第393話 武術大会3回目の参加 4
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体調が概ね回復して仮面などを装着し、試合の準備を整えた頃、係員が呼びに来た。
「お嬢様、私は応援しか出来ませんが、悔いの残らないような試合をして下さい!」
「リーズ、貴女や家族をはじめ、多くの人達が私を応援してくれているのが伝わるわ、有難う」
これまで同様、リーズや精霊達が試合場入口まで付き添い、そのまま試合場に上がり、開始位置に移動した。この決勝戦に勝てば優勝なのだが、そんなことより今は、目の前にいる強敵、カルロベイナス殿下との試合が、待ち遠しかった。
「互いに礼!」
決勝戦の主審であるシンスグリム子爵の統制により礼をした私達は
「漸く貴女と試合が出来る。存分に戦おう」
「貴方との試合が待ち遠しかったですわ。互いに力を尽くしましょう」
と言って、構えを取った。前回より格段に強くなっているのが、それだけで判る。
「始め!」
開始とともに、私はそのままの体勢を保って前進し、棒での連撃を放ったが、仮面の死角を意識して突いたりしても、やはり難なく棒を躱している。恐らくは殿下も、魔力を感知して戦っており、視覚は断っている状態なのだろう。さて、殿下はどのように攻撃するのだろうか……。
すると、殿下は棒を掻い潜りつつ、剣を横薙ぎに振ろうと……おや? 顔の辺りに魔力が溜まって……?
その瞬間、何か光が走り来る気配のようなものを感じ、大きく後ろに下がった。すると、先程殿下の顔の辺りに溜まっていた魔力が、さながら魔力撃の様に飛び出した!
後ろに下がっていたため、その攻撃が当たることは無かったが、正直驚いた。あれは一体?
「ふっ、初見で『魔視攻』を避けるとは流石だ。だが……これはどうかな?」
そこから殿下は、私の右側背に回り込みつつ「魔視攻」とやらを放って来た! 何度も撃てることから、あれの威力は高くはないだろうが、当たらない方が良さそうなので躱す。来る方向は概ね判るので躱すのは何とかなったが、殿下が剣の間合に入るのを防ぐことは出来なかった。
襲い掛かる剣撃は、一撃一撃が激しく、かつ変幻自在に斬り込んで来るため、崩しの機会も無く、防戦一方だったところに……魔視攻も織り交ぜて来た! 避け切れず、右肩に当たった! 痛みはそこまでないが、どうやら魔力の流れを乱すらしく、右腕が痺れて身体強化が解かれた! まずい!
「そこだっ!」
殿下が私の隙に乗じて剣撃を放ったが、私はとっさに左腕の身体強化を最大にして、剣を打ち払い、そのまま間合いを切った。しかしながらその時、左手だけで力任せに振り回したことから棒を離してしまった。ここからは徒手で戦うことになるが……それは望むところ、このまま試合続行だ!
殿下は再び態勢を整え、迫って来た。やはり魔視攻を併用して攻撃して来ることもあり、間合いを切ることも出来ず防戦一方だ。しかし、先程受けた魔視攻の影響は、魔力循環を元に戻すことで癒えたようだ。ならば、あれをやろうか!
「むっ? 何かをしようとしている? だがその前に!」
再び魔視攻で妨害しようとする殿下だが……遅い!
「ぇい!!」
殿下が魔視攻を放ちつつ剣撃を出そうとしたところで、両手に魔力を集め……猫だましのように柏手を打った!
「な、何っ! 何も見えん!」
これは、殿下の技の1つ「魔力衝」を応用したもので、両手で魔力衝を放ってぶつけ合うことで、瞬間的に周囲に魔力を撒き散らすことが出来るのだ。まあ、こういったことは私みたいな魔力お化けくらいしか出来ないように思えるが、これをやると、少しの間、今の威力だと半径数mくらいは魔法が使えなくなったりするが、その他、魔力を感知することも困難になる。
そう、今の私や殿下にとっては、煙幕を使った時の様に、視界が遮られるのだ。
そして、その現象を知っていて心の準備をした私と、知らなかった殿下では、対応が異なって来るのも当然だ。
一旦魔力が感知出来る所まで素早く移動して様子を見ていたところ、私から遅れて殿下もその場から離れようとしていたのが確認出来た。よし、ここだ!
「はっ!!」
殿下の隙を突いて接近し、魔力波を放って大きく吹き飛ばした。流石に直撃は避けられたため、場外には落ちなかったようだが、ダメージを受けているようだ。しかし戦意は衰えていないようで、態勢を整えて接近して来た。恐らくここで決着を付けようとしているのか、凄い気迫を感じる。
魔視攻も併用して牽制しつつ接近する殿下に対し私は
「はっ!!」
当身による魔力撃を放ったおかげで、魔視攻を防ぐことも出来、避けた殿下の体勢が崩れた。今なら間合いに入り込める!
そのまま高速で間合いに入ったところ、殿下は左手を剣から離し、魔力波を準備する一方で、剣身の根元で殴り掛かってきたので、逆に両手を取り、天地投げで殿下を投げた上で右腕を極めた!
「がっ! ……ま、参った」
「……勝者、一子!」
主審のシンスグリム子爵が私の勝利を宣言し、試合が終了した。大きな歓声が試合場を包んだ。
私は極めていた右腕を解放し、起き上がる殿下に手を貸した。
「……有難う。まさか、魔力衝であのような事が出来るとは……」
「私も試行錯誤をしながら練習したので判っただけですわ。しかし、魔視攻は厄介でしたわね……」
「剣だけで間合いに入っても効果が薄いと思ったのでね……結局負けてしまったが」
「手が更に増えるようなものですからね……私も習得させて頂きますわ」
そのようなことを話した後、棒を拾って開始位置に戻り、礼をして、歓声が止まぬ中、退場して控室に戻った。
「お嬢様、三連覇おめでとうございます! しかしあの決勝戦は……魔力を感じられる者でないと、凄さが分からないでしょうね……」
「私は必死で避けていたのですがね……さて、表彰式の準備をしましょう」
それから私は、一旦仮面を取って帯状布を外し、汗などを拭いてからまた仮面を付けた。
暫くすると係員が表彰式のために呼びに来たので、表彰台前まで案内された。準優勝の殿下と、3位決定戦で勝ったらしいラセルグもいた。
侍従の合図により、私以下3名は、表彰台に上がった。私達は、いつもと同じように陛下からお褒めの言葉と、徽章を頂いて表彰台から降りたが、ここからが違っていた。伝声具を使いながら、陛下は仰られた。
『さて、皆の者。ここにおる『一子』は此度で三連覇という偉業を達成し、皆に讃えられる存在となった。しかしながら、現状ではそれは難しい。そこで『一子』よ……改めて名乗るが良い』
私はその場で跪き
「御意」
と応えた後、観衆に向かって立ち上がり、仮面を取ると、歓声が上がった。
伝声の魔法を使いながら
『私は、フィリストリア・アルカドール。アルカドール侯爵家の娘にして、精霊導師としてステア政府に所属する者。諸事情により『一子』として参加しておりましたが、此度家名を明かさせて頂きました』
皆の歓声を受けつつ、陛下に正対し、跪く。
『フィリストリア・アルカドールよ。改めて、三連覇の偉業、見事であった。さて、そなたは爵位や金品も望まぬであろう。褒賞として、何を望む?』
『恐れながら陛下……我が道が定まりし後、流派の設立をお許し願いたく存じます』
『良かろう』
まあこれは家名公開の調整の際、合わせて調整があったのだけれど、三連覇の褒賞は、私の場合は爵位を貰うことは現実的では無いので何が良いか、という問いに「合気道を教える場を作りたい」と答えたのだ。勿論こちらでは「合気道」という名は使えないから、名前は検討中だ。
その後、表彰式、閉会式も終わり、インタビューも行われた……報道陣に混ざっているネリスは放っておこう……。
『見事三連覇を成し遂げた、フィリストリア・アルカドール嬢。色々お話を伺いたい所ですが、お立場もあるでしょうから一言だけお願いします。貴女にとって、武術を行う理由は何でしょうか?』
『私は……ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、少々特殊な状況で生まれております。そのためかどうかは判りませんが、幼い頃から力の理、と申しましょうか、そのようなものが判る状態にありました。それを体現することこそ、私が武術を行う理由ですわ。そして、武術とは争いを止めるための力と考えております。ですので、最終的には我が国だけではなく、世界平和の一助となれれば幸いです』
『は、はぁ……我々には及びもつかない所ですね。有難うございました!』
合気道の考えを少し話させてもらったが、まあ、こんなものだろう……。
それから控室に戻り、支度をして家に戻ったが……家に入った所で
「フィリス、三連覇おめでとう!」
と、家族の皆からの祝福を頂いた。皆様、応援有難うございました。
その後、身体の手入れをしてからささやかな祝勝パーティーが行われたが……お祖父様が撮像画を印刷しており、皆に見せたりして盛り上がった。でも、拡大印刷して家に飾るのはやめて欲しいかな……。
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