第390話 武術大会3回目の参加 1
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収穫祭2日目、武術大会が開催される。体調は万全、軽く体を動かし、朝食を取って着替え、家紋なしの馬車に乗って会場に前進した。家族達は皆で見送ってくれたが、後から応援に来てくれる筈だ。
会場に到着し、リーズを伴って指定された控室に移動した。男性の方は複数の家名非公開者がいるようだが、女性では私だけのようだ。なので今年も「一子」ということになる。
控室で試合用の服に着替え、軽く動いてみて問題無いことを確認した後、リーズに予選の方式を確認して貰ったところ、今年も乱戦方式だということだった。私については、今年も予選免除で時間に余裕があるため、地精霊と感覚共有して、予選の様子を見ることにした。
まずは観客席を見渡してみると……貴族席では、うちの家族がいい所で陣取っている。何故か今回は貴族席の場所がいつもより広いな……まあ、レイテアは場所が変わらないから判り易い。やはりリンダを抱いているが……あれは、どこかへ行こうとするのを止めている感じだな。もう2才だから、色々動き回れるのだろう。
他には……ミリナとダリムハイト様もいた。息子さんはまだ生まれたばかりだから、連れて来るのは難しかったようだ。パティやティーナも隣にいて、色々話している。話し掛けてみよう。
『パティ、ごきげんよう』
「あら。丁度今、貴女のことを話していたのよ、調子は如何?」
『体調は万全ですわ。とりあえず本選までは待機ですから、予選を観させて頂きますわね』
「それは良かったわ……皆様『精霊さん』がいらしておりますわ」
パティがそう言って、ミリナ達に私の位置を教えた。
「ねえ、調子はどうなの?」
「体調は万全だそうで、今は待機中なので、出場者達の確認に来ているそうです」
「頑張って下さいね~、応援しておりますわ~」
それから、パティを仲介してミリナ達と話していたところ、貴族席が多くなっているのは気のせいではなく、「一子」が私であるらしいことがそれなりに広まっているそうで、三連覇がかかっている今回は、非常に注目されていたらしい。私の前では誰も言わなかったけれどね……。
良く見ると、政府の要職の人達も多いな……精霊術士達の多くも一般席の方に団体で観に来ているそうなので、そちらにも後で行ってみよう。撮像具を持っているステア政府の広報関係者らしき人達も結構いて、その中には忙しい筈のネリスもいたが……そっちは放っておこう。
暫くして予選が始まり、3つの試合場で乱戦方式の試合が行われていった。今回私は本選出場者の5番となっていたため、初戦で当たることになる6番を決める試合をはじめ、色々な試合を確認に行った。
やはり、カールダラスから報告を受けていた有力な出場者達は、簡単に予選を通過していった。
エルイストフ男爵は、近くにいた出場者から一撃で戦闘不能にしていった。猪突猛進的な感じではなく、相手の弱点や構えの隙などを瞬時に見極め、確実に突いているようだ。中には対応しようとした者もいたが……、相手の突進を利用して態勢を崩した所に模造剣を打ち込んでいた。どうやら、慢心していた所は無くなり、油断の出来ない相手になった様だ。
ラセルグ・アノークは最初に咆哮を上げ、皆が驚いた所を高速機動で接近して、次々に場外に弾き出していた。あれは、魔力波を習得しているように見える。ということは恐らく、思考加速も使えるようになった筈なので、獣化を使われたりすると、非常にやっかいな相手になっていると思われる。
そして、勝ち名乗りを聞いた限りでは「二郎」らしいが……一人の家名非公開者の強さは圧倒的だった。開始早々、二郎が剣を一振りすると、他の出場者全員が場外に弾き出されたのだ。あれは恐らく魔力撃、剣身に魔力を溜め、剣を振ることで魔力の塊を撃ち出す、カルロベイナス殿下の技だ。あの構えから見ても恐らく本人だろう。
そして、魔力撃だけを見ても魔力の扱い方や技の冴えが以前よりも凄いというのが判る。以前私に使った時は、結構消耗していそうな感じだったが、今の彼は連続して放つことも難しくなさそうだったからだ。カルロベイナス殿下と思われる二郎は、所謂後半組だから、私と当たるとすれば決勝戦だ。またあの人と戦うことが出来るとは……絶対に勝ち残らないといけないね。
ということで予選が終了したので控室に戻り、大会本部に行っていたリーズから本選の試合表を教えて貰い、改めて状況を確認した。私の初戦は第3試合で、相手は近衛騎士隊長だ。
この人は今年に入って就任した人で、前の近衛騎士隊長は、騎士団副団長になったと聞いている。試合を観ていた限りでは、そこまで苦戦する相手ではなさそうだが……油断せず、初撃に意表を突く感じで攻めよう。
感覚共有を解いて暫くすると、係員が呼びに来たので、試合用の棒を持って移動した。リーズや精霊達も途中まで付き添ってくれていたが、試合場には当然一人で上がる。
もう慣れたものだと思いつつも、試合相手の魔力を確認し、試合場中央付近までゆっくりと近付いて行く。観客席からの声援が非常に大きく聞こえるが、試合優先ということで無視して開始位置に付き、礼をした。
「貴女と試合することが出来るとは……全力で相手をさせて頂きます!」
「こちらこそ、宜しくお願いしますわ」
と、軽く挨拶をしつつ、互いに構えた所で……試合が始まった!
私は、高速機動用の体術を利用し、瞬時に近衛騎士隊長の右斜め後ろに回り込んだ。すると、いきなり目で追いきれなくなるほどのスピードで接近されたことから、恐らく慌てた近衛騎士隊長が、こちらに剣を振りつつ、私から間合いを取ろうとするのが分かった。
「はあっ!」
掛け声とともに、私が棒で剣を払い上げると、それにつられて体が残ってしまい、間合いを取り切れず態勢の崩れた近衛騎士隊長の足を払い、転ばせた所で、喉元に棒先を突き付けた。
「勝者、一子!」
審判の判定が上がり、私は勝利した。
「全く及びませんでした。精進します……三連覇されることを、祈っております」
「有難うございます。三連覇出来るよう、励ませて頂きますわ」
と言葉を交わし、礼をして退場した。しかし、歓声が凄いな……。
控室まで戻り、一旦仮面と帯状布を外した。リーズが
「2回戦の相手などを見て参ります。お嬢様は休憩なさっていて下さい」
と言って出て行ったので、休憩しつつ、感覚共有で試合を観に行こうとしていたところ、扉をノックする音が聞こえた。
「どなたでしょうか?」
「私だ。どうしても貴女と試合がしたくてな。やって来てしまった」
どうやら、近くの控室にいたであろう、カルロベイナス殿下のようだ。仮面も取っているから、扉越しに対応しよう。
「私も貴方との試合は心躍るものがありますわ。決勝でお待ちしております」
「ふっ、貴女からの誘いを断れる男がいるものか。必ずや会おう! 尤も、今度は私が勝つのだがな!」
「そこは譲れませんわね……互いに、足を掬われないよう心がけましょう」
「ああ。……おっと、従者が呼びに来たようだ。失礼する」
どうやら控室を抜け出して来たらしいカルロベイナス殿下が、従者に連れ戻されていったようだ。
扉越しに聞こえた殿下と従者のやりとりが可笑しくて笑ってしまったが、まあそこは突っ込まないことにして……落ち着いたところで地精霊と感覚共有をして、暫く試合を観ていたところ、一回戦が終了してリーズが戻って来たので、改めて次の相手を確認した。
「やはり二回戦の相手は、エルイストフ男爵ですか」
「彼の試合はすぐに終わってしまったので、観ることが出来ませんでしたが、相当な実力者のようです」
「予選は観ることが出来ましたが……以前より強くなったのは確実ですわ」
さて、私自身、気を引き締めて試合に臨もう。
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