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第394話 ロイドステア国王都騎士学校 某女子学生 視点

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

「掃除やら列整理やらを手伝うだけで、毎年行われている武術大会を間近で見られるのは、騎士学校生の大きな特典だよね~」


「そうだね! 今年は誰が勝つんだろう! やっぱり一子様かな?」


私は明日行われる王都武術大会の会場である、王都多目的催事場の清掃作業を行いながら、友人達と雑談をしていた。皆の関心事は当然、明日行われる武術大会だ。まあ、何だかんだ言われるけれど、皆剣を振るうことが好きで騎士学校に進学しているわけだから、当然と言えば当然か。


「うーん、一子様は二連覇しているから、当然最有力候補の筈なんだけど、今ひとつ強さが判らないんだよね……私は王都に住んでたから去年も観たんだけどさ、何であれで勝てちゃうの? っていう場面が多かったんだよね……」


「別に八百長というわけでも無いんだけれど……ただ、中の人? の噂もあるから、受けは物凄く良いのかな……まあ、普通に考えたら、女性が武術大会で活躍出来ること自体が凄いことなんだけれどね。文句があるならやってみろ! って言われても私らじゃ無理だしね」


友人の一人が言った「噂」とは、実は一子様はかの精霊導師様だ、という話のことだ。現在騎士学校では、女性の教官が何人かいて、その筆頭が、現在の騎士団長夫人でもある、レイテアーナ・シンスグリム様なのだけれど、この方は、女性として初めて武術大会三連覇を成し遂げて貴族になり、それが縁で現騎士団長に見染められたという凄い方だ。


今年騎士学校に入学した私達の中にも、シンスグリム教官に憧れたことを理由にしている者が結構いる。それは当然なのだけれど……で、シンスグリム教官が騎士学校の教官を始めた頃、実は精霊導師様がその助手をやっていた、という嘘のような本当の話があって、魔力の流れの整え方を教えてくれたりしたそうだ。


そのおかげか、以前は身体を壊して退学する者が多かったところ、退学者が激減したという話だから、実質的な意味で非常に有り難かったのだろうけれど……。


それ以外にも色々逸話があって、10人の学生と試合をして、一人であっという間に倒したとか、シンスグリム教官と試合をして勝ってしまったとか、上級生から聞かされて、思わず噓でしょ! と叫んだくらいおかしな話だったのだけど、シンスグリム教官に聞いた所、本当の話だと言うし……こう言っては何だけど、雲の上の人である以上に、謎の人物だった。


綺麗に清掃して、係員の人の点検も終わって寮に戻り、汗を流して食事を取り、軽く素振りを行った後に体操を行うと、眠気が襲って来たのですぐに就寝した。明日も早いしね。




武術大会当日だ! 私達は早朝から集合し、会場へ向かった。これから列整理だと思うと気が滅入るけど、それが終われば近くで試合を観戦出来るし、少しの辛抱だ!


……何か列整理が凄く大変だったんだけど……先輩方が言うには、今年は例年よりかなり多いらしい。私は一般席の列整理だったからまだ良かったものの、貴族席の対応はかなり面倒だったらしい。観客が多すぎて、急遽貴族席を拡張したものの、席自体は一般席だから、案内されたとある貴族が怒ってしまったらしい。


そんなの、周りを見たら理由くらい判るのにね……私も一応お父様が男爵だから、貴族籍ではあるんだけど、そういう態度を取るのは、時と場合を考えて貰いたいものだと思うよ本当……。


まあ、会場入りしていたシンスグリム教官がたまたまその状況を見ていてくれて、相手を諭してくれたから何とかなったそうだ。流石に殿堂入りされた方だから、この場での発言力は大きいよね……。




そんなこんなで騒ぎはあったものの、楽しみにしていた武術大会が始まった!


予選は乱戦方式で、その組の参加者全員で一度に試合場に上がり、その中で勝利した1人が本選に進むそうだけど……余程の実力がないと、運で勝ち上がれる人が決まりそうな気がする。まあ、そういった人は本選で勝ち上がれないのだろうけれど。ということで、3つある試合場はどこも騒がしかった。


私は中央近くで見学していたから、中央試合場の内容しか分からないけれど、実力にあまり差が無いと時間が掛かるし、出場者の負担も大きくなる反面、実力差があるとすぐに終わってしまうから、あっけないところもあるけれど出場者にとってはいいかもね……と思いながら観ていた。


その中で、いきなり他の出場者が全員場外に落ちて本選出場が決まった人……えーと、審判の声を聞く限り、二郎さん? 仮面を付けているから、家名非公開者の貴族の人なんだろうけれど……何をやったんだろう?


ということで、近くにいた先輩の一人に聞いてみた。最上級生だし、確か実力も上位の方だから、何か判るかな?


「多分だけど……最初に何もない所で薙ぎ払うように剣を振るった所で、魔力を放出したのだと思うわ」


「魔力って体の外に出たらすぐ消えますけど……それが攻撃になるのでしょうか?」


「シンスグリム教官から聞いた話だけど、凄い達人になると、ああいった感じで魔力の塊を放出して攻撃することが出来るらしいわ。2年前の武術大会でもあったらしいわよ」


つまりあの二郎さんの中の人は、シンスグリム教官も認めるような凄い達人なのだろう。一子様は二郎さんと試合をするのだろうか? 後で試合表を見に行こう。




予選が終わり、本選の試合表が発表されたので、私は掲示板に貼られた試合表を確認した。どうやら一子様が出る一回戦は第3試合か。勝ち進んだとして……会場は西、西、東、中央、中央の順か。見逃さないよう覚えておこう。


あと、この表を見る限り……さっきの二郎さんと一子様が試合を行うとしたら、決勝戦になるけど……まあ、今考える必要は無いか。


試合を良く観るためには、早めに移動して良い場所を取らないとね。とりあえず西試合場に……うわぁ、騎士学校生用の場所が埋まってる……あ、席を作ってくれた! 感謝する、友よ!


さて、本選開始の宣言が聞こえたから、そろそろ最初の出場者達が入場するかな。そう言えば一子様ってどんな姿なんだろう? やっぱり男性みたいな逞しい体格の人なのかな?


……とか少し前に考えていた私、口に出していなくて良かったよ! いや、普通に女性だって! 背も私より少し高い程度だし、あまり身体の線の出ない服で、全体的に細く見えるけど一部は激しく主張してるし、あれはどう見ても女性にしか見えないよ! しかも歩いているだけで気品が溢れてるし、間違いなく高貴な方だわ。もし口に出してたら不敬罪確実だよ……。


でも、あの典型的な貴族女性の様に見える一子様は、どうやって戦うのかな? 少なくともこの国では珍しい、棒を使うようだけれど……相手は確か、今年の人事異動で近衛騎士隊長になった人だったから、私が言うのも何だけど、かなり強い人の筈……。


しかし歓声がうるさいな……まあ、三連覇がかかっている方だからね……と思っていると、試合が始まり……拍子抜けするほどあっさり一子様が勝った。


「ねえ、確か貴女……一子様の強さが良く判らないって言ってなかった? 無茶苦茶強いよ!」


「いや、何をやっているか私には判らないだけで、とても強い人なんじゃない?」


「あんな距離をあっという間に移動出来る人は、普通に達人だと思うよ! そこらの人が勝てるわけないもの!」


「その意見には同意するわ。でも、今後も試合は続くし、私らは後学の為に、とりあえず良く見させて貰いましょ」


確かにその通りだ。次の試合も始まるし、今後も一子様の試合はある、まずは見学だ。




その後も試合は続いた。二郎さんもあっさり勝っていたし、他にも実力者はいた。二回戦になり、一子様の試合になった。やっぱり優雅で気品に溢れていて、思わず魅入ってしまう。


試合場に上がって開始位置に付き、相手の方も見たところで、この人も一回戦では圧勝だったな、と思い出した。


「あれはエルイストフ男爵ね。性格はともかく、かの剣聖の弟子の一人ということで、相当な実力者という話よ」


説明有難う。さて……試合が始まり、当初は互いに様子見のようだ。ただし、私は既に目で追うのもやっとの状態だ。あれ? 間合いの外で一子様が何も無い所を突いたけど……男爵が必死に何かを避けるように移動しつつ、間合いを詰めて攻めるも、攻め切れない……いや、一気に攻めた!


……だが、一子様は踊るような動きを見せたと思ったら、いつの間にか男爵の右腕を極めていた。あれ?


「ごめん……今、一子様、どうやって男爵の腕を極めたの?」


「私も知らないわよそんなの……だから言ったでしょ? 強さが良く判らないって」


「確かにそうだね……あれは判らないよね……動き自体は凄く綺麗だったんだけどね」


友人とそう話しながら、残りの試合を見学した。ここで昼の長期休憩、用意された待機室で軽食を取って休憩しつつ、試合の話をした。特に一子様の試合での不思議な動きは、話題になった。


「あの遠間からの突きの動作……あれは、先輩によると、魔力で攻撃していたらしいわ」


「ええっ、そんな事が出来るんだ?」


「威力はどの程度か判らないけど……少なくとも、エルイストフ男爵の左肩に当たっていたらしいけど、それ以降動きが鈍っていたから、暫くの間は痺れていたりするんじゃないかしら」


「へぇ、じゃあ、最後の踊るような動きは?」


「あれは先輩も判らないって言ってたわ」


「やっぱりそうだよね……」


凄いのは判るが仕組みが判らないもどかしさを感じる。でも、ああいった事が出来るなら楽しいだろうな、とも考えてしまう。私に出来るものなのかは分からないけど。




休憩時間も終わり、準々決勝が始まる。私は当然、東試合場に向かった。


準々決勝最初の試合が一子様の試合だった。相手はどうやら第1騎士隊長らしいけど……一子様の素早い動きに対応出来ず、すぐに勝負は付いた。


「一子様、あんなに素早く動いてるけど、実は仮面の下でも目隠しをしているんだってさ」


「え? そんな状態で動けるわけないじゃない!」


「何でも、シンスグリム教官が言うには、魔力を見て動いているらしいよ。ほら、あの仮面って、結構視界を遮るらしくて、気になるらしいんだよね。だから、いっそのこと視界を全て遮ってしまえ、という話らしいよ。実際決勝戦の時に仮面が取れたことがあったんだけど、布で目が覆われていたそうよ」


「……何でそこまでして大会に出るんだろうね……」


「それは判らないけど……力試しじゃない? あそこまで強いと、なかなか相手もいないでしょうし」


「そうかもね……」


改めて、自分達と一子様の差を感じてしまう。何が違うんだろう。生まれた環境? 才能? 努力? ……まあ、持ってないものを羨んでも仕方ないから努力だけは負けないように、頑張ろう……。


同じ試合場で、やはり勝ち残っていた二郎さんの試合が行われた。相手は騎士団副団長、団長の次に強いと言われている人で、武術大会の優勝経験もある実力者だ。


試合が始まった。暫く様子を見ていたところ、二郎さんが遠間から突然剣を振った。恐らくは例の魔力での攻撃だと思うけれど、副団長は辛うじて攻撃を躱したようで、そのまま間合いに入って攻撃を始めた。ただ、二郎さんの方が剣の腕は上のようで、押されていた副団長は何とか懐に入って攻撃をしようとしたが、二郎さんに防がれたようだ。


その際副団長は剣を落としてしまい、二郎さんが剣を突き付けて勝利した。副団長を相手に余裕の勝利をするんだから、多分あの二郎さんも、物凄い人だよね……。




さて、準決勝からは中央試合場での試合だから移動して……一子様の次の相手は……確か予選でも雄叫びを上げていた獣人族の人だったかな。獣人族は人間族よりも身体能力が高いと聞いているけど、どうなるんだろう……と考えていると、一子様も入場してきて、試合が始まった……何あれ?


「あれが獣化……」


ああ! あれが獣人族特有の「獣化」ね……って言うか、もう動いているのが全然見えないよ! 所々で止まっていると見えるくらいで……あんな速さで攻撃されて、それでも対応出来ている一子様は凄いとしか言いようがない。


こっちは傍目でも見えないのに……でも、劣勢のようだし、このままだと……と思っていたら、今度は一子様も対抗して、獣人族の人と同じくらいの速さで動き始めたのだ! 正直全く見えない状態だったけど、気が付くと獣人族の人の左腕を一子様が極め、勝負が付いた。


「途中から全然分からなかったね……」


「あの試合が分かるのって、私達が知っている人の中ではシンスグリム教官くらいじゃない?」


「そうだろうね……」


既に私達の理解出来る戦いを超越していたので、どう反応して良いか分からない状態だった。


その後、二郎さんが冒険者っぽい人をあっさり下して決勝戦に進出、三位決定戦は、あの獣人族の人が勝った。



いよいよ決勝戦、一子様と二郎さんの試合だ!


「そう言えば二郎って、先輩いわく」


話をしていた友人が急に声量を下げ


「帝国の第2皇子らしいよ」


「ええーっ!」


驚いて大声を出した私の口を押さえつつ、友人は続けた。


「何でも、一子様との再戦のためにやって来たそうだよ」


どうやら、先輩が言うには、仮面は付けているが背格好は似ているし、剣の腕や魔力を放つ技を見る限り、恐らく本人に間違い無いそうだ。2年前の武術大会において決勝戦で一子様に負けたので、その雪辱のために再び参加しているのでは、という話だった。


「そうか……なかなか運命的な試合だねぇ」


「あっ、中の人の事は言わないでね! 言いふらすと最悪、処罰される可能性があるから!」


「分かってるってば」


だから一子様の中の人についても、表立って話題に出来ないのだしね……。


そして、一子様と二郎さんの、決勝戦が始まった。様子見なのか一子様は連撃し、二郎さんは軽く躱している。獣人族の人ほどの速度は無いが、私達は既に目で追うのがやっとだ。そんな中、二郎さんが間合いに入ろうとする所を、一子様が大きく間合いを切って、後方に下がった。不思議に思っていると


「何あれ……あんなことも出来るの……?」


近くで観ていた先輩が何かに驚いていたが……後で聞いてみようと思いつつ、試合に集中すると、あれから一子様は、易々と? 間合いに入ることを許し、攻撃を受けていた。何故か動きが鈍い? そんな中、二郎さんの剣撃を、左腕一本で大きく払った一子様は、その際に棒を手放してしまった。


私には分からなかったが、右腕かどこかに攻撃を受けたようで、一旦態勢を整えるために間合いを切ったようだけど……武器を失って試合終了……と思いきや、試合は続行するらしい。


「大丈夫なの?」


「分からないわよ……本人が諦めないなら、続けるんじゃない?」


ともかく試合は続いているので、心配しながらも見続けたが、案外試合になっている? 確かに一子様はあの目にも止まらぬ動きも出来るから、二郎さんの剣撃も避けることが出来ている。だけど……攻撃できなければ試合には勝てないわけで……あれ?


二郎さんが接近した時に、一子様が柏手を打った。すると


「きゃあっ!」


何故か先輩が驚いているようだ。二郎さんも何故か周囲を警戒するような動きを取ったし、一子様は何をやったのだろう?


と疑問に思いつつ見ていると、二郎さんの隙を突いて一子様が間合いに入った……あれは恐らく先輩も使っている「魔力波」かな?


直撃は避けたようだからそこまで弾き飛ばされなかったけど、直撃していたら多分場外まで飛んでいたね……二郎さんも、魔力波などのために痛みや疲労が蓄積したのか、勝負を決めようとして斬り込んでいった。


そんな二郎さんに一子様は右拳を突き出した? すると二郎さんが何かを躱したような動きを取ったので、あれも魔力による攻撃?


そこで体勢の崩れた二郎さんに向かっていった一子様は……一瞬二郎さんに抱き着いた? と思った後、何故か二郎さんを投げて試合場の床に叩きつけ、そのまま腕を極めて、勝利した。


「……一子様、勝ったんだよね……?」


「……何であれで投げられるのか、意味が解らないのだけれど……勝ったのよね?」


主審の勝利の宣言から暫くして、一子様の勝利を理解した私達や観客は、惜しみない拍手を送った。




その後の表彰式では、一子様が正体を明かしたことで、大騒ぎになった。中の人は、噂通り精霊導師様だった……精霊導師様のお顔を初めて見たのだけれど、あんな凄い美人が三連覇とか、正直困惑してしまった。ありえないでしょ普通! でも、国王陛下も認めているから、嘘ではないんだよね……。


そして、閉会式後の精霊導師様の談話は、私を更に混乱させた。力の理? 世界平和? 精霊導師様は、私の理解を超える存在であることが、良く理解出来た。


ただ、戦っている精霊導師様は、格好良かったよねぇ……。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

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宜しくお願いします。


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