第385話 ターナコルデ国使節団がやって来た
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魔力炉の発表から暫くは、政府内でも今後の展開や活用法などで様々な議論が起こった。
各種工事や農地開発、鉄道? などにも活用が可能だし、個人的に危惧していた兵器への活用も出来るわけだが、幸いな事に国防大臣はお父様なので、兵器への流用は慎重に行うよう強くお願いしておいたから、野放図な進展は無いだろうと思う。
その他、大きなニュースだったことから、当然政府広報も取材していたのだが、何故かそこに、私がネリスをあやしていた場面の撮像画も使われるそうだ。確かに意図は判るものの、あまり使われるのは嬉しくないな……。
そんな騒動から暫く経ち、先月調整のあった、モリコルチ大陸の統一国家、ターナコルデ国からの使節団を迎える日となった。少々驚いたのが、どうやらピリコノーメもその使節団の一員らしい。遠く離れたこちらに、風精霊がピリコノーメの伝言を持って来たのでそれが判ったのだが……どういった立場で来るのかな?
外務省から聞いた話では、モリコルチ大陸とカナイ大陸との距離は割と近いため、現在保有している船でも交流が可能だそうで、私も行ったことがあるウィサワーゴ国などにも使節を送っているそうだが、ユートリア大陸へは自前の船では厳しい船旅になることから、今回に限りカラートアミ教の支援で転移門を使って移動して来るそうだ。
これには、折角誕生したモリコルチ大陸統一国家なので、とりあえず承認して争いを避けて欲しいというカラートアミ教の意図もあると思われる。そして、使節団はまずサウスエッド国に移動して国交樹立などの交渉をした後、こちらに来るそうだ。
サウスエッド国は、ユートリア大陸内ではモリコルチ大陸に一番近い国だし、大国だから今後の交流を考えるとまず顔を出しておく必要があるからね……。
うちに来るのは、直接的な交流は当面難しそうだけれど国力自体は高まっているところだし、サウスエッド国とも同盟している面もあるが、私にお礼を言わないと不義理だから、というのがあちらから告げられた大きな理由だと聞いている。他にも思惑はあるのだろうけれども、とりあえずは我が国としては断るものではない、と陛下も判断されたようだ。
ということで、外務大臣達と一緒に私も大聖堂にやって来て使節団を待っていると、転移門が発動し、数十人の集団が転移して来た。確かに、ピリコノーメらしき女性の姿も見える。どうやら転移は3回に分けて行われたようで、転移門の外に出て体の異状を確かめたり、編成を整えていた。
転移門の起動に魔力を提供したと思われる20名くらいの人達は、魔力切れで列から離れて休んでいた。普通はああなるものらしいが、それはさておき。
「ターナコルデ国使節団とお見受けします。私はロイドステア国外務大臣、アラヴェスタード・ザルスカレン。お越し頂き早々、お休み頂きたい所ですが、大聖堂に長居も出来ませぬ故、こちらに」
「余はラメオカイト・ターナコルデ、新たに誕生したターナコルデ国王である。此度は使節団の受け入れを感謝する。……皆、移動の態勢を整えよ!」
どうやら、新たに国王になった人自ら使節団を率いてやって来たらしい。だからこちらも外務大臣自ら出迎えにやって来ているわけだが……まあ、国が出来たばかりで政府内の人材が少ないからかもしれないし、仕方ないのかな。こちらとの関係に非常に気を配っている、とも言えるしね。
ただし、本来ならば国が不安定な状態で国王が外遊するのは、クーデターなどが起きる可能性もあるから避けるべきところだろうが、今回はカラートアミ教が絡んでいるので、下手に謀反を起こすと神敵認定されかねない状態だから、外遊が可能だったのだろうな……。
使節団がステア政府やカラートアミ教が用意した馬車を確認し、恐らくターナコルデ国の紋章を馬車に取り付けたりしている中、ピリコノーメが私に話し掛けて来た。
「お久しぶりでございます、愛し子様。此度は国王の妻になる者として、参りましたわ」
何と、ピリコノーメ……様は、ターナコルデ国王妃になるのか。
「まあ、ご婚姻されるとは、誠に喜ばしいことでございますわ」
「積もる話もございますが、まずは魔物暴走の終息にご尽力頂けたことに感謝を。また、風龍様にも口沿え頂けたことで、大陸に統一国家となる我が国が誕生し、今後は世の安寧に寄与出来ますことを、重ねて感謝申し上げます」
「そのお心、有難く頂戴致します。……ピリコノーメ様、どうやらあちらで確認が終わりましたようですわ。ご案内します」
「ええ、宜しくお願いします」
こうして、個人的にはかなり驚かされたターナコルデ国使節団の出迎えだが、無難に進めることが出来た。この後、王城の会議室にて陛下とターナコルデ国王が挨拶を交わし、モリコルチ大陸内の統一に至るまでの簡単な説明と、現状を話してくれた。
やはり現在は国家の体制を作ることが最優先ではあるが、他国との関係構築も併せて進めないと、うまく回って行かないため、当面は近傍のカナイ大陸との交易を進めつつ、遠方との交易を可能とする船を造れるよう国力を高めていく方針のようだ。
しかしながら、他国への干渉を強めるのではなく、良き隣国として在りたい旨をこちらに話していた時に、同席していた大司教台下が頷いていたので、その辺りの考えはカラートアミ教も関与していると考えるべきだろうな……。
暫くして陛下達が退室し、外務大臣達とターナコルデ国の外交担当者との話し合いが始まった。基本的な我が国の方針は、ターナコルデ国を承認して国交を樹立するとともに、交易に関する協定の土台を作る、というところだ。
まあ、国交樹立はともかく、我が国としてはターナコルデ国にどのようなことが出来るのか、どんなものがあるのか、まるで把握出来ていないから、現段階では協定の結びようが無く、恐らくはサウスエッド国とターナコルデ国の協定が結ばれてから、それに準じる形で協定を結ぶことになるという話だ。
まあ、サウスエッド国から船でターナコルデ国に行く事は現在でも可能だから、その辺りもあるのだろう。とは言え、一応その方向性を付けるため、少しの期間であれ、モリコルチ大陸に行ったことがある私も、実務的な会合の場に残っていたのだけれど、殆ど発言の機会は無かった。
ただ、あちらの気候や風土などの話は、あちらの外交担当者達の話の裏付けを取るという観点で、いくつか質問された。その中で
「精霊導師殿、モリコルチ大陸の鉱物資源などで、こちらと交易が可能な物はあるだろうか」
と、外務大臣から質問を受けたので、思い出しながら回答した。
「あちらと我が国では、さして武具等の違いはございませんでしたわ。ですので、現段階では変わった鉱物資源などはございませんわね……そういえば、見た感じ、風砂を多く見た気がしますわね」
と言ったところ、外務省に混ざって話を聞いていた商務省の人が、反応を示した。
「導師様? それは誠ですか?」
「え、ええ。モリコルチ大陸は良く風が吹いておりますし、何より風龍様がいらっしゃいますから、風砂が多くても、不思議ではないと思いますわ」
少々驚きながら、風砂について話をした。風砂は、風属性を持っている珍しい砂で、風属性エネルギーを多く含んだ風を長期間受けることにより、普通の砂が変質したものだと言われていて、あの風魔弾の材料にも使われている。何の気無しにした発言だったが、そう言えば風砂は今後大量に必要になりそうだし、入手先があるなら何とかしたいよね……。
「失礼。その……風砂とは、一体どのようなものなのでしょうか?」
と、あちらの外務担当者が質問したので、商務省の人が慌てて現物を持って来た。
「はて? このような砂であれば、我が国ならいくらでも採れますが……?」
……といったことがあり、商務省の強い要望から、交易の体制を作っていくことになった。まあ、あくどいことを考えないなら、交流を持つのは悪くないよね……。
他にも、暫くの間は私がピリコノーメ様対応の案内をすることになり、精霊課の精霊術士達に紹介したり、ウォールレフテ国の大使館に連れて行ったりした。特に魔法強化の話などは熱心に聞いてくれたし、また、妖精族に会ったのも初めてだったそうで、色々興味深かったようだ。
歓迎の宴なども含めて1週間程滞在し、ピリコノーメ様達はターナコルデ国に帰って行った。使節団の一部はまだ残るそうだが、流石に国王夫妻が長期間国を空けるのは避けた方が良いので、先に帰るようだ。帰りしなにピリコノーメ様から、改めてお礼を言われた。
「フィリストリア様、貴女のおかげで我が国は安寧化を図ることができそうですわ。改めて深く感謝致します。私達も、精霊達と共に歩める国を目指しますので、宜しければまたいらして下さいな」
「ピリコノーメ様、多分な御礼を頂戴し、誠に光栄に存しますわ。機会がございましたら、伺わせて頂きますわ」
こうしてピリコノーメ様達はターナコルデ国に帰って行った。今後も国の体制作りは大変だと思うけれど、頑張ってね。
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