第389話 武術大会へ向けて準備を万全にした
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いつも以上の盛り上がりが予想される収穫祭の週となったが、私は武術大会への調整に余念がない状況だった。
カールダラスに収集させていた、武術大会参加者の情報を確認したところ、いつもに増して腕自慢の参加者が多いらしく、国軍の実力者達の他、昨年私が決勝戦で戦った獣人族の冒険者、ラセルグ・アノークや、準々決勝戦で戦ったエルイストフ男爵などもいるようだ。皆それぞれ、更に実力を高めて出場するそうで、油断は出来ない。
そして、カールダラスが「確定情報ではありませんが……」と前置きして教えてくれたのが、何と、帝国第2皇子のカルロベイナス殿下が、密かに入国している、とのことだった。
外務省には「お忍び」という通知が届いたそうだが、その理由が武術大会視察であり、前々回の準優勝者から観たいと言われれば、こちらは断り辛いよね……。そして、あの人が単なる観戦で終わる筈は無く、恐らくは大会に参加するのではないか、というのがカールダラスの見解だった。
それを聞いた時、今すぐにでも戦いたくなり、思わず身体がわなわなと震えてしまった。これが世に言う武者震いなのだろうか。私も彼との再戦を望んでいるようだ……。
それと、以前陛下から意思確認をされた、三連覇した場合に家名を公開するかどうかについて、再びお父様とお母様との話し合いを行った。
「あれから幾つか茶会に参加して、状況を確認したのだけれど……確かに現状だと、貴女の今後に悪影響を及ぼす可能性は低そうだわ」
「ふむ……やはりそうか。私の方でも念の為、各所で確認してみたのだが……まあこちらはあまり参考にならなかったな……むしろ人気が更に高まりそうな勢いだったが……。それは別途処置を行うとして、今回については、謎の存在を殿堂入りさせるのは、武術大会の歴史と伝統に対しての不都合があるので、当家として問題が無さそうであれば、公開するべきではないかという意見が某所からあった」
「確かに、その問題は失念しておりましたわ……事は私だけの問題ではなくなってしまうのですわね」
「エヴァの方で問題が無いというのであれば、フィリスが三連覇をして殿堂入りした暁には、家名を公開しよう。まあ、今年は例年より強者が集まっているという話もある。そして、その多くはフィリス、お前を倒す為にやって来るのだ。当然対策なども立てている筈だから、勝てる見込みは高く無いだろう。それでもお前は、武術大会に参加するのか?」
「はい。それは私の望むところです。私は、強者との本気の戦いにより、更なる高みを目指したいのですわ。勿論勝負には時の運もございますから、必ず勝てる、とは申しません。ですが私は、可能な限り準備を万全にして参りましたし、全力で臨みますわ」
「分かった。では、この件は私が当主として陛下に回答しておこう。私達もお前を応援しよう」
「ただし、取り返しのつかない怪我がありそうなら、参加を止めますからね? 怪我をしないようにして頂戴」
「有難うございます、お父様、お母様。悔いなく戦って参りますわ」
こうして、家名非公開の問題についても方向性が定まった。
収穫祭前日となり、恒例の受付を行った。今回も特に驚かれることは無く、応援されてしまった。ただし、リーズは今回初めてのお忍びでの受付を、不思議がっているようだった。
「いつもはどこへ行っても注目の的ですのに、お嬢様が見えなくなるだけで視線が向かなくなるのですから、面白いものですね」
……まあ、私の容姿が目立つのは今更なので、いちいち考えないことにしているが、護衛の立場からすると、より強く感じるのだろうな……。
それはともかく、無事に受付も終了した。後は武術大会に参加して、力を尽くすだけだ。
家に戻ってから、庭で軽く調整していると、お兄様、お義姉様とお祖父様がやって来た。どうやら、転移門でやって来たようだ。お義姉様は先日生まれた甥のフェルネワルドを抱いている。
「まあ、お兄様、お義姉様、お祖父様、収穫祭にやって来られたのですか? お義姉様はお体の状態は宜しいのでしょうか」
「ああ、何せ今回はフィリスの三連覇がかかった大事な大会だからね。是非応援したかったんだよ」
「フィリス、私もフェルも、この通り問題ございませんわ。貴女のおかげで、聞いているより早く体が回復しているのよ。ただ、まだ実際の観戦は難しいと思うから、こちらで勝利を祈っているわ」
「フィリス、儂もお前の晴れ舞台を観させて貰うよ。研究所の仕事も落ち着いたし、撮像具で孫や曾孫を撮るのが、最近の楽しみでな」
「皆様、応援有難うございます。精一杯励みますわ」
応援団が増強され、勝ちたいという思いが強まった。
収穫祭初日となった。今日はこれまで同様、明日最高の状態で戦えるよう、一日中調整に充てている。そして、休息の時間を使って風精霊と感覚共有を行い、恒例の甘味品評会の様子を確認に行った。
今回は、王太子妃殿下は出産直後ということで欠席していて、代理として、オスクダリウス殿下が審査委員長になっていた。聞いた話では、王太子妃殿下は物凄くゴネ……不参加を残念がっていたようだが、体調を万全にすることが最優先なので、仕方ないよね。
いつもの様に、アルカドール領出身の者達が開いた甘味店も参加しているようだ。昨年はホワイトチョコレートで話題をさらって優勝したけれど、今年はどうなるのかな……?
品評会が始まった。他店の状況を見たところ、美味しそうでいて、かつ芸術的な作品が並んでいた。傾向としては、サウスエッド風のものと、アルカドール風のものに二分されていて、特にチョコレートについては、メインに使っている所やワンポイントで使っている所も多かったが、ホワイトチョコレートを使っている所はまだ無いようだ。まあ、アルカドール領並みのホワイトチョコレートを作るのは、配合も研究する必要があるだろうから、なかなか難しいだろうしね……。
そんな中、アルカドール店の作品は、普通のチョコレートとホワイトチョコレートをふんだんに使ったお菓子のようだ。見た感じ、普通のチョコレートも苦みが強めにしてありそうな感じで、基本的に甘味が強いホワイトチョコレートとの釣り合いを取っているようだ。
外見も黒と白が合わさり、非常に美しい。その他、装飾に飴細工が使われていたり、断面を見る限りでは果物、恐らくりんごなどが使われているようだ。オスクダリウス殿下達、審査委員からも注目の的の様だし、良い結果を得ることが出来るだろう。様子を十分に確認した私は、調整を再開した。
その日の夕食では、やはり魔法学校などに行ったお兄様が、展示の内容などを話してくれたり、品評会の結果などを教えてくれた。品評会は、今年もアルカドール店が最優秀賞だったそうだ。なお、今回代理出席したオスクダリウス殿下についても
「まさか甘味がここまで美味なものであるとは思わなかった。特にアルカドール店の甘味は、甘さと苦さが程よく混ざり合い、一種の芸術とすら言えた。今後もこのような甘味で我が国を盛り上げて貰いたい」
と言っていたそうだ。アルカドール店の皆もさぞ喜んだだろう。
なお、私は殆ど庭にいたので知らなかったが、我が家については別の意味でお祭りのような感じだったそうだ。お父様とお母様は、知人達との付き合いは最小限にして、出産以来会えなかった初孫のフェルネワルドを構っていたそうで、それに加えてお祖父様が、自身で撮ったフェルネワルドの撮像画を見せたりしていて、お義姉様が引くくらいの状況だったらしい。
孫は子より可愛い、というのは本当かもしれない。
その他、お義姉様は、収穫祭の次の日に宰相閣下にも顔を見せに行くらしい。まあ、宰相閣下はお義姉様のことを非常に気にしていたからね……あちらでも母子ともに健康であるところを見せてやって下さいな。
こうして、収穫祭初日は終わったが、私としては二日目の武術大会が本番だ。幸せな雰囲気の中、逆に周囲とは切り離されたような不思議な感覚をもって、早めに就寝した。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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