第392話 武術大会3回目の参加 3
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
暫くして準々決勝の時間となり、係員に誘導されて入場し、開始位置に付いた。第1騎士隊長も開始位置に付いて、互いに礼をした。
「貴女は本当に……いや、今は全力で試合を致しましょう」
「宜しくお願いしますわ」
挨拶をして、互いに構えた所で、試合が始まった。
第1騎士隊長は堅実ながら無駄の無い動きで相手を追い詰める戦い方を好んでいた。ならば、素早い動きで翻弄する戦いの方が良いだろうと判断し、高速で回り込みつつ、フェイントを織り込みつつ棒で突いていき、対応が追い付かなくなって来たところで、剣を絡め取って飛ばし、喉元に棒先を突き付けた。
「勝者、一子!」
問題無く勝利出来た。流石に戦い方を何度も見た相手だと……ねえ。
「……有難うございました。今後も励ませて頂きます」
「貴方達一人一人の励みが国軍の力になるのですから。今後も宜しくお願いするわ」
礼をして退場し、控室まで戻ったが、準決勝までの間に余裕が出来た私は、精霊との感覚共有を行い、他の試合を観ることにした。……とは言っても、準決勝の相手を決める試合は既に終わっており、ラセルグ・アノークが勝利していた。後は、カルロベイナス殿下の試合かな。
試合場近くに行って、暫く待機していたところ、殿下達が入場して、試合が始まった。実力は殿下の方が高いとは思うが、副団長も武術大会優勝経験者だし、面白い試合になるのではないかと期待している。
開始後、暫く双方様子を見ていたようだが、殿下が牽制のために放った魔力撃を何とか躱した副団長は、やはり接近戦に持ち込み、暫くは剣での打ち合いが続いたのだが、鍔迫り合いの態勢になり、そのまま殿下が押し切ろうとしていた。
その時、副団長が意図的に力を抜き、殿下の懐に入って剣から左手を離し、恐らく魔力波を撃とうとしたのだろうが……そこに殿下がやはり右手を剣から離し、副団長の魔力波に合わせたのだ!
その後、殿下が吹き飛ばされなかったので、恐らく殿下も魔力波を習得したのだろう。我が国である程度の期間、情報収集をしていた筈だから、習得方法を知っていても不思議は無かったが……それでも、人から教わらずにあそこまで使いこなせるのは凄い事だ。
副団長も驚いたのか、魔力波が失敗した所で動きが鈍り、殿下がその体勢から剣を払うと剣を落としてしまい、そこで喉元に剣を突き付けられて試合が終了した。
やはり殿下が勝ったか……しかし、殿下が魔力波を習得していると判ったことは収穫だったな。魔力撃が更に洗練されていたのは、その影響もあるのだろうか?
色々興味深い所ではあったが、考察に時間を取って目の前の試合を疎かにするわけにはいけないので、感覚共有を解いて、準決勝に備えた。
試合の準備を終えて暫く待機していたところ、係員が呼びに来たので案内されて試合場に上がり、開始位置まで移動して、礼をした。
「また戦えて嬉しいぜ。ああ、ナビタンを通じて色々教えてくれたのは礼を言う」
「貴方の全力を見せて下さいな。それが返礼となりますわ」
「……そうでなくちゃな。やっぱりあんたはいい女だ」
と、言葉を交わしつつ互いに構え、試合が始まった。
「うおぉぉぉっ!」
試合開始と同時に雄叫びを上げたラセルグは獣化を行い、通常の身体強化による高速機動とは最早別次元の速度、表現するなら超速機動で接近し、飾りで持っていた剣を捨てて私に殴り掛かって来た!
その速度は、あの来光軍の動きにも迫るものがあったが、私は何とか受け流しつつ、少し間合いを取ることが出来た。魔力で相手の動きを見ることに慣れていたこともそうだが、来光軍に参加していなければ、今の速度への対処は難しかったかもしれないな……。
と、様子を見る間も無く、ラセルグの超速機動による攻撃は続いた。通常の合気道の技はもとより、魔力波や魔力撃は相手の動きが速過ぎて当たらず、奪魔掌も何度か使ってみたものの、どうやら魔力を帯びた体毛により、効果が阻害されているようで効き目が無い。さて、どう対抗するか……。
「そらそら! さっきの言葉はどこへ行った!」
とラセルグは間断なく攻めて来る。これは、一旦力で対抗しなければならないようだ。
「ならば見せましょう!」
こちらとて、来光軍の体術を学び、あの域には届かないまでも高魔力による身体強化を使い、通常より高速で動くことは出来るのだ! 身体への負担が大きいため多用は出来ないが、ここが使い所だと判断し、ラセルグの動きに合わせて最大出力の身体強化を行った!
「おおっ! やるねぇ、獣化した俺の動きについて来るとは!」
「ここからが本番ですわ!」
ラセルグの拳を躱しながら棒で攻撃を行い、それを躱したラセルグが内に入って来ようとすると棒で牽制し……と、一進一退の攻防が続いた。その中でラセルグを観察していると、次の動作に移る際にかなりの無駄な力が入っていることに気が付いた。攻めるならばここしかない!
棒で牽制した時に一旦下がったラセルグに対し、速度を重視した魔力撃を放った!
次の動作に移る際の隙を狙ったため避け切れず、右足に魔力撃が当たったラセルグの動きが止まったので、その隙を逃がさず右側から回り込んで接近すると、ラセルグは私の動きに合わせて牽制で拳を出して来た。
私は拳を躱して棒で突こうとしたが、ラセルグはその体勢から回し蹴りを放ってきたので棒で受け止めた。軸足の右足に力が入らなかったからか、跳ね飛ばされはしなかったが、そこで私の動きも止められてしまった。
だが、それ以上にラセルグの体勢は崩れていた。そのため、ラセルグは間合いを取ろうとしたが、そんな状態では移動方向も読める。そこで、棒での連撃によりラセルグの足を止め、態勢の崩れたところで頭を狙って棒を振り下ろすと、やはり掻い潜って私に左手で殴り掛かろうとしたので、その状態で棒から手を離し
「やぁ!」
呼吸投げの要領でラセルグの身体を床に叩きつけ、そこから左腕を極めた!
「があぁ!」
ラセルグは暫く逃げようとしていたが、諦めて降参した。
「勝者、一子!」
主審の判定を受けて、極めた左腕を解放し、棒を拾って開始位置に戻った。ラセルグも痛めた左腕を庇いながら、剣を拾って開始位置に戻った。
「くそう……また負けちまった」
「獣化の力を十分に使えるようになった貴方は、素晴らしい強敵でしたわ」
「今後は力を引き出すだけではなく、効率的な動きが出来るようになってやるぜ!」
そのようなことを言って、互いに礼をして退場した。
さて、試合場から控室に戻って来たものの……仮面などを取った際にリーズから
「お嬢様、辛そうですが、大丈夫でしょうか?」
と言われる位には疲れていた。先程の試合は、身体への負担が大きかったため、結構辛かったりするのだが……しっかり体操を行いつつ、意識して魔力循環を正常にすることで、体調を回復させることが出来るだろうし、何とか決勝戦は行けるかな……。
途中、お兄様が遠視を使って様子を見ているのが分かったので、手を振って応えておいた。
暫く体調回復に努めていると、決勝戦の相手を確認に行っていたリーズが戻って来た。
「お嬢様、やはり決勝戦は二郎……帝国の第2皇子になりました。準決勝の相手は……すぐに倒されてしまいましたので、恐らく万全の態勢で決勝に臨むと思われます」
「そう……ならば、こちらも体調を出来るだけ万全にして臨まないとね」
カルロベイナス殿下との再戦に、やる気が漲ってゆくのが自分でも判った。全ての力を出せるように頑張ろう。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。