていた。どうやらあの台は魔道具のようだ。
「あの台は魔道具なのでしょうか?」
「はい。阿古屋貝の養殖業者であった者に確認したところ、核の挿入の際、一旦強く魔力を流すと貝は驚いて口を開けるようでして、それを利用して挿核作業を容易にしております。また、実際に身を切って核を挿入・摘出する時も、継続的に水属性魔力で治癒を行わないと、貝が死んでしまう可能性がありまして、それらをまとめて行えるように、あの魔道具を領主様が開発されたのです。そのおかげで、作業の効率や安全性が向上致しました」
流石はヴェルドレイク様、といったところか。
作業は順調に進み、水槽に入っていた全ての貝から、核を取り出すことが出来たので、皆で確認してみた。
「母貝は全て生存しており、現在は治癒を受けております」
「それは重畳。さて……核であったものは……こ、これは確かに魔石ですぞ! 1か月で結構な大きさになっておりますな。こちらは……やはり魔法銀が魔石の核になるのですな!」
「魔石屑を核としたものも、魔石として成長してはいるようだが……これは駄目だな。魔道具に使用するには脆すぎる。屑が増えるだけのようだ」
「通常の石については、魔石になっておりませんぞ。やはり、核としては魔法銀片が良いのではないでしょうか」
「そのようだな。後は挿入位置だが……中央付近が一番成長しているように見えるな」
「真珠の場合は生殖巣が最適でしたが……魔石の場合は異なる、ということでしょうな」
「……もしかすると、貝の防衛本能とは関係無く魔石が生成しているのではないでしょうか? 魔素を継続的に浴びることにより、貝の身に含まれる何らかの成分が自然と魔法銀に集まって魔石が生成される、とするならば、辻褄が合うような気がしますわ」
「導師殿の仰る通りかもしれない。貝自身が死んでも魔石は生成するのだから、その可能性は高い。そして、貝が生存した場合は、その成分が補充されることから、魔石が大きくなるということかもしれない」
「成程。では、今後は中央付近に魔法銀片を入れることと致しましょう」
「後は……魔石の形を整えるのであれば、魔法銀片は球状にした方が宜しいですわね」
「確かに、魔法銀片の形状は生成される魔石の形に影響を与えているようだ。今後は球状にしたものを挿入しよう」
そのような感じで、挿核の検討結果を分析して、今後の研究を進めることになった。
そして、この貝が魔石を生み出すことが明らかになったため、貝の名称を正式に「魔石貝」として、陛下に報告することになった。今後は魔石貝が、挿核後どのくらいの期間で魔道具に使用可能な魔石を生み出すのか、などの研究を行っていくことになった。
ただし、今回の結果から、概ね半年で実用に足る魔石を生成するのでは、と予想しているので、その辺りも含めて報告しておこう。
なお、養殖中の魔石貝の稚貝についても見せて貰ったが、水精霊に状態を確認したところ、元気に過ごしていると言われたので現状で問題無いようだ。
その他、用水路の延長などを行うとともに、各地で困っていることが無いか、確認していった。
殆どは施設や耕作地の不足だったので、その場で要望に合わせて作っていった。他にも話を聞いたが、品種改良した牧草を植えて牛に食べさせていたところ、牛乳が以前より美味しくなったという話があったので、イネ科の牧草用植物を作って良かったようだ。
それと、地人族の村にも顔を出してみたところ、皆嬉々として鍛冶や採掘を行っていた。精霊酒の製造についても、とりあえずはアルカドール領のやり方を基本にして、更に美味しく出来るように検討したり、材料も大麦だけでなく、米やさつまいもなどでも試しているそうで、様々な酒が出来そうだ。
ただ、味見と称して貯蔵庫に忍び込む者が多いのが困り物だと、酒造りを行っている人が言っていた。まあ、地人族は皆酒好きらしいからね……。
数日かけて領内の様子を確認し、中心都市に戻って来たところ、ついでに都市内で建設中の施設なども案内された。特に目立ったのが、聖堂とイベント会場っぽい広場だった。
聖堂については言わずもがなで、領民の心の支えの一つになるものだから、立派なものを作っているようだ。現在は当初作っておいた仮の聖堂で諸行事を行っているようだが、領民の増加もあって、作り始めたようだ。
あと、広場については、王都多目的催事場を参考として、様々なイベントを行えるように作っているらしい。まあ、領民が増えたら、そういう施設も必要だからね……。
あと、広場の話をヴェルドレイク様に話したところ
「今年はまだ難しいが、来年以降、10月1日に感謝祭を開こうと考えている。その際にはこの催事場を使って様々な行事を行うが……是非貴女を招待したいと思っている」
そういえば……このワターライカ島を誕生させたのは、10月1日だったね……。海底火山が噴火して、大精霊達と一緒に対処したことを思い出し
「是非参加させて頂きますわ」
そう答えた後、暫く領内の話などをして、王都に戻った。
王都に戻った後、陛下や宰相閣下に、魔石貝について報告したところ、大変喜ばれていた。
特に、半年で生成することが出来るならば、他の条件を考慮せず単純に見積もった場合、現在の年間魔石使用量を超える生産能力を持つことになるらしいからね……。今後の国の発展に大きく貢献するということで、少々誇らしく感じた。
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