第384話 魔力炉が完成した
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今週に入ってから、ステア政府では1つの案件が噂になっていた。それは「魔力炉」を陛下に報告する件だ。
魔法省としては、特に広めたわけではないのだが、王城内の庭に大きな魔道具を設置したり、大量の土砂を運び込んだり、念の為の防護柵を設置していたから、基本的に目立つ。他の人が見て、何だあれは、思っても不思議ではないわけだ。
そして今日、政府内のお披露目も兼ねて、陛下に魔力炉の報告を行う。
結構な数の人達が防護柵の外側から見学をしていて、中には大臣など、主要な役職の方々もいる。私は今回少々手伝ったが、基本的には部外者なので、当然見学側だ。その見学者達の中で、見知った顔を見つけたので、挨拶に行った。
「ワターライカ伯爵、貴方がこちらにいらっしゃるとは、良き偶然ですわね」
「これは導師殿。一魔技士として、見逃せぬ場面でしたので、定期報告の予定を繰り上げ、参りました」
ヴェルドレイク様は、現在定期的に政府にやって来て、領の状況を報告している。それは助成金を貰っていることから発生した義務なので、他の領主はやっていないけれど、来た時は大抵私の所にも顔を見せてくれる。勿論私が開発支援を行う予定の調整を行うという面もあるけれど、仕事が無くても私に会いに来てくれるだろうと思うと、嬉しい所がある。
ヴェルドレイク様と暫く話をしていると、作業を行っていたネリス達が作業をやめ、魔道具研究所準備室長が侍従の一人に報告準備が完了した旨を告げると、侍従が城内へ移動し、暫くすると、陛下がお出でになったので、皆跪いた。
「今回、新たな魔道具を発明したそうだな」
「恐れながら、その通りにございます。こちらに設置しております『魔力炉』は、常人では持ち得ぬ魔力を発生させ、大威力を持つ魔道具を起動させることが可能です」
「ほう、興味深い。今回はどのような魔道具を起動させるのだ?」
「安全面を考慮し、土砂を集めて岩化する魔法の機能を持たせた魔道具を使用致します。現在周囲に土砂の山を造っておりますが、この山1つが、凡そ魔導師1人が一度に岩化可能な土砂の量となっております」
「ふむ……40山あるな。これら全てを一度に集め、岩化出来るというのか?」
「その通りにございます。只今からその様子を御覧戴きたく存じます」
それから、皆が立ち上がって起動の展示が開始された。
陛下の状況確認用に作られた、防護柵付きの席に室長が陛下を案内し、周囲の見学者達も設置してあった防護柵に移動し、体制が整った所で魔力炉の起動を開始した。
ネリス達が魔力炉を操作したところ、魔力炉の付近に置いてあった石炭を触って遊んでいた火精霊が火属性のエネルギーを操作し、暫くすると、大きな魔力が発生したことが判った。
そして、その魔力を使用し、室長が大量の土砂を集めて岩化する魔道具を操作すると、近くを漂っていた地精霊が、急に元気になって周囲の土砂を操作しだした、と思ったら土砂が一塊になり、次第に岩化していった。
周囲の人達は、土砂が岩化する様子を見て、驚嘆の声を上げていた。まあ確かに初めて見たらびっくりするよね……私は起動実験を行ったから見ているけど。
「陛下、『魔力炉』の起動は成功にございます」
「……うむ」
陛下も相当驚いているようで、言葉が少ない。室長は、一旦魔力炉を停止させ、生成された巨大な岩の所に陛下を案内した。
「……確かに岩だ。魔法により生成した岩であるのは、自然発生のものに比べ、一様な岩肌であることから一目瞭然だ」
陛下は感心しつつも平常心を取り戻したようだ。その反応を見た室長は、陛下を元の位置に誘導し、別の魔道具を接続して、魔力炉を再起動させた。
「陛下、次は先程と逆の工程を行う魔道具を接続致しました。操作致します」
魔力炉で発生した大魔力を使い、魔道具が発動した。やはり地精霊も先程同様、通常の魔法の時より元気に動き出し、岩を操作してあっという間に土砂に戻してしまった。
「……成程、先程の岩を瞬く間に土砂に戻したか。だがこれは回収が骨よの」
「恐れながら陛下、王城より撤去するだけであれば魔法で片付けます故、問題ございません」
室長は再度別の魔道具を装着し、操作した。次はどうやら、土砂を移動させる魔道具だったようだ。幾つもの荷馬車に土砂があっという間に乗せられた。
「ほう! あの量を一度に全て荷馬車に積載したか。確かにこれは、魔導師数十名分の魔法を使用しておるな。見事である」
報告はここで終了し、周囲からは大きな拍手が鳴り響いた。その際陛下から指示があり、室長に呼ばれてネリスや魔力炉の開発に携わった主だった研究員達がやって来て、陛下の前で跪いた。
「陛下、この者達が『魔力炉』の開発者となります。主導者はネリスリアラ・コルドリップです」
「うむ、皆、魔力炉の開発、大儀であった。特に主導者のネリスリアラ・コルドリップについては他にも撮像具を開発しておったな。今後も我が国の為、励め」
「きょ、恐悦至極に存じます。こ、今後も陛下の為、この国の為に励みます」
陛下はたどたどしく返答したネリスを確認した後、庭から去って行った。
周囲の見学者達は、陛下が去る際にはやはり跪いていたが、陛下が退出してからは我先に魔力炉の所に行って現物を見たり、室長やネリス達を賞賛したりしていた。私も一応関係者なので、ヴェルドレイク様と一緒に室長やネリス達の所に行って、声を掛けた。
「室長、ネリス達研究員の皆様、魔力炉の開発、誠に喜ばしいことですわ。魔力炉の開発により、我が国は益々発展しますわね」
私が声を掛けたところ、ネリスは感極まったのか
「ああぁ~、導師様ぁ~、有難う、ございますぅ~っ」
と泣き出してしまったが、流石に周囲の皆も、微笑ましく見守ってくれた。
流石に放っておけずに私がネリスをあやしていたところ、室長とヴェルドレイク様が、魔力炉の図面を見ながら話していた。
「成程! こういう作りにすることで、強力な光を魔力に変換しているのか。変換自体は私も実際に設計したけれど、こちらの方が効率も良さそうだ」
「はい、その辺りの設計は伯爵の考案された魔道具を発展させたものです。その他、こちらも参考にさせて頂いております」
「確かに。……なら、ここを光ではなく雷にして、こちらの変換機構をこうすることで、火属性ではなく風属性を使用した魔力炉も設計出来るのではないかな?」
「うむ? い、いや光を閉じ込める機構と同様に、雷を閉じ込める機構なども必要となりますが?」
「それなら大丈夫だ。この形状に合わせた絶縁体なら、我が領の方でも準備出来る筈だ」
「ということは……この魔力炉は、基本的に陸上での使用を前提としておりましたが、風属性の魔力炉であれば、火精霊がいない海上でも使用出来る、ということになります!」
「そういうことだ。ただし、風属性力を多く含んだ物質は産出が少ないため、使用は限定されるが」
「いや、それでも開発の利点は十分過ぎるほどあります! 風属性の者達に開発させましょう」
「では、我が領も協力させて頂こう。勿論私も、開発陣に加えさせて貰うよ」
魔力炉の開発に触発されたのか、ヴェルドレイク様も風属性のエネルギーを使った魔力炉の開発に協力するようだ。火の魔力炉だと、基本的には地上で使うことになるから、鉄道や大規模な工事で活用出来るけど、船には使えないからね……。
風の魔力炉が開発出来たら、空気のある所ならどこでも使えそうだから、船の動力に使ったり、海岸の大規模工事などにも使えるようになるわけだ。夢が広がるなあ。
ただし、魔力炉は強力な兵器にも転用出来そうだ。環境に大きく影響を与える魔法は、精霊が発現させることは無いけれども、念の為、会議などで釘を刺しておくことにしよう……。
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