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第396話 騎士学校で講演を行った

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

収穫祭が終了し、通常の生活が戻って来た。私についても、武術大会三連覇という目標を達成したので、今後は元々の合気道の技に加え、これまで習得してきた数々の技術などを総合的に教本としてまとめ、普及することを新たな目標にしたいと思っている。


合気道は相手と友達になる武道だと言っていた方もいたが、裏を返せば合気道は、孤独に稽古するものではなく、仲間を増やすのも必要だし、ひいては、個人的にもより高みに昇れるのではないか、と考えている。


そういうことで、現在レイテアが騎士学校長の使いとして正式に執務室にやって来ており、その理由が学生への指南の依頼であれば、こちらとしても願ったり叶ったりといったところなのだが……


「この内容ですと、どう考えても導師様の業務ではございませんので、休暇を取って個人的に行って頂くという形にしなければいけませんね」


という、同席したニストラム秘書官の説明があった。まあ確かに、精霊導師としての業務には該当しないね……。


「確かにその通りですわね。では、休暇を頂いても問題無い日の中で調整致しましょう」


「個人への依頼であれば、謝礼も必要ですね。確か騎士学校の基準は……」


といった感じで調整が進んでいった。また、内容についても、まだ流派を設立したわけではないので、武術大会に関連した講演及び簡単な実演というものになった。


講演は月末に行うことになり、それまでの間は業務時間外、王都邸に戻ってから色々準備をすることになった。まあ、個人的なものだから個人の時間で行わないとね……。




月例政府全体会議なども大きな問題無く終了し、いよいよ騎士学校での講演の日となった。


とりあえず1日休みを取っているが、講演は午後なので午前中は講演内容を自室でチェックして過ごし、時間となったのでリーズを伴い、空動車で騎士学校へ向かった。服装は動きやすいように、導師服にしている。


校舎入口まで到着すると、学校長とレイテアが待っており、そのまま学校長室に案内されて講演の時間調整を行いつつ、話をしていた。


「今回は、学生達の為に講演を引き受けて下さり、有難うございます」


「将来ある若者の為になるのであれば、喜んで時間を取らせて頂きますわ」


「そう仰って頂けるのであれば、学生も光栄に思うことでしょう。それと、導師様の講演の話を聞いた国軍関係の方々も、是非拝聴したいと懇願されましたので、別席を設けております」


「それは仕方ありませんわね……」


そんな話をしつつ、時間となったので講演会場となる講堂に移動した。今回は全学生を対象としているらしく、教場では席が足りないということで、講堂になったそうだ。講堂に入ると、聴講する人達が起立して私を迎えた。壇上で礼を受け、着席して貰ったが……確かに学生達だけではなく、国軍の主要な役職の方々もいるし、しれっとお父様もいるよ……まあいいや……。


『日夜鍛錬に励む騎士学校の学生の皆さん、本日は学校長からお話を頂き、私、フィリストリア・アルカドールが『武術大会に参加して得られたもの』と題して話をさせて頂きます。所々で実演を挟むこともありますので、後方席の方は可能であれば、こちらの実演場が見えるような処置をなさって下さいな』


壇上にあった拡声具を使用して、講演を始めた。とはいっても、試合のダイジェストについてはそこまで熱心に語るものでもないだろう。それぞれの対戦相手と決め手について簡単に説明した。


ただし、恐らく判り辛かったであろう、カルロベイナス殿下やラセルグとの試合については、大まかな試合の景況も、ある程度の実演を含め、説明した。まあ、動きが速過ぎたり、魔力関係の技などが結構あったからね……。特に、的などを実演場に設置して行った魔力撃の実演は、かなり反応が良かった。


『私は、結果的に武術大会三連覇という、有難い名誉を頂戴しましたが、参加の目的は、強者との試合を通じ、自身を高めるというものでした。そしてそれは、振り返ってみれば、参加した経験が現在の私の血肉となり、活かされていることから、達成出来たのではないかと自己評価しているところです。皆様も、今後幾度となく対戦・試合を行うことでしょうが、それらを今後の自身の成長に繋げられるよう、励んで下さい』


ここまで話したところで、聴講者達から盛大な拍手を頂いた。さて、ここからは質問の時間だ。


『講師、大変貴重かつ有意義なお話、有難うございました。では、これから講師への質問の時間とさせて頂きます』


なお、事前に学校長から聞いた話だと、野放図に質問を受け付けると収拾がつかなくなることが予想されたため、事前に質問を厳選したらしい。一応リストも見せられたが、まあ想定の範囲内だったので、実演も含めて、回答させて頂こう。


『質問させて頂きます。講師は、閉会式の後のお言葉の中で『力の理が判る』と仰いました。それは一体、どのようなことなのでしょうか?』


この質問だと、合気道の話も出来るから、有難いことだ。しっかり答えさせて頂こう。


『あの時申した『力の理』とは、人体の構造や体勢、力の入り具合、そこに包含される魔力の状態など、それらを制御するための術です。特に、魔力が良く見える状態ですと、それらが概ね理解出来る状態にあります。実際にどういったことを行っているのか、実演してみましょう』


質問した男子学生を、実演のためにマットなどを敷いた所に呼んだ。


『では、私の右腕を、掴んでみて下さい。他の方は、可能であれば、魔力の動きをよく確認して下さい』


「そ、それでは……失礼します」


男子学生が左手で私の右腕を掴んだところで、握る力を利用しつつ、指から手首、肩に続く関節を極めながら、男子学生をひっくり返した。


『と、例えばこのように相手の力を利用しつつ、人体の構造を考慮して力の流れを作ります。この際注意して頂きたいのは、この力の流れに無理に逆らうと、痛みを覚えることです。どうでしたか?』


「は、はい……何だかわけが判らないうちに、ひっくり返っていました」


『また、こういったことも出来ます。では、もう一度、私の右腕を握って下さい』


もう一度男子学生に腕を握らせ、今度はその態勢から、腕を伸ばしつつ私が少し前へ出ることにより、肩を極めてみた。すると、男子学生の動きが止まった。


『どうですか?恐らく動きが取れないのではないですか?』


「は、はい……下手に動くと、肩が痛いので、動けません……」


ここで腕を緩めて極めている状態を解いた。


『と、簡単に実演するとこのような感じになります。解りましたか?』


「……す、すみません、理解は難しいのですが、導師様が凄いことは解りました」


……まあ、こんな所だろう。この学生には降りて貰い、次の質問に移ることにした。




それから、誰が大変な相手だったか、とか、忙しい中どのように鍛錬を行っているのか、なども質問されたので、簡単に答えておいた。さて、最後の質問だ。


『講師は、剣でなく棒を使って出場しておりますが、何故でしょうか?』


女子学生からの質問に


『私は元々、徒手での対応が一番手慣れているのですが、棒の方が体勢を安定させることが出来る上、様々な状況に対応出来ますし、手を延長した感覚で使用出来るため、得物としては棒を多用しております』


『しかし、棒ですと、実戦では剣に斬られてしまいませんか?』


『刃があるからといって、武器として使用されている棒を剣で斬るのは、実は難しいのです。実際行うと、大抵は『斬る』ではなく『折る』ことになってしまいます。そして、棒が折れそうなほどに剣を叩きつけると、通常は棒が手から離れてしまい、斬るには至りません。このように実戦では、棒が斬られる状況は、殆ど発生しないので、安心して使っております。勿論、そのように相手が剣を叩きつけてくる状況は、私にとっては望む所であり、その力を利用して反撃させて頂いております』


そのような事を話したが、反応が今一つなので、一度実際の様子を見せることにした。


刀掛け台のような台を設置して、長い薪をその上に置いた。


『現在帯剣している……そちらの方、こちらにお越し下さい』


丁度帯剣していた国軍関係者に実演場まで来て貰い、実際に薪を斬って貰ったところ……大きな音がして、薪が二つに折れた。


『このように、通常は斬れるのではなく、折れます。そして、折られる際は、強く棒が保持されていなければなりません。通常はその前に棒が手から離れます』


そう説明すると、その女子学生は、理解したようであったが、他の学生達の反応を見ると、決して芳しいものでは無かったので、いっそのこと、本当の「斬る」動作を見せてみようと思った。


『それと『斬る』という動作について、実は誤解されている方が多いのです。通常の剣撃でも物体は分かたれますが、それは『狭い表面積に圧力を掛けることによる切断』であって『斬る』ことではありません。『斬撃』の本質は『摩擦力』にあるのです。その違いを今からお見せしましょう』


先程使用した台の上に薪を立てて置いた。また、先程の人から剣を借りて上段に構え、身体強化によって高速で袈裟斬りを行うと、薪は斜めに斬れ、上半分が床に転がった。暫くして、大きな拍手が起こったが、私は、今斬った薪と先程の薪の断片を、皆に見せるようにして持った。


『今私が行ったのが『斬る』という行為です。先程の方が行ったのは、剣による打撃ですが、私が行ったのは、それに加え、薪に対して刃を手前側に下げるように傾けて当てることで、圧力を摩擦力に変換するとともに、接触の瞬間に引きながら斬ることで、更に摩擦力を加えたのです。それがこの断面に現れている、ということです』


まあ、私の場合、前世では一応居合も嗜んだからね……。日本刀の形状や扱い方、斜面の原理などの「斬る」理論に加え、前世で見た達人の技を分析して、更に身体強化を使った上での運動能力を加えると、日本刀でなくともある程度は再現出来るわけだ。


実は私が棒を持ち始めた頃、レイテア以外にも真剣を持った相手には通用しないと考えた者が周りに多くて、その際に一度やって見せたら、皆何も言わなくなったんだよね……。人が持った状態の、堅い木が材料である棒を剣で斬るためには、特殊な技が必要であり、なかなか出来るものではない、ということに気付いて貰えるからね……。


『実戦の中で、相手が持つ棒を『斬る』という行為を発生させるためには、斬撃に特化した武器と力量差が無いといけません。更に言えば、基本的に私は棒と相手の刃を合わせず、剣撃の勢いを利用するように立ち回ります。それでも斬られてしまうというのであれば、棒云々ではなく、力量が足りないだけですから、ある意味気にする必要が無い、というわけです』


質問への回答が終了し、無事講演を終えることが出来た。学校長達からも改めてお礼を言われ、王都邸に戻った。夕食の際は、聴講していたお父様もいたので、当然講演の話になった。


「正直な所、最後にフィリスが見せた剣技だけでも、聴講した価値はあったぞ。あれを見た皆の呆けた顔が面白くてな……」


「お父様……そのような事を申してはいけませんわ。お父様も、昔私が同じことを行った際に、同じような顔をされておりましたもの」


「そうだったか? だがまあ、今回講演を行ったことで、ある程度は国軍の者も収まりが付いたようだ。これで私への陳情も落ち着くかもしれんな」


「そうであれば宜しいですわね……」


たまに講演する程度なら個人的には有難いくらいだけれど、聞いた話では国軍の特別顧問に推薦されかけたらしいし、本業に支障が出てしまうのは悪い結果を招くからね……出来れば退官後に話を持って来て貰いたいものだ。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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