第039話 友達になった
お読み頂き有難うございます。
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冬になり、雪が積もり始めたので、外に出ることは殆どなくなった。毎年この時期は、家庭教師の先生方も来なくなるので自習になる。本ばかり読んでいても精神衛生上良くないので、今日も屋内鍛錬場の有難さを感じながら、鍛錬に励んでいる。レイテアは、武術大会の後、更に強くなった。私も気を抜けば負けてしまうかもしれない。今一度、気を引き締めて鍛錬しよう。
この所、夜は数日毎に、地精霊と感覚共有を行って、パティの所に遊びに行っている。最初は単に相談に乗って元気づけようという軽い気持ちだったのだが、存外に楽しくて、今でも続いている。正直な所、正体を隠しているので、後ろめたい。しかしながら、どうやら私は、友達との本音トークに飢えていたらしい。悪いとは思いつつ、会いに行ってしまっていた。
パティは、話してみると、案外はっきり物をいうタイプで、これまでの茶会では相当我慢していたのが解った。でも、私は今のパティの方が好きだ。また、手先が器用で、刺繍が得意であったり、努力家であったり、案外負けず嫌いなところがあったり、地精霊と色々話しているので、石や地質、植物などについても詳しかったりと、色々なことが解った。
そして、最近の様子を見る限り、恐らく春にティーナがいなくなっても、大丈夫だと思う。
私は、この仮初の関係に、終止符を打つことにした。
『パティ、僕はもうここには来ない』
「えっ、どうして!私のことが嫌いになったの?」
『そうじゃない。僕は君が大好きだ。だけど君は僕ではなく、人間と友達にならなければならない』
「そんな、嫌だよ、私なんかと友達になってくれる人なんていないよ」
『そんなことはない。君に足りないのは最初の一歩。歩き始めてしまえば後は君ならどうにでもなる。だって君は自分で思うより強い女の子だから』
「その一歩が重いんだよ……」
『大丈夫さ。だって君には地精霊がついている。地精霊は力持ちだからね』
「……ふふっ、何それ。意味わかんないよ」
パティは落ち着いてきたようだ……そろそろお暇しよう。
『じゃあ、僕は行くよ』
「ねえ、人間と友達になっても、貴方と友達であることを止める必要はないと私は思う」
『……そうだね。今度僕を見つけられたら、その時またお話ししようか。さようなら』
そう言って私は、月が優しく照らす闇の中に消えた。パティの声が聞こえた気がして何度か振り返ったが、戻らずにそのまま屋敷に帰った。
暫く気が滅入る日が続いたが、表面上は普通に暮らしていた中、お父様から呼び出され、春になったら一度王都に行くと言われた。どうやら、第3王子の側近や婚約者候補を見定めるために、6才から11才までの主要貴族の子女を王都に集め、交流会を行うそうだ。
そういえば、お兄様は第2王子の時にも行っていた気がする……当時私は3才だから対象外だったけど。で、お父様は最近の状況を報告したいから、それに合わせて王都に行くそうだ。
当初、馬車で行くと言われたが、馬車で行ったら、お父様が途中の領主と挨拶をするので15日くらいかかるため、転移門で行く、と強硬に反対した。碌に体を動かせないのは嫌だ、交流会前に太ってしまう、と言ったら、お父様は仕方なく承諾してくれた。
あと、実際の所、馬車で向かう日程だと、少々まずいことがあった。というのは、今ティーナのお別れ茶会を開こうとしているのだが、馬車で行くと、茶会の日が取れない可能性があったからだ。お母様は、その辺りを察してくれたのか、私の我儘な態度を許容してくれた。
ということで、今回参加する貴族子女の前情報や話題になる情報を覚えたり、参加時のドレスなどを準備したりと忙しい中ではあったが、ティーナとのお別れ茶会をいつものメンバーで行った。年明けで暖かかったので、庭で行った。梅が咲きかけている程度だったが、あまり騒ぐ雰囲気でもなかったので、丁度良かった。
今回は半分腹の底を探る様な感じもなく、皆ティーナとの別れを惜しんだり、王都での生活について話していた。ルカは要注意人物の情報について教えていたり、セレナは王都周辺の観光スポットなどについて語っていた。パティも、何だかんだと話に加わっていて、大丈夫そうだった。
今回は皆に見送られてティーナが最初に帰り、次にルカ、セレナの順に、庭先からそのまま玄関まで歩き、馬車に乗って帰った。最後にパティと2人になった。そのまま帰るだろうと思っていたら
「フィリス様、お話ししたいことがあります」
と言われた。深刻そうだったので、談話室で話をすることにした。暫くすると、意を決したのか、パティは話し始めた。
「実は私は、精霊が見えて、話ができるのです」
「……それでは、10才になれば王都に?ティーナ様にもお会いできますし、喜ばしい限りですわ」
「そうですね。でもそれは、貴女も同じでは?」
「……と仰いますと?」
「貴女も、精霊が見えますよね。というより、貴女が、あの時の精霊ではありませんか?」
その言葉を聞いて、内心非常に焦ったのだが、何とか平常心を保ち、パティに向き合った。もしかすると、単なる思い込みかもしれない。落ち着いて話を聞いてみよう。
「……私は見ての通り人間ですが……冗談で仰っているわけではございませんのね」
「ええ、そうですね。私が会ったその精霊は、妙なことに人間みたいな考えを持ち、時には洗練された所作を見せました。丁度貴女の様な」
「それだけで私を人ではないように仰るのは、あまり褒められたことではございませんわ」
「また、その精霊は、ティーナが引っ越す話を聞いて落ち込んでいた私を元気づけるために会いに来てくれたようでした。そもそも貴女は、最初の茶会で、私が精霊を見ることが出来ると気付いていました」
「それは、単なる貴女の思い込みではございませんか?」
「そして、あの精霊は、普段は他の精霊と同じように見えましたが、月の光を浴びると、瞳が煌めいていました。貴女と同じ、黄金色に。それは、全属性者に使役された状態の精霊だと、ある精霊から聞きました。精霊は嘘は申しませんから、真実です」
……それは知らなかった。確かに全属性の存在は、精霊女王と私だけ。ならば縁のない精霊女王と関連付けるよりも、もう一人の全属性者である私と関連付けるのは、当然だ。正直に話そう。
「……その通りです。あの精霊は、私が感覚共有したものです」
そう言って、私の後ろにいた地精霊を右手に乗せて、感覚共有して見せた。
『私は、通常の精霊術士に出来ないことが出来ますが、このことは他言無用でお願いします』
そう地精霊から念話で話した後、感覚共有を解き、再びパティと向き合った。
「パトラルシア様、貴女を謀る様な真似をしてしまい、誠に申し訳ございません」
とにかく、謝罪すべきであろうと思った。
「確かに最初は貴女を元気づけようとしましたが、振り返ると道理を弁えない行為でした。私も貴女とお話しするのが楽しかったのですわ。しかし、あるべき姿ではないと思い、あの姿でお会いするのを止めました。貴女には何とお詫びしてよいか解りません。どうか許し……」
「違う!私は貴女に謝罪して欲しいんじゃない!友達になって欲しいの!」
「……こんな、貴女と偽りの姿で接してしまった、私とでしょうか」
「貴女は私を元気づけようとしてくれただけだし、私は貴女と色々話し合えて、楽しかったよ」
「しかし、このような力を持つ私と関わると、面倒なことになるかもしれませんよ」
「そんなことはどうでもいい。それに、貴女を見つけたら、また友達になってくれるって言ったじゃない」
「いや、そのような事は……ふふ、言ったようなものですね。実は私は、貴女の事が大好きなのですよ」
「それは良かったわ。私も貴女の事が大好きよ?友達になるのに、それ以上の事はいらないと思うわ」
こうして、私達は本当の意味で友達になった。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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(石は移動しました)




